育児休業期間の国民年金保険料の支払いは免除される?

育児休業期間の国民年金保険料の支払いは免除される?

年金保険料の支払いに関して、会社員として働く女性が妊娠すると厚生年金の産前産後休業保険料免除制度*1が適用されます。また育児休業期間を取得すると、育児休業保険料免除制度*2が適用されることは広く知られている通りです。

この制度は、産前産後休業期間(産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間)について、厚生年金保険の保険料が免除されるというものです。また、育児・介護休業法による満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業及び育児休業に準じる休業)期間についても、厚生年金保険の保険料が免除されます。一方で、自営業者やフリーランス(個人事業主)として働いている人は国民年金保険なので、産前産後休業期間や育児休業期間であっても保険料は免除にはなりませんでした。

そのような中、2019年4月から国民年金保険料の産前産後期間の免除制度*3が始まり、話題になりました。自営業者やフリーランスとして働いている人は仕事を休むことが収入の減少に直結しやすいので、とてもありがたい制度です。
しかし制度の存在を知らない人も少なくなく、また自動的に適用されるものではないために、自分が対象者であることに気がついていないケースがあるかもしれません。知らずに利用できないのはもったいないことです。

そこでこの記事では、国民年金保険料の産前産後期間の免除制度について解説しますので、ぜひ押さえておきましょう。

国民年金保険料の産前産後期間の免除制度とは?

国民年金保険料の産前産後期間の免除制度は、次世代育成支援の観点から、2019年4月1日に施行された制度です。国民年金第1号被保険者(20歳以上60歳未満の自営業者・農業者とその家族、学生、無職の人等、第2号被保険者、第3号被保険者でない者)で、出産日が2019年2月1日以降の女性が対象となっています。世帯収入による制限はなく、その期間に本人が働いていなくても問題ありません。国民年金保険料が免除されるのは、出産予定日、または出産日が属する月の前月から4ヵ月間の産前産後期間です。出産とは、妊娠85日(4ヵ月)以上の出産をいい、死産、流産、早産された方を含みます。なお、多胎妊娠(双子や三つ子など)の場合は、出産予定日又は出産日が属する月の3ヵ月前から6ヵ月間の国民年金保険料が免除されます。

具体例を挙げてみましょう。

単胎妊娠(1人の子どもを妊娠すること)で2021年9月に出産をした場合、出産が属する月の前月、すなわち8月から4ヵ月間(8月・9月・10月・11月)の国民年金保険料が免除されます。国民年金の保険料は毎年見直しが行われますが、令和3年度(令和3年4月~令和4年3月まで)は月額16,610円*4なので、4ヵ月分で66,440円の保険料が免除になる計算です。

産前産後期間として認められた期間は、実際に保険料を支払わなくても、将来、被保険者の年金額を計算する際には保険料を納めた期間として扱われます。したがって、この免除によって将来もらえる年金の金額が減ることはありません。

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保険料免除の申請方法は?

国民年金保険料の産前産後期間の免除は、自動的に適用される制度ではなく、申請が必要です。国民年金被保険者関係届書(申出書)に記入し、住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口へ届書を提出します。

国民年金被保険者関係届書(申出書)は日本年金機構ホームページからプリントアウト可能です。年金事務所、または市(区)役所・町村役場の国民年金窓口にも用意されています。

届書は出産予定日の6ヵ月前から提出が可能で、出産後にも提出することができます。

出産前に届書を提出するときには、出産予定日を確認できるよう、母子健康手帳などを持って行きましょう。出産後に提出をするときは、市区町村で出産日等が確認できる場合は特に必要なものはありません。

ただし、被保険者と子が別世帯の場合は、出生証明書など出産日および親子関係を明らかにする書類が必要となります。よくわからない場合は、住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口で確認しましょう。

産前産後どちらで提出しても、免除期間が変わることはありません。しかし、産後に提出した場合は、すでに免除期間の国民年金保険料を支払い済みということがあると思います。また、産前の提出であっても、保険料をまとめて前納している人もいるでしょう。その場合も産前産後期間の保険料は還付されるので、安心してください。

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会社員でなくても出産や育児の時期に利用できるその他の制度は?

出産育児一時金制度

産前産後期間の国民年金保険料の免除はありがたい制度ですが、出産費用は高額であり、一般の家計にとっては大きな出費となります。厚生労働省の調査によると、2019年の出産費用の全国平均は、460,217円*5となっています。そうした高額な出産費用をまかなう趣旨で設けられているのが、出産育児一時金制度*6です。

出産育児一時金制度は、妊娠4ヵ月(85日)経過後の出産を対象に、赤ちゃん1人につき42万円を出産一時金として支給する制度です。健康保険や国民健康保険、共済組合などの加入者が対象で、妊婦自身が健康保険に加入している場合や、配偶者の健康保険の被扶養者になっている場合に利用できます。

赤ちゃん1人につき42万円ですので、双子の出産の場合は合計84万円の出産育児一時金が支給されます。なお、産科医療補償制度に加入していない病院での出産の場合は、1人40.4万円の支給となります。

出産育児一時金の手続きは?

出産育児一時金は申請により自身で受け取ることもできますが、直接支払制度が便利です。

直接支払制度は、出産育児一時金の請求と受け取りを、妊婦などに代わって医療機関等が行う制度です。出産育児一時金を被保険者が受け取るのではなく、医療機関に直接支払ってもらう仕組みです。そのため、多額の出産費用を事前に用意する必要がなくなり、利用者にとっては便利かつ安心な制度と言えます。他には、受取代理制度もあります。出産する医療機関等に出産育児一時金の受け取りを委任することにより、医療機関等に出産育児一時金が支払われる制度です。利用者が自ら手続きする必要があり、直接支払制度のほうが便利ではありますが、直接支払制度を導入していない病院の場合、受取代理制度を利用することになります。

児童手当

続いて、0歳から中学卒業までの児童を養育している人がもらえるのが、児童手当*7です。支給による家庭の生活の安定や、児童の健全な育成を目的とする制度です。

児童手当の支給額は、児童の年齢によって異なり、以下の通りとなります。

児童手当を受ける人の所得が所得制限限度額以上の場合には、児童1人あたり5,000円の特例給付が支給されます。

手続きとしては、住んでいる地域の市区町村に「認定申請書」を提出して申請します。出生届の提出のときに市区町村の役所に行くので、そのときにまとめて申請すれば便利です。ただし公務員の場合は、勤務先で申請します。

市区町村の認定を受ければ、原則として、申請した月の翌月分の手当から支給されます。支給が行われるのは年に3回で、毎年6月、10月、2月に、それぞれの前月分までの手当が支給されます。

児童手当の一般的な使い道は?

内閣府が2018年から2019年にかけて行った「児童手当等の使途に関する意識調査」によると、児童手当の使途(予定を含む)で一番多いのは「子どもの将来のための貯蓄・保険料」が57.9%、続いて「子どもの生活費」が22.0%、「子どもに限定しない家庭の日常生活費」が14.9%、「子どものためとは限定しない貯蓄・保険料」が8.6%となっています(複数回答)。*8

児童手当の使い道に制約は設けられていませんが、子どもの将来や現在の生活のために使おうとする親が多いのが見て取れます。仮に生まれてから中学卒業までの児童手当を積み立てれば、200万円弱になります。将来まとまったお金が必要になるときには、大きな助けになることでしょう。
他方、児童手当の使途について「子どもに限定しない家庭の日常生活費」、「子どものためとは限定しない貯蓄・保険料」と回答した人については、理由として「家計に余裕がないため」という回答が66.4%と最も多かったようです。子どものために明確に区分して支出や貯蓄をしないとしても、子どもの養育には役立っているはずであり、制度趣旨に沿った立派な使い方と言えるのではないでしょうか。

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まとめ

会社員と異なり、自営業者やフリーランスとして働いている人は、育児休業期間がはっきりと定まっていないケースが多いでしょう。実際のところ、会社員のように育児休業(育児休暇)を取得し、その期間の厚生年金保険料が免除されるという仕組みは整っていません。

しかしながら、2019年4月から施行された国民年金保険料の産前産後期間の免除制度は、産前産後期間に一時的に収入が減ることが少なくない自営業者やフリーランスの人にとっては、経済的負担を軽減してくれる制度と言えるでしょう。

タイトルの「育児休業期間の国民年金保険料の支払いは免除される?」に対する答えは、「育児休業期間の国民年金保険料の支払いは免除されないが、産前産後期間の保険料は免除される」です。実際に休業するかしないかは関係ありません。

繰り返しになりますが、この免除制度は自動的には適用されず、申請して初めて免除されます。残念ながら、「誰も教えてくれないから知らなかった」という人は、支払わなくてもよいものを支払うことになってしまうのです。

このように、保険料をはじめとするお金に関する事柄は、知っていると得をするけれど、知らないと損をしてしまうことが少なくありません。ぜひ正しい知識を身につけ、必要に応じて情報をアップデートすることで、現在と未来の自分と家族の生活を守っていきましょう。

*1 出所)日本年金機構 「産前産後休業保険料免除制度」

*2 出所)日本年金機構 「育児休業保険料免除制度」

*3 出所)日本年金機構 「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」

*4 出所)日本年金機構 「国民年金の保険料はいくらですか

*5 出所)厚生労働省 「出産育児一時金について

*6 出所)厚生労働省 「出産育児一時金の支給額・支払方法について

*7 出所)内閣府 「児童手当制度のご案内

*8 出所)内閣府 「児童手当等の使途に関する意識調査



2019.08.22 公開 

2021.10.11 アップデート

(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)

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