老後はまとまった資金が必要ですが、現在20~30代の人にとって、老後はまだまだ遠いもの。コツコツ預貯金をしていたとしても、それが今後本当に老後の安心につながるのかどうか、なかなか自信を持つのは難しいでしょう。
そこで今回は、もしも老後に必要な資産形成ができなかったときに起こり得るケースについて考えてみましょう。「最悪の場合は生活保護を受けることになるだろう」と思われるかもしれませんが、実は生活が困窮しても生活保護を受けられないケースも存在します。
その上で、安心して老後を迎えられるよう、今から考えておきたい5つの要素もご紹介します。
高齢者の3割近くは預貯金がない状態
生活保護を受けている世帯のうち、高齢者世帯が占める割合はなんと54.1%で、全体の半数以上です。
さらに二人以上世帯の50代のうち17.4%は、金融資産を保有していないという調査もあります。60代は22%、70歳以上はなんと28.6%という結果です。
病気で働くことができない、仕事が続かない、散財癖があるなど、預貯金ゼロで老後を迎えてしまったり生活保護に陥ってしまう事情は人それぞれのはずですが、決して他人事ではない数字です。
結婚したり、住宅を購入したり、車を買ったり、子育てをしたり、人生には何かとまとまったお金が必要です。たとえば住宅ローンを組む場合でも数百万は頭金として捻出するのがまだまだ一般的ですし、子どもを私立の学校に入れようと思ったら、年間で数十万、数百万といったお金が支出として消えていくことになります。
たとえ定年まで勤めても、退職金が無いという企業も珍しくありません。退職金は義務ではありませんから、就業規則で定められておらず、支払いの慣行も無い場合は0円でも法律上は全く問題がないのです。
お金をいつ何に使うのかを慎重に検討しないと、預貯金0円、退職金0円という状況は実際に起こり得ます。
出所)厚生労働省「被保護者調査(平成30年2月分概数)」
出所)金融広報中央委員「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]平成30年調査結果」
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預貯金0円、退職金0円のときに想定されること
仮にまったく老後資金が無い状態で老後を迎えてしまったとしたら、考えられる対策は2つです。
対策1:年金だけでなんとかやりくりする
平成29年度末の時点で、月ごとの平均年金受給額は厚生年金が14万4,903円、国民年金が5万5,185円です。この金額が、現段階で老後生活を考える際の基準になります。
ただし、厚生年金は給与額に基づいて算出されるため、男性の場合は平均月16万5,668円、女性は月10万3,026円とかなり開きがあることがわかります。この数字から試算すると、夫婦二人世帯で共働きを続けていれば合計月26.9万円支給されることになります。
厚生年金を受給できるのが男性のみで妻が専業主婦だった平均的な夫婦世帯の場合、毎月の年金収入は約16万5,000円プラス、妻の国民年金が約5万5,000円で約22万円と考えることができます。
しかし、厚生年金の受給額は人によって大きく変わります。転職して給与が下がった時期があった、独立してフリーランスだった時期があったなどの場合は、受給額が減ってしまう可能性も出てきます。
実際、金融庁が提示している夫婦無職世帯のモデルケースでは年金による収入は月約20万円ほどです。
その場合、夫婦二人暮らしで生活費をどうやりくりできるのか考えてみます。項目は統計局の家計調査年報の内容を参考にしました。
食費:4万円
住居:1万円
光熱費:2万円
家具・家事用品:1万円
被服及び履物:1万円
保健医療:2万円
交通・通信:3万円
教養・娯楽:2万円
交際費:1万円
各種税金:3万円
これで合計20万円の計算です。
しかし、預貯金0円だとしたら、医療費がかさんだ場合や老朽化した住まいの修繕といったまとまったお金がかかることに備えて、ここからさらに節約をしなければなりません。
賃貸住まいなら家賃もかかりますから、余裕は全くなく、かなり苦しい生活を余儀なくされるでしょう。
出所)厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(平成29年度)」
出所)金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ「高齢社会における資産形成・管理」報告書
対策2:定年後も働く
年金のみでは生活が困窮することが目に見えている状態であれば、働ける状態のうちはできるだけ長く働くことで、不足すると思われる老後資金を蓄えておくしかありません。
仮に65歳から75歳まで働き続け、高齢者世帯の平均である年収300万円を実現したとします。月5万円ずつ預貯金にまわせば、10年で600万円です。何かまとまった出費があっても、預貯金0円に比べればかなり安心できるはずです。
出所)内閣府「平成29年版高齢社会白書」
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老後に生活保護を受けるという選択肢
さて、それでも生活が困窮してしまった場合に残された選択肢は生活保護を受けることです。
厚生労働省の記載を見ると、生活保護を受けるための要件は「生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提」とされています。また、「扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。」とも記載されています。
少々分かりづらいのですが、つまりは生活費に充てられる資産はすべて使い、働ける場合は働き、年金をはじめとした給付制度をすべて活用した上で、また親族等から援助を受けることができない状態で、収入が厚生省の定める最低生活費を下回る場合は保護が適用されるということになります。
年金を受給していてもそれが最低生活費を下回る額であれば生活保護は受けられるということです。その際の保護費は、「最低生活費-年金などの収入=支給保護費」となります。
ただし注意すべきは、上述のとおり現金化が可能な資産がある場合は生活保護を受けられないということです。バスや電車などが利用できる状況であれば自動車やバイクなどはまず保有できませんから、生活保護を受ける場合は売却を指導されるでしょう。
資産にはこの他預貯金はもちろん、土地や家屋なども含まれます。ただこの点については「住まいは絶対に売らなければならない」という誤解があるのですが、あくまで「生活に利用されていない」ことが前提です。別荘などがあれば売却しなければいけませんが、原則として現在住んでいる家を売却する必要はありません。
出所)厚生労働省「生活保護制度」
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老後のお金に困らないようにするための5つの手法
老後生活を左右する資産を改めて確認してみましょう。
- 貯蓄額
- 年金受給額
- 退職金の有無
- 住宅ローンの有無
大きくはこの4つの要素が老後生活を左右します。特に年金受給額や退職金にあまり期待ができない状態であれば、以下の5つのポイントを踏まえて老後の資産形成を考えていきましょう。
(1)住宅ローンをはじめとした各種ローンは現役時代に完済し、老後に借り入れを残さない
(2)保険料も定年前までに払い込みを終え、収入がなくなった際の支出を減らす
(3)健康第一で過ごし、極力老後の医療費がかからないようにする
(4)状況に合わせて年金の繰り下げ受給を検討し、年金額の増額を図る
(5)計画的な貯蓄に加えて、分散投資などによる資産形成も検討する
特に(5)について、預貯金は計画的に行えば確実に貯めていくことができますが、一方で利息が少ないため計画した以上の金額になることはありません。
もし現在の資産から捻出できる資金があれば、リスク分散を図りながら投資によって資産を増やす方法を検討してみることも一つの選択肢です。つみたてNISAやiDeCoなどの制度も検討してみてください。
参考記事:「老後資金の貯め方4選を詳しく解説」
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まとめ
老後は好きなことをしてのんびり過ごしたい、というのは誰しも考える将来像です。
しかし、それは計画的な資産形成ができてはじめて実現するもの。現代において、年金だけで悠々自適に過ごすのは一般的に難しいと言わざるを得ません。
自分の資産形成について計画する際は、老後のみならず、結婚や住宅購入など、予想できる範囲でどんな支出が生じるのかも考慮する必要があります。ライフプラン表を作成したり、自分で考えるのが難しければファイナンシャルプランナーに相談する方法も取れるでしょう。
もし、現在の自分の生活を顧みたときに「これでいいのかな」と思ったのであれば、いち早く将来について考えてみることが、後悔しない老後を迎えるための第一歩となるはずです。
参考記事:「ライフプランシミュレーションを行い計画的な資産形成を」
参考記事:「結婚、住宅購入、老後の貯金...その前に!作っておきたいライフプラン表」
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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