豊かな老後生活を送るためにも役立つ私的年金制度として知られるのが「個人型確定拠出年金」、愛称イデコです。現在日本では、国が主導する形でイデコの活用が促されています。確かに、老後までのライフプランを見据えると、多くの方にとってイデコの活用は有用だと思われます。
そこで本稿では、イデコの活用が求められる背景やその制度概要、メリット・注意点などをお伝えします。
イデコの活用が求められる背景
そもそもイデコの活用が求められる時代背景として、日本で急速に進む少子高齢化が密接に関係しています。
日本の年金制度は、若い現役世代が保険料を負担し、受給者となる高齢者の年金や医療などの社会保障費に充てる、いわゆる「賦課方式」と言われる仕組みとなっています。少子化と高齢化が同時に進むことで、年金の支払いと受け取りのバランスが大きく崩れており、資金繰りが圧迫される状況となっています。
そのような変化を受けて、若い世代の中でも十分な年金を受け取れないのでは?との懸念を持つ人も増えているようで、できれば自助努力でも老後資産の形成を図る必要性が高まってきていると感じます。
趣味の旅行や音楽などを楽しみ、安心してゆとりある老後生活を送るには、月35万円ほどが必要となってくるようです*1。
一方で、足元の国民年金を満額で受け取った場合は、年間779,300円、月額にすると64,941円となります*2。また、厚生年金に関しては、平均月額で14万7千円となっています*3。
将来的にこれらの数字は変わってくるものと思うので、あくまで目安ではありますが、この収支の差である月額14万円ほどを、銀行預金による資産増加だけで埋めることは、超低金利の現在ではなかなか厳しいでしょう。
老後までの長期に亘るライフプランを考慮すれば、イデコ等で資産運用し、着実にかつ計画的に老後に向けた資産を形成していくことが必要となってきます。
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イデコの制度概要
イデコでは自分自身でお金を拠出し、プランに含まれる各商品の中から運用先を選びます。運用成果については自己責任となります。そして、老後にそれまで積み立てた資産を自ら受け取る仕組みです。
またもう一つ大きな特徴として、定期預金を除く多くの商品が元本保証でないことが挙げられます。預貯金のように元本が維持されるわけではないので、運用の良し悪しによって資産額が増減します。
そのため、実際に運用を始める際には、イデコを申し込む金融機関に商品の特徴や経済環境などのアドバイスを受けた上で、じっくりと商品を吟味する必要があるでしょう。
イデコは月額5,000円から始められるため、自分自身のライフスタイルに合わせた投資ができます。少額から資産運用をスタートさせられるのは、投資初心者にとっては嬉しいポイントです。また運用する商品に関しては、元本保証の定期預金や保険、より積極的にリスクを取りに行く場合には投資信託や不動産投資信託(REIT)などバラエティに富む商品が取り揃えられています。
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イデコの最大メリットは”税制優遇”
何よりも、イデコにおける最大のメリットは税制優遇です。掛け金の支払い時、資産運用時、そして積立資産の受け取り時、それぞれにおいて恩恵を受けることができます。
まず掛け金の支払い時には、その全額が所得控除の対象となり、所得税および住民税を抑えることができます。所得控除とは、課税所得を計算する際に所得金額から差し引くことができる金額のことで、結果として節税につながります。
次に資産運用時には、投資信託の収益や定期預金の利息など得られた利益に対し、通常20.315%(所得税+復興特別所得税)の税金がかかってきますが、イデコの場合は非課税となります。
たとえば、安定収益を狙う投資信託で資産運用し1万円の利益がでた場合、通常2,000円ほどの税金が差し引かれ、手元には約8,000円が残ります。
一方でイデコを活用することで、運用で得られた利益が非課税となれば、利益の1万円がそのまま手元に残ります。さらに資産運用へ回せば、複利効果により資産を大きく増やすことが期待できます。
そして積立資産の受け取り時に関しては、受取方法として「年金形式」、「一時金形式」、もしくはその併用を選択することができます。年金形式で受け取る場合には「公的年金等控除」の対象に、一時金形式で受け取る際には「退職所得控除」の対象になり、いずれのケースでも節税につながります。
例えば、年金形式の場合、公的年金等の合計収入が65歳未満だと70万円まで、65歳以上だと120万円までは非課税となります*4。
一方、一時金形式の場合、退職所得控除枠の計算方法は以下の通りです*5。
- 勤続年数(イデコの場合には積立期間)が20年以下
40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は、80万円) - 勤続年数が20年超
800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)
イデコは老後資産の形成を図る制度であるため、一般的に資産運用期間は長期に亘ります。掛け金の支払い時、資産運用時、積立資産の受け取り時の3段階で、節税メリットを十分に活かしましょう。
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イデコの注意点あれこれ
一方、イデコでは原則60歳まで積立資産を引き出すことができません。
あくまでも老後に向けた資産形成手段であり、日々の生活費に充てるために資金を引き出すことや、結婚資金や住宅購入資金などに充当することはできないことには注意しましょう。
そのため、老後までの様々なライフイベントを考慮すると、老後に向けたイデコ以外にも、つみたてNISA(少額投資非課税制度)などの制度も合わせて活用し、住宅購入の頭金など目的別に資産運用の手段を検討するのが良いかもしれません。
また毎月、運営管理手数料がとられるケースもあります。長期間におよぶ資産運用となることから、運営管理手数料を低く抑えることも運用成果に直結してきますので、イデコの金融機関を選ぶ際には、サービス内容と併せて確認しておく必要があります。
家計の状況によっては、イデコでの積立てを途中で中止せざるを得ない場合もあるかもしれません。そのようなときは、「運用指図者」として、新規の掛け金を拠出せずにこれまで積み立てた資産の運用だけを行うことも可能です。
なお、掛け金の拠出を停止する際には、「加入者資格喪失届」をイデコを申し込んだ金融機関へ提出する必要があります*6。
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イデコのその他
では、イデコを活用していたものの、不幸にも引き出しが可能となる60歳前に亡くなった場合にはどうなるのでしょうか。その際には、「死亡一時金」として、遺族の方がイデコで積み立てられた資産を受け取ることができる仕組みとなっています*7。
また、加入者が転退職した際、新たな就職先に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」があれば、そちらに移換する、あるいは企業型確定拠出年金規約にて、イデコへの同時加入が認められている場合には、イデコを継続することが可能です。
一方、就職先が企業型確定拠出年金制度を導入していない場合も、引き続きイデコに加入できます。
また、転退職により、自営業者などの国民年金第1号被保険者や、専業主婦など国民年金第3号被保険者になられた際には、国民年金の被保険者種別の変更手続きが必要となりますので忘れずに行いましょう*8。
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イデコを活用して老後資産の形成
本稿では、イデコの活用が求められる背景やイデコの制度概要、メリット・注意点などをお伝えしてきました。
老後までの中長期的視点からライフプランを考えた場合、国民年金や厚生年金だけではゆとりある生活を送ることを期待するのは難しくなってきています。
今回ご紹介したイデコなどの制度も、豊かな老後生活プランを描く上での一つの選択肢として知っておくと良さそうです。
*1
出所)公益財団法人 生命保険文化センター「生活保障に関する調査/平成28年度」
*2
出所)日本年金機構
*3
出所)厚生労働省年金局「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
*4
出所)国税庁
*5
出所)国税庁
*6
出所)国民年金基金連合会
2、7ページ目参照
*7
出所)厚生労働省
*8
出所)国民年金基金連合会
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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