男性の育児参加もワーク・ライフ・バランスの一つの鍵

男性の育児参加もワーク・ライフ・バランスの一つの鍵

2017年には育児・介護休業法が改正され、男性による育児参加の高まりが期待されています。しかし、育児休業の取得状況データ等からは、男性の参加率がまだまだ低いという現状も見えてきます。何が要因となっているのでしょうか。育児休業取得の利点も考えながら見てみましょう。

男性による育児休業取得の現状

厚生労働省が発表した2018年度の「雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は6.16%と前年度より 1.02ポイント上昇し、6年連続で増加しています

しかしながら、わずか6%との見方もできるでしょう。その取得期間においては、「5日未満」が 36.3%と最も高く、次いで「5 日~2週間未満」が35.1%と「2週間未満」が7割を超えており、原則として1年間認められているにもかかわらず、実際の取得期間は圧倒的に短い結果となっています*1
2016年の「6歳未満の子どもを持つ妻・夫の1日の家事・育児時間」調査では、妻の454分に対し夫は83分で、妻が6倍近く家事・育児をしているという結果も出ており、他の先進諸国と比べても最低水準です。

政府は、このような状況が子どもをもつことや妻の就業継続に対して悪影響を及ぼしているとして改善を目指し、2010年に厚生労働省の委託事業として「イクメンプロジェクト」を立ち上げました。男性の育児参加に関して2020年までに達成すべき目標を以下のように設定しています。*2

  • 育児休業取得率 13%
  • 育児・家事関連時間 1日150分

「イクメン」という言葉はすでに浸透し、子育てに積極的に参加する男性の印象が強くなっていますが、男性の育児参加によって「妻である女性の生き方」や「子どもたちの可能性」の向上につなげていくことが根底にあるものです。

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育児休業を取得しない理由

政府による対策が進む中、ユニセフ(国連児童基金)は2019年6月に発表した報告書「先進国における家族にやさしい政策」において、先進国41ヵ国における両親の育児休業制度を分析した結果を公表しました。*3日本は「父親に認められている育児休業の期間が第1位」であり、「6ヵ月以上の父親育休制度を整備している唯一の国」として評価された一方で、その取得率の低さが指摘されています。つまり、制度はあるのにその利用が伴っていないということです。その背景にはどのような要因があるのでしょうか。
「イクメンプロジェクト」によると、育児休業制度を希望する男性の35.3%が利用できていません*4 その理由として「収入を減らしたくなかった」と答えたのは16.0%でした。また、制度があるのに取得を希望しなかった男性においても、収入減を懸念した割合は20.4%にとどまっています。つまり、取得希望の有無にかかわらず、金銭面を挙げたのは2割程度であり、決して高い割合ではないでしょう。

実際、金銭面においては育児休業給付金の利用により、ある程度の収入が確保できます。支給額は賃金月額(育児休業開始前6ヵ月の給与÷180日×支給日数の30日)をもとに計算され、休業開始から6ヵ月までの期間は賃金月額の67%、以降は50%が支給されます。さらに、育児休業給付金は非課税のため所得税はかからない上、育児休業中は社会保険料の免除もあるため、手取り賃金で比べると休業前の最大8割程度が受け取れるのです。

参考)「育児休業中の家計管理 やりくり上手のカギは事前対策
参考)「育児休業は誰でもとれる?休業期間にもらえるお金と支払うお金の話

一方で、図3を見れば、取得の障壁となっているのが「業務が繁忙で人の手が不足していた」38.5%、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」33.7%と、職場の事情が大きいことがわかります。「キャリアに影響すると言われた」「転勤(異動)を言いわたされた」「仕事に影響するなら給料を減らすと言われた」等の「パタニティーハラスメント」を受けた人が2割弱という調査結果*5もあり、男性の育児休業取得には周囲、特に同僚や上司の理解が重要なポイントとなっていることが伺えます。
近年では「イクボス」という言葉も使用されるようになり、部下の子育て等を応援するための上司の意識改革についても取り組みが進められています。そこには、休業取得の促進のみならず、残業を減らしてなるべく早く帰れるようにすること等も大事な要素として含まれています。

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男性も育児参加しやすい環境を

政府は、次の3つの方法による男性の子育てのための休暇取得を促進することにより、2020年に休暇取得率80%を目標としています*6

  1. 「育児・介護休業法」で定められた制度を利用
  2. 勤務先が設けている「育児目的の休暇制度(特別休暇)」を利用
  3. 年次有給休暇等の休暇制度を育児目的で利用

これらのうち、「育児目的の休暇制度(特別休暇)」は事業主に対する努力義務ですが、育児休業制度を含む「『育児・介護休業法』」で定められた制度」については条件を満たす限り、事業主による育児休業の申出拒否や取得者に対する不利益な取扱いを法律上、禁止しています。
厚生労働省の委託調査として三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した企業を対象とする調査*7では、「男性社員が休業・休暇を取得しやすい環境をつくるために、会社全体や職場に対して実施している取り組み」について「特に実施していない」が 70.4%と最も高い割合となりました。「男性の育児参加促進のために、男性社員に対して取り組んでいること」を見ても「特に実施していない」が85.2%を占めており、まだ多くの企業で改善の余地がありそうです。
企業による独自制度の一例として、三菱UFJ銀行は2歳未満の子供を持つすべての男性行員に、約1ヵ月の育児休業取得を事実上義務付けする制度を2019年5月から始めています。長期の育児休業取得の義務化はメガバンクでは初めてのことです。また、「イクメンプロジェクト」では2013年から「イクメン企業アワード」も実施されていて、「男性の仕事と育児の両立を促進し、業務改善も図られている企業」に対する表彰を行っており、その成果が期待されています。

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まとめ

夫も妻も育児休業を取得する場合、一定の条件を満たせば「パパ・ママ育休プラス」制度も利用でき、最長1年2ヶ月まで給付金が支給されるといった利点に加え、妻の社会復帰を促すことにもつながります。政府や企業による制度の充実と本人及び周囲の意識変化によって、男性の育児参加が進むことで、男女ともに子育て期のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現にも近づいていけるでしょう。育児の苦労も喜びも共有し、生活の充実によって仕事もうまくいくという相乗効果を目指したいものです。

*1  出所)厚生労働省「平成 30 年度雇用均等基本調査」の結果概要 P18

*2  出所)イクメンプロジェクト「なぜ今、男性の育児休業なのか?」

*3  出所)ユニセフ「子育て支援策 新レポート」

*4  出所)イクメンプロジェクト「男性の家事・育児、育児休業に関するビジュアルデータ」

*5  出所)イクメンプロジェクト「イクメン宣言者の宣言後行動リサーチ 報告書」

*6  出所)内閣府「さんきゅうパパプロジェクト準備BOOK 改訂版(平成29年)」

*7  出所)厚生労働省「平成29年度仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書(企業調査)」

(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)

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