FIREムーブメントを通して考える、お金を貯める2つの目的

FIREムーブメントを通して考える、お金を貯める2つの目的

皆さんにとって、お金を貯める目的は何でしょうか。
人によって様々な目的があるかと思いますが、その一つとして「豊かな生活」を手に入れることが挙げられます。そこには、「物質的な豊かさ」と、「時間的な豊かさ」の2つの側面があります。
今回は、最近流行している「FIRE」という考え方を通して、この2つの目的について考えてみます。

「FIRE」ムーブメントとは

「FIRE」とは、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉です。この言葉は、「経済的に独立して早期退職(アーリーリタイア)するライフスタイル」を指します。アメリカのミレニアル世代(2000年代に成人した現在20~30代の層。米国ピュー・リサーチ・センターによると1981~1996年の間に生まれた世代とされる)を中心に流行しており、現在、インターネットを通じて世界中に広まりつつある考え方です。この動きを「FIRE」ムーブメントといいます。

流行の発端は、「FIRE」を実践したアメリカの夫婦のブログだと言われています。彼らの生活は次のようなものでした。
まず夫婦でそれぞれ年収約750万円を稼ぎ、さらに毎日徹底した倹約生活を送ることで、収入のほとんどを投資にまわします。そうして資産を増やしていき、30歳で約2,200万円の家を手に入れ、この他に約6,700万円の金融資産を築きました。
この時点で、夫婦は勤めていた会社を退職しました。倹約生活を続けながら、この金融資産を年利4%で運用し続ければ、利回り分の年収約270万円で、夫婦と3人の子どもが生活できると判断したためです。

これは「4%ルール」と呼ばれていて、「FIRE」達成のための貯蓄目標である運用元本の算出に利用されています。すなわち、年間生活費の25倍の運用元本を作れば、年利4%の運用を行うことで、早期退職しても元本を減らさずに生活ができるということです。

(運用元本) =(年間生活費)×25であれば、(運用元本)×4%=(年間生活費)

これに基づくと、年間生活費400万円の世帯は1億円の運用元本を蓄える必要があることになります。しかし、さらに切り詰めて年間200万円で生活する世帯は、5,000万円の蓄えで足りることになります。
もちろん、持ち家に住むのか賃貸に住むのか、子どもの人数や教育方針、自身や親の介護への備えなど、個別具体的な事情によって、これらにプラスアルファで貯蓄を行う必要が生じるケースもありますが、一つの目安として、このルールを利用することはできるでしょう。

「アーリーリタイア」というと、これまでは、数億円単位の資産を築いて悠々自適な生活を送るような印象が強かったかと思います。
それに対して、「FIRE」は、リタイア後も倹約生活を続ける代わりに、より早い段階で自由な時間を手に入れることを目指す点が特徴的です。たとえ贅沢はできなくとも、仕事のストレスから解放され、一日中好きなことに時間を使える自由なライフスタイルは、アメリカをはじめ世界中の若者を魅了しているとされています。

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「物質的な豊かさ」と「時間的な豊かさ」

日本のミレニアル世代にも、「FIRE」ムーブメントが起きつつありますが、この考え方と対照的なのが、ミレニアル世代の親世代である、いわゆる「バブル世代」の考え方です。

1960年代後半生まれのバブル世代は、高度経済成長期に生まれ、安定成長期に育ち、バブル期に成人していることから、育ってきた過程のほとんどが好況期でした。就職してからも、働けば働くほど、会社も労働者も潤う経験をしている方が多くいますし、不動産をはじめとした資産価格も高騰しました。
これらに伴い、当時のビジネスマンは長時間の残業も惜しまず働き、高収入を手に入れて、大きな家や高級外車、華やかな衣服や装飾品の購入といった「物質的な豊かさ」を追求する傾向にありました。そのため、現代においても、バブル世代には「時間的な豊かさ」よりも「物質的な豊かさ」に重きを置く価値観を持つ方が多くいるとされています。

親世代とは対照的に、子のミレニアル世代は、バブル崩壊前後に生まれ、経済が低迷していたとされる、いわゆる「失われた20年」に育ち、就職活動も決して楽ではなく「就職浪人」が多発する世代でした。さらに、ミレニアル世代は10代のうちからインターネットに触れていて、SNSやブログなど、世界中の多様な価値観をより身近なものとして知る機会に恵まれていました。
そういった背景からか、ミレニアル世代の間では、「物質的な豊かさ」を追い求めない考え方が主流となっているようです。「若者の車離れ」と言われて久しいですし、さらには「断捨離」や「ミニマリスト」といった、身の回りの物を徹底的に減らして身軽に生きるライフスタイルも流行しています。

こういった下地もあり、アメリカ発祥の「FIRE」は、日本のミレニアル世代にも非常に親和性があるとされています。
例えば、日本にも、「FIRE」を目指して四畳半の部屋に住み、洋服は夏服・冬服・スーツの3パターンしか持たずに生活コストを徹底的に下げ、収入の8割を投資にまわして貯蓄を増やしている人もいるといいます。
海の近くに住み、満員電車に揺られることなく、毎日好きな時間に好きなだけサーフィンをして過ごしたい。30代でそんな人生を手に入れるため、日々、節制と貯蓄にいそしむ姿は、とても充実して見えるという方も少なくないのではないでしょうか。
彼らは「FIRE」を実現することで、限りある人生を会社のためではなく、自分自身のために使える状態、すなわち「時間的な豊かさ」を手に入れたいと言います。

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自分の判断軸を持つ

極端な例として、バブル世代に代表される「物質的な豊かさ」とミレニアル世代に代表される「時間的な豊かさ」を対比してお話いたしました。
どちらを目的としてお金を貯めるかは、多くの人にとって、0か100かではないと思います。しかし、片方の例に100%共感できないとしても、ほとんどの方は意識するしないに関わらず、どちらかを重視しているはずです。また自分がどちらに重きを置いているのかを、自分自身でも把握していない人は意外と多くいるようです。極端な例を前にして、自分の価値観を再認識する作業は、多くの人にとって有意義なことかと思います。
転職や住宅購入をはじめ、人生にはタイミングが重要となる局面が多々あります。判断軸を意識的に持っておけば、そういった人生の転機においても迷いが少なくなり、無駄な時間を過ごさずに意思決定できるでしょう。ぜひ一度、自分の考え方を再整理してみることをお勧めします。

今回は、「物質的な豊かさ」と「時間的な豊かさ」の比較で話を進めてきましたが、仕事から解放された生活を一概に称賛するつもりはありません。仕事を通して社会貢献をすることが幸せなのであれば、それが一番でしょう。
皆さん一人一人がどのような人生を送りたいかをイメージして、それに合ったワークスタイル、ライフスタイル、投資スタイルを確立して、幸せな生活を手に入れていただければ幸いです。

(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)

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