自分には生涯どのくらいのお金が必要なのか、じっくり考えてみたことはあるでしょうか。
お金を貯めようと思っても、いつまでにいくらを貯めればよいのか分かっていないと、貯蓄計画は漠然としたものになってしまいます。すると、貯蓄のモチベーションが保てず、思うようにお金が貯まらない、肝心なときに使えるお金がない、といった事態も起こりかねません。
必要な時までにきちんとお金を貯めるには、何を意識してどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。
今回は、そのヒントとなるひとつの考え方をご紹介します。
お金が貯まらない原因とは?
「お金を貯めなくては」と思っているのに、給料が入るとつい欲しいものを買ってしまい、使うことを優先してしまう……そんな人もいるのではないでしょうか。
なかなか思うようにお金が貯まらないのは、自分の今の家計状況をはっきり把握できていないことが原因のひとつかもしれません。
平成29年度の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、現在の家計全体のバランスについての問いに対し、「資産と負債のバランスについて意識したことがない」と答えた人は全体の66.1%にのぼり、半数以上の人が自分の家計収支についてわりと無頓着であることが窺えます。*1
また、「将来のことを考えて生活設計を立てているか」という問いに対し、「現在、生活設計を立てていない」と答えた人が合計で61.9%と、やはり半数を超えています。生活設計は貯蓄計画のベースとなるものですから、この点が曖昧だと計画的な貯蓄はなかなか難しいのではないでしょうか。*1
これらを考え合わせると、お金の出入りの現状が把握できておらず、生活にかかる必要経費や、将来を見据えた貯蓄についての意識があやふやなことが、いまひとつ貯蓄に真剣に取り組めない要因のひとつだと考えられそうです。
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お金の貯め方の手順
では、具体的にどうすれば効率的にお金を貯めていくことができるのでしょうか。
家族構成やライフスタイル、現在の資産額などによって、今後必要になってくるお金は変わってきます。
まずは家計の現状を把握し、それを分析して、自分が目指すべき貯蓄額を割り出すことが貯蓄のスタートラインといえるでしょう。
目標額が定まると、具体的な計画を立てやすくなります。
いつまでにどのくらいのお金を貯めればよいのかがはっきりすれば、貯蓄への意欲向上にも繋がるのではないでしょうか。
ここでひとつ、経営学者で早稲田大学教授の井上達彦氏の著書「模倣の経営学」より、お金の貯め方の参考となるひとつの考え方をご紹介します。
著書のなかで井上氏が提唱する事業創造・変革の「P-VARを用いたモデリングの手順」というものがあります。これは、以下の5つのステップから成り立っています。
2.参照モデルを選ぶ。
3.あるべき姿の青写真を描く。
4.現状とのギャップを逆算する。
5.変革を実行する。*2
これはあくまでビジネス界における企業の目指す経営戦略として考案されたものですが、個人のお金の貯め方にも当てはまるのではないでしょうか。
さっそくこの5ステップを、お金の貯め方に置き換えて考えてみたいと思います。
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貯蓄の計画を立ててみよう
上記の「P-VARを用いたモデリングの手順」を参考に、お金の貯め方の道筋を頭に思い描いていきましょう。
①現状を分析する
このステップは今の家計の現状、つまり家計収支を正しく知り、どのようなものにどれだけお金を使っているのかというお金の出入りを明解な数字で客観的に把握する段階といえます。
浪費や無駄遣いがないか、固定費が高過ぎないか、ほかに改善の余地はないかなど、家計における問題点と課題をじっくり突き詰めていきましょう。
②参照モデルを選ぶ
ここでは、実際にお金を貯めていく方法として、数々の節約法や貯蓄法の中から自分にとってベストな方法を選択します。
たとえば、毎月決まった金額を預貯金に回す人、手元にお金があると使ってしまうので給与天引きで積立をする人、月々の貯蓄は無理でもボーナスは丸々貯蓄と割り切って一気に貯める人、日ごろから小銭貯金を心がける人など、それぞれ自分に向いている貯蓄方法は何か考えてみましょう。場合によっては、積極的な資産運用を検討する人、副業で収入を増やす道を選択する人もいるかもしれません。
節約に関しても、日々のこまごまとした節約が向いている人、こまかい節約は苦手だけど車は中古でOKという人、通信費は削れないけど自炊をして食費は抑えられる人など、さまざまでしょう。
ポイントは、「自分が無理なく続けられること」。心理的な抵抗感が少ない方法、自分の性格やライフスタイルに照らし合わせ実現可能な方法を選択することが大切です。無理のない方法を選べば、そのまま習慣となり、長く継続することができます。
③あるべき姿の青写真を描く
これは、いつまでにどのくらいの貯蓄が必要なのか、具体的に思い描くステップです。
子どもの学費、住宅ローンの頭金、車の買い替え、老後資金など、人生の中には大きな出費を伴うライフイベントがいくつかあります。
まずは、おおよその金額で構わないので、何年後までに大体いくらのお金が必要になりそうか想像してみましょう。
④現状とのギャップを逆算する
このステップではいよいよ、③で思い描いた「目指すべき貯蓄額」と「現状」を比較し、どのようなペースでお金を貯めていけば必要なときまでにその資金を用意できるのか、逆算しながら貯蓄計画を立てていきます。
たとえば、現在10歳の子どもの大学資金を貯めるとします。一般的な私立大学の文科系学部を例にとると、4年間の学費の平均が約400万円*3として、大学入学までに8年の期間があるので、1年で50万円を積み立てれば目標額に到達することが可能です。
まだ子どもが小さいうちなら、学資保険や投資信託という選択肢もあるかもしれません。
他にも、マイホーム資金や車の買い替え代金など、いくつか平行してお金を貯めていくケースも出てくるでしょう。「この時期にこれだけの貯蓄は厳しいかもしれない」と思ったら、移動可能な予定を後へずらしたりして調整します。
このように、ライフイベントごとに具体的な貯蓄計画を立てることで、それが実現可能かどうかを冷静に判断しやすくなります。
⑤変革を実行する
将来設計を元にして貯蓄計画を立てると、これまで漠然としていたお金の貯め方が非常にクリアに見えてくるかと思います。このメリットは、今やるべきことがはっきりすること、そして、浪費や衝動買いなどの無駄な出費に心理的なブレーキがかかることです。
計画を立てたあとは、その計画を日々実行していくのみです。ただ、長い人生には思いもよらないことが起こるものです。そのせいで、途中で貯蓄計画が狂ってしまうこともあるかもしれません。
そんなときは、無理をせず状況に合わせて随時計画内容を調整していきましょう。想定外の出費が必要になれば、預貯金を取り崩す勇気を持つことも大切です。その都度仕切り直しをして、またコツコツと貯蓄に励んでいきましょう。
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まとめ
漠然と「月にいくら、ボーナス時にいくらを貯める」というようなルールを作ることも悪くはありませんが、理想は「お金が必要になった時にそのための資金が十分にある」という状態を目指すことではないでしょうか。
それを叶えるには、まず自分にとって必要な貯蓄額を知ること、そしてお金を貯める道筋をしっかり描きながら計画を立てていくことが重要です。
自分はどんな人生を歩んでいきたいのかを、あらためて見つめ直す機会にもなりますので、興味を持たれた方はぜひお試しください。
*1 出所)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](平成29年)」
*2 出所)「模倣の経営学」井上達彦著
*3 出所)文部科学省「平成28年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金 平均額(定員1人当たり)の調査結果について」
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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