ポイント
毎年秋口になると、加入している保険会社から「生命保険料控除証明書」が届くという人も多いのではないでしょうか。生命保険や一部の損害保険に加入していると、払い込んだ保険料に応じて一定の金額をその年の所得から差し引くことができ、所得税と住民税の負担を軽くすることができます。もしもの備えのために加入している保険が、節税に役立つのは嬉しいことですね。
しかしながら制度の内容を充分にわかっておらず、せっかくの制度を活用していない人もいるようです。そこで今回は、保険料控除の仕組みや活用法について解説していきます。
保険料控除とは?なぜ税金が安くなる?
万一の死亡、病気や介護、老後などライフサイクルの中で起こり得るさまざまなリスクに備え、自助努力として加入する各種保険。そしてその保険に加入している人への税制上の特典として利用できるのが、保険料控除です。
ひとくちに保険と言っても生命保険と損害保険がありますが、保険料控除には大きく分けて「生命保険料控除」と「地震保険料控除」の2つがあります。
どちらも所得控除のひとつであり、払い込んだ保険料に応じて、一定の金額を保険契約者(保険料負担者)のその年の所得から差し引くことができるものです。
そもそも所得税は個人が1月1日~12月31日までの1年間に得た利益に対して課税されるものです。ここでいう利益とは、いわゆる年収ではなく「課税所得」を指します。
一例として、給与・賞与だけを収入とする会社員の場合で簡単に説明しましょう。この場合、1年間の額面給与および額面賞与の合計額から、それに応じた給与所得控除を差し引き、給与所得を算出します。ここから「基礎控除」や「配偶者控除」「生命保険料控除」など、全部で14種類ある所得控除の中から自分が利用できる所得控除を差し引きます。こうして算出された金額を「課税所得」といい、課税金額に税率をかけてその年の所得税が計算される仕組みです。算式にすると次のようになります。
給与所得者の場合:
給与所得(給与などの収入-給与所得控除)-所得控除(基礎控除、生命保険料控除など14種類)=課税所得
課税所得×税率=所得税額
つまり、納付すべき税金を少なくするためには課税所得を少なくすることがポイントで、そのためには所得控除が多いほど効果があります。つまり、生命保険料控除が利用できれば課税所得が減少し、所得税、住民税の負担が軽減される仕組みなのです。
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生命保険料控除には3種類
ひとくちに生命保険といっても死亡や医療、介護、老後など、保障内容はさまざまです。生命保険料控除制度では、これらの保障内容に応じて「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」そして「個人年金保険料控除」の3種に分かれています。
一般生命保険料控除:
生存または死亡に基因して一定額の保険金、その他給付金を支払うことを約する部分に係る保険料
(定期保険、終身保険、学資保険など)
介護医療保険料控除:
入院・通院等にともなう給付部分に係る保険料(医療保険、介護保険、疾病入院特約、がん特約など)
個人年金保険料控除:
個人年金保険料税制適格特約の付加された個人年金保険契約等に係る保険料
実は生命保険料控除は2012年に制度が改正されました。現在は上記の3種類がありますが、2011年末までは上記のうち「一般」と「個人年金」の2種の生命保険料控除だけでした。
また、制度改正とともに、適用される各保険料控除の金額も変わっています。現在の保険料控除の金額は年間に支払った保険料に応じ、「一般」、「介護医療」、「個人年金」ともに、それぞれ表中の式にあてはめて計算します。また、所得税と住民税では控除できる金額が異なります。
〈2012年1月1日以降に締結した保険契約等〉:「一般」、「介護医療」、「個人年金」
出所)生命保険文化センター「税金の負担が軽くなる生命保険料控除」
なお、3種の控除すべてを利用できる場合、3種を合計した適用限度額は所得税で12万円、住民税では7万円とされています。
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2011年12月31日以前の旧制度は2種類
生命保険は一般的に契約期間が長期にわたるものです。現在保険料を払っている契約は2012年1月1日より前に契約したものもあるでしょう。その場合には、旧生命保険料控除が適用されます。旧生命保険料控除の金額は、「一般」、「個人年金」ともに、それぞれ表中の式にあてはめて計算します。
〈2011年12月31日以前に締結した保険契約等〉:「一般」、「個人年金」
参考)生命保険文化センター「税金の負担が軽くなる生命保険料控除」
なお、2種の控除どちらも利用できる場合、2種を合計した適用限度額は所得税で10万円、住民税では7万円とされています。
なお、旧制度の対象になっていた生命保険契約でも、2012年1月1日以後に更新、転換、特約の中途付加等をした場合、以後の保険料(契約全体の保険料)が新制度の対象になります。
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生命保険料控除を活用する場合のケーススタディ
生命保険料控除の適用は、上で見たような契約の時期、加入している保障の種類、そして保険料負担者などによってさまざまなケースが考えられます。なお、被保険者・契約者・保険金受取人・保険料税制適格特約など、生命保険料控除の適用を受けるための条件はすべて満たしているものとし、2つのケースで見てみましょう。
ケーススタディ1:定期保険特約付き終身保険および個人年金保険に加入、契約者(保険料負担者)は2件とも夫
定期保険特約付き終身保険:2011年4月1日契約/年間支払保険料:216,000円
個人年金保険:2017年3月1日契約/年間支払保険料60,000円
この場合、一般生命保険料控除(旧制度)と個人年金保険料控除(新制度)が適用されます。
所得税に適用される控除額は、85,000円となります。
旧・一般分→年間支払保険料が10万円を超えているため、保険料控除額は50,000円
新・年金分→(60,000円×1/4)+20,000円=35,000円
住民税に適用される控除額は、63,000円となります。
旧・一般分→年間支払保険料が7万円を超えているため、保険料控除額は35,000円
新・年金分→年間支払保険料が56,000円を超えているため、保険料控除額は28,000円
なお、このように新・旧が混在する場合の保険料控除額は3種の保険料控除および新・旧合わせて所得税が12万円限度、住民税が7万円限度となります。
ケーススタディ2:夫婦でそれぞれ医療保険に加入、契約者(保険料負担者)は2件とも夫
夫の医療保険:2018年4月1日契約/年間支払保険料:48,000円
妻の医療保険:2019年2月1日契約(保険料払込み開始)/年間支払保険料30,000円
この場合、2件とも新制度の介護医療保険料控除が適用されます。
所得税に適用される控除額は、40,000円となります。
夫分→(48,000円×1/4)+20,000円=32,000円
妻分→(30,000円×1/2)+10,000円=25,000円
2件の合計額は57,000円ですが、保険料負担者が同一人であるため、生命保険料控除を利用できる人は夫です。新制度では1種類の保険料控除につき所得税に対する控除額は40,000円限度であるため、夫の所得から控除できる金額は40,000円となります。
住民税に適用される控除額は、28,000円となります。
夫分→(48,000円×1/4)+14,000円=26,000円
妻分→(30,000円×1/2)+6,000円=21,000円
同様に、2件の合計額は47,000円ですが、保険料負担者が同一人であるため、生命保険料控除を利用できる人は夫です。新制度では1種類の保険料控除につき住民税に対する控除額は28,000円限度であるため、夫の所得から控除できる金額は28,000円となります
このような場合には、限度額オーバーで控除しきれない部分が多く出てしまいます。
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保険料控除証明書で控除額をチェックしよう
生命保険料控除制度では、保障内容に応じて3種の控除制度に分けられることは前述しましたが、加入している保険によっては1つの契約で主契約や特約ごとにそれぞれ別の控除制度に振り分けられることもあります。主契約や特約名称だけでは判断しにくい場合もありますから、保険会社から送られてくる生命保険料控除証明書できちんと確認しておきましょう。なお、不明な点があれば加入している保険会社に確認するようにしてください。
多くの保険会社では、10月頃から生命保険料控除証明書の郵送を開始します。生命保険料控除証明書は年末調整または確定申告の際に必要ですから、なくさないようにきちんと保管しておきましょう。また、間違えて捨ててしまったり、郵送されてこないような場合には、加入している保険会社に連絡すれば再発行してもらえることがあります。保険料を払うことで税金を節約できるせっかくの制度ですから有効に活用できるといいですね。
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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