ポイント
離婚によってどちらか一方が子どもを育てなければならなくなったとき、離れて暮らす親には養育費の支払い義務が発生します。しかし、養育費とは具体的にどのように計算され、いつまでもらえるものなのでしょうか。
本記事では養育費の概要と、具体的な金額の計算方法についてご紹介します。
子どもを育てるために支払われる養育費とは?
養育費とは文字通り、子どもが自立するために必要な生活費や教育費、医療費などさまざまな費用を総括して用いられる言葉です。親が離婚すると子どもはどちらか一方に引き取られることになりますが、その際に「養育費の分担」について話し合わなければなりません。
これは民法によって「子の利益を最も優先して考慮すること」が定められているため、離婚原因がなんであれ養育費は請求することができます。
出所)厚生労働省委託事業 養育費相談支援センター「養育費のこと」、法務省「夫婦が離婚をするときに」
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成人年齢が18歳に。養育費がもらえる期間はいつまで?
養育費の支払期間は金額とあわせて夫婦で取り決めることになります。成人するまで、と一律的に考える必要はありません。大学への進学率が高い現代においては、成人しても在学中で経済的に自立していないというケースが多々あります。実際的な経済状況を考慮した上で、例えば22歳の3月末までなど明確に取り決めましょう。
また、民法改正によって2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられることになりましたが、上記のような事情もありますから、今後新たに養育費に関する取り決めをする場合には、「22歳に達した後の3月まで」といった形で、明確に支払期間を定めることが望ましいでしょう。
出所)法務省「子どもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」、「成年年齢の引き下げに伴う養育費の取決めへの影響について」
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養育費の相場の計算方法
では、養育費はどのように計算すれば良いのでしょうか。基本的には双方の同意があれば特に上限はありませんが、もちろん支払う側にも今後の生活があります。自分の要望だけで「これだけほしいから支払って!」というわけにはいきませんから、相手に提示する金額には明確な根拠が必要です。
手順としては、まず家庭裁判所が取り扱っている算定表を基に金額を算出し、個別の事情に応じて当事者同士で話し合い、金額を増減するのが一般的です。
算定表は裁判所のウェブサイトに掲載があります。
養育費・婚姻費用算定表
算定表において養育費を決めるポイントとなるのは以下の項目です。
- 支払う側(義務者)の年収
- 支払いを受ける側(権利者)の年収
- 両者が給与所得者か自営業者か
- 子どもの年齢と人数
年収は給与所得者の場合は源泉徴収票に記載されている「支払金額」を、自営業者の場合は確定申告書に記載される「課税される所得金額」を指します。児童扶養手当などの社会保障給付は年収に含まれません。
では、算定表をもとに月あたりの養育費の算出例を見てみましょう。
一概に相手の年収が高ければ養育費が多くもらえるというわけではなく、あくまで両者の年収のバランスなどを考慮して決めていくことになるということが上記の表からもわかります。
しかしこれらはあくまで相場の費用です。個別の事情に応じて弁護士など専門家とも相談しながら金額をきちんと計算しましょう。
また、算定表は記載されている内容が複雑で、一覧表も細かく見づらいため、自分で簡単に確認したいときは、計算シミュレーターを使うのがおすすめです。条件を入力するだけで算定表に基づいた養育費を算出できるもので、主に弁護士事務所のホームページで公開されています。
出所)東京家庭裁判所「養育費・婚姻届算定表」
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こんなときはどうしたらいい?養育費のQ&A
養育費の取り決めやその後の支払いをスムーズにしたいと思っても、離婚をするとなるとさまざまな事情や感情が絡むことはなかなか避けられません。養育費にまつわるよくあるQ&Aをまとめましたので、困ったときに役立ててみてください。
Q1.少しでも多く養育費をもらうにはどうしたらいい?
A.相手の年収を把握した上で、子どもに必要な費用の根拠を提示しましょう
養育費の算出において自分と相手の年収がベースとなることは前述でご紹介したとおりです。そのため、もしも相手が年収を低く申告してそれが認められてしまうと、養育費は低くなってしまう可能性があります。
こういった事態を防いで必ず適正な金額を請求するためにも、副業なども含めて相手の年収を事前に把握しておくこと、給与明細や源泉徴収票などの書類が正しい内容であるかどうかをしっかり確認しましょう。
また、子どもを私立の学校に通わせたい、一定の年齢からは塾に、習い事は水泳と英会話教室にといった、教育計画に基づいて、将来どんな費用がかかるのか具体的な数字を提示するのも効果が期待できます。相手も子どもに対してできる限りの費用を支払いたいと考えており、お互いが納得できれば養育費を多くもらうことも可能です。
「子どものため」という視点を忘れずに、相手を尊重しながら交渉することも重要です。感情的に子育ての大変さやなどを訴えても、逆効果になってしまう可能性が高いでしょう。
Q2.相手から養育費を支払う代わりに子どもとの面会を要求されたら?
A.子どもの利益に反する場合は、応じる必要はありません
平成23年に民法第766条が改正され、離婚時に両親が子どものために協議すべき内容として、「面会」と「養育費」が明文化されました。また、その際の重要な視点として「子の利益を最も優先して考慮すること」も記載されています。下記がその記載です。
1. 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2. 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
1. 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
つまり、面会は子どもにとって利益があるから行われるべきということで、原則として養育費を交換条件として面会を要求するといった取引は成立しません。例えば離婚前にDVが行われており、相手が子どもに危害を加える可能性があったとしたら面会は拒否できますが、養育費は請求できます。面会と養育費は別問題なのです。
出所)法務省だより あかれんが「離婚の際に夫婦が取り決める事項として面会交流及び養育費の分担などが明文化されました」、法務省「子どもの養育に関する合意書作成の手引きとQ&A」
Q3.もしも離婚後、養育費が支払われなくなったら?
A.相手が請求に応じなければ、裁判所による履行勧告、または強制執行を申し立てることができます
養育費を受け取る「約束」をする方法は基本的に3種類です。
- 当事者同士で口頭、または書面で約束する
- 公正証書に残す
- 家庭裁判所(調停、審判、人事訴訟)で決める
2と3の方法で養育費を取り決めた場合は、申立によって家庭裁判所が支払い者に支払いを勧告してくれます。それでも支払い者が応じない場合は、地方裁判所が強制執行、すなわち強制的に相手の財産を差し押さえることができます。
これらを踏まえ、養育費を滞りなく支払ってもらうには、当事者同士で費用の取り決めがスムーズに進んだ場合でも公正証書に残しておくのが安心でしょう。
1のように口約束などで決めていた場合は、強制力がないため裁判所に勧告はしてもらえません。改めて調停や裁判によって養育費の支払いを請求することになります。
出所)厚生労働省委託事業 養育費相談支援センター「養育費のこと」
Q4.離婚後、相手が無職に。養育費は減額されてしまう?
A.実際に支払いが厳しく、減額請求をしてきた場合は減額もありえます
支払い者が養育費の減額を請求できるケースは以下のような場合です。
- 失業や転職などによって支払い者の年収が減った
- 再婚して扶養家族が増えた
請求があった場合は、基本的には当事者間で話し合いをして、理由が妥当だと納得できるのであれば請求を受け入れることになります。話し合いがまとまらなければ、養育費請求調停を申し立てることもできます。調停でも決着がつかなければ、審判による判断が必要です。
逆に、受け取る側も失業をした、子どもに高額な医療費が必要になったなど、なんらかの事情があれば養育費の増額を請求できるケースがあります。
出所)厚生労働省委託事業 養育費相談支援センター「養育費のこと」、裁判所「養育費請求調停」
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養育費は子どものためのもの。正しい知識で適切な金額を請求しよう
離婚は必ずしも円満にできるものではありません。感情面で、相手と話し合うのは嫌だと思うというケースも少なくないでしょう。しかし、養育費は子どもの将来のために必要なお金です。子どもが現在2歳で22歳まで養育費が支払われるとしたら、たった1万円違うだけで240万円もの差額が生まれます。
子どもにとっての利益を最優先に考え、必ず適切な金額を取り決めるようにしましょう。
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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