ひとり親家庭にとって養育費は、子どもを守り、成長を支える大切なお金です。しかし、実際には養育費が滞る、支払われなくなるといったケースが後を絶ちません。
離婚相手に支払いを催促するのは時間も手間もかかるだけでなく、精神的なストレスも大きいものです。では養育費の不払いとは、なぜ起きてしまうのでしょうか。またそのような場合、どのように請求すればよいのでしょうか。
養育費を払わないのはなぜ?
離婚した場合でも、離れて暮らしている親には養育費を支払う義務が発生します。しかし実際には、支払われないケースは少なくありません。ひとり親世帯にとって、子どもを育てる上で養育費は家計の大きな割合を占めるため、不払いにより教育費や生活費が圧迫される可能性があるなど深刻な問題を引き起こします。
しかしながら、厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、離婚した父親から養育費を「現在も受けている」と回答したのは24.3%、離婚した母親から「現在も受けている」と回答したのは3.2%にとどまっています。*1
つまり、母子家庭では4分の3の世帯が離婚相手からの養育費の不払い問題に直面しているのです。
ではなぜ、養育費の不払いが起きるのでしょうか。
養育費の取り決めをしていないことがネック
2012年4月1日の民法改正において、いわゆる「協議離婚」と呼ばれる夫婦の話し合いで離婚する場合でも、取り決めるべきこととして面会交流と養育費の分担が明記されました。
父母が協議上の離婚をするときは、 子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及 びその他の交流、子の監護に要する費用の分担 その他の子の監護について必要な事項は、その 協議で定める。この場合においては、子の利益 を最も優先して考慮しなければならない。
しかし、現実には母子家庭の場合、母親が養育費の「取り決めをしている」と回答したのは42.9%で、半数に届きません。父子家庭の場合でも、20.8%です。とくに、協議離婚は、離婚裁判や離婚調停などその他の離婚方法に比べて、母子家庭の母親が取り決めをしていない率が高く、59.0%となっています。その他の離婚方法の17.6%の約3倍を超える割合です。*1
約半数が養育費不払いの相談相手がいない
養育費が定期的に支払われるかどうかは、母子家庭の生計に大きな影響を及ぼします。にもかかわらず、離婚に当たって、または離婚後に養育費について誰かに相談した経験があるのは51.2%。主な相談相手は1位「親族」(47.7%)、2位「家庭裁判所」(17.1%)と続いています。*1
約半数の母親は、相談相手がいない、相談せずに一人で抱え込んでいるといった実態が浮き彫りになっています。
養育費払わない離婚相手とのやりとりはストレスフル
協議離婚にせよ、裁判所を介した調停や裁判による離婚にせよ、別れた配偶者との連絡を避けたい気持ちも不払いにつながっていると考えられます。
養育費の取り決めをしていない理由として、母子家庭の母親の回答は「相手と関わりたくない」(31.4%)がトップでした。2位の「相手に支払う能力がないと思った」(20.8%)の回答より約10ポイント上回っています。*1
とはいえ、大事な子育てのための養育費の不払いを「相手に関わりたくない」からとそのままにしていると、これから先、子どもの成長に関わる生活費や教育費をすべて賄うのは非常に困難となってきます。
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不払いの養育費を請求するには
それでは、養育費の取り決めや不払いの養育費を手に入れるには、どのような方法が考えられるのでしょうか。裁判所で行える代表的な司法手続きを見ていきましょう。
養育費の取り決め方法
●協議離婚の場合
夫婦で協議して離婚するときは、口約束だけでなく書面にまとめる、公正証書を作成するなど、文書にしておくことが大切です。
もし支払いが滞って催促しても支払いがない、もともと養育費の取り決めをしていなかった場合には、家庭裁判所に養育費の調停を申し立てができます。家庭裁判所の調停での話し合いで養育費を取り決めます。もし調停がうまくいかなかった場合は、家庭裁判所が審判で取り決めます。
取り決めした後、再婚や子どもが進学したなど事情が変更した場合は、養育費の額の変更を裁判所に申し立てできます。*2
●調停離婚・裁判離婚の場合
家庭裁判所の離婚調停の内容や裁判による判決で養育費の支払いが決まります。
養育費を確保する方法
公正証書を作成していた、家庭裁判所の調停での話し合いで取り決めしていた場合は、そのまま裁判所に強制執行の申し立てができます。
強制執行の手続きが開始されると、裁判所は相手側の給与や預貯金、不動産などを差し押さえします。
ちなみに、調停で取り決めしていたときには、一度家庭裁判所に履行勧告を申し出て、支払いされるか見極めてから強制執行の手続きに入ることも可能です。
養育費は協議離婚後でも請求できる
離婚前の話し合いでは「養育費は要らない」といった条件で協議離婚していても、子どもの成長や教育に合わせて養育費が必要になる場合もあります。
その場合、改めて養育費を請求することも可能ですので、子どもの福祉を第一に考え、まずは話し合いをするようにしましょう。*3
公正証書ではなく私的な書面では強制執行できない
養育費の取り決めを書面で取り交わしておくことは、不払いのリスクを避けるための基本です。しかし、お互いに私的に作成した文書だけでは支払いが滞ってしまっても、いきなり裁判所の強制執行はできず、調停や裁判をする必要があります。*3
無用なトラブルを避けるためにも、口約束ではなく必ず話し合った内容に基づいて公正証書を作成しておくことが養育費を安心して確保するために大切です。
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養育費で困ったら自治体の相談窓口へ
厚生労働省では、ひとり親家庭の自立支援を促進するため、養育費等支援事業を推進しています。具体的には、自治体単位で養育費相談支援センターや母子・父子自立支援員が窓口となって、養育費の取り決めや不払いの相談、家庭裁判所での手続きなどを支援しています。
養育費をはじめ、離婚にともなって直面する教育や就業などの問題についてワンストップの支援制度を整備しているのが特徴です。
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まとめ
ひとり親家庭で仕事や育児をしながら養育費を催促するのは、時間や手間だけでなく精神的な負担も大変です。とくに協議離婚で養育費の取り決めをしていなかった、公正証書を作成していなかった場合、不払いのリスクが高くなります。
養育費は要らないと離婚しても、お互いの再婚や子どもの進学にともなって後から養育費が必要になる可能性も考えなければなりません。子どもの未来を守るため、養育費についてもう一度見直しておきましょう。
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