最近、ふと気づくと、政治家がお金の話をよくしています。
消費税、経済的格差、教育無償化、NHKの受信料、年金、最低賃金……。
かつて、構想、イデオロギーで争った古い政治家の姿はそこにはありません。
時代も変わったなあ、と思います。
もちろん、お金の話が大事な話であることは重々承知しています。
しかし、ここまで政治がお金の話だらけになった時代はあまりなかったはずです。
高度な資本主義の世界では、資本が政治を制圧し、経済的な制約が人々の生活の隅々にまで影響を与えている、と言えるのでしょう。
政治家はそれを代弁しているに過ぎません。
だが人は、「お金で買えるものは価値が低い」とみなす
ですが、もちろん人は「お金」によってのみ生きるわけではありません。
むしろ、本質的には人は、「お金で買えるものは価値が低い」とみなすのです。
例えば、ハーバード大のマイケル・サンデル教授は、次のような事例を引き合いに出しています。
そして結婚式の当日。
あなたが祝辞を依頼した付添人が、心温まる乾杯の挨拶をしてくれました。
その祝辞はとても感動的で、あなたは目に涙を催しました。
ところが後日、その祝辞は付添人が自分で書いたものではなく、オンラインで購入したものだとわかったのです。
(インターネットには実際に「専門家による、感動的な結婚式の祝辞」を、1万2千円程度で買えるサービスがあります)
さて、あなたはそれを気にするでしょうか。
祝辞の価値は、料金を取る専門家が書いたとわかったら、落ちるでしょうか。
ほとんどの人は「イエス」というはずです。
お金で買った乾杯の挨拶の価値は、付添人が自分で考えた挨拶よりも価値が低いと思う人が多いのです。出所) マイケル・サンデル『それをお金で買いますか 市場主義の限界』
これに、ロジックは存在しません。
「なぜだ」と言われても、誰も理由を答えることはできません
「なんか嫌」
「お金で買ったものは、手作りに比べて心がこもっていない」
「本物ではない」
多くの人が「そう感じたから」としか言いようがありません。
人間は合理的に考えることはできますが、合理的に「感じる」ことはできません。
ですが、これは非常に厄介な性質でもあります。
つまり、ひたすら「お金」を手に入れることを目指した結果、気づいたら手元に重要なものは何もなかった、ということが十分にありえるのです。
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収入とは関係なく、結婚する人はする
男性が伴侶を得ることについて、考えてみましょう。
ネット上では「お金があれば結婚できるのに……。でも、女性は低収入の男性を選ばないよね。」という言説がまかり通っていますが、これは本当でしょうか。
私はあやしいと思っています。
実際、「私は年収◯◯以上の人としか結婚しない」と本気で思っている女性に、私は会ったことがありません。
むしろ「性格」や「能力」、あるいは「評判」などのほうが、遥かに話題となることが多いと感じます。
「それは建前だから」という方もいるでしょう。
でも、そうでしょうか?
実際、データは、「それは建前ではない」ことを示唆しています。
男性は年収200万円代であっても、生涯未婚率は3割を切っています。
さらに、年収が100万円代前半の男性であっても生涯未婚率は4割程度、つまり6割の男性は結婚しています。
出所) 荒川和久『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』
たしかに年収が高い男性のほうが結婚しやすいと言えますが、「稼ぎがない」からといって、「結婚できない」というのは、言い過ぎです。
作家の橘玲さんは、このような状況を捉えて、「収入とは関係なく、結婚する人はする」と述べています。
しかしその一方で、収入がなくても魅力的な男性はたくさんいます。
バリキャリの妻が家計を支え、専業主夫が子育てをしている知り合いがいますが、夫は“売れない画家”ではあるものの、大きな賞をとり定期的に個展も開く『(業界の)有名人』です。女性にとって重要なのは、夫の年収だけではなく、まわりから『旦那さん、素敵ね』といわれることなのではないでしょうか。
これはようするに、『魅力のある男性は収入にかかわらずモテるし、(本人にその気があれば)結婚もできる』という当たり前の話です。
そう考えると、『年収の低い男は結婚できない』説は、彼女のいない男性の自己正当化らしいことが見えてきます。『モテないのは自分に魅力がないからだ』という現実を直視するよりも、『世の中の女がカネにしか興味がないからだ』と決めつけたほうが、ずっと気が楽でしょうから。」
出所) 橘玲『専業主婦は2億円損をする』
おそらくほとんどの人にとって、「結婚」とは「お金の話」ではないく人と人との信頼の話だ、と思っているはずです。
むしろ「お金さえあれば結婚できるのに」と言っていた男性ですら、夫をATMだと思っている女性と、わざわざ結婚する人は少ないでしょう。
結局これは、「お金目当てで寄ってくる人は価値が低い」とみなされているので、当然です。
結婚したいなら「お金」を追求するのではなく、「人としての魅力」を追求しなければならない。
これらの話は、会社の採用にも当てはまります。
例えば「お金の話」をあまり面接のときにしないほうが良い、とアドバイスされることがあります。
最近ではそうではない会社も増えてきましたが、例えば
「転職したい理由は」 → 「給料を高くしたいからです」
「仕事上で重視していることは」 → 「年収です」
という回答をする応募者を積極的に採用したいかといわれると、そういう会社は少ないでしょう。
これは単純に、「お金で動く人は、価値が低い」という感情があるからです。
もちろん、これは合理的ではありません。
企業の採用は、仕事ができるかどうかが全てであって、お金に執着があるかどうかではない。
だから、「転職したい理由は」→「給料を高くしたいからです」を問題とする理由はなにもないはずです。
しかし、人の感情がそれを許さない。
結果として、「金で動くやつ」は軽んじられる、という結果になるのです。
もちろん、これを書いている私自身も、100%合理的に考えられるかというとそんな事は決してありません。
例えば、個人的に好きなCMのキャッチコピーがあります。
それは、マスターカードのCMです。
「お金で買えない価値がある。買えるものはMasterCardで。」
というコピーは、私をすっかり魅了しました。
我々は「お金で買えない価値がある」ことを信じたいのです。そして、そのように行動しています。
前述した、マイケル・サンデルは、著書を次のように締めくくっています。
出所) マイケル・サンデル『それをお金で買いますか 市場主義の限界』
私は企業を運営する人間の一人として、
「お金で買えない価値がある」
そして、
「売ってはいけないものがある」
この言葉をよく噛みしめる必要があると、強く感じているのです。
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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