多くの育児本が推奨する方法論は、実証もされておらず、根拠もない、という話

多くの育児本が推奨する方法論は、実証もされておらず、根拠もない、という話

子育てとは、多くの人にとって不安なものではないでしょうか。

実際、私自身も子を持つ親ですが、育児は手探りであることが多く、また望ましいとされる子育てを自分ができているのかどうか、確かめる術もありません。

昔は家族の中での年配者が、子育てに関する知恵袋のような役割を担っていたと思いますが、核家族化が進んだ今、そのようなノウハウの伝承も途切れがちです。

したがって、我々は不安を解消するために調べます。
ウェブページを、本を、SNSを。

そこにはありとあらゆるノウハウがあふれています。
曰く、

「読み聞かせをせよ」
「いろいろな体験をさせなさい」
「スマホを与えるな」
「積極的に抱っこしなさい」
「ほめなさい」
……

そうすれば、運動が得意で、好奇心と忍耐力があり、地頭の良い子が育つと。

しかし、私は今ひとつピンときませんでした。
なぜなら、ほとんどのこうした言説には根拠が提示されていないからです。
また、下手をすると、一つの本の中ですら、矛盾した言説が散見されました。

「スキンシップは大事」といいつつ、「抱っこはほどほど」なんて書いてあって、結局どっちなんだと…。

もちろんこれは極端な例ですが、少なくとも私が購入した人気の育児本のほとんどに、根拠としてのエビデンスはおろか、出典すらも掲載されていませんでした。

要するに、ほとんどの育児本は体験談の域を出ていません。
高名な大学のセンセイや専門家が書いている本であっても、同様です。

「体験談」というのはちょうど起業家の成功物語を聞くのと同じようなものです。
気休めにはなるかもしれませんが、そのままではほとんど役に立たないし、自分たちのケースにあてはめて本当に効果があるかどうかは検証する必要があります。

そんな「体験談」レベルの話を、自分の大事な子どもの1度きりのチャンスに適用するべきでしょうか?
私はそうは思えませんでした。

見るべきはエビデンス・ベースドの子育て論

そんなとき、私は一冊の本と出会いました。
それはベストセラーとなった、慶応大学の中室牧子先生の「学力の経済学」です。

中室氏は、本の冒頭でこう言い切っています。

私は、経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てに関する発見は、教育評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よっぽど価値がある―むしろ、知っておかないともったいないことだとすら思っています。


出所)中室牧子「学力の経済学」

私はこれにほぼ同意します。
なぜなら「科学的手法」を経て検証されていない知識は、普遍的ではないからです。

評論家や専門家にはたしかに経験があるかもしれない。
しかし、その経験を通じて得られた知見が真実であるかどうかについては、かなり疑わしいと言わざるを得ません。

例えば、中室氏が紹介する「エビデンス・ベースド」の子育て論は、

  • 子どもをごほうびで釣っても良い。(ただし、テストの結果ではなく、本を読むなどのインプットを増やすことに対してごほうびを与えるべき)
  • 子どもの自尊心を高めると学力が上がるのではなく、学力が高いと自尊心が高まる。自尊心だけを高めるようにすると、実力の伴わないナルシストになり、学力に悪影響が出る恐れもある。
  • テレビゲームを1日1時間程度やるくらいでは、悪影響はない。

「ごほうびで釣るな」とか「ほめて自信をつけさせろ」、「スマホゲームを与えるな」とかいう専門家たちの通説を覆すような結果が紹介されており、少なくとも単なる経験談よりも信頼に値する内容が紹介されていると感じます。

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親は、子どもの性格の形成に対して、重要かつ長期的な影響を及ぼすことはできないという、エビデンスに基づいた事実

その後、私はエビデンスに基づいた子育て論を展開している書籍をあたりつづけました。
すると、一つの衝撃的な本に行き当たったのです。
それは1998年に出版された、米国の心理学者ジュディス・リッチ・ハリスの「子育ての大誤解」です。

「子育ての大誤解」の主張の根源は、「学力の経済学」が主張する事実よりもさらにラディカルでした。

なにせ、「親は、子どもの性格の形成に対して、重要かつ長期的な影響を及ぼすことはできない」と主張しているのですから。

この主張を読んだ方の多くは、憤慨するかもしれません。
ときに、
「親の愛は無意味だというのか」
「虐待やネグレクトを肯定するのか」
といった意見がハリス氏のもとには寄せられたそうです。

ですが、ハリス氏は、上記のようなことは一言も述べていません。

進化心理学者のスティーヴン・ピンカーは、ハリス氏の主張を一言で、
「大人の形成には遺伝子も仲間も重要だが、親は重要ではない」と表現しています。

出所)ジュディス・リッチ・ハリス「子育ての大誤解」

ハリス氏の主張では、親が子どもにしてあげられるのは、環境を用意すること、具体的に言えば「誰が子どもの仲間となるかを決定すること」です。

言い換えれば、友達、先生、師、隣人、その他子どもと関わる大勢の人々をフィルタリングし、子どもを悪い仲間から守ってあげることが親の最大の役割です。

逆に、親の言動や愛情表現、施した教育は、無駄ではないにしろ、長期的にはほとんどなんの影響も及ぼすことができないということです。

例えば、IQテストなどで測定可能な認知能力を上げるべく、「幼児教育」に夢中になる親が多いですが、その影響は幼児期にとどまり、大人になればなるほど、知能のレベルは遺伝による影響のほうがはるかに大きくなることがわかっています。

出所)橘玲「もっと言ってはいけない」

知能のレベルは生まれた時点ですでにほぼ決まっており、お隣さんが「幼児教育」をやっていても、それは単なる自己満足に過ぎないわけです。

結局、親は大した影響を与えられないのだから、好きにしたら良い。

奇妙かもしれませんが、私はこれを聞いてモヤモヤしていたものが、スッキリと晴れたような気がしました。
もしかしたら、私と同じ感想を持つ方も多いのではないでしょうか。

要するに、「親は自分の信じる通りにしたらいいんだ」ということです。
どうせ、子どもは大きくなるにつれ、親の影響はどんどん薄くなっていく。だったら「一人の人間として、子育てを楽しむように」子どもに接すればよい。

自分がこう言ったら、子どもに悪影響では?などと、ドギマギする必要はまったくない。
どうせ子どもは、親よりも将来自分が所属するであろう集団からはるかに多くを学ぶのです。

現代では、子どもは親の所有物ではありませんし、長期的には親は子どもを支配できません。
彼らは彼らの人生を、自分で判断して選び取るだけです。

とすれば、要は「子育ては、楽しんだもの勝ち」といっても良いのではないでしょうか。

様々な育児本がありますが、あまり深刻に捉えず、それらは一種の「ゲーム攻略本」とでも思って、適度に距離をとって付き合うのが良いのだと思います。

(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)

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