「子どもにお金をかければ頭が良くなり、成功できる」というのは本当なのか

「子どもにお金をかければ頭が良くなり、成功できる」というのは本当なのか

「家庭の経済力と、子どもの学力は関連がある」というデータが示すこと

今年の3月に、お茶の水女子大学から「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」というタイトルのレポートが発表されました。

調査研究の目的は、家庭状況と児童生徒の学力等の関係を分析すること。
家庭の経済的な状況から保護者の考え方までを網羅した、大規模なサンプル調査を用いた研究です。

報告書ではいくつかの知見が述べられていますが、その中でも特に取り上げられているのは以下の3つです。

1)子どもの学力は、家庭の経済力と正の相関がある。

2)子どもの学力は、非認知スキル(意欲、忍耐力、自制心など)と緩やかな正の相関がある。

3)経済的に恵まれていなくとも学力の高い子どもは、保護者が知的な好奇心を高める働きかけを行っており、非認知スキルが高い。

出所) 国立大学法人お茶の水女子大学「保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究」

また、日本経済新聞は同調査を受けて、「子供の学力、本・新聞や生活習慣で親の収入差を克服も」と、新聞のアピールを忘れていません。

我々はこういった調査を受けて、何を考えるべきなのでしょう。
本や新聞を子どもに読ませなくては、と考えていいのでしょうか。
実は、そうとも言い切れないのです。

ベストセラー『「学力」の経済学』を著した慶應義塾大学の教育経済学者、中室牧子氏は、著作の中で次のように述べています。

文部科学省は、「全国学力・学習状況調査」という学力テストの結果を用いて、子どもの学力と家庭環境にどのような関係がみられるかを分析しています。

その分析によると、「親の年収や学歴が低くても学力が高い児童の特徴は、家庭で読書をしていること」だとされています。この結果を受けて、多くのメディアは「子どもに読書をさせることが重要だ」と報道をしています。はたしてこの報道は正しいのでしょうか。

残念ながら、正しいとはいえません。この報道には2つの誤りがあります。

出所) 中室牧子 『「学力」の経済学』

中室牧子氏の言う2つの誤りとは、要約すると以下のものです。

1)読書と学力の間に因果関係があるようにミス・ディレクションしている

読書をしているから子どもの学力が高いのではなく、「学力が高いから読書をしている」だけの可能性を考えていない。

2)見せかけの相関の可能性を考えていない

読書にも学力にも影響をするような「第三の要因」があるかもしれないのに、そのことを考慮していない。例えば「子どもに対する親の関心の高さ」が第三の要因であるならば、子どもに勉強を促すと同時に、本を子どもに買うことが考えられる。

この「相関」と「因果」の違いを理解していないと、子どもに本を読ませれば頭が良くなる、という短絡的な認識に至ってしまいます。

また、場合によっては「家庭の経済力と、子どもの学力は正の相関がある」というデータを「子どもに金をかければ頭が良くなり、成功できる」と考えてしまう人もいるかもしれません。

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「親が教育にお金をかけると、子どもの学力が上がる」は証明されていない?

現在のところ、少なくとも日本では、「親がお金をかければ、子どもの学力が上がる」という命題について説得力やエビデンスを持った証明はなされていないと思います。

ですので、例えば仮に「学校教育や学習塾をすべて無償化」してみたとしても、結局教育における格差は変わらなかった、なんてことも十分ありえるわけです。

ベストセラー「言ってはいけない 残酷すぎる真実」の中で、著者の橘玲氏は「格差を作り出すのは知能であり、それが遺伝することで格差が再生産される」と述べています。

じつは、親の収入と子どもの学歴にも同様の「擬似相関」がある。

知能が遺伝するという事実を受け入れるならば、「知能の高い親は社会的に成功し、同時に遺伝によって子どもは高学歴になる」という因果関係ですっきり説明できるのだ。

(中略)

私たちはこの「残酷すぎる真実」を直視するのを恐れ、知能と貧困との明白な関係にずっと気づかないふりをしてきた。

税金を投入して高等教育を無償化したところで、教育に適性のない最貧困層の困窮はなにひとつ改善しないだろう。

出所) 橘玲 「言ってはいけない 残酷すぎる真実」

もちろん、この言説が政治的に受け入れられるかどうかといえば、かなり難しいでしょう。
「差別的だ」と憤る人もいるかもしれません。

ですが、『「学力」の経済学』に掲載されているデータ上でも、「中3時の学力は、遺伝によるものが35%、家庭環境によるものが34%、その他が30%」ということが示されています。

よって、私達が「教育費」を考えるとき「お金をかければ必ず子どもの学力が伸びるというわけではない」ことを念頭に置かなければなりません。

また、逆に言えば「お金がないから、子どもの学力が伸びない」と考えるのも間違いなのです。

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教育費をどう捉えるか

それを踏まえた上で、私達は子どもへの教育費をどのように捉えていけばよいのでしょう。

「大学卒業までの教育費は一人あたり1千万円」という話をよく耳にします。

日本政策金融公庫の『平成29年度「教育費負担の実態調査結果」』によれば、義務教育を終え、高校入学から大学卒業までに必要な入在学費用は子ども一人あたり935万円となっています。

小学校のお受験をしたり、私立中学に行かせたりする人もいるでしょうから、「最低一人あたり1千万円」というのは、大げさな数値でもなさそうです。

最低一人あたり1千万円というのは、それなりに大きなお金です。

大きなお金をかけるということは通常、とんでもないお金持ちでもない限り「費用対効果」を気にしなければならない、ということでもあります。

しかし、前述したように中には意図せず誤った方向に世論を導いてしまう報道もあり、何を信用したら良いのかよくわかりません。

また、「周りの状況」に流されてしまう人も多いでしょう。
実際、私の近所にも「知り合いのお母さんが、幼稚園のうちから(読み書き・算盤などの)塾に入れるから、うちの子もそうしないと...」などと真面目に議論している方がいました。

「できるだけ早いうちから良い教育を」と願う親心はわかりますが、ひとまず冷静にならなければお金を無駄にするだけです。

実際、ここで重要なのは、ビジネスと同じように、冷静に「エビデンス」をもとにした意思決定を行うことです。
教育においても正しい意思決定を下すためには、データを集めて分析し、それをもとに意思決定をすべきです。

例えば、米国で行われた幼児教育の効果に関する実験「ベリー幼稚園プログラム」によると、読み書きや算盤などの「認知能力」については、幼児教育の影響が8歳頃までは残るものの、長期に渡って持続するものではないことがわかっています。

したがって、読み書き算盤、習い事一般などの「知識詰め込み型」の幼児教育は、それほど費用対効果の高いものではなさそうです。

あるいは、「一人ひとりに目をかけることのできる、少人数制の私立中学校へ入れたい」という希望を持つ親は少なくないでしょう。

しかし、慶應義塾大学の赤林氏の研究によれば「少人数学級は、小学生の国語以外の科目と、中学生には学力向上の効果はない」といったデータも示されています。

したがって、これも「費用対効果の合わない施策」である蓋然性が高いでしょう。

さらに、子どもに家庭で勉強させるにはどうしたらよいか、というデータもあります。

上述した『「学力」の経済学』の中では、「勉強しろと言う」のはほとんど意味がなく、「一緒に勉強を見てあげる」、「ちゃんと勉強したかどうか確認する」など、親が時間を使うことにはかなり効果がある、と主張されています。

このように、きちんとエビデンスを見ることで、費用対効果の高い施策を選択し、子どもの学力を効果的に伸ばす方法は、数多くあるのです。

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教育費の費用対効果をどう考えるか

とはいえ、日本においては、教育の「費用対効果」をエビデンスを持って証明した研究がまだ少ないのが現実です。

「仕事」ではデータを重視し、優れた意思決定を行うことのできるビジネスパーソンが、「教育」の話になった瞬間に単なる「評論家」になってしまうことはいくらでもあります。

教育は誰でも受けたことがあり、誰もが「自分は語る資格がある」と考えているからです。

しかし本来、「教育」も専門家の仕事であり、素人が自分の経験をもとに行っていることは間違っている可能性が高いのです。

教育は、家などと同様「投資」です。
そして、その費用は「聖域」になりがちです。

くれぐれも、「子どもにお金をかければ頭が良くなり、成功できる」という考え方にとらわれず、家を買うときのように、冷静にデータを見つめ、費用対効果を考えることこそ、教育費を考えるときに最も重要なことなのではないでしょうか。

(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)

ライター

「子どもにお金をかければ頭が良くなり、成功できる」というのは本当なのか
安達 裕哉
1975年東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上のビジネスパーソンとともに仕事をする。仕事、マネジメントに関するメディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサルティング活動を行う。

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