キャリアも資産も人的ネットワークも、これからの時代は「集中」より「分散」が正解に

キャリアも資産も人的ネットワークも、これからの時代は「集中」より「分散」が正解に

永らく日本では、多くの人が考える「キャリア形成」とは「自分が就職した会社で、どうやって出世するか」でした。
悪くても「どうやって大過なく定年まで勤めあげるか」だったのではないでしょうか。

実際、学生時代の同級生に会うと、転職の回数は1回、多くても2回程度。
転職を経験してない人も多く、大企業に勤めている人は
「次は課長だな」
なんて会話をしています。

現在の40代が就職した当時、世の中で「転職すること」はまだそれほど一般的ではありませんでした。

ところが今。
今の20代半ばから30代くらいまでの人たちはどうでしょう。

私の周りでは、すでに2回、3回と転職をしている人は珍しくありません。
また、転職を経験していない人であっても、
「次はどこに行こうかと考えながら仕事している」
と言っています。

一体どこから潮目が変わったのでしょう。

調べてみると実は、経団連は2006年に、こんな意見書を発表しています。

(1)「企業主導のキャリア形成」から「主体的なキャリア形成」へ
(中略)
従来の企業における人材育成・キャリア形成支援策は、主に企業主導で自社に適した人材を育てるという目的の下に、年齢や勤続に応じて、正規従業員に対し、一律に実施されるケースが多く見られ、必ずしも従業員個々人の能力や適性に応じたものとはいえなかった。 したがって今後は、個に焦点を当てたキャリア形成支援策へと転換していく必要がある。
(中略)
一方、従業員には、自分の特性や強み・弱みを認識した上で、どのような仕事がしたいのかを明確にして、主体的にキャリア形成に取組む姿勢が求められている。

出所) 日本経済団体連合会「主体的なキャリア形成の必要性と支援のあり方~組織と個人の視点のマッチング~」

経団連が指摘するように、高度成長期から2000年代初頭まで、「キャリア形成」は「企業」が個人のために行うことでした。
しかし、同年代の後半にはすでに「自分のキャリアは自分で考えろ」という企業が増えてきていることが伺えます。

また、「2000年以降、長期的にみると転職者は増加傾向にある」という厚生労働省のデータもあります。

出所) 厚生労働省 「平成30年4月23日 雇用を取り巻く環境と諸課題について」

つまり、現在の「キャリア形成」は、多くの人が感じている通り
「個人」が「複数の会社」を渡り歩くことを前提として考えるべきものになってきているのです。

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消えた、キャリア形成の「必勝パターン」

この大きな変化により、キャリア形成が難しくなったのは言うまでもありません。
企業が支えていたキャリア形成の「必勝パターン」が消え、成功が保証されなくなったのです。

社会学者の山田昌弘は、著書『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』の中で、これを「社会のリスク化」と呼びます。

まず、男子学生に対しては、君たちの父親が若い頃には、大学を出さえすれば、大企業に就職できて、定年まで安定した給料を貰うことが期待できた。しかし、今は、大学を出ても保証のないフリーターにしかなれない若者も多いし、大企業に入ったからといって倒産や解雇とは無縁ではないよ、と。
(中略)
現代日本社会では、生活に対する「保証」が急速に失われつつある。学歴をつければ大丈夫、大企業に入れば大丈夫、結婚すれば大丈夫とは言えなくなっている。生活のあらゆる領域にリスクが広がる状況、これをリスク化と呼ぶことにする。それは、戦後日本が築いてきた安心社会の終焉でもある。

出所)山田昌弘『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』

山田氏が述べるように、現在のキャリア形成の本質は「リスク」と無関係ではいられません。

個人は、失業や生活水準の低下リスクをヘッジすること、生じたリスクに対処することを個人の責任において行わなくてはならない時代になりました。

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リスク社会では「集中型」から「分散型」の人生へ

では、我々はこのあまりにも不確実性の高い時代に、どのように人生を考えればよいのでしょうか。

ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンは著書「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」の中でこれからの日本人の人生設計についてこう主張しています。

30歳未満の人
・選択肢を広く取るため、すぐに給料のいい職に就こうとばかり考えない
・人的ネットワークを広げて、自分とは大きく異なるロールモデルと接する
40〜50代の人
・新しいスキルの習得に力を注ぐ
・人的ネットワークを広げて、新しい生き方の選択肢を知る
・経済的な関係も含め、家族同士の関係や役割を見直す
60歳以上の人
・高齢になるまで働き、収入を得続ける
・若者たちのロールモデルとなる

出所)リンダ・グラットン「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」

つまり、高度経済成長までの
「安定した仕事にさえつけば」
「収入は年功序列で上がり」
「人間関係は家族と会社の人たちを中心につくられる」
という常識からは一旦外れ、

人生において重要なファクターである
「仕事」
「お金」
「人間関係」
の3つの事柄について、見直しが必要だとリンダ・グラットンは述べています。

詳しく言えば、「社会のリスク化」が進み、「リスクへの対処」が個人レベルで求められる時代には

1.「キャリア形成」はできうる限り多くの選択肢を検討する
2.「資産形成」は収入の口をできるだけ分散するように設計する
3.人間関係を豊かにするため、人的ネットワークをできるだけ大きくする

が一種の「正解」になるのです。

お気づきだと思いますが、これらはすべてリスク管理のため、「集中型」の人生から、「分散型」の人生への転換を迫っているのです。

仕事も、収入も、人間関係も、できるだけ多様に分散させることが「大きな失敗」を防ぐための知恵というのは、考えてみれば当たり前の話です。

その観点から世の中を眺めてみると、昨今の
「転職市場の活況」
「副業の一般化」
「貯蓄から投資へ」
「SNSの発達」
「家族形態の多様化」
「ダイバーシティの重視」
などの傾向はすべて、この「分散型」の人生を送る人が増えたことに起因するのかもしれません。

(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)

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