結婚してから、わずか数年で別れを迎えてしまう夫婦は少なくないようです。
実際に、離婚件数を同居期間5年ごとに比較した厚生労働省の調査*1では、毎年「5年未満」での離婚件数が最多となっており、理想と現実の違いが窺えます。その差を埋めるためにも事前によく話し合い、結婚生活におけるお互いの理想像や重点を置く事柄を具体的に理解しておくことが不可欠と言えるでしょう。
その内容を書きとめ、契約書としてまとめるのも一つの手段と言えそうです。
そこで今回は、その方法や利点も合わせて見てみましょう。
3組に1組の時代 離婚の要因は
厚生労働省が毎年発表する人口動態統計によると、2018年の離婚件数は20万8333件*1となり、徐々に減少傾向ではあるものの、1996年以降20万件を超え続けています。なお、婚姻件数も年々少なくなっていることを踏まえて相対的に見ると、離婚件数が単純に減っているとは言い難いでしょう。年間の婚姻件数に対する離婚の割合は、20年以上に渡って3割超を記録し続けています。
次の司法統計からは、離婚に至る主な要因が見えてきます。裁判所に申立てが行われたケースに限ったものですが、離婚動機として男女ともに「性格が合わない」が圧倒的な1位であり、妻側の申立てでは「生活費を渡さない」が13,000件以上で続いています。さらに「浪費する」も5,000件近くに上っており、お金の問題を抱えて離婚する夫婦も決して少なくはないようです。
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法的に見る夫婦の財産とは
夫婦という二人の共同生活において、家計管理は大きな課題にもなりえます。各々の収入や日々の支出、家族のための預貯金といったお金のやりくりだけでなく、結婚後に一緒に選んで購入した家や車、家財等の共有財産も増えていくことでしょう。万が一、離婚を決めて別々の道を歩む場合、これらの財産はどのようにみなされるのでしょうか。
夫婦の話し合いのみで合意に至らず、家庭裁判所における離婚調停まで発展するとなると、民法という法律も深く関わってきます。たとえば「夫婦財産制」の「婚姻費用の分担」等という条項において「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」(第760条)と定められています。
婚姻前からそれぞれが所有する財産は「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう)とする」(第762条)とあり、つまりは結婚後もそれぞれ固有の財産であることに変わりありません。
一方で、婚姻後にお互いのために取得した財産(家や車等)はどちらの名義であっても夫婦共有財産とみなされることや、片方が専業主婦(夫)の場合の配偶者の給与は、二人の協力の下に築いた共有財産とされること等も押さえておきたいポイントです。
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婚前契約という選択肢
離婚の場合に限らずとも、なんとなく二人暮らしを始める前に約束事を話し合っておけば、新生活への不安を取り除くことにもつながるのではないでしょうか。それを口頭のみではなく文書化し、結婚後に向けた夫婦の独自ルールとして婚前契約書を作成するのも一つの選択肢です。欧米では日本に比べて普及しており、英語のprenuptial agreementから、プリナップと呼ばれることもあります。
文書の内容はお金に限らず、基本的に自由です。双方の署名入りで作るため、もめごとの際はそれを基に解決を目指せます。第三者を交えずに「覚書き」という形式で作ることもできますが、内容を吟味して効力を正しく持たせたいのであれば、行政書士等の法律の専門家に依頼すると良いでしょう。
さらに法的効果を強めるためには、公証役場で公正証書としての認証手続きを踏んでも良いかも知れません。公証役場とは法務省法務局に属する公的機関であり、「中立・公正な公証人が作成する有効確実な書面を残すことにより、争いを未然に防ぐこと」*2を目的として日本全国約300ヵ所に設けられているものです*3。
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本音で前向きな内容を
結婚を前にして婚前契約書の作成を提案する/されるというのは、「離婚前提なのか」「信用がないのでは」という感覚により、心理的なハードルが高いかもしれません。しかし、「どのような結婚生活を送りたいか」というイメージを本音で語り合いながら築いていくのが本来の目的であると理解し合えれば、きっと前向きなツールとなるでしょう。その過程で、価値観のずれや方向性の違い等に気づくことができれば、早い段階で修正の余地もあるのではないでしょうか。
生活費の負担や貯金の目標額、その使い道の設定といったお金のルールを盛り込んだり、仕事や家事、育児等も含めた日々の生活スタイルに触れたり、さらには両親との同居や親族の介護に対する考え方等、事前に確認しておきたい点は多く挙げられるでしょう。そこに、異性関係に関する問題や離婚時に備えた項目、財産分与等も加えることが可能であり、婚前契約は決して不仲や離婚等のネガティブな状況ばかりを想定しているものではないのです。
話し合いを重ねた結果、お互いの意思を確認した上で契約書には取り入れないという選択もできます。むしろ、何でも思いついたことを全てルール化してしまうと重要なポイントが薄れるだけでなく、お互いの自由を制限しかねないため、要点を絞った内容を意識することも大切です。
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まとめ
結婚が決まって幸せな折、契約書の作成となると気分を害することもあるかもしれません。しかし、財産に関する取り決めだけではなく、離婚原因に多い「性格の不一致」を事前に把握するためにも、十分に話し合う機会をもつことは決して無駄ではないでしょう。離婚時には妥協できない点でも、婚姻前なら改善できることもあるはずです。
契約という言葉が重く響いて抵抗を感じるという方も、まずは前向きに、二人の思い描く結婚生活を箇条書きに書き出すことから始めてみてはいかがでしょうか。
*1
出所)厚生労働省 平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
*2
出所)日本公証人連合会「争いを未然に防ぐために公証役場・公証人のご利用を!」
*3
出所)日本公証人連合会「会長あいさつ」
(Photo:三菱UFJ国際投信-stock.adobe.com)
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