ものづくり企業の宇宙産業参入が広がる背景と課題
宇宙産業は、宇宙を専業とする企業だけで成り立つものではありません。
人工衛星の量産やロケットの高頻度打上げには、精密加工、部品、材料、試験設備などを担う、幅広いものづくり企業の力が必要です。自動車や航空機、電機、素材などの分野で培われた技術を宇宙分野へ生かす動きも広がっています。
なぜ今、ものづくり企業が宇宙産業に参入する動きが広がっているのでしょうか。その背景や理由、それらの具体的な事例、参入に向けた課題を見ていきます。
(目次へ戻る)
宇宙開発の担い手が広がっている
宇宙開発の担い手は、政府機関に加え、民間企業へと広がっています。人工衛星やロケットの開発・製造には、宇宙専業企業だけでなく、部品メーカーや素材メーカー、加工会社など幅広い企業の参画が進んでいます。
中部経済産業局*の資料では、世界の宇宙産業について、約54兆円*から2040年には約140兆円へ拡大するとの予測が紹介されています。
*中部経済産業局は、中部地域5県(愛知県、岐阜県、三重県、富山県、石川県) を管轄エリアとした経済産業省を代表する機関。
*2022年のデータ1米ドル140円で換算したもの*1。
市場の拡大が見込まれる一方、日本では、限られた需要に対応する一品もの中心の生産体制から、人工衛星の量産やロケットの高頻度打上げに対応できる体制への転換が課題となっています。
政府は、宇宙戦略基金*などを活用し、部品メーカーや加工会社を含む、強靱な宇宙サプライチェーンの産業構造の構築を進めています*2, *3。
*宇宙戦略基金:宇宙産業を支える仕組みとして、2024年3月にJAXAに設置されました。民間企業や大学などが複数年度にわたって研究開発に取り組めるよう、10年間で総額1兆円規模の支援を目指しています*5。
人工衛星の量産化と打上げ能力拡大が新たな需要につながる
政府は、2030年代前半までに官民のロケットによる打上げ能力を年間30件程度、中長期的には年間50件程度まで高める目標を掲げています*4。
この目標を実現するには、ロケットそのものの製造能力だけでなく、人工衛星や部品の量産化、小型・軽量化、試験設備、射場などの整備も必要です。
また、打上げ機会の増加に伴い、ロケットや人工衛星の部品に加え、検査、設備保守、輸送、射場運営などの周辺分野にも需要が広がる可能性があります。
現在、日本のロケットによる軌道投入成功数は米国や中国と比べて限られており、2025年は米国192回、中国91回に対し、日本は3回でした*4。
市場拡大と新規参入を後押しする政府の取り組み
政府は、宇宙産業を成長分野の一つとして位置づけ、その市場拡大や新規参入の促進に向けた取り組みを進めています。2020年に4兆円だった国内の宇宙産業市場について、2030年に8兆円へ拡大する目標を掲げています。さらに、2040年には、日本企業による国内外での市場獲得額を少なくとも13兆円規模とする方針を示しています*4。
また、宇宙戦略基金の基本方針では、自動車、電機、化学・素材、情報など、これまで宇宙分野での事業経験を持たなかった企業による技術転用も促しています。
中小企業やスタートアップについても、宇宙産業への参入や新たな事業創出の担い手として位置づけられており、宇宙産業の裾野を広げる役割が期待されています。
民生技術を宇宙へ生かす
小型人工衛星では、宇宙専用の部品だけでなく、一定の条件を満たした民生部品を活用する動きがあります。
民生部品の活用や外部メーカーとの共同開発が進めば、これまで宇宙分野との接点がなかった企業にも、部品供給や技術開発に関わる機会が生まれる可能性があります。
たとえば、産学が連携した、ほどよしプロジェクト※という超小型人工衛星の製造を低コストで実現する取り組みが挙げられます。従来の宇宙機開発とは異なり、一定の信頼性を確保しながら民生部品を活用することで、製造コストの低減を図りました。
この取り組みでは開発された超小型人工衛星が4号機まで運用されており、民生技術の活用可能性を検証する事例の一つとなっています。人工衛星ほどよしは、東京大学の超小型衛星戦略研究センターと次世代宇宙システム技術研究組合(NeSTRA)が中心となって超小型人工衛星ベンチャーで知られる株式会社アクセルスペースホールディングスの協力のもと開発されました。
(目次へ戻る)
ものづくり企業に求められる技術と品質確保
宇宙分野で求められる技術は、精密な金属加工だけではありません。
電子部品、自動車部品、ばね、配管、樹脂・素材、流体制御など、さまざまな技術が宇宙機器の開発や製造で活用されています。人工衛星や部品の量産化に向けては、小型・軽量化や安定した品質を保つ生産技術も重要です。
一方、宇宙空間は、真空、放射線、大きな温度変化など、地上とは異なる厳しい環境です。ロケットの打上げ時には、強い振動や衝撃も加わります。
こうした環境で使用するため、民生技術を宇宙へ転用する場合には、必要な試験を行い、性能や信頼性を確認する必要があります。このため、熱真空試験、温度サイクル試験、振動試験などの設備は、宇宙分野への参入を支える重要な環境の一つとなっています。
政府は、試験設備や射場に加え、人工衛星との通信に使う地上局などの整備も進める方針です*4, *6。
既存技術の転用による参入事例
宇宙産業への参入は、宇宙専用の技術を一から開発する企業に限りません。既存事業で培った技術を、宇宙機器の要件に合わせて応用した企業もあります。
中部経済産業局の事例集では、次のような企業が紹介されています*1。
愛知県の高砂電気工業株式会社は、精密な流体制御技術を生かし、小型人工衛星の推進機器や、微小重力環境で使用する培養装置などを開発しています。
愛知県の石敏鐵工株式会社は、瓦用金型や自動車部品の製造で培った金属加工技術を、小型人工衛星用フレームに応用しました。
愛知県のイセ工業株式会社は、自動車部品の試作で磨いたパイプ曲げ加工技術を生かし、H3ロケット用の配管部品を製品化しています。
岐阜県の株式会社タナックは、シリコーン・ゲル素材の技術を、ロケット用断熱材や人工衛星用部品へ展開しています。
愛知県の有限会社杉浦発条は、ばねの試作・小ロット生産技術を生かし、超小型人工衛星向けの部品を供給しています。
こうした事例からは、既存事業で培った技術が宇宙分野でも活用されていることや、自社の強みを宇宙産業のニーズと結びつけることで、新たな事業機会につながる可能性があることがうかがえます。
宇宙事業者との接点が参入のきっかけに
宇宙産業への参入は、大規模な研究開発から始まるとは限りません。
中部地域の事例では、大学から人工衛星用ばねの相談を受けたことや、知人から小型人工衛星用フレームの製作を依頼されたことが、参入のきっかけになったケースが紹介されています。
行政によるマッチングを通じてロケットメーカーと接点を持ち、試行錯誤を重ねながら部品の製品化につなげた企業もあります*1。
自社の技術が、どの宇宙機器に生かせるかを、企業だけで判断するのは容易ではありません。相談窓口、展示会、商談会、大学との共同研究などは、宇宙事業者との接点を得る機会の一つとなっています。
品質管理と技術力の見える化
航空宇宙分野では、加工技術だけでなく、品質、コスト、納期への対応や、厳格な品質管理体制も求められます。北海道室蘭市の株式会社キメラは、JIS Q 9100の取得や試作への取組を通じて、航空宇宙産業へ参入しました。
株式会社由紀精密は、自社の技術力を示す独自製品を開発し、精密加工技術の強みを見える形で示しています*7。
こうした事例からは、品質管理体制の整備に加え、試作品や技術データなどを通じて技術力を示す取組も行われていることがうかがえます。
地域ネットワークが企業を支える
各地域では、企業や大学、自治体などをつなぎ、宇宙産業への参入を支援する取組が進められています。
中部地域では、自治体、産業界、経済産業局などが「中部宇宙ビジネスネットワーク」を立ち上げ、相談、商談、人材育成などを通じて地域企業の参入を支援しています。
九州では、九州経済産業局*が「人工衛星市場参入の手引き」を公開しています。人工衛星の部品構成、品質管理、試験項目、地域で利用できる試験施設など、企業が参入を検討する際に必要な情報が整理されています*8。
*九州経済産業局は、経済産業省の九州地域7県(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県)におけるブロック機関であり、経済産業施策の総合的な窓口機関です。
和歌山県では、2019年に射場に選定された串本町での日本初の民間宇宙港である、スペースポート紀伊を核として、宇宙産業クラスター*の形成を進めています。ロケットや人工衛星への部品供給に加え、設備保守、輸送、観光などを含む周辺ビジネスへの広がりも期待されています*9, *10。
*宇宙関連企業や研究機関が一つの地域に集積した産業拠点
山形県では、山形大学と県内企業が連携し、超小型人工衛星「ベニバナ・サット」の開発に取り組んでいます。2028年度の打上げを目標としているほか、人工衛星を完成させるだけでなく、設計、製造、試験、運用などのノウハウを地域に残し、人材育成につなげることも目的としています*11。
(目次へ戻る)
参入には課題もある
宇宙産業への参入には、技術の高度化、品質保証、人材確保、設備投資など、さまざまな課題があります。
地上で使える技術や部品であっても、宇宙環境で同じ性能を発揮できるとは限りません。必要な試験や改良には、費用と時間がかかります。
また、宇宙向け製品は生産数量が限られる場合があり、設備投資を短期間で回収することが難しいケースもあります。
参入企業にとっては、宇宙分野単独での採算性だけでなく、既存事業への技術還元や、航空、防衛、半導体など周辺分野への展開も含めて事業性を検討することが課題の一つとなります。
(目次へ戻る)
まとめ
人工衛星の量産やロケットの高頻度打上げには、加工、部品、材料、試験設備などを担うものづくり企業が欠かせません。
自動車や航空機をはじめとする既存産業で培われた技術には、宇宙分野で生かせる可能性があります。大学からの相談や行政のマッチングをきっかけに、宇宙産業へ参入した企業もあります。
一方、宇宙分野で特有の品質要求、設備投資、少量生産、収益化までの期間など、事業化に向けた課題もあります。
こうした中、各地域では企業や大学、自治体などが連携し、宇宙産業への参入を支援する取組が進められています。宇宙産業の裾野は、ロケットや人工衛星の開発企業だけでなく、加工、部品、材料、試験設備など幅広い分野に広がっています。
「スターダスト」は、「宇宙×日本株」をテーマとするファンド研究所の第1弾研究開発プロジェクトです。宇宙関連産業の広がりや産業構造の変化に着目し、日本企業による宇宙関連事業への関与や事業環境について調査・分析していきます。
今後、運用戦略に関する考え方や検討プロセスを中心に、記事、動画、セミナーなどのコンテンツを順次公開していく予定です。
*1)中部宇宙ビジネスネットワーク「中部地域企業の宇宙産業参入事例集」
※市場規模はBryce TechおよびMorgan Stanleyの調査を1米ドル140円で換算した紹介値です。
*2)内閣府「宇宙基本計画、宇宙開発戦略本部決定・閣議決定、2023年6月13日」
*3)経済産業省「製造業を巡る現状の課題と今後の政策の方向性」
*4)総務省「宇宙基本計画工程表改訂に向けた重点事項」
*5)内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省「宇宙戦略基金 基本方針」
*6)内閣府「宇宙基本計画工程表、2025年12月23日宇宙開発戦略本部決定」
*7)北海道経済産業局「令和8年度ものづくり企業向け高度化支援の取組」
*8)九州経済産業局「未来を切り開く九州の宇宙ビジネス~人工衛星市場参入の手引き」
*9)和歌山県「宇宙まちづくり推進「Kii Space HUB」」
*10)和歌山県「ロケット・射場に関する国の戦略産業クラスター計画公表について」
*11)山形大学「ベニバナ・サット開発に向けSpace BDと支援業務契約を締結」
本記事に関する留意事項(研究開発目的の情報提供について)
・本記事は、三菱UFJアセットマネジメント株式会社(以下、当社)の投資運用業に関する取組みおよび投資者の皆さまの投資に関する理解を深めていただくことを目的として、当社が中長期的な運用力の向上に向けて実施している研究・開発(R&D)活動について、当該活動で研究・開発している戦略(以下「本運用戦略」といいます。)を採用する一部のファンド(研究・開発のために設定・運用しているファミリーファンド方式のマザーファンドであり、投資者の皆さまが投資することはできません)の情報提供をすることを通じて説明するものです。本記事の内容は、金融商品の販売・勧誘を目的としたものではありません。
・本記事に掲載している内容は、金融商品取引法に基づく有価証券の募集、売出し、勧誘、またはそれらに類する行為を目的とするものではありません。また、お客さまに対する情報提供を目的としたものであり、当社が特定の有価証券の取引を推奨するものではありません。
・本記事に掲載している本運用戦略(マザーファンド)は、販売対象となる投資信託ではなく、一般投資家向けに提供・販売される予定もありません。したがって、本記事の情報は、投資判断を行うための資料ではなく、届出前の金融商品に関する勧誘、またはこれに類する行為には該当しません。また、本運用戦略(マザーファンド)に関する費用等はございません。
・また、将来において本記事に記載した内容と同一または類似の金融商品が組成・提供されることを保証するものではなく、本記事に掲載した内容は、予告なく変更される場合があります。
・研究に用いているデータ、前提条件、分析手法等は、検証時点におけるものであり、実際の運用環境や市場状況を反映しているものではありません。また、将来の市場環境の変動や運用状況・成果を示唆・保証するものではありません。
・本記事は信頼できると判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性等を保証するものではありません。
・本記事の情報に基づいて行われた、いかなる判断・行動についても当社は責任を負うものではありませんので、あらかじめご了承ください。
【本運用戦略に係るリスクについて】
・本記事に掲載している本運用戦略は、主に国内外の株式や公社債、リート等の値動きのある有価証券等を投資対象としています。当該対象資産は、株式相場、金利水準、為替相場等の変動や、有価証券等の発行者の業務や財産状況の変化により、当該対象資産の価格や評価額が変動することによって損失が生じ、投資元本を下回る可能性があります。
・先物取引、オプション取引、信用取引等(デリバティブ取引等)については、当初投資元本(証拠金、保証金等)を上回る損失を生じることがあります。また、当該取引においては、取引相手等の信用状況等により損失が生じることがあります。
【本運用戦略に係る費用等について】
本記事に掲載している本運用戦略を提供した場合、以下の手数料・費用等が生じます。概要は記載の通りですが、お客さまとのご契約内容により、手数料・費用等は異なりますので、具体的にお示しすることはできません。
■投資顧問報酬や運用管理報酬
投資助言や投資一任によるサービスの場合は、そのサービスの対価として、契約資産額に運用戦略ごとに定めた料率を乗じた投資顧問報酬や運用管理報酬が契約期間に応じて生じます。また、成功報酬をご負担いただく場合があります。成功報酬は個別に計算方法が異なり、また運用実績に応じて変動しますので、事前に具体的な計算方法、上限額をお示しすることができません。これら投資顧問報酬や運用管理報酬は、投資対象や運用手法等が異なるため、事前に金額、上限額またはこれらの計算方法を一律に表示することができません。
■その他の費用・手数料
投資一任契約においては、投資顧問報酬のほかに、運用にあたって投資する金融商品等の売買委託手数料、投資した金融商品等の保管費用等の費用がかかります。これら費用は運用状況に応じ変動しますので、事前に具体的な上限額等をお示しすることができません。
投資信託組入れを通じてご提供する運用戦略の場合、当該投資信託に係る費用(投資信託の信託報酬、信託財産留保額、組入れ、解約等に際しての手数料等、組入有価証券の売買委託手数料、有価証券の保管などに要する費用、管理費用、監査費用、設立に係る費用、借入金の利息、借株の費用等)が生じます。
これらの費用等は、運用状況、売買条件や保有期間等により異なるため、事前に費用の金額または上限額等を一律に表示することができません。
《ご注意》
上記のリスクや手数料等は、契約内容及び運用状況等により異なりますので、契約を締結される際には、事前に契約締結前交付書面によりご確認下さい。
【本運用戦略の研究・開発(R&D)および情報開示】
三菱UFJアセットマネジメント株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第404号 / 加入協会:一般社団法人資産運用業協会
【ウェブページの運営および管理】
株式会社スマートプラス
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第3031号 / 加入協会:日本証券業協会・一般社団法人資産運用業協会・一般社団法人第二種金融商品取引業協会










