給付付き税額控除は、税額控除と現金給付を組み合わせて、働く中低所得層の手取りを底上げする新しい減税の仕組みです。現在、社会保障国民会議などで制度に向けた議論が進められており、2029年度からの本格導入を見据えた検討も行われています。本記事では、その仕組みや議論の内容をわかりやすく解説します。
- 税額控除で引ききれない分を給付として受け取れる仕組みが検討されています。納税額が少ない人にも支援が届きやすい点が特徴です。
- 支援は個人単位を基本とし、働いて得る収入が増えると支援額も増え、一定の所得を超えると徐々に減る仕組みが議論されています。
- 財源の確保や金融所得の把握など、制度化に向けた課題についても議論が続いています。
給付付き税額控除の基礎知識
税額控除と所得控除の違い
まず、税額控除と所得控除は、差し引く場所が異なる仕組みです。
税額控除は、課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から一定の金額を差し引く仕組みです。つまり所得控除が課税対象となる所得の額を減らすのに対して、税額控除は算出後の税額そのものを直接減らします。所得控除は税率をかける前の段階で働くため、同じ控除額でも税率が高い人ほど減税の効果が大きくなります。税額控除は税率にかかわらず控除額だけ税負担が下がるため、所得が比較的少ない人にも効果が及びやすい特徴があります。 *1
この違いを押さえると、給付付き税額控除がなぜ低所得層への支援に用いられるのかを理解しやすくなります。税額控除には、そもそも納める税額が少ない人には効果が限定されるという弱点があり、この点を補うための仕組みとして、給付を組み合わせることが検討されています。
「給付付き」の意味と仕組み
給付付き税額控除の基本的な仕組みを見てみましょう。
給付付き税額控除は、一定の所得以下の勤労者に対して税額控除を適用し、控除額が納税額を上回る場合にはその差額を給付として支払う仕組みです。就労を条件として所得を補うことで、働くことと所得保障の両立を目指す制度です。 *2
所得税の納税者に税額控除を行い、控除しきれない分がある人や課税最低限以下で納付税額がない人に給付を行う仕組みであり、具体的な設計は制度の目的によって内容は変わります。 *3
つまり、税金を軽くする仕組みと現金給付を組み合わせた制度と考えるとわかりやすいでしょう。納税額が少ない人ほど給付部分の比重が大きくなり、納税額が少ない人にも支援が届きやすい点が特徴です。
「新しい減税」と呼ばれる理由
次に、この制度が新しい減税と呼ばれる背景を整理します。
従来の減税は所得税や住民税の負担を軽くする方向で設計されており、そもそも税額が少ない層には効果が十分に及ばない場合がありました。ベーシックインカムと給付付き税額控除の比較を通して、給付付き税額控除の役割や課題について議論されています。 *4
減税で対応しきれない層にも給付として支援を届けられる点が、従来の減税との違いです。税制と社会保障の境界をまたぐ設計であることから、単なる税の軽減ではなく、新しい支援制度の一つとして議論されています。
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制度導入議論の経緯
社会保障国民会議の設置
まず、この議論の枠組みとなった会議の役割を確認します。
令和8年度予算編成の基本方針において、給付付き税額控除の制度設計を含めた税と社会保障の一体改革について幅広い議論を行うため、国民会議の早期設置に向けた検討が進められています。*5
この方針を受けて、内閣官房のもとで社会保障国民会議が立ち上がり、給付付き税額控除等に関する実務者会議の第1回は令和8年3月12日に衆議院第二議員会館で開かれました。 *6
給付付き税額控除は税金だけの話ではなく、社会保障も含めて検討されている制度です。国民会議という場を通じて、政党や関係者が意見を出し合いながら議論を進める場となっています。
制度導入に向けた今後のスケジュール
金融庁公表の大臣記者会見の記録では、給付付き税額控除については2029年度からの本格導入について言及するやり取りもみられるものの、導入までのつなぎとする消費税減税については各党で意見の違いが大きい状況が続いています。*7
内閣官房の資料は、平成24年2月17日の社会保障・税一体改革大綱で、低所得者対策と社会保障・税番号制度の導入に向けて給付付き税額控除の検討が示されたことを紹介しています。 *3
ここから読み取れるのは、給付付き税額控除の構想が十数年にわたる議論の延長線上にあること、そして2029年度からの本格導入を見据えた議論も行われていることです。
制度導入に向けた議論の目的と全体像税や社会保険料の負担を調整する考え方
まず、制度導入によってどのような効果が期待されているのかを見てみましょう。
内閣官房の資料によれば、給付付き税額控除の政策目的は、中低所得の働く人の手取り増加と就労の後押しにあります。この制度では、税金や社会保険料の負担と現金給付を総合的に捉えて、一人ひとりの状況に応じた支援を行うことが目指されています。 *8
つまり、税と社会保険料を別々に軽くするのではなく、負担と給付を合算した水準を見ながら支援を設計する発想です。この制度を理解するには、減税や給付ではなく、負担と給付の全体像で考えることがポイントです。
中低所得の現役勤労者への支援
次に、主な支援対象として想定されている層を確認します。
内閣官房の資料は、税と社会保険料の合計額から児童手当等の現金給付の額を控除した額を年収で除した純負担率(税金や社会保険料の負担から給付を差し引いた実質的な負担)を、共働き子育て世帯で国際比較すると、日本では低所得層の社会保険料負担が重いこと、家族手当などの現金給付が十分でないこと、その他低所得層における税制上の課題があることを特徴として挙げました。 *9
こうした議論からは、社会保険料などの負担感が大きい中低所得の働く世代を主な支援対象として検討していることがうかがえます。制度の効果を測る際には、収入だけでなく、税金や社会保険料を含めた負担全体を見ることが重要になりそうです。
「年収の壁」への対応と働き方への影響
続いて、年収の壁への対応という側面を整理します。
世帯主の年収が600万円である場合、配偶者が年収106万円を超えると社会保険料の負担が発生し、限界実効税率が急激に上昇します。 *2
内閣官房は、就労抑制を最大のネックとして、年収の壁による手取りの落ち込みを給付で平準化し、働く時間や収入を増やしやすい環境をつくるべきとしました。 *10
ここから、給付付き税額控除は年収の壁を越えたときの手取りの減少を緩やかにする役割が期待されています。働く時間を増やしても手取りが大きく減らない仕組みを目指して議論が進められています。
検討中の制度設計のポイント支援の単位は個人単位
まず、支援額を誰の収入を基準に決めるのか見てみましょう。現在の議論では、一人ひとりの所得を基準に支援額を決める考え方が基本とされています。働く意欲を高めることや、年収の壁への対応を考えると、個人単位の所得等に応じた支援額の算定が必要になります。 *8
この原則から、世帯全体の収入ではなく、個人ごとの所得を基準に支援額を決める方向で議論が進められていることがうかがえます。共働き世帯では、それぞれの所得に応じて支援額が決まる仕組みが検討されています。
所得に応じた支援額の変化
次に、所得によって支援額がどのように変わるのかを見てみましょう。
内閣官房の資料は、個人単位で所得に応じた支援を行い、給与など働いて得る収入が増えると支援額も増え、その後は所得に応じて徐々に減り、一定水準を超えると支援がなくなる仕組みが検討されています。支援の対象外となる所得水準は純負担率の国際比較等を参照して設定され、諸外国では概ね平均年収の50%前後で支援が消失するとしています。*11
別の資料では、実際の負担の急な変動を避けるため、支援額は所得に応じて段階的な設計が想定され、どの収入を支援額の計算対象に含めるかも議論されています。*12
この仕組みでは、働いて得る収入が増えると支援額も増え、一定の所得を超えると少しずつ支援が減ることが想定されています。年収の壁付近で手取りが急に落ちないよう、なだらかに変化させる工夫が示されています。
対象者と所得範囲
次に、どの程度の所得水準が想定されているかを見てみましょう。
内閣官房の資料によると、共通の所得基準を設ける場合、社会保険料が課される水準に合わせることが適切だと指摘しています。具体的には、所得で32万円以上、給与収入に換算すると106万円以上を一つの目安とする案が示されています。 *13
この基準は、社会保険料の負担が発生する水準と揃える発想です。自身や家族の給与収入がこの水準を超えるかどうかを一つの目安として、対象となる可能性を考える際の参考になります。
子育て世帯への配慮
最後に、子育て世帯への支援拡充の考え方を確認します。
内閣官房の資料は、子育て世帯への配慮を行う場合の手法として、支援額そのものを増やす方法と、支援額が減り始める所得水準を高くする方法の2通りの提案があったと整理しました。あわせて、支援額全体を引き上げる方法と、支援が減り始める時期を後ろにずらす方法があります。 *14
この二つの手法は、いずれも子育て世帯の手取りを厚くする方向ですが、効果の出方は異なります。子どもの人数や所得水準によって受けられる支援の大きさが変わるため、この点も今後の検討事項の一つになりそうです。
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残された論点と今後の展望
財源確保と恒久制度化
まず、恒久的な制度として運営するために必要な財源について見てみましょう。
内閣官房は、給付付き税額控除は長期的な制度として運営することが想定されているため、その実施にあたっては恒久的な財源を確保する必要があるとしました。あわせて、給付付き税額控除は純負担率を全体として調整するものであり、社会保険料の負担軽減を図るが、年金等の社会保険給付には影響させないとしています。 *8
制度を安定して続けるために、給付に必要な財源をどのように確保するかが重要な課題となります。負担軽減と社会保険給付の関係が切り離される設計は、年金への影響があるのか気になる人にとっては確認しておきたいポイントです。
金融所得をどのように把握するか
次に、所得を把握する際の課題を見てみましょう。
財務総合政策研究所の資料は、日本の金融所得課税は源泉分離課税を基本としているため、金融所得の多くは申告されないケースが多いと指摘されています。そのため、金融所得は地方自治体が把握する個人の所得情報、すなわち社会保険料の計算に使われる所得情報に反映されない場合があります。 *2
この指摘から、所得ベースで支援を設計する際に、給与や事業の所得と金融所得の間で把握しやすさに差があることが課題となることが読み取れます。公平な支援を実現するためには、所得をどのように把握するかは重要な論点の一つとなっています。
税制や社会保障制度との関係
最後に、関連する制度改革との関係を整理します。
参議院の調査資料によると、令和8年度与党税制改正大綱で基礎控除と給与所得控除の最低保障額を2年間の時限措置にしたのは、給付付き税額控除の議論の中で中低所得者層の給付と負担のあり方を検討していくためだと述べられています。今後、人的控除についても給付付き税額控除の議論と合わせて検討していく考えが示されています。*5
一方、内閣官房は、給付付き税額控除だけで全ての課題に対応することは難しいと指摘しています。社会保険料の軽減措置を広げるなど、税制と社会保障制度の両面での対応が必要であり、医療・介護制度の改革など、税や社会保障の各制度の継続的な見直しが必要だとされています。*9
こうした議論からみると、給付付き税額控除は税と社会保障の一体改革の一部であり、この制度だけで全てを解決するものではないことが読み取れます。
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おわりに
給付付き税額控除は、税金の負担を軽くする仕組みと現金給付を組み合わせて、働く人の手取りを支えることを目指す制度です。年収の壁による働き控えへの対応策の一つとしても議論されています。
現在の議論では、一人ひとりの所得を基準に支援額を決めることや、収入に応じて支援額を段階的に変化させる仕組みなどが検討されています。あわせて、マイナンバーや公金受取口座を活用した制度運営についても議論が進められています。
一方で、財源の確保や、金融所得の把握など、解決すべき課題も残されています。制度の内容は今後の議論によって変わる可能性があるため、公表される資料や政府の発表を継続的に確認しながら、自身や家族への影響を考えていくことが大切です。
*1 出所)国税庁「No.1200 税額控除」
*2 出所)財務総合政策研究所「第12章 給付付き税額控除と所得税・住民税・社会保険料の「三位一 体改革」」
*3 出所)内閣官房「給付付き税額控除等を巡る議論の経緯」
*4 出所) 財務総合政策研究所―「フィナンシャル・レビュー157号「AIの発達やパンデミック後の経済社会と税制」」
*5 出所)参議院「参議院常任委員会調査室・特別調査室」
*6 出所)内閣官房「社会保障国民会議 給付付き税額控除等に関する実務者会議(第1回)議事次第」
*7 出所)金融庁「片山財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(令和8年7月21日)」
*8 出所)内閣官房「中間とりまとめに向けた議論の整理(給付付き税額控除)」
*9 出所)内閣官房「これまでの議論を踏まえた今後の議論の素材」
*10 出所)内閣官房「これまでの有識者会議及び実務者会議における主な意見(給付付き税額控除)」
*11 出所)内閣官房「給付付き税額控除のイメージ (中間とりまとめに向けた議論の整理(給付付き税額控除))」
*12 出所)内閣官房「給付付き税額控除の 制度設計に向けて④ 」
*13 出所)内閣官房「給付付き税額控除の制度設計に向けた論点に関する意見 」
*14 出所)内閣官房「給付付き税額控除の 制度設計に向けて③」










