銀行口座にまとまった金額があるのに、将来への漠然としたお金の不安が消えない。そう感じている人は少なくありません。貯金への不安の正体を放置すると、必要な行動を先送りにしたまま、資産価値が徐々に低下していくリスクがあります。
この不安の背景には、インフレによる目減り、低金利環境、所得構造の変化といった複数の要因が絡み合っています。
本記事では、貯金があっても不安を感じる理由を整理したうえで、将来設計の立て方や資産形成の具体的な手順、さらに行動を妨げる壁や注意すべき落とし穴まで順を追って解説します。
貯金があっても不安な理由
インフレによる実質価値の目減り
貯金への不安を感じる大きな要因の一つが、物価上昇による預貯金の実質的な価値低下です。額面上は同じ金額でも、モノやサービスの値段が上がれば、同じお金で買えるものは減っていきます。仮に年2%のインフレが20年間続いた場合、現在の1,000万円は約672万円分の価値しかなくなると試算されています。*1
内閣府の資料でも、家計の現預金残高はコロナ禍で大きく拡大した一方、物価上昇により実質では価値が目減りしていると指摘されています。その一方で、株式や投資信託を含む金融純資産残高は、物価上昇を考慮した実質でも増加の流れが続いているため、「貯蓄から投資への流れの促進は引き続き重要」と記載されています。*2
つまり、預貯金だけで管理していると、名目の安心感とは裏腹に、購買力という実質的な力を徐々に失うことにつながります。貯金の額面を守ることと、生活水準を守ることは同じではない点を意識する必要があります。
低金利環境と預貯金の限界
長く続いた超低金利環境も、貯金への不安を強める背景です。金融庁は、超低金利のもとでは預貯金ではお金は増えないとし、さらに、物価上昇(インフレ)によって貯蓄の価値が目減りすることも指摘しています。*3
預貯金は元本割れしにくいという安心感がある反面、金利がインフレ率を下回り続ける限り、「増えない」だけでなく「実質的に減る」状態が続きます。
画一的な貯蓄だけに頼らず、自分の人生に合わせた資金計画が求められている状況がうかがえます。
所得格差と中間層の地盤沈下
お金の不安は、個人の貯蓄額だけでなく、社会全体の実質賃金の伸び悩みや非正規雇用者の比率上昇などによる所得構造の変化からも生まれます。労働政策研究・研修機構の分析によると、2000年代には所得上位層が横ばいとなる一方で低所得者層の所得水準の低下により格差拡大が進みました。
消費格差に関する部分では、所得格差に改善の兆しが見られる時期でも消費格差は横ばいで推移しており、消費者が将来の所得に対して慎重な見方を持っている可能性が示唆されています。
所得が多少改善しても「使えない」「使わない」心理が残り続けることは、貯金があっても不安が晴れない感覚と地続きの構造といえます。
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不安を見える化する将来設計
ライフプランニングの基本
お金の不安を軽くする第一歩は、漠然とした将来像を具体的な数字に落とし込む将来設計です。ライフプランニングとは、人生の希望や計画を具体的に描くことです。現在は価値観が多様化しており、働き方、家族構成、住まいなどについてさまざまな考え方や多くの選択肢があります。*4
家計の安定的な資産形成を実現するうえでは、個人が自身のライフプランを検討し、アドバイスを受けられる環境を整えることが有用です。あわせて、金融資産の状況や日々の収入・支出といったキャッシュフローなどの金融データを可視化できるようにしておきましょう。*5
自分の収入と支出、保有資産を時間軸に沿って並べることで、「いつ、いくら足りなくなるのか」が見えてきます。不安の正体は、多くの場合この「見えていない部分」に宿ります。
人生三大資金の把握
将来設計の中でも特に把握しておきたいのが、人生の中で大きな金額が必要となる3つの資金です。「住宅資金」「教育資金」「老後資金」は「人生三大資金」と呼ばれ、ライフプランを立てるときにはこれらを見据えて長期的な視点をもつことが大切とされています。*4
人生三大資金のために確保しておきたい金額は人によって異なりますが、それぞれ数千万単位に上る可能性もあります。住宅を買うのか借りるのか、子どもの進路はどうなるか、老後の生活水準をどこに置くかによって、必要額は大きく変わります。
自分の場合はどの程度必要になるのかを早い段階で見積もっておくと、貯金への不安の焦点を絞り込むことにつながります。
ねんきんネットと年金見込額の確認
老後資金を見積もるうえで欠かせないのが、自分が将来受け取れる年金額の把握です。厚生労働省は「ねんきんネット」というインターネットサービスを提供しており、パソコンやスマートフォンから24時間いつでも年金記録の確認や年金見込額の試算が利用できます。(実際は制度変更や収入変動で変化します。)利用者数は1,300万人に達しています。*6
「かんたん試算」の機能を使えば、現在と同じ働き方や収入が60歳まで継続するものとして計算した年金見込額をワンクリックで確認できます。年金見込額がわかると、老後に必要な生活費との差額、つまり自分で埋めなければならない金額が具体化します。この差額こそが、資産形成で準備すべき目標額の出発点です。
資産形成の仕組みと実践手順
金融商品の3基準と使い分け
将来設計で必要額が見えたら、次はそれを準備する手段、つまり資産形成の具体的な方法を考えます。金融庁は金融商品を選ぶ際の基準として「収益性」「安全性」「流動性」の3つを挙げ、これら全てを同時に満たす商品は存在しないとしています。*3
収益性はお金を増やす力、安全性は元本が減りにくい度合い、流動性は必要なときにすぐ現金化できるかどうかを指します。たとえば預貯金は安全性と流動性に優れますが、収益性はごくわずかです。一方、株式は収益性が高い可能性がある反面、値下がりリスクも伴います。
金融庁が「目的に応じて使い分けましょう」と案内しているとおり、生活防衛資金は安全性と流動性を重視し、長期で使わない資金は収益性を意識するといった配分が求められます。
長期・積立・分散投資の効果
資産形成においてリスクを抑えながら成果を目指す手法が、長期・積立・分散投資です。長期・積立・分散投資を行うことで、さまざまなリスクを軽減できる可能性があります。投資の世界では「時間は最大の味方」といわれ、価格変動のある資産の価値は常に上下を繰り返すものの、一時的に値下がりしても諦めずに価格の回復を待つことができれば、長期的にはプラスに転じる可能性もあると説明されています。*1
積立は毎月一定額を機械的に買い続ける方法で、価格が高いときには少なく、安いときには多く買うことで購入単価をならす効果があります。分散は投資先を複数の地域や資産に広げることで、一つの資産の値下がりによる影響を和らげる考え方です。
(注)※特定の投資対象が値上がり続けたり、一旦上昇してその後下落する場合は、購入時期を分散させるよりも一度に全額投資したほうが結果的に有利になる場合があります。
※上記は将来の市場環境の変動や運用状況・成果を示唆。保証するものではありません。
NISAとiDeCoの活用法
長期・積立・分散投資を後押しする仕組みとして、税制上の優遇を受けられる制度があります。金融庁は代表的な非課税制度として「NISA」と「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を挙げています。NISAは運用益が非課税となり、iDeCoは運用益が非課税であることに加え、毎年の所得税や住民税の軽減、受け取り時の税負担の軽減という3段階の優遇を受けられます。*3
厚生労働省の公的年金シミュレーターの提供するiDeCo資産機能では、入力した運用利回りを中央値とし、あらかじめ設定された上限値と下限値を用いた計3パターンの利回りで積立資産額や受給額を試算できます。将来の運用成績による受取額の変動リスクを可視化する仕組みです。*7
NISAは資金の引き出し時期に制限がなく、iDeCoは原則60歳まで引き出せない等の違いがあります。目的と時間軸に応じて両制度を使い分けることで、資産形成の効率を高めやすくなります。
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金融リテラシーと行動の壁
リテラシーと資産形成の相関
資産形成の手段を知っていても、実際に行動へ移せるかどうかには金融リテラシー(お金に関する知識や判断力)が深く関わっていると考えられます。一般的に金融リテラシーと資産形成行動には関連がある可能性が指摘されています。
ゆとりある老後を送るためには公的年金に頼るだけでなく、現役の間に老後のための資産形成を計画的に行うことの重要性がますます高まってきています。金融市場のデジタル化により商品が複雑化し、消費者には高度な金融知識が求められるため、金融リテラシー向上は重要課題となっています。
知識があるかどうかは、投資を始めるかどうかだけでなく、続けられるかどうかにも影響します。
お金の不安を行動で解消するためには、まず自分のリテラシーの現在地を確認し、足りない部分を補っていく姿勢が欠かせません。
老後の取り崩しに潜む3つの壁
資産形成に成功しても、老後にそれを使う段階で別の壁が立ちはだかります。老後資金をいざ取り崩して使おうとするとき、3つの壁があると指摘されています。第1の壁は残高減少への抵抗感、第2の壁は使っているうちに途中で枯渇してしまうのではないかという恐れ、第3の壁は取り崩しの実施段階で発生する煩雑さです。*8
出口戦略がなければ、多額の資産を持ちながらも老後の生活は現役時代より質素になる恐れがあります。「貯める」だけでなく「使う計画」まで含めて初めて、将来設計は完成します。
取り崩しの方法やペースをあらかじめ想定しておくことが、貯金への不安を老後まで持ち越さないための備えになると思われます。
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注意すべき落とし穴
SNS発の投資詐欺と対処法
資産形成に動き出したとき、最も避けたい落とし穴が詐欺被害です。消費者庁は、SNSをきっかけに「もうけ話」をすすめられたという消費生活相談が寄せられていると注意を呼びかけています。中には著名人や有名人のなりすましと考えられる事例も含まれます。*9
投資資金の振込先に個人名義の口座を指定された場合は、詐欺が強く疑われるため、振り込まないことが重要です。被害に遭った場合の回復は難しいため、安易に投資資金を振り込むことは控えるべきだとしています。*9
「お金の不安」に付け込む手口は巧妙化しており、公的機関が発信する情報を確認する習慣が自分の資産を守る基本的な行動の一つと考えられます。
リスクの誤認と過度な安全志向
リスクとリターンの関係を正確に理解していない個人が多く、知識不足が誤った判断につながる可能性は高いと思われます。
資産形成では、高リスク投資への偏りも、過度な預金偏重も避け、適切な金融知識に基づいて判断することが重要です。過度な安全志向もまた、インフレ下では実質的な資産減少という形でリスクを負っている状態です。リスクを「取らないこと」自体が別のリスクになり得るという視点を持つことが、バランスの取れた資産形成につながります。
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おわりに
貯金があっても消えないお金の不安の正体は、インフレによる実質価値の目減り、低金利環境、所得構造の変化、そして「見えていない将来」への漠然とした恐れが複合的に絡み合ったものと考えられます。不安を和らげるには、将来設計で必要額を見える化し、資産形成の仕組みを使って計画的に備え、さらに取り崩しまで含めた出口の計画を持つ等が有効と考えられます。
金融リテラシーを高めること、公的制度を正しく活用すること、詐欺や誤認を避けることという3つのポイントを押さえれば、不安は「対処できる課題」へと変わると考えられます。まずは、ねんきんネットで年金見込額を確認し、家計の収支と保有資産を一覧化するところから始めてみてください。
*1 出所)Money Canvas「なぜ今、「貯蓄から投資へ」なの?メリットやデメリットを詳しく解説」
*2 出所)内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」
*3 出所)金融庁「報道発表資料 (「貯める・増やす」 ~ 資産形成)」
*4 出所)Money Canvas「平均貯蓄額、首都圏ではどれくらい?住居費やライフプランとあわせて解説!」
*5 出所)内閣府「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」
*6 出所)厚生労働省「11月30日は「年金の日」です!」
*7 出所)厚生労働省「公的年金シミュレーターの利用に当たってのご留意事項」
*8 出所)三菱UFJ信託銀行「個人投資家のための老後出口戦略 ~ 取り崩しの壁を乗り越える~」
*9 出所)消費者庁「SNSなどを通じた投資や副業といった「もうけ話」にご注意ください! 」










