ポイント
戦争や経済危機など、世界情勢が不安定になるたびに価格が上昇する傾向がある資産があります。それが金です。「有事の金」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、有事の時に金が買われる仕組みから、金の需給構造、投資の始め方、金に関する税までを順に取り上げます。金投資を検討するうえで押さえておきたいポイントを、ひとつずつ見ていきましょう。
「有事の金」とは何か:定義と歴史的背景
「有事の金」の意味と由来
「有事の金」とは、戦争や金融危機といった非常時に、資産の避難先として金が選ばれる現象を指す言葉です。株や債券のように発行体の信用に左右される資産とは異なり、金はそれ自体に価値がある実物資産として認められてきました。歴史的に長期的な価値保存手段として機能してきたとされ、これまで一度も無価値になったことがなく、不透明な国際情勢下でも蓄財の手段として重宝されています。*1
この性質から、先行きが不透明になると金に資金を移す投資家がいます。紙幣の価値が不安定になると、金は実物資産として安定性が評価され、注目されやすくります。
金本位制の終焉と安全資産としての金の確立
ブレトンウッズ体制では、米ドルを金と交換できる仕組みが採られていました。1944年7月に締結されたブレトンウッズ協定では、1934年に米国で発効された金準備法に基づき、金をドルに交換する際の兌換比率を金1オンス=35米ドルとし、各国通貨はその米ドルに対して交換比率が定められました。*2
しかし1971年のニクソン・ショックで米国が金と米ドルの交換を停止し、金本位制は事実上の終焉を迎えます。この転換以降、金は国家の通貨制度から切り離された一方で、準備資産や投資対象としての役割を保ちつつ、市場で自由に取引される存在となりました。
それでも有事に資金が集まる傾向は変わらず、むしろ通貨との公式なつながりが消えたことで、金は「どの国にも属さない安全資産」としての地位を確かなものにしつつあります。
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有事に金が買われる理由:価格を動かすメカニズム
地政学リスクと金価格の関係
地政学リスクが高まると、株式市場は先行き不安から売られやすくなり、資金の受け皿として金が選ばれやすくなります。内閣府は、2022年以降のロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化、さらに米国の通商政策を巡る不透明感などにより、地政学的リスクが高まっていると指摘しています。こうした環境下で、安全資産としての金の需要が大きく高まっているとの見解を示しています。*3
地政学的な緊張や金融市場の不安が高まると、金は注目されやすくなります。金は経済・金融・地政学上の不安定な局面では、中央銀行にとって魅力のある資産と考えられます。
実質金利・インフレ期待・米ドルとの逆相関の変化
金には利息や配当がないため、金利が上がると保有する魅力が薄れるとされてきました。実際、ニクソン・ショック以降2020年頃までの期間は、金価格と実質金利の間に強い負の相関があったとの指摘もあります。
ところが、この傾向は弱まりつつあります。内閣府は、2021年頃までおおむね成り立っていた金価格と米長期金利の負の相関が、2022年頃からみられなくなったと指摘しています。2022年頃からは実質長期金利が上昇するなかでも金価格は下がらず、2024年以降は実質長期金利が2%前後で安定的に推移するなか、金価格はむしろ上昇の勢いを強めています。*3
従来の「金利が上がれば金は売られる」という見方だけでは、金価格の動きを説明しきれなくなっています。投資を考える際は、金利だけでなく地政学リスクや中央銀行の動向もあわせて確認する必要があります。
中央銀行の大量購入がもたらす構造的な需要
各国の中央銀行による金の買い入れが、価格を下支えする大きな柱となっています。米ドルの信認低下を受け、世界では外貨準備を米国債から金にシフトする動きがあり、その影響で中央銀行による金の需要量は、近年は高水準で推移しており、2022~2024年には1,000トン超の年もみられました。*1
こうした中央銀行による金の保有は、足元でも金市場を支える要因の一つとなります。ECBは、各国の中央銀行が金を保有する背景として、資産を分散する役割に加え、地政学リスクへの備えを挙げています。*4
個人投資家の売買が相場環境によって短期的に変わりやすいのに対し、中央銀行の動きは準備資産の配分という中長期の判断に基づく面があります。有事の金を考えるうえでは、こうした構造的な需要も押さえておきましょう。
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金の需給データで読み解く市場の全体像
世界の金需要の内訳:投資・宝飾・中央銀行・テクノロジー
金需要は投資だけではなく、宝飾品やテクノロジー分野にも広がっています。2025年通年の金需要はOTC取引を含め初めて5,000トンを超え、金額ベースでは5,550億米ドル超と前年比で45%増加しました。*5
需要の押し上げ要因として投資活動の活発化が挙げられます。世界の金ETF保有高は801トン増加し、過去2番目に強い年となりました。地金・コインの購入も12年ぶりの高水準へ加速しています。一方で宝飾分野も金額ベースでは過去最高の1,720億米ドルに達し、前年比18%の上昇を記録しました。*5
投資・宝飾・中央銀行の3つの柱がそろって拡大している点は、需要の偏りが少ないことを示しています。どの分野がどの程度の割合を占めているかを把握しておくと、金価格の動きを読み解く手がかりになります。
供給側の制約:鉱山生産とリサイクルの限界
需要が増えても、金の供給はそう簡単には増やせません。年間の鉱山生産は前年比でわずかに増加し3,672トンと推計されていますが、金価格が急騰しているにもかかわらず、リサイクル金の供給はわずか3%の上昇にとどまっています。*5
これまで、既に約21.6万トンの金が採掘されており、確認埋蔵量は推定値で約5.5万トンです。つまり埋蔵量の約8割弱がすでに掘り出されていることになります。*1
需要が伸びても供給の拡大余地が限られるこの構造は、長い目で見たときに金の希少性を下支えする要素のひとつです。投資を検討する際は、供給面の制約にも目を向けておきましょう。
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金投資の主な方法と比較:現物・ETF・投資信託・先物
現物(地金・コイン)投資の特徴
金の地金やコインを手元に置く方法は、もっとも分かりやすい金投資です。実物が手に残るため、金融システムへの不安が高まる有事にも物理的に資産を保持できます。世界では地金・コインの需要が1,374トンに達し、金額ベースでは1,540億米ドルに上りました。*5
一方で、保管場所の確保や盗難リスクへの備えが必要です。また、現物の地金投資はNISA制度の対象外であるため、売却益には通常どおり税金がかかります。*1
購入時には手数料や売買する際の価格差であるスプレッドも発生するため、売買コストと保管方法を事前に比較しておくことが大切です。
金ETF・投資信託の特徴とNISA活用
保管の手間をかけずに金へ投資したい場合、金ETFや金価格に連動する投資信託が選択肢になります。実際に、安全資産と分散投資を求める投資家が金ETF及び類似商品に流れ込み、2025年の1年間でその需要は801トンだったとされています。*5
金は株式や債券と異なる値動きをするため、あわせて持つことで資産全体の値動きを穏やかにし、収益を安定させる効果が期待できます。金価格に連動するETFへ投資を行う投資信託には、NISA制度を活用し非課税での投資が可能なものもあります。NISA成長投資枠が適用され、年間240万円まで、総枠1,200万円までの投資から得られる利益が非課税となります。*1
証券口座から手軽に売買できるため、少額から金投資を始める入口としても検討しやすい方法です。
金先物取引の特徴
金先物は、将来の一定期日に決まった価格で金を売買する契約です。証拠金取引のため資金効率がよく、金現物の保管リスクもありません。*6
国内の金先物価格は、2000年1月に900円台で推移していましたが、2023年12月に10,000円を突破し、2026年1月29日には終値ベースで上場来高値となる28,497円を記録しました。*6
ただし、預けたお金より大きな金額を取引できるため、利益だけでなく損失も大きくなりやすいというリスクがあります。証拠金の追加差入れが発生する可能性も踏まえ、余裕資金の範囲で取引を行うことが基本になります。
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金投資にかかる税金と注意点
金地金の売却にかかる譲渡所得の計算方法
金地金を売って利益が出た場合、原則として譲渡所得に分類され、給与所得など他の所得とあわせた総合課税の対象になります。国税庁は、所有期間が5年以内の場合は「譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)」で譲渡益を算出し、その年の金地金以外の総合課税の譲渡益と合計したうえで特別控除50万円を差し引くと定めています。所有期間が5年を超える場合は、算出された譲渡所得の金額にさらに1/2を乗じた額が課税対象となります。*7
また、金投資口座や金貯蓄口座などからの利益は、金地金の現物譲渡とは扱いが異なります。国税庁はこれを金融類似商品の収益とし、一律20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、地方税5%)の源泉分離課税としています。*7売却前に、自分がどの方法で金を保有しているかを確認し、該当する税区分を把握しておきましょう。
投資信託・ETFの税制とNISAによる非課税メリット
金価格に連動する投資信託やETFの売却益・分配金には、通常20.315%の税金がかかります。上述の通りNISA口座を通じて購入すれば、一定の枠内で利益が非課税になります。金価格に連動するETFへ投資を行う投資信託には、NISA成長投資枠の対象で、年間240万円まで、総枠1,200万円までの投資益が非課税のものもあります。一方、現物の地金投資はNISA制度の対象外です。*1
同じ金に投資するのでも、手段によって税負担は大きく変わります。長期で保有する場合ほど非課税枠の効果は大きくなるため、地金で持つか投資信託で持つかを判断する際には、税制面の違いも比較材料に加えてみてください。
金投資で失敗しないためのポイント
金価格は有事では価格が上昇しやすく、短期間で大きく動く場合もあります。2025年4月3日以降、世界的な株安が進むなかで流動性確保のために金を現金化する動きが広がり、7日にかけて金価格は3,000米ドル/トロイオンスを割り込むまで値下がりしました。しかしその後、米中間で相互に関税率が引き上げられるなかで再び金が買われ、4月21日には3,400ドル/トロイオンスまで高騰するなど、短期間で大きな値動きが生じています。*3
価格の勢いが強い状況では、利益確定による売りが広がって下落するリスクも残っています。こうした振れ幅を踏まえると、一度にまとまった金額を投じるのではなく、購入時期を分散させることが効果的と考えられます。
金は利息や配当を生まない資産です。資産全体のなかで金の割合をどの程度にするか、あらかじめ自分のなかで上限を決めておくと、相場の急変時にも冷静に対処しやすくなります。投資手段ごとのコストや税制の違いを比較し、自分の運用期間やリスク許容度と照らし合わせて手段を選んでいきましょう。
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おわりに
有事の金という考え方は、歴史的な裏付けと足元の需給構造の両方に支えられています。地政学リスクや中央銀行の買い入れが続くなか、金の存在感は一段と増していると言えます。
投資手段ごとの特徴や税制の違いを把握したうえで、自分の資産配分に組み込むべきかを検討してみてください。まずは少額から始められる投資信託やETFで値動きに慣れることが、金投資の第一歩になるかもしれません。
*1 出所)三菱UFJアセットマネジメント「三菱UFJ 純金ファンド〈愛称:ファインゴールド〉」
*2 出所)内閣府「昭和46年 年次世界経済報告 転機に立つブレトンウッズ体制」
*3 出所)内閣府「世界経済の潮流 2025年 Ⅰ」
*4 出所)European Central Bank 「ニュースと出版物-ユーロの国際的役割「金の需要:公式部門の役割と地政学」」
*5 出所)World Gold Council「Gold Demand Trends: Q4 and Full Year 2025 」
*6 出所)大阪証券取引所 「金先物のご紹介」
*7 出所)国税庁 「税について調べる No.3161 金地金の譲渡による所得」










