ESG投資とインパクト投資の違いは? 注目のインパクト投資の意義

ESG投資とインパクト投資の違いは? 注目のインパクト投資の意義

現在は投資にも社会貢献への考え方が求められる時代です。
従来の投資において企業評価の中心となっていたのは財務情報などですが、ESG投資では投資先の社会・環境課題への取り組みも財務情報と併せて評価対象となります。

また、社会や環境へのインパクトを重視したインパクト投資にも注目が集まり、金融庁はインパクト投資に関する検討会の報告書を公表しました。

本稿ではESG投資とインパクト投資の共通点と相違点について解説いたします。

ESG投資をめぐる状況

まず、ESG投資についてみていきましょう。

定義と背景

ESG投資とは以下のような投資のことを指します。*1

従来の投資において評価の中心となっていた財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)など、非財務情報も考慮した投資

近年では持続可能な社会の構築が国際的に大きな課題となっていますが、この課題を解決するためには、課題解決に有益な技術の実装やビジネスモデルの変革に取り組む企業を支援することが重要です。*2

変革に取り組む企業に投資することで経済全体の持続可能性を高め、持続可能な社会の構築に寄与するのがESG投資です。

国連が2006年4月に「責任投資原則(PRI)」を提唱したことによりESG(環境 社会 ガバナンス)への配慮を求める動きが拡大しました。*3

PRIは投資家に対して、企業分析・評価を行う際に長期的な視点を重視し、ESG情報を考慮した投資行動をとることを求めています。

投資規模

現在もPRI署名機関は順調に拡大し、2020年3月末時点でのPRI署名機関は3,038機関で、その運用資産総額は100兆ドルを上回りました。
ESG投資の市場規模が世界的に成長し続けていることがわかります。*1

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インパクト投資とは

次にインパクト投資についてみていきましょう。

定義と特徴

インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資です。
投資判断は、リスク・リターン・インパクトの三次元評価に基づきます。

図【インパクト投資の定義】
出所)金融庁「SIIFインパクト投資-その意義と推進-

インパクト投資における「インパクト」とは、事業や活動の成果として生じる社会的・環境的な変化や効果のことで、その「インパクト」を把握し、「社会的インパクト評価」を行って、社会的なリターンと財務的なリターンを両立させることを意図した投資がインパクト投資です。

投資規模

インパクト投資の規模も急速に拡大しています。

GSG国内諮問委員会の調査によると、同委員会が把握したインパクト投資残高は2021年度が1兆3,204億円であったのに対して、2022年度は5兆8,480億円で、1年間でおよそ4.4倍に増加しました。

また、2021年度と2022年度に継続回答しているインパクト投資取り組み機関30件でみると、2021年度調査の約1兆3,204億円から、2022年度調査では約4兆9,421億円へと拡大していました。
このように、既存のインパクト投資取り組み機関において、その成長率は前年比で約3.7倍となっています。*4

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ESG投資とインパクト投資との共通点・相違点

ここでESG投資とインパクト投資との共通点と相違点についてみていきましょう。

まず共通点としては、ESG投資もインパクト投資も、サステナビリティ(持続可能性)やレスポンシビリティ(責任・責務)の実現と財務的リターンとの両立を目指すものであることが挙げられます。*5

次に、両者の相違点である手法についてみていきましょう。

ESG投資の手法とその限界

ESG投資の手法にはさまざまなものがあります。*2:p4-6
現在の主流は、投資マネージャーが財務分析に環境、社会、ガバナンスの要素を体系的・明示的に組み込む「ESGインテグレーション」です。

また、この他の代表的な手法には、企業の業種や事業内容、ガバナンスなどに着目して、特に課題のある企業に投資を行わない「ネガティブスクリーニング」や、ESG評価の高い企業群を選定する「ポジティブスクリーニング」があります。

ただ、これらはどれも、企業のESGの取り組みを総合的に評価し、投資対象を選定するものであって、個々の企業に対する個別の投資を通じた効果までは必ずしも評価しません。

たとえば以下のような企業は、ESG要素を総合的に評価するESG評価やそれに基づくESG指数等では、ESG等で他社と比べた特別な取り組みがない前提であれば、十分な評価が得られないと考えられます。*2

  • 温室効果ガスの多量排出産業に属していて、現在は他社・他業種と比べて多量の温室効果ガスを排出しているものの、削減に向けた明確な戦略と、それを可能にする技術があり、設備投資を進めている企業
  • 創業企業であるため、現在は研究開発などが中心で特段の事業収益はなく、ガバナンス面も体制整備の途上であるものの、固有の技術で他社の排出量を大きく削減する潜在力を持つ企業

現在は、社会・環境課題が多様化し、脱炭素社会への移行、生物多様性の保全、海洋プラスチックごみへの対応、ダイバーシティの拡充、少子高齢化などさまざまな課題が山積しています。
そこで、それぞれの課題に具体的に着目して、従来のESG投資の手法では十分に把握できない企業・ 事業の成長可能性を理解・評価する投資手法の重要性が高まっています。

課題解決をより強く意図するインパクト投資

インパクト投資は、一定の「収益」を生み出すことを前提としながら、個別の投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での効果「インパクト」と、その「インパクト」を実現するための戦略などを特定し、コミットする点に特徴があります。

図【一般的なESG投資とインパクト投資】
出所)金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書(案)概要


金融庁の「インパクト投資等に関する検討会報告書」では、以下の4点をインパクト投資の要件として提言しています。

  • 効果実現の意図
  • 投資で効果と収益を実現
  • 効果の測定・管理
  • 社会性と収益性を両立するイノベーション

インパクト実現の確実性を評価することは、規模や成長段階を問わず、今後の市場創造に取り組むスタートアップや大企業、地域企業の事業・取り組みへの支援につながることが期待できます。

以上のように、インパクト投資は「投資がもたらす社会面・環境面での課題解決」をより強く意図するものです。

共通する基盤をもちながらも異なる側面をもつESG投資とインパクト投資ですが、どちらも持続可能な未来を築くための重要な手段であることから、今後のさらなる拡大が望まれます。

*1 出所)三菱UFJ銀行「今、注目のESG投資とは?

*2 出所)金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書- 社会・環境課題の解決を通じた成長と持続性向上に向けて-」(2023年6月30日)p1<PDF>

*3 出所)国土交通省「参考資料4-1 ESG投資の動向 ー不動産分野におけるESG-TCFD実務者WG第1回資料5-1のアップデートー」p.2

*4 出所)Global Steering Group for Impact Investment (GSG) 国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2022年度調査」p.10

*5 出所)Global Steering Group for Impact Investment (GSG) 国内諮問委員会「インパクト投資とは

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