様々なサービスが続々誕生 新しい保険のあり方「インシュアテック」にはどんな事例がある?

様々なサービスが続々誕生 新しい保険のあり方「インシュアテック」にはどんな事例がある?

IoT、ビッグデータ、AIなどの先端技術を使って⾰新的な⾦融サービスを提供するフィンテック市場が拡大しています。また最近では、保険分野におけるフィンテックといえる「インシュアテック」にも注目が集まっています。

「インシュアテック」とはどのようなものでしょうか?

本記事では、インシュアテックについて事例を交えて解説します。

インシュアテックとは

まず、インシュアテックの定義とインシュアテックが登場した背景についてみていきましょう。

インシュアテック(InsurTech)とは、保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語で、経済産業省が公表した「FinTech ビジョン」では、保険分野におけるフィンテックだと定義されています。*1:p.12

では、そもそもフィンテックとはなにかを、ここで簡単に押さえておきましょう。
「FinTech(フィンテック)」とは、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた⾔葉です。フィンテックによって、IoT、ビッグデータの処理・分析、AI、ブロックチェーンといった先端技術を使い、スマートフォンやタブレット端末などを通じて、これまでにない⾰新的な⾦融サービスが産み出される動きが期待されています。*1:p.5

たとえば、オンラインバンキング、オンライン決済・海外送金、リアル決済、ロボアドバイザー、家計管理・アドバイス提供など、⾦融のあり⽅を⼤きく変え、⼈々の暮らしや企業活動にも⼤きな変化をもたらしています。

ただ上記のように、これまで決済や融資の分野が⼤きな割合を占めてきましたが、足元保険分野のフィンテックである「インシュアテック」も拡大しています。

FinTech ビジョンにはこんな記述があります。

  • 近年、保険の分野でのベンチャー企業への投資や既存企業との連携・M&A が急速に拡⼤している。グローバルにみると、2011 年から 2015 年にかけて保険関連ベンチャーに対する投資⾦額は 20 倍の 26 億ドルにまで増加し、2016 年第 1 四半期は 6.5 億ドルと引き続き増加傾向にある18。事業内容は、当初医療保険関連が半分以上を占めていたが、近年は損害保険・⽣命保険・保険関連ソフトウェアなどのベンチャーが増えてきている。

引用元:経済産業省2017年5月8日「FinTech ビジョン FinTech の課題と今後の⽅向性に関する検討会合 報告」

このように、インシュアテックはフィンテックの発展系といえますが、なぜここまで急速に拡大しているのでしょうか?

「FinTech ビジョン」によると、インシュアテックが登場した背景には以下のように説明されています。

第四次産業⾰命(IoT、ビッグデータ、AIなどコアとなる革新技術)は、保険のあり⽅に次のような2つの変化をもたらしました。
  • IoTや⾃動運転などそれまで想定してこなかった形態の事業活動があらわれ、それに伴って、全く新しい形のリスクに対応する必要性がでてきたことです。基本的に保険は従来、産業構造や事業環境の変化に対応してきましたが、こうした新しい形態の事業活動にも適応が求められています。それで、それぞれの産業におけるリスク・マネジメントの変⾰と歩調を合わせて、新たな形の保険が⽣まれているのです。
  • このような技術⾰新が保険業務や保険機能を⼤きく変えつつあることです。この変化には、他のフィンテック領域における⾦融の変化と同じような構図が生じています。たとえばセンサーから得られる様々な情報など、これまで得られなかったデータを分析し、AI などを活⽤して保険を最適化、個別化するという方向性がみられ、これまでの保険とは発想が異なるサービスも現れています。

引用元:経済産業省2017年5月8日「FinTech ビジョン FinTech の課題と今後の⽅向性に関する検討会合 報告」

これらのように、フィンテックの台頭・発展と金融サービスに対するニーズの変化によるものだと考えられます。

目次へ戻る

インシュアテックの取り組み事例

次に、インシュアテックの具体的な取り組み事例をみていきます。

保険購入アドバイス

「保険購入アドバイス」とは、保険商品の比較、専門スタッフによる相談サービスなどによって、保険購入時の判断をサポートすることです。*2:p.21

たとえば、オンラインで保険料の見積もりをして、複数の保険会社の商品を比較検討することで、ご自分にピッタリの保険が選べるサービスがあります。お申し込みはパソコンやスマホで完結します。*3

また、生成AIの代表格であるChat GPT(OpenAI社が開発した大規模言語モデル)を適用したバーチャルアシスタントを活用して、顧客サービスの自動化を進めているインシュアテック企業もあります。*4

こうしたテクノロジーを活用することで、顧客は時間と場所を問わず、質問したり請求処理を行ったりすることができます。また、保険会社は顧客の問い合わせに対して状況に応じた適切な返答を自動生成するなど、よりパーソナライズ(個別最適化)されたサービスを提供することが可能です。

P2P保険

P2P保険とは、Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア)保険といわれるもので、契約者同士でグループを作って加入するものです。*5:p.7本保険は、少額の保険金支払いの場合はグループのプールから賄われ、グループのプールでカバーできない保険金支払いは、提携している元受保険会社や再保険会社がカバーするのが一般的です。

このような仕組みによって、各契約者のグループへの帰属意識や責任意識が高まり、保険金請求を抑制できると考えられています。

P2P保険の特徴は、SNSなどを利用して契約者を募ったり、デジタル・プラットフォームを導入したりするなど、AI、モバイルアプリなどの革新的技術を利用することによって、コスト削減や顧客体験の向上を図っている点です。

ニッチな内容の保険も多く、ペットに関する保険でも、たとえば犬は「8歳以上の犬」「ポメラニアン」「ダックスフント」「コーギー」、猫は「ロシアンブルー」「マンチカン」「アメリカンショートヘア」のように、種類を限定し、それぞれの愛好家を対象にしたラインナップもあります。

事故や病気を予防する保険

現在は新しいテクノロジーによって、単に保険金を支払うのではなく、事故や病気を予防することに重点をシフトしつつある保険会社が増えています。

このシフトの目的は、コスト削減と顧客満足度の向上で、こうした動きはデータ分析と機械学習の進歩によって加速しています。

例えば、ウェアラブルデバイスで蓄積した運動量、心拍数、睡眠時間などの健康データを活用する保険もあります。運動量が多い人は保険料が割引されるなど、個人の健康状態に合わせた条件を提示し、結果として契約者が病気になるのを防ぐという仕組みです。

ホームセキュリティ会社と提携し、火災や浸水、盗難を検知・防止できるスマートホームデバイスを導入する顧客に、保険料金を割引する保険会社もあります。

車線の逸脱や衝突などの潜在的な危険を検知してドライバーに警告するカメラやセンサーを車に取り付けた顧客に対して、料金を割引く自動車保険もあります。

このように、保険契約者にインセンティブを与えてその行動を変化させるナッジ(好ましい選択へと誘導すること)は保険サービスのトレンドです。

埋込型保険

埋込型保険とは、製品やサービスの購入時に、その製品やサービスに関連する保険が同時に販売される仕組みのことです。

埋込型保険の最大のメリットは、保険商品を購入する手続きが簡単なことです。また、製品やサービスの購入に伴うリスクへの保障が自動的に付与されるため、消費者も安心感が得られます。

埋込型保険は、製品やサービスの付加価値が向上し、競合他社との差別化が図れるため、売り上げの拡大につながりやすく、製品やサービスの販売事業者にもメリットをもたらします。また、保険会社との提携による収益の増加も見込めます。

おわりに

ここまでのように、保険業界におけるインシュアテックの登場は、顧客ニーズに合わせた新しい保険商品の開発や、既存の保険商品の業務改善につながっています。

加えて、より透明でスピーディーなサービスを提供することによって顧客ロイヤルティ(ブランドや商品・サービスに対する顧客の信頼や愛着)の向上にも繋がっていくものと思われます。

保険業界に変化をもたらしつつあるインシュアテックは、今後ますます重要性を増していくでしょう。

関連記事

人気ランキング