エンタメから医療・防災まで、活用シーン広がるVRゴーグル

エンタメから医療・防災まで、活用シーン広がるVRゴーグル

将来的に大きな成長が期待される革新的な産業と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? 人工知能、ロボット、5G……などなど。そんな新しい産業や技術が今後、どのような進化を遂げるのか気になりますよね。わかりました、皆さんに代わってmattoco life編集部が調べてきます!名付けて『mattoco life調査隊が行く、いま注目の投資テーマ』。今回は、バーチャルリアリティ(VR)について専門家に話を聞いてきました。

筑波大学
システム情報系 教授 
工学博士
岩田洋夫

(いわた・ひろお)1986年東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)、同年筑波大学構造工学系助手。現在、筑波大学システム情報系教授。SIGGRAPHのEmerging Technologiesに94年より14年間続けて入選。Prix Ars Electronica 96と2001においてインタラクティブアート部門honorary mentions受賞。2001年文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。11年文部科学大臣表彰 科学技術賞受賞。16~19年には日本バーチャルリアリティ学会会長を務める。

物理的な存在はないが本質を感じさせる技術

バーチャルリアリティ(VR)は、日本語だと「仮想現実」と訳されるのが一般的です。仮想現実といってもあまりピンと来ませんよね(実は、この日本語訳は正確でないという指摘もあります)。実際には存在しないのに、あたかも存在しているかのように見えたり、現実ではないバーチャルな世界に自分が入り込んで何かを体験したり……。何となくそんなイメージを持つ方が大半でしょう。VRが私たちの生活に定着し、利用することが当たり前の世界は訪れるのでしょうか。訪れるとすれば、それはいつになるのでしょうか。

そんなVRのアレコレをもっと詳しく知るために、今回は筑波大学の岩田洋夫教授のもとにお伺いしました。岩田先生は、1986年から同大学でバーチャルリアリティ研究室を主催し、過去には日本バーチャルリアリティ学会の会長を務めるなど、30年以上にわたってVRの研究を行ってきた日本における第一人者です。

岩田先生によると、VRとは「物理的な存在はないけれど、本物と同じように本質を感じさせる技術」とのこと。要するに、実際にはそこに「存在していない」けれど、「存在している」ように感じられる技術ということでしょう。多くの人がイメージするVRの定義と一緒だと思います。ただし、VRは視覚に限ったことではなく、触覚なども含まれるそうです。確かに目の前に本物そっくりの、モフモフした生後2カ月のVRシベリアンハスキーがいたら、触りたくなりますよね。特に首のところ……。

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フェイスブックやグーグルも市場に参入

岩田「VR自体は新しいものではなくそのルーツは1960年代に遡ります。コンピュータ・グラフィック(CG)の父と呼ばれる米国のアイバン・サザランドが当時、すでにVRゴーグルの制作に取り組んでいました。しかし、当時のコンピュータではCGを描くことができず、VRには欠かせないリアルタイムでの画像の再生ができませんでした。90年代に入りVRゴーグルの中でCGを再現できるようになると、今度はそれを触りたくなるものです。そこでロボットアームを使って、重さや硬さを感じるための研究が始まりました」

とはいえ、この時はまだ一般の消費者がVRを体験する段階ではなく、あくまでも研究室の中での話。VRに大きな転機が訪れたのはごく最近で2016年のことです。ソニー・インタラクティブエンタテインメントが開発するプレイステーションに(以下、プレステ)VRシステムを搭載した機種が誕生したことなどがきっかけになりました。一般の消費者の間でもVRは一気に身近なものになり、16年は「VR元年」と表現されるまでになりました

この時期にVRの技術が加速した背景には、投資も関係していると岩田先生は指摘します。フェイスブックやグーグルなどによるVR関連企業の買収が相次ぎ、VR市場の成長性を見込んで多くの資金が流入したのです。14~15年には市販のVRゴーグルが販売されるようになり、秋葉原なんかでも売られていたそう。その後16年のプレステを皮切りに、気に普及したというわけです。

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スマホの進化と普及がVRの進化を後押し

――VRはついに実用化されたということでいいのでしょうか?



岩田「実用化というより、消費者に届いたと表現したほうがいいでしょう。VRの歴史上、初めて一般の消費者に届いたのが16年頃ということです。きっかけはプレステでしたが、段ボール紙とスマホを組み合わせるVRゴーグルが雑誌の付録になるぐらいVRが普及し始めました。それまで、VRゴーグルは何十万円と高額だったので、大きな変化です。」



――スマホの進化や普及の影響も大きそうですね。



岩田「その通りです。今では、スマホのゲームアプリを使えば、簡単にVRを表現できるようになりました。90年代でもリアルタイムでCGを描けるコンピュータはそれこそ億単位のお金が必要でした。スマホの進化と普及でVRは全く新しい局面を迎えたといっていいでしょう。」

一気に身近になってきたVRですが、具体的にどのようなシーンで使われているかというと、一番進んでいるのはエンタメ業界のようです。家庭用ゲーム機はもちろん、VRのゲーム機を設置しているゲームセンターもあります。例えば、バンダイ・ナムコの『高所恐怖SHOW』。ビルに迷い込んだ猫を助けるゲームですが、猫の居場所が地上200メートルに位置する細い板の上。もちろん、実際は地上数センチの台の上を歩くだけですが、VRだと本当に高所の板の上を歩いているような体験ができるとあって、非常に人気です。

新型コロナウィルス感染拡大の影響もあり、普及が進んでいるのが不動産業界です。感染防止のため、3密を避けてモデルルームなどの内覧を体感できるよう、VR内覧会やVRショールームなどが実用化されています。さらに医療分野や防災、人材のトレーニングなどさまざまな産業や分野での活用も期待されています。

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見るだけでなく、歩いたり、触ったりしたい

「ゴーグルの普及により大きく前進したように見えるVRですが、いざ世の中に解き放つとなるとなかなか思うようにいかないものです。」と岩田先生。研究室の中では多くのことができても、実際に産業にVRを取り入れるには、クリアしなければならない課題があるそうです。その意味では、ゲームやエンタメ業界はVRを取り入れやすかったのでしょう。そういえば、16年に大ブームになった『ポケモンGO』も、現実の世界にバーチャルなキャラクターを組み合わせたりして、歩いて探すことの面白さを再認識させてくれました。

岩田「VRを広く産業利用するために欠かせないテクノロジーは大きく4つあります。まずは「歩く」と「触る」。やはりゴーグルをかけているだけでなく、実際に歩いたり、触ったりしないと本当の意味で体験にはなりません。特に歩く技術は非常に高度な技術が必要です。限られた空間ならまだしも、広い空間を歩くとなると物理的な限界もあります。」



――なるほど。スポーツジムにある、ルームランナーみたいな装置を使うというのは?



岩田「私の研究室では、どんなに歩いても走ってもずっと同じ場所にいる装置を開発していますが、なかなか実用化には至っていません。VRが本格的に普及するためには、「人をどう歩かせるか」が非常に重要なテーマです。」

<「触る」技術の研究の一例>

デスクトップ・フォースディスプレイ(1989年)。世界初のハプティック・インタフェース

Volflex (2005年~) 空気圧バルーンの集合体で立体を表現。手術シミュレータに応用

写真提供:岩田洋夫教授

<「歩く」技術の研究の一例>

バーチャル・ペランビュレータ(1989年)。
ローラースケート+ハーネスによる世界初のロコモーション・インタフェース

トーラス・トレッドミル(1997年)。
全方向に動く床

写真提供:岩田洋夫教授

バーチャルリアリティ(VR)後編に続く~

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