「収入が少ないこと」ではありません。
「節約が不得意」でもありません。
本質的に問題なのは、実は「プライド」です。
「プライド?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、昔から人間の破綻は「プライド」が増長しすぎたことによるものと相場が決まっています。
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例えば、こんな話があります。
1年間に数十億円もの収入を得る、米国のスポーツ選手の多くは、引退後「破産」してしまうのです。
統計によると、NFLプレイヤーは平均3.5年のキャリアを過ごし、年俸約190万ドル(約2億円)、生涯報酬は665万ドル(約7億円)。NBA選手は平均4.8年のキャリアで1年約550万ドル(約6億円)を稼ぎ、生涯報酬は約2640万ドル(約29億円)強に及ぶ。一般人には想像もつかない大金を稼ぎながら、多くのアスリートたちはなぜ破産の末路を辿るのか。
出所)AERA dot.「大金を稼いだのに破産…米スポーツ選手の“異常”な金銭感覚」
表面上の原因は「浪費」です。
彼らはプライベートジェットを買い、クルーザーを購入し、豪邸に住みます。
何台ものスーパーカーを所有し、宝石をパートナーにプレゼントします。
要するに「金遣いが荒い」のですが、
もちろん、金持ちの世界にも、上には上がいます。
ただ「成功者」を自認する彼らは、それが我慢ならない。彼らは「豊かになるため」にお金を使うのではなく、「負けないため」にお金を使い始めるのです。
この問題はスポーツ選手に限りません。
企業経営者にもプライドが増長しすぎた「エゴチスト」が存在し、社会的な問題にもなっています。
会社の自家用飛行機の中で現在ステータスシンボルとされているのはガルフストリームⅢ型機である。その飛行機が会社の本当の必要に適合しているかどうかにはおかまいなく、ガルフストリームⅢ型機を使うことは〝企業イメージ〟のためとして擁護される。
実際、中には収益や市場占拠率や株価の維持向上に向けるのと同じぐらいの力とエネルギーを〝イメージ〟の競争のために傾注する会社もある。
その目的はエゴを満たすことだけだ。
私はある最高経営者が、自分よりほかの最高経営者のほうが良い扱いをマスコミから受けていると不満を漏らすのを耳にしたことがある。
出所)ハロルド・ジェニーン 「プロフェッショナル・マネジャー」
見栄のためにお金を使い、国や企業を破綻に追い込んだ事例は枚挙にいとまがありません。
「大金を手にすれば、人は変わるのでは」という方もいるかも知れません。
しかし「見栄」の問題は、お金を持っているかどうかに関係なく、あらゆる場所に見いだせます。
綿密な取材に基づく描写で知られる漫画「闇金ウシジマくん」では、自らの権力を誇示するために借金をし、「見栄を張ること」で人生が破綻する貧困層が大勢登場します。
「ナニワ金融道」では、外聞のため「倒産だけは回避したい」という、中小企業の経営者が、その場しのぎを繰り返し、ついには夜逃げにまで至るというエピソードが数多く紹介されています。
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要するに破綻の根幹は「見栄」です。
とはいえ「見栄」を抑え込むのは、大変です。
*
かつて在籍していたコンサルティング会社は、そこそこ給与の良い会社でした。
新卒で500万円。
これは、家族を十分に養える金額です。
当初、私は両親から「貯蓄をしなさい」とのアドバイスに従いました。
特に欲しい物ものなく、日々の暮らしに不自由を感じていなかったからです。
ところが。
ある日同僚から、こんな話を聞いたのです。
「コンサルタントって、身だしなみが重要なんだよ」
私は聞きました。
「何の話?」
「靴とか、スーツとかに気を配るってことだよ。時計やペンを見る人もいるし。」
同僚は、立派な靴を履き、高そうなスーツをきていました。
私はそのころ仕事がうまく行かず、すっかり自信を失っていたので、すぐ同僚の言うことに流されてしまいました。
靴を買いました。そしてスーツを買いました。
ペンも買いました。有名メーカーの万年筆です。
また、外での飲食費も変わりました。
「ラーメン屋」で十分だった私は、ホテルや高級なバーでお金を使うようになりました。
そうしてお金を使っていると、すこし自分を誇らしく思ったものです。
当時はそれが本気で「かっこいい」と思っていたのは、恥ずかしい思い出ですが。
そうして「お金持ちっぽく振る舞う」ことを、周りに合わせていった結果、
貯蓄どころではなくなりました。
しかも、周りを見ると、それは徐々にエスカレートしていったのです。
さらに「お客さん」であった、中小企業の経営者たちは、私のような「なんちゃって金持ち」ではなく、豪邸に住まい、派手なスーパーカーに乗る、真のお金持ちもいました。
私は彼らになんとか肩を並べようとしましたが、もちろん一介のサラリーマンである私には不可能な相談でした。
ちょうどその頃、こちらの記事で紹介しているように、クレジットカードの支払いが滞ったことも重なり、私は「見栄を張ること」から足を洗うことができました。
すんでのところで踏みとどまった格好です。
もちろん、上に紹介した記事に書いたように、生活のレベルを落としても、生活の満足度は変わりませんでした。
それどころか、「お金」で悩む必要がなくなり、明らかに生活の質は上がったのです。
スーツのグレードを落としても、お客さんからの評価は特に変化もありませんでした。
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行動経済学者のダン・アリエリーによれば、米国ではフィナンシャル・プランナーですら、46%が退職金の積立をしていないといいます。
出所)ダン・アリエリー「アリエリー教授の「行動経済学」入門―お金篇―」
私達は、「不確かな未来」ではなく、「今、この場の感情」に流されてしまいがちです。
しかも「お金」は、様々なリスクや人生のイベントに絡む難しい意思決定です。
したがって「貯蓄」に関して言えば、「見栄を抑え込もう」「将来のことを考えよう」「困ったときのために余裕を持とう」などというスローガンは、全て無意味です。
私達ができることは唯一、「仕組み」によって、見栄を始めとする、現在の感情を抑え込むこと。
そうした知恵が、このサイトには数多くあるし、多くの仕組みもすでに提供されています。
是非試してみてください。
最後に、ダン・アリエリー教授の金言を紹介しておきます。
だが比較的安定した収入がある人が、より楽しみを味わうには、定収入の一部を削って、減った金額で出費をまかない、削ったお金を自分へのボーナスにするといい。
そうすれば、そのボーナスのいくらかを、心から楽しめるものに使うことができる。
もちろん、まず未来の自分に支払いをするのは大切だが、今の自分のためにちょっと削っても問題ないだろう。