不透明感は払しょくできず、米政権動向や経済指標を注視

不透明感は払しょくできず、米政権動向や経済指標を注視

情報提供資料2025年6月2日

依然、米政策・経済・財政を不安視か

米関税政策を巡る不確実性は継続

先週の金融市場では、先進国株式は反発も、明確な方向感には欠け、米政権の通商政策動向に翻弄される不安定な展開となりました。対欧州連合(EU)の高関税の発動期限延期や、米国際貿易裁判所による米関税措置の一部差し止めは市場心理の改善に寄与。しかし、米連邦控訴裁判所は関税措置差し止め命令を一時停止し、週末にはトランプ米大統領の発言を受け米中貿易戦争激化への懸念も再燃。各国との貿易交渉は未だ決定的な展開がみられず、米政権の関税賦課権限を巡る法廷闘争へと曲折する中、依然として不透明感の高い状況が続いています。

ドル指数は引き続き弱含みに推移

米政権による4月の相互関税発表以降、金利上昇が進む下でも、ドル指数は低下基調を辿り、足元でも弱含みに推移。関税政策を始めとした米政権政策動向を巡る不透明感や、財政悪化懸念等への根強い市場不安が窺えます。また、米経済にも徐々に変化が表れつつある模様です。先週公表された米経済指標は、設備投資や個人消費、労働市場の減速を示唆。昨年まで独り勝ちに近い状況であった米国経済の相対的な弱まりも懸念されます。

米経済指標や米欧金融政策動向に注目

今週は米国で5月ISM製造業・サービス業景気指数や雇用統計等の重要指標が公表され、関税政策による影響が注視されます。また、パウエル議長を始めとする連邦準備理事会(FRB)高官の発言から、改めて慎重な利下げ姿勢が確認されるか。他方、欧州中央銀行(ECB)は追加利下げが確実視され、ハト派姿勢を強めるか注目されます。(吉永)

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今週の主要経済指標と政治スケジュール

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金融市場の動向

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日本 個人消費の復調、設備投資の持続的回復への期待高まるか注目

再び米関税に振り回され国内株は乱高下

先週の日経平均株価は、前週比+2.17%と上昇しました。週前半はトランプ政権のEUに対する関税発動期限の延期や、財務省の国債発行計画見直し観測から超長期金利が低下し、円安が進行したことを好感。週末にかけては、米半導体大手エヌビディアの良好な決算発表を受け半導体銘柄を中心に上昇幅を拡大、29日終値で節目の38,000円を回復しました。他方、28日に米国際貿易裁判所がトランプ米大統領の「相互関税」を違法とし差し止め命令を下すも、29日に同判決を一時停止と米関税を巡る動きに振り回され、方向感を欠く場面もありました。
また、先週28日の40年国債入札は20日の20年債に続き低調に終わり(図1)、超長期金利上昇を招いたことから、今週3日の10年債や5日の30年債入札も要注意です。

設備投資は1-3月期に続き回復基調保てるか

先週30日の4月鉱工業生産は前月比▲0.9%と悪化、また先行きを表す製造工業生産予測指数は5月:同+9.0%、6月:▲3.4%と不安定な内容になりました。他方、今週2日の1-3月期法人企業統計では設備投資が前年比+6.4%(昨年10-12月期:同▲0.2%)と底堅さを保ちました(図2)。

ただし、7月上旬に米国の相互関税上乗せ分適用停止の失効、8月上旬に米中間の一部関税適用停止の失効を控えていたなか、先週は米国の相互関税に対する違法判断を巡る動きや鉄鋼関税引き上げ(25→50%)表明などもあり、日米間の自動車関税を含む通商交渉の行方にも影響を及ぼしそうです。今年1-3月期に前期比▲0.2%と低迷した実質GDPのうち、民間設備投資は同+1.4%と堅調かつ内需を支えましたが、その持続性に不安が残ります。

春闘の賃上げ効果が消費回復につながるか

最大の懸念は消費動向です。29日の4月消費者態度指数は32.8と前月比改善も依然低水準、30日の5月東京都区部消費者物価は前年比+3.4%と依然高止まるなか、家計は慎重な消費行動を続ける公算が高いと思われます。
今週5日に4月毎月勤労統計が公表されます。直近3月の賃金(現金給与総額)は名目で前年比+2.3%とプラス圏に定着も、物価高の影響で実質では同▲1.8%とマイナス圏を脱していません(図3)。今後は今年春闘での5%賃上げ(連合集計)が反映され、徐々に実質ベースでも賃金回復が鮮明になると予想されます。また、5月下旬から燃料油価格の定額引き下げ、5月末から備蓄米放出による米価引き下げも見込まれるなか、賃上げに沿った消費回復基調持続が確認できるかが焦点です。(瀧澤・大畑)

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米国 関税の一部が違憲判決も、米政権の政策姿勢は不変か

関税の違憲判決を受け米政権は控訴

先週のS&P500は週間で+1.9%と上昇。金利上昇に一服感が見られたことや、半導体大手エヌビディア社の良好な2-4月期決算が株価を支えました。関税を巡っては、欧州連合(EU)向けの関税引き上げ期限の延期や、米政権が課した一部関税への違憲判決などの動きがありました。
先週28日、米国際貿易裁判所は米政権による国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税について、同法の緊急事態条項使用は越権であると判断し、10日以内に撤廃手続きの実施を要求しました(図1)。これを受け、米政権は二審の連邦巡回区控訴裁判所へ控訴、また同裁判所は29日に一審判決を一時停止としています(関税撤廃先送り)。

今回の判決により、米国の強硬な関税政策が和らぐとの見方がある一方、米政権はIEEPAを根拠法とすることに自信を示していることや、ナバロ米大統領上級顧問が「敗訴しても他の手段での導入を目指す」と述べるなど、別の法律で関税維持が可能と見込まれる点には留意が必要です。また、同判決による品目別関税への影響は無く、30日にはトランプ米大統領が鉄鋼などへの関税引き上げを公表するなど(25%→50%、6月4日より)、これまで維持してきた強硬的な外交姿勢を崩していません。
今後も米政権の方向性は不変と見込まれるものの、裁判の行方を横目に各国との交渉が進むことから、関税を巡る不確実性は増したと言えるでしょう。7月上旬に相互関税上乗せ停止期限が迫りつつある中、通商交渉の動向に一喜一憂する相場展開は継続すると予想されます。

設備投資は失速、雇用は緩やかに減速へ

27日に4月製造業受注が公表され、設備投資の先行指標となるコア資本財受注(航空除く非国防資本財)は、前月が上方修正も4月は前月比▲1.3%と市場予想(同▲0.1%)を大きく下振れました(図2)。米政権の通商政策で景気や事業環境の不確実性が高まる中、企業は先行きを見通しづらく設備投資を控えている様子がうかがえます。今週は2日に5月ISM製造業景気指数が公表、米中貿易合意などを受け企業の慎重姿勢が和らいでいるかが注目されます。

他方、6日には5月雇用統計が公表。依然底堅い雇用拡大を維持する見込みも、足元で失業保険継続受給者数が増加するなど、雇用に減速の兆しが見られます(図3)。今後の景気動向を見通すにあたっては、4日の米地区連銀経済報告(ベージュブック)が注目され、企業の実際の声を通じ、物価・雇用・設備投資などの動向が足元でどのように変化しているかを確認できるでしょう。(今井)

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欧州 ECBは追加利下げを決定へ、一段の利下げの可能性は排除せずか

ユーロ圏景気は停滞感強まる

5月27日に公表されたユーロ圏の5月経済信頼感指数は94.8と、事前予想(同94.0)を上回って小幅に改善も、依然として長期平均の「100」を下回り、域内景気の弱さを示唆しました(図1)。米高関税政策に伴う駆け込み需要等の影響から、製造業信頼感は持ち直すも、引き続き低水準で推移。米国発の貿易摩擦が激化するとの懸念がやや和らぐ中、消費者信頼感や小売業信頼感も4月の落ち込みから回復しつつも、米関税政策公表前の水準には及ばず、サービス業信頼感は悪化基調が継続し、ユーロ圏景気は再び停滞感を強めつつある模様です。また、消費者や企業の価格見通し指数は軒並み低下(図2)。全主要セクターにおいて、引き続き長期平均を上回ってはいるものの、域内のインフレ圧力は、着実に弱まりつつあります。

ECBは先行きの政策判断の手掛かりを示すか

域内の景気・インフレの下振れリスクが強まる中、欧州中央銀行(ECB)は6月政策理事会(5日)で、0.25%ptの追加利下げを決定することは概ね確実視され、先行きの政策判断を巡る手掛かりの有無が焦点となりそうです。
5月27日に公表されたフランスの5月消費者物価は前年比+0.6%と事前予想を大きく下回って伸びが減速(図3)。電力規制料金の引き下げ(2月)が強く影響した他、エネルギー価格の下落や賃金上昇率の低下等が、サービスインフレの鈍化に波及した模様です。また、ドイツの5月消費者物価(30日)も前年比+2.1%と伸び率は低下。賃金交渉が2‐3年に一度の頻度で行われる同国では高い賃金上昇率を受けてサービスインフレは高止まりし、フランスほど減速せずも、インフレ鈍化は着実に進展。今週3日に公表されるユーロ圏の5月消費者物価も、エネルギー価格の下落やユーロ高の影響から伸びの鈍化が予想され、前年比でECBの物価目標(+2.0%)を下回る可能性も意識されます。

一方、米政権の予見し難い対外政策に翻弄される状況は続き、米欧貿易交渉の趨勢は未だ見通し難く、先行き不透明感は強いままです。同時公表されるECBスタッフの経済見通しでは、メインシナリオに加えて、複数のシナリオが提示されるとみられます。市場では米中の関税引き下げ合意等以降、年内の利下げ観測が後退も、現行の相互関税10%や品目別関税の継続だけでもユーロ圏景気には相応の打撃になると考えられ、交渉難航により最終的な関税率が高まる可能性も残存。ECBはデータ次第の柔軟な姿勢を保ちつつも、7月以降の追加利下げの選択肢は排除しないとみられます。景気・物価の下振れリスクへの強い警戒を窺わせれば、利下げ期待が強まる可能性もあり、ECBの最新の見解が注視されます。(吉永)

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タイ 足元の景気は一見堅調だが、今後の急減速は不可避か

駆け込み輸出や公共投資が景気を下支え

一見堅調な足元のタイ景気。しかし、内需と外需が減速する中、今後の景気鈍化は避けられないでしょう。5月19日、政府は1-3 月期の実質GDPが前年比+3.1%(前期+3.3%)へ鈍化しつつ(図1)、市場予想(+2.9%)を上回ったと公表。前期比は年率+2.8%(同+1.7%)へ加速しました。

需要側では、民間支出が鈍化(図2)。成長率は米関税引き上げ前の駆け込み輸出や、公共投資の一時的な拡大に押し上げられており、その勢いは今年後半に失速するとみられます。民間消費は前年比+2.6%(同+3.4%)へ鈍化。消費者信頼感が悪化する中、家計は消費に慎重な様子です。政府消費は同+3.4%(同+5.4%)へ鈍化しました。固定資本投資は同+4.7%(同+5.1%)と堅調でした。公的建設が同+33.7%(同+40.8%)拡大。予算成立の遅れに伴う前年同期の落ち込みからの反動によります。一方、民間建設は同▲ 3.8%( 同▲ 3.9%) と低迷し、民間設備投資も同▲0.3%(同▲1.7%)と軟調でした。外需では、総輸出が同+12.3%(同+11.5%)へ加速しました。サービス輸出が同+7.0%(同+22.9%)へ鈍化。コロナ感染収束後の来訪者の回復は一巡した模様です。一方、財輸出は同+13.8%(同+8.9%)へ加速。米関税引き上げ前の駆け込み輸出とみられます。総輸入は同+2.1%(同+8.2%)へ鈍化しました。

今年通年のGDP成長率は+1.8%へ鈍化か

生産側では、製造業が低迷しサービス部門が鈍化しました。農林漁業は同+5.7%(同+1.1%)へ加速(図3)。天候条件の改善によります。鉱業は同+2.5%(同+9.6%)へ鈍化し、製造業も同+0.6%(同+0.3%)と軟調。財輸出の伸びは主に在庫の取崩しによってまかなわれ(図1)、生産の加速にはつながりませんでした。建設業は同+16.2%( 同+18.3%)と堅調であった一方、サービス部門は同+4.2%(同+4.7%)へ鈍化しました。運輸・倉庫が同+5.4%(同+9.0%)、宿泊・飲食も同+7.2%(同+10.4%)へ鈍化。コロナ感染収束後の海外からの来訪者の急回復局面が終わり、同来訪者数が同+1.9%(同+16.8%)へ減速した影響です。

前述の通り公的建設の伸びは前年同期の落ち込みからの反動によるものであり、こうした押し上げ効果は4-6月期から7₋9月期にかけてはげ落ちる見込み。米関税や世界景気を巡る不透明感が残る中で、輸出部門を中心に民間設備投資も低迷が続くでしょう。また、自動車融資の落ち込みが続くなど金融環境はタイト化しており、消費者信頼感も悪化。家計消費も低迷を続ける見込みです。今後駆け込み輸出の反動が生じ、サービス輸出も伸び悩むとみられます。今年通年のGDP成長率は+1.8%前後(昨年+2.5%)へ鈍化すると予想されます。(入村)

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主要経済指標と政治スケジュール

※塗りつぶし部分は今週、(*)は未定

注)(日)日本、(米)米国、(欧)ユーロ圏・EU 、 (独)ドイツ、(仏)フランス、(伊)イタリア、 (英)英国、(豪)オーストラリア、(加)カナダ、(中)中国、(印)インド、(伯)ブラジル、(露)ロシア、(他)その他、を指します。NA はデータなし。日程および内容は変更される可能性があります。

出所)各種情報、Bloombergより当社経済調査室作成

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