ポイント
情報提供資料2025年5月12日
米企業が示唆するスタグフレーションの兆候
各国で株価反発続くも期待先行の感否めず
先週の金融市場は方向感の出づらい展開でした。米連邦公開市場委員会(FOMC)を波乱なく消化した安堵感もあり、米中心に株高・金利安定基調は保たれたものの、各国当局が揃って言及するように、経済見通しの不確実性が高まるなか、安易に楽観論へ傾きづらい状況です。
米国のスタグフレーションリスクを意識
FOMCが失業率とインフレ率の上昇リスクが高まっていると指摘したように、米国のスタグフレーション(景気悪化と物価高の同時進行)も意識され始めました。今後の経済指標から、企業の採用や投資減少、関税による物価高や消費停滞が鮮明になるかが焦点です(上図)。
FOMCの忍耐強さは吉と出るか凶と出るか
リスク選好維持には米経済の軟着陸実現が必須、それにはFOMCの利下げ再開も条件と言えます。ただし、高い不確実性ゆえの様子見姿勢は、景気対応の遅れを招く懸念もあります。対米通商交渉の行方と同時に、FOMCの動きに神経を尖らす展開が続きそうです。(瀧澤)
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今週の主要経済指標と政治スケジュール
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金融市場の動向
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日本 インフレ鈍化の兆候は朗報も、景気息切れ感の強まりには要警戒
国内株は堅調、金利安定や円安が追い風に
大型連休明けの国内株は、7日に日経平均株価が8営業日ぶり反落も8-9日は連騰、TOPIXは9日で11連騰となるなど、しっかりとした地合いを保ちました。日銀の年内利上げ観測後退に伴う国内金利の上昇ピッチ鈍化で、国内株が増勢を強めるなか(図1)、2日の4月米雇用統計や6-7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を無難に消化した安心感に加え、10-11日の米中閣僚級通商協議を見据えた両国対立緩和への期待感も下支えになった模様です。
また、円相場が一時1米ドル146円台を付けるなど円安米ドル高の進行も追い風となりました。日米通商協議内での為替操作(トランプ政権が志向する米ドル高是正の議論など)への懸念後退も一因ですが、5月中旬以降に予定される第3回閣僚級交渉を控えるなか油断は禁物です。
日銀内の利上げ積極派の意見に変化は?
4月下旬以降の国内株堅調の背景には、①世界貿易戦争への極度の不安後退、②日銀の利上げ姿勢慎重化、が挙げられます。①は米中を軸とした対米通商協議が期待通り進展するか、不透明な部分も多く、今後の行方を見守るほかありませんが、②は直近4月30日-5月1日の日銀金融政策決定会合後の植田総裁記者会見や展望レポートにおける2025-2026年度の景気・物価見通しの下方修正を受け、年内追加利上げの可能性が低下した印象です。
13日に上記日銀会合の主な意見が公表されますが、前回3月会合時に目立っていた追加利上げに前向きな意見が減少またはトーンダウンしているか注目です。また14日の4月国内企業物価で、輸入物価を含め鈍化の兆しが見られれば、利上げ観測の後退に寄与するでしょう(図2)。
1-3月期実質GDPは前期比マイナスの予想
一方、利上げ先送りの要因として手放しで喜べないのが国内景気減速の動きです。12日に4月景気ウォッチャー調査、16日に1-3月期GDPが発表されますが、いずれも景気鈍化を強く意識させる内容となりそうです(図3)。特に不安視されるのが消費動向です。石破政権は物価高対策として、5月22日からの段階的な燃料価格引き下げ(ガソリン・軽油は1リットル当たり10円)や7-9月の電気・ガス料金補助再開などを表明も小粒な感は否めません。
1-3月期実質GDPは4四半期ぶりの前期比マイナスが予想されています。長引く物価高で消費に息切れ感も漂い始めており、今後トランプ関税による生産・投資活動への下押し効果が表れると想定されるなか、徐々に景気後退リスクが意識されやすい局面となりそうです。(瀧澤)
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米国 貿易交渉での初の合意は英国に。中国との合意にも期待が高まる
英国と貿易交渉で合意、中国とも合意か
先週のS&P500は週間で▲0.5%と小幅に下落しました。週初はトランプ米大統領が医薬品関税を2週間以内に公表すると言及したことなどが嫌気された一方、関税を巡る交渉進展などが相場の下支えとなりました。
先週8日、米政権は英国との貿易交渉合意を公表。米輸入自動車(10万台まで、25%→10%)や鉄鋼製品(英政府公表、25%→0%)の関税引き下げに加え、米農産物や航空機の英国への輸出拡大などが盛り込まれました。今回は大枠での合意となり、続いて詳細の調整が進む予定です。また、本合意を受けその他の国々との合意への期待が高まるものの、相互関税の10%は据え置かれた点、英国は対米貿易赤字国である点、特定国への関税上乗せ分の対応は依然不透明な点(英国への相互関税は従来より10%のみが賦課)には留意が必要と言えます。今後は、対米貿易黒字国との合意とその内容が焦点になるとみています。
他方、米政権は中国と10-11日に交渉を実施しました。ベッセント米財務長官は、協議での著しい進展があり、12日に詳細を公表すると表明。関税引き上げ競争での対立が続いていた中、将来的な税率引き下げなどの緊張緩和に向けた合意が公表されるかに注目が集まります。
米金融当局は見極め姿勢を堅持
5月米連邦公開市場委員会(FOMC)では、3会合連続での政策金利据え置きを決定(図1)。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、関税が経済に与える影響の不確実性の高さや、失業率とインフレの双方の上昇リスクを指摘しました。一方、先々週公表の4月雇用続計が引き続き底堅さを示すなど(図2)、実体経済の減速を示すデー夕があまり見られない中、政策変更を急がず忍耐強く待つ姿勢を示し、従来の方針を堅持しました。また、他のFOMC委員も、会合後に相次いで同様の見解を示しました。
他方、セントルイス連銀のムサレム総裁は、物価見通しについて言及し、関税による物価上昇が短期的なものに止まるシナリオを提示。企業は(投入コストが低い)在庫を取り崩した上で、新規購入した製品への関税を一時的に顧客に価格転嫁すると説明しました。ただし、その影響は2025年後半に集中して顕在化する可能性があると述べ、一時的なインフレとなる場合でも物価指標への本格的な反映には時間を要する可能性が示唆されました。
物価指標については、13日に4月消費者物価(CPI)、15日に同生産者物価(PPI)が公表予定。消費財への価格転嫁が進み始めているかに加え、先行きのインフレ圧力になり得る中間財の物価動向も注視されます(図3)。(今井)
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欧州 BOEは追加利下げへの慎重姿勢を維持、独3月生産活動は大きく増加
BOEは、段階的かつ慎重に金融引き締めの解除を進める方針を維持
イングランド銀行(英国中銀、BOE)は8日、金融政策決定委員会(MPC)結果及び議事要旨を公表し、事前予想通り、政策金利を0.25%pt引き下げ4.25%としました。もっとも、政策判断を巡る政策委員の見解は、事前の想定以上に割れ、5名が賛成票を投じる一方、4名が反対意見を表明。うち2名は景気の弱さを懸念して0.5%ptの大幅利下げを主張し、2名はインフレ圧力の根強さを警戒して据え置きを主張しました。加えて、議事要旨によると、賛成票を投じた委員のうち3名が、米国の関税発効がなければ利下げの決定は微妙だったとしており、政策委員の想定以上のタカ派姿勢を垣間見る結果となりました。
また、声明文では、金融政策はあらかじめ定められた道筋はないとの文言が追加され、不確実性が高い下、政策運営の柔軟性を強化しつつも、金融引き締めの解除にあたっては段階的かつ慎重なアプローチが適切との判断を維持しました。同時公表の四半期金融政策報告では、成長率・インフレ率見通しはともに小幅修正(図1)。直近の米関税政策動向による成長率への押し下げを反映も、2025年1₋3月期の実績値が想定以上に高い伸びとなったことから2025年通年の成長率見通しはやや上方修正。他方、エネルギー価格の下落やポンド高の影響からインフレ率見通しは下方修正も、引き下げ幅は事前予想よりも小幅に留められました。投票結果・声明文・経済見通しは総じてタカ派的と捉えられ、市場では利下げ期待が後退(図2)。同日に米英が関税交渉の結果、貿易協定に合意したことを発表し、利下げ期待の一段の後退にもつながりました。当面は、米関税政策の趨勢や影響を見極めつつも、四半期毎に0.25%ptの慎重な利下げペースを保つとみられます。次回6月会合では政策金利を据え置く公算が高く、物価・雇用情勢から8月会合での利下げの確度や先行きの利下げペースを見極める展開が続きそうです。
ドイツの3月鉱工業生産は大きく増加
8日に公表されたドイツの3月鉱工業生産は、前月比+3.0%と事前予想(同+0.8%)を大きく上回って増加(図3)。自動車生産の急増が際立ち、米高関税発効前の駆け込み需要が強く影響した模様です。同国の3月製造業受注も前月比+3.6%と、事前予想を上回り、目先の生産活動の堅調を示唆し、製造業低迷の緩和が鮮明となりつつあります。しかし、駆け込み需要の反動も懸念され、生産回復の持続性には疑問が残ります。年末にかけて再度弱含む可能性が意識され、回復の持続性を見極める上でも、米関税交渉の行方や関税発効後の需要動向、ドイツ新政権の財政政策動向等が引き続き注視されます。(吉永)
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インドネシア 政権移行直後の政府歳出低迷に伴って内需が急減速
農作物生産を除く成長率は+4.1%へ急減速
インドネシアの景気が軟調です。先週5日、政府は1-3月期の実質GDPが前年比+4.9%(前期+5.0%)へ減速したと公表(図1)。同成長率は一時的な要因で押し上げられており、景気の実態はより軟調です。一昨年には雨不足からコメの作付け時期が遅れ、収穫期が昨年4-5月に後ズレ。今年の収穫期は平年通り3月からとなり、前年の落ち込みからの反動(ベース効果)で農林漁業生産が急伸しました(図2)。農作物生産を除くGDPは同+4.1%(同+5.0%)へ鈍化するなど(図3)、景気の基調は急速に減速しています。
GDP統計の需要側では、内需(在庫投資を除く)の寄与度が+3.2%pt(同+4.7%pt)へ急低下。政府支出の減速などによります。一方、輸入の鈍化を受けて純輸出の寄与度は+0.8%pt(同▲0.2%pt)へ反発しました(図1)。民間消費は前年比+4.8%(同+5.0%)へ鈍化しました。家計消費が同+4.9%(同+5.0%)拡大したものの、政党など対家計民間非営利団体(NPISH)の消費は同+3.1%(同+6.1%)へ減速。前年同期の大統領選挙時に選挙関連の支出が急伸したことからの反動です。政府消費は同▲1.4%(同+4.2%)へ反落。新政権が大規模な省庁再編と予算の再配分を行ったため、年度始の1月より経常歳出の実行が滞っています。
今年通年のGDP成長率は+4.7%前後へ鈍化か
固定資本投資は同+2.1%(同+5.0%)へ鈍化しました。設備投資が同+8.0%( 同+9.3%) 、建設投資は同+1.4%( 同+5.3%)へ減速。前政権による大型建設計画のほとんどが完成した一方で新政権の建設計画はいまだ事前準備段階にあり、公的建設投資が急減しました。民間投資も鈍化。省庁再編や予算の再配分等の影響で事業環境に関わる不透明感が高まり、企業は様子見姿勢を強めました。外需では、総輸出が同+6.8%( 同+7.6%) 、総輸入も同+4.0%(同+10.4%)へ鈍化しました。生産側では、農林漁業が同+10.5%(同+0.7%)へ急伸した一方、鉱業は同▲1.2%(同+4.0%)へ反落し、製造業は同+4.5%(同+4.9%)へ鈍化。電子製品や運輸機器が軟調でした。建設業は同+2.2%(同+5.8%)へ鈍化。公的建設の低迷(前述)によります。サービス部門は同+6.0%(同+5.4%)へ加速しました。
今年4-6月期は農作物生産の反動減が生じることに加え、政府の経常歳出と建設歳出の低迷や民間投資の停滞も続く見込み。米国の関税引き上げによる労働集約的製品の輸出と生産の下押しも加わり、GDP成長率は+4%台半ばに鈍化するでしょう。その後、今年後半には景気悪化を受けた追加財政刺激策や政府歳出の正常化を受けて景気は回復する見込み。今年通年のGDP成長率は+4.7%前後(昨年+5.0%)へ鈍化すると予想されます。(入村)
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主要経済指標と政治スケジュール
※塗りつぶし部分は今週、(*)は未定
注)(日)日本、(米)米国、(欧)ユーロ圏・EU 、 (独)ドイツ、(仏)フランス、(伊)イタリア、 (英)英国、(豪)オーストラリア、(加)カナダ、(中)中国、(印)インド、(伯)ブラジル、(露)ロシア、(他)その他、を指します。NA はデータなし。日程および内容は変更される可能性があります。
出所)各種情報、Bloombergより当社経済調査室作成
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