ポイント
情報提供資料2025年4月28日 ※次号は5月12日号となります。
企業業績予想は下方修正が増加

貿易摩擦激化への警戒はピークアウトへ
米政権が中国との通商協議に柔軟な姿勢を示したことや、トランプ米大統領がパウエル連邦準備理事会(FRB)議長の解任を否定したことから、先週の金融市場では安堵感が広がり、世界の主要株価指数は軒並み反発しました。関税政策を巡る米中対立は最悪期を脱しつつあり、米通商政策が現実路線化するとの期待から、下値固めに動きながらも、各国との関税交渉の進展や最終的な関税率等が依然見通し難い点を鑑みると、不規則なトランプ米大統領の言動に一喜一憂する展開は継続しそうです。
世界景気の不透明感は当面相場の重しか
関税政策を巡る警戒がやや和らぐ一方、米国を筆頭に世界経済の先行き不透明感は依然高く、金融市場の圧迫要因となっています。米政権発の貿易戦争の影響は、5月初めにも実体経済に波及し始めると見込まれ、今後は実際の景気減速度合いも大きな焦点となりそうです。国際通貨基金(IMF)は22日、2025年の世界の成長率見通しを大きく下方修正。米欧の4月購買担当者景気指数(PMI、23日)は低下基調が鮮明となり、米欧株を中心に企業の業績予想は下方修正が急増しています。今週は、日銀の金融政策決定会合や、米雇用統計等多くの重要な経済指標発表が予定される他、日米の企業決算発表も本格化。5月6‐7日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が控えます。先行き懸念払しょくには未だ時間を要するとみられ、目先市場の慎重姿勢は残り、米関税政策の影響や景気後退リスクを精査する神経質な状況が続く見込みです。(吉永)
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今週の主要経済指標と政治スケジュール


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金融市場の動向





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日本 不確実性の高まりを踏まえ、日銀は金利正常化路線の修正に動くか?
米国発の不安材料和らぎ国内株は底固めへ
先週の国内株は底堅さを増す流れでした。米財務長官が米中通商協議進展の可能性に言及、またトランプ大統領がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長解任を否定したことなどが好感されました。日米間でも17日の通商交渉初会合に続き、24日の財務相会合を無難に消化、市場に安心感を与えました。トランプ関税やFRB議長解任を巡る市場の混乱は一旦小康状態になった印象です。
他方、米ドル円相場は円高が進行、4月22日に一時1米ドル139円89銭と、昨年9月の139円58銭(Bloomberg集計のザラバ)に迫る場面もありました(図1)。トランプ政権による経済運営への不透明感、およびそれに伴う米ドル信認低下(米ドル安)に押された格好でしたが、米株式・債券市場の沈静化に伴い、円高も一巡した模様です。

国内製造業の生産見通しは悪化しているか
ただし、対米通商交渉への期待は希望的観測の域を出ておらず、7月上旬の相互関税上乗せ分発動猶予期限までの動向を注意深く見る必要があります。また2月以降、米国が発動済みの関税措置やそれに対する一部国の報復措置など、関税戦争による実体経済への影響が今後表面化すると見られるなか、真の正念場はこれからでしょう。
先週公表された日本の4月購買担当者景気指数(PMI)は総合51.1と安定、サービス業が52.2と堅調でしたが、製造業は48.5と停滞感が目立ちました。今週は3月鉱工業生産が公表されますが、市場の関心は4-5月の同生産予測にあると言えます(図2)。特に、米国が4月3日発動済の自動車への25%関税、5月3日発動予定の同部品への25%関税などを見越した、自動車産業の予測変化に注目です。

日銀は利上げを急がない姿勢を示唆するか
国内景気への不透明感が高まるなか、もう一つの焦点が日銀の動向です。3月春闘結果(2年連続5%賃上げの公算大)後は、金利正常化機運が高まったものの、米国関税発動後の金融市場混乱もあり、今週4月30日からの金融政策決定会合(5月1日結果公表)では、政策金利据え置き(無担保コール翌日物金利は0.50%)が濃厚です。
注目は同日公表の経済・物価情勢の展望(展望レポート)での経済見通しや植田総裁記者会見から、金利正常化姿勢の修正が示唆されるかです(図3)。市場では今年秋にも追加利上げ実施との見方があります。物価高要因として警戒感を強めていた円安圧力が後退するなか、景気見通しの慎重化が確認されれば、利上げ観測の後退を通じ、国内金利上昇の動きも鈍るとみます。(瀧澤)

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米国 米政権は関税に対する姿勢を軟化、5月FOMCは金利据え置きの見込み
関税緩和に向けた言動が目立つ1週間に
先週のS&P500は週間で+4.6%と上昇しました。トランプ米大統領がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の解任計画を否定したことや、通商政策において米政権が強硬姿勢を緩和させたことなどが好感されました。
先週、ベッセント米財務長官は、関税を巡る米中対立は持続可能ではなく、緊張緩和の道筋を見つけなければならないと言及。また、トランプ米大統領は、中国と合意へ向けた協議をしていると主張するなど、通商面での米中対立緩和が期待される発言が相次ぎました(図1)。中国以外では、インド・韓国・日本などとの交渉進展が言及されました。米政権は「原則面での合意と実務面」の2段階で交渉を進める方針を示しており、当面は各国との大枠での合意が見られるかに注目が集まります。

他方、関税を巡る目先の予定としては、5月3日に米国による自動車部品への25%の関税が発動見込みです。
5月FOMCに向けたブラックアウト期間へ
今週は、5月6-7日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)に向けたブラックアウト期間(FRB高官の発言禁止)です。足元の金利先物市場では、5月会合は金利据え置き、6月以降での利下げが織り込まれています(図2)。

先週のFRB高官の発言では、クリーブランド連銀のハマック総裁は、データ次第では6月に政策変更の可能性があるとの認識を表明も、5月会合での利下げの可能性を否定。ウォラーFRB理事は、労働市場が顕著に悪化した場合に措置を講じる可能性に言及も、7月までに関税が経済に大きな影響を与えるとは考えていないとするなど、5月会合での利下げには距離があることが示唆されました。
労働市場を巡っては、5月2日に4月雇用統計が公表。相互関税発動後のデータとなるものの、失業保険の受給者数は低水準で推移するなど、依然として労働市場の底堅さを示すとみられ(図3)、5月会合で利下げに踏み切る材料になる可能性は低いとみています。同会合では、パウエルFRB議長が、6月や7月会合での利下げに対し柔軟性を持たせる姿勢を見せるかに注目しています。

その他の経済指標では、29日に4月消費者信頼感が公表され、相互関税発動を受けた心理悪化が確認される見込み。30日の1-3月期実質GDPは、1-2月に低調であった個人消費や、関税前の駆け込みによる輸入増加(純輸出減少)などが重石となり、前期比年率+0.4%(前期:+2.4%)と減速が予想されています。5月1日のISM製造業景気指数では、生産や新規受注などに加え、価格指数や関税を受けた業種毎の企業のコメントにも注目です。(今井)
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欧州 景況感指標は内需の弱さを示唆、域内のインフレ圧力は緩和
景況感指標はユーロ圏景気の一段の減速を示唆
22日に公表されたユーロ圏の4月消費者信頼感指数(速報値)は▲16.7と、事前予想(同▲15.5)を下回って悪化し、米関税政策等を受けた先行き不透明感が、消費者心理を一段と圧迫した模様です(図1)。また、23日に公表されたユーロ圏の4月総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)も50.1と、辛うじて好不況の分かれ目とされる「50」を上回るも悪化し、景気停滞感の強まりを示唆しました。製造業PMIは48.7と、ドイツの財政拡張への期待や米関税政策に伴う駆け込み需要等を背景に予想外の小幅改善を示す一方、サービス業PMIは49.7と大きく悪化。サービス業も新規輸出受注指数は上昇したものの、新規事業指数は悪化し、内需の弱さを確認する結果となりました(図2)。また、製造業・サービス業ともに、生産見通し指数は低下。駆け込み需要の一服や先行き不透明感の強まりから企業活動が一層弱含む可能性が高まっています。


ユーロ圏のインフレ鈍化は継続か、ECBはディスインフレリスクに意識
23日に欧州中央銀行(ECB)が公表した賃金トラッカーは(図3)、賃金上昇率が年末にかけて着実に鈍化していくとのECBの想定に整合的。また、ユーロ圏の4月サービス業PMIの価格指数も低下し、インフレ圧力の緩和を示唆しました。5月2日に公表が予定されるユーロ圏の4月消費者物価(速報値)は伸び率の更なる鈍化が予想されています。22日にラガルドECB総裁は、インフレ率の物価目標回帰はほぼ達成しつつあるとの見解を示しました。

しかし、米関税政策等を受けて経済情勢はより不安定化していることから、政策運営の柔軟性を改めて強調。翌日には、関税措置の影響は極めて不透明としつつも、ユーロ圏にとって関税措置による物価への影響は、インフレ的というよりもディスインフレ的となる可能性に言及しました。過剰生産を抱える中国が輸出先を欧州へ向けることによる価格抑制効果を意識した模様です。またフィンランド中銀のレーン総裁は、ECBの最新の予想ではインフレ率が物価目標を大きく下回る可能性を示唆していると言及。オランダのクノット総裁も、ユーロ高の進行やエネルギー価格の下落、米関税政策の影響によりインフレ率が3月時点の予想よりも速いペースで低下する可能性を指摘しました。ユーロ圏のディスインフレリスクは高まりつつあり、ECB高官も中立水準を下回る領域への利下げ継続を意識しつつある模様です。ECBは、6月会合で中銀預金金利を2.0%へ引き下げた後の7月会合でも利下げを継続する可能性が高まっています。(吉永)
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インドネシア ルピアが史上最安値を更新する中で政策金利を据え置き
景気を支援するための利下げを先送り
資本流出と通貨の下落に見舞われるインドネシア。当局は落ち着いた物価の下でも政策金利をやや高い水準に据え置き、為替相場が安定化するのを待っています。
先週23日、インドネシア銀行(BI)は政策金利を5.75%に維持。今年1月の利下げ後に3回連続で金利を据え置きました(図1)。政策声明は、今回の決定は(a)物価目標の達成、(b)ルピア相場の安定の維持、(c)景気の支援に沿ったものと記述。足元の物価は落着いており、景気の下振れが懸念される中で利下げを行って景気を支えたいものの、ルピア相場が不安定なため利下げを見送ったことがうかがえます。声明は、足元の物価は落着いており(図2)、今年から来年にかけて目標内(+1.5-3.5%)で推移するだろうとしました。BIは今年の世界経済の成長率予想を+3.2%から+2.9%に下方修正し、自国の成長率も+4.7-5.5%の予想レンジの中央値をやや下回るだろうと声明に記述。米関税率の引き上げが自国の対米輸出を押し下げることに加え、中国など主要な輸出先の景気悪化の影響に言及しました。声明は、ルピアが強い下押し圧力にさらされたため、為替介入等を行って相場の安定化を図ったと記述。米国による相互関税適用の公表に伴う世界的な市場混乱の中で、ルピアは一時急落しました(図3)。



ルピア安定化を待ち6月以降に利下げ再開か
断食明け大祭(レバラン)休暇明け前日4月7日の海外市場では、ルピアが一時1米ドル17,224ルピアへ急落し史上最安値を更新。パニック的なルピア売りの動きが広がる中で、BIは海外為替先物(NDF)市場でのドル売り介入に踏み切ました。ルピアは4月初来25日に対米ドルで▲1.1%と主要アジア通貨で最低の騰落率。(a)現政権下での財政悪化の懸念、(b)ルピア相場変動の高まりへの警戒感、(c)季節的な経常収支の悪化などが背景とみられます。4月から6月にかけては国内企業の対外配当支払いが集中し経常赤字が季節的に拡大。景気見通しが悪化する中で今年は配当の再投資が限定的となり、国際収支の例年以上の悪化が当面のルピアの重しとなりそうです。
BIの政策声明は、今後も物価と景気の動向を注視しつつ金融緩和の余地を探ると記述。ルピア相場が安定すれば、政策金利を引き下げて景気を支える構えとみられます。BIは国際金融市場の動向を注視つつ、対外配当支払いによる経常収支の季節的な悪化のピークが過ぎるのを待つ見込み。今後、米国による利下げ再開の見通しが強まりルピアへの下押し圧力が和らげば、今年6月または7月から年末にかけて累計0.75%ptの利下げを行って政策金利を5%へ引き下げると予想されます。(入村)
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主要経済指標と政治スケジュール
※塗りつぶし部分は今週、(*)は未定



注)(日)日本、(米)米国、(欧)ユーロ圏・EU 、 (独)ドイツ、(仏)フランス、(伊)イタリア、 (英)英国、(豪)オーストラリア、(加)カナダ、(中)中国、(印)インド、(伯)ブラジル、(露)ロシア、(他)その他、を指します。NA はデータなし。日程および内容は変更される可能性があります。
出所)各種情報、Bloombergより当社経済調査室作成
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