日米の財政赤字拡大への懸念が高まり、超長期金利が上昇

日米の財政赤字拡大への懸念が高まり、超長期金利が上昇

情報提供資料2025年5月26日

日米で長期・超長期を中心に金利が上昇

財政赤字拡大への懸念が株価の重しに

先週の金融市場は、日米を中心に金利が上昇、株式は上値が重い展開となりました。日本では7月参院選を控えた財政拡張議論や低調な20年国債入札による需給悪化が意識され、30年債利回りが一時過去最高を更新。米国ではトランプ減税実現に向けた動き(22日に下院で関連法案可決)が材料視され、財政赤字拡大への懸念が高まる中、超長期債を中心とした金利上昇が見られました(上図)。

急速な金利上昇が生む悪影響に警戒

4月中旬以降、株式が大きく持ち直した背景には、貿易交渉進展の動きに加え、米国を中心とした底堅い景気や、金融緩和による景気下支え期待がありました。急速な金利上昇が続く場合は、金融環境の引き締まりを通じた想定外の景気下振れや財政・金融政策の軌道修正を招き、4月初に見られたような市場の混乱に繋がる可能性があり、当面は金利動向に敏感な相場展開が予想されます。

貿易交渉や日独の物価指標、金利動向に注目

今週も引き続き対米貿易交渉に注目が集まり、日米は30日に閣僚級通商協議を実施予定。米国では4月製造業受注や30日の個人消費から米景気の底堅さが確認されるかに注目。28日の5月米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録、30日の日独5月消費者物価(日本は東京都区部)では金融政策軌道を見極めへ。金利上昇を巡っては、日米の当局者発言に加え、28日の日本40年国債入札に注目。(今井)

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今週の主要経済指標と政治スケジュール

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金融市場の動向

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日本 景気減速と物価高に加え、長期金利上昇という新たな難題も

国内株は軟調、金利上昇や円高が重しに

先週の日経平均株価は、22日に一時節目の37,000円を割り込むなど、週間で▲1.6%と軟調でした。また為替市場では、米格付け大手ムーディーズ・レーティングスによる米国の格下げを受け、週初から米財政悪化懸念を嫌気した米ドル売り・円買いが進行。さらに、23日の第3回日米通商閣僚協議を控え、米国側が円安是正を求める可能性も意識され、米ドル円相場が一時142円台を付けるなど円高地合いが継続し、国内株式の重しとなりました。
他方、債券市場では30年国債利回りが過去最高を更新(図1)、背景には20日の20年国債入札が記録的な不調となるなど、参院選を控え日本の財政悪化懸念が意識されたことがあります。日銀が国債買い入れを縮小する中、28日の40年債入札を含め当面の金利動向に要注意です。

国内景気の鍵握る製造業と個人消費動向

先週22日の5月購買担当者景気指数(PMI、50が業況改善・悪化の境目)は、製造業が49.0に小幅上昇も11カ月連続50割れと低調でした。5月12日に米中が関税大幅引き下げで合意も先行きは予断を許さず、日米の通商交渉(30日に第4回交渉か)も続くなか、製造業に慎重姿勢もうかがえます。30日公表の4月鉱工業生産が5-6月予測を含め低調となれば、相関の高い実質GDPが2四半期連続のマイナス成長となる可能性も意識されるでしょう(図2)。

一方、サービス業PMIは50.8と7カ月連続で50台をキープしたものの前月52.4から大きく低下しました。今週29日に4月消費者態度指数が公表されますが、世界貿易摩擦による国内景気への悪影響、食品を含む物価高への警戒感が広がるなか、消費腰折れのリスクに要注意です。

根強いインフレを受け日銀の姿勢に変化は

先週23日公表の4月全国消費者物価は生鮮除くコアが前年比+3.5%と、3月末での電気・ガス料金補助終了による物価押し下げ効果はく落などもあり加速しました(図3)。石破政権は先週からガソリン価格引き下げ措置を導入、夏場から電気・ガス料金補助再開も予定しており、当面は物価の基調を読みづらい流れが続く見込みです。

27日の4月基調インフレ指標(日銀集計)や30日の5月東京都区部消費者物価などから、価格転嫁の広がりやインフレの持続性が確認された場合、日銀の利上げ観測に変化が出るのか注目です。また7月の参院選を控えた財政拡張懸念(石破政権は選挙後の補正予算編成を視野、野党の多くは消費税減税を要求)に伴う長期金利上昇に対する政府・日銀の対応も注視されます。(瀧澤・大畑)

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米国 米下院で減税法案が可決、7月上旬にかけた政治面の動きに注視

減税法案・貿易交渉共に7月上旬が節目に

先週のS&P500は週間で▲2.6%と下落、米ドルも上値が重い展開となりました。また、30年などの長い年限での金利上昇が目立ち、トランプ減税による財政赤字拡大への懸念や低調な20年国債入札が材料視されました。
22日、米下院はトランプ減税の延長を含む法案を215対214の僅差で可決(図1)。米政権は7月上旬の成立を目指しており、今後は上院での議論へ移ります。成立に至れば景気下支えが期待される一方、政府債務増の懸念が高まることから難色を示す共和党議員もおり、上院での議論が順調に進むかは不透明で、内容に大きな変更が加えられる可能性もあります。同法案には連邦政府の債務上限引き上げも盛り込まれている一方(上限到達し特別措置による資金繰り実施中)、ベッセント米財務長官は8月にも資金が底を突くとの見通しを示しており、議論の長期化が市場心理を悪化させる可能性には注意が必要です。

他方、23日にトランプ米大統領は、欧州連合(EU)との貿易交渉に進展が見られないと述べ、6月1日から50%の関税を課す考えを示したものの、25日には7月9日までの延長を決定。今後は、相互関税上乗せ分の90日停止期限が7月に迫る中、急速な展開や予想外の動きが見られる懸念が高まります。減税議論と併せ、当面は政治的な動向を意識せざるを得ない展開が続くとみています。

米景気は底堅さを維持も先行きは不透明

22日公表の5月PMIは、製造業(総合)が52.3(4月:50.2)、サービス業(事業活動)が52.3(4月:50.8)と共に予想以上に改善、米景気の底堅さが示されました。内訳では、製造業は購入品在庫が大幅増となり、対中関税引き下げ(90日停止)を受けた駆け込み需要が景況感を支えた可能性があります。一方、サービス業は請求価格が大きく上昇、関税による価格上昇を企業が転嫁し始めている可能性が示唆されました(図2)。年後半にかけ、関税による景気・物価への影響は徐々に顕在化し始めると見込まれます。

今週は27日に4月製造業受注が公表され、設備投資の先行指標であるコア資本財受注(航空除く非国防資本財)は前月比▲0.1%(前月:同▲0.2%)と、通商交渉の不透明感が残る中で小幅減に止まる見込み。30日の4月個人消費は前月比+0.2%(前月:同+0.7%)と前月から減速もプラスの伸びを維持するとみられ、これらの指標で米実体経済の底堅さが確認されれば市場の落ち着きに繋がるとみています(図3)。他方、米連邦準備理事会(FRB)高官発言や28日の5月FOMC(連邦公開市場委員会)議事録では、政策変更を急がない姿勢が改めて示されると予想されます。(今井)

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欧州 企業景況感は目先のユーロ圏景気の停滞を示唆、米高関税への懸念再燃

ユーロ圏景気への先行き懸念は根強く

22日に公表されたユーロ圏の5月総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)は49.5と、事前の改善予想に反して悪化し、5カ月ぶりに好不況の分かれ目とされる「50」を下回りました(図1)。製造業PMIは49.4と、米相互関税上乗せ分の適用停止期限(7月9日)を控え、外需を中心とした駆け込み需要が強く影響して小幅に上昇する一方、サービス業PMIは48.9と、事前予想(同50.3)を下回り低迷。受注残高指数や新規事業指数が大きく低下し、世界経済の先行き不透明感が強い中、域内需要の弱さを反映しました。先行き見通しを巡っても、サービス業での低下基調が鮮明(図2)。対照的に製造業は、ドイツを中心とした域内の財政拡張への期待から高水準での推移を維持。しかし、各国政府による歳出拡大策の詳細は未だ判明せず、投資増額の実現は2026年以降になるとみられ、目先のユーロ圏景気は停滞感の強い状況が続く見込みです。

また、トランプ米大統領は23日、欧州連合(EU)との貿易交渉の進展に不満を示し、6月1日よりEUからの輸入品に50%の関税を課す意向を提示。早期合意に向けた手段としての圧力行使の側面が強く意識されるも、米高関税やEUの報復措置により両国経済が一段の打撃を受ける可能性も懸念され、先週末の欧州金融市場では、市場の不安心理が再燃しました。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は週初、トランプ氏と電話会談を行ったことを明かし、米相互関税の上乗せ分適用停止期限である7月9日までに時間が必要として、時間をかけて交渉する方針を改めて提示。直後にはトランプ氏が50%の関税発動を7月9日に延期すると発表も、米政権の不確実な政策方針に振り回される不安定な展開は続きそうです。

英国の4月インフレ率は予想以上に加速

21日に公表された英国の4月消費者物価は前年比+3.5%と事前予想(同+3.3%)以上に伸び率が加速(図3)。イングランド銀行(英国中銀、BOE)が注視するサービス価格も同+5.4%と事前予想を大きく上回り、今月8日に公表されたBOE見通し(同+5.0%)をも超過。BOEによる利下げペースがより緩慢になるとの見方が強まり、短期金融市場の見込む8月会合での利下げ確率は4割程度に後退しました。しかし、サービスインフレの急加速はイースター休暇時の航空運賃上昇等が影響したとみられ、旅行・輸送サービスを除く主要分野は軒並み伸び率が減速。英国の5月PMIでも、製造業・サービス業ともに価格指数は低下し、4月のインフレ急上昇が一時的に留まる可能性が意識されます。次回6月会合では、政策金利の据え置きが概ね確実視される中、足元のインフレ動向を受けた利下げペースを巡る最新の見解が注視されます。(吉永)

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オーストラリア 豪中銀の経済見通し実現に向け個人消費の安定が鍵に

RBAは2月以来、2会合ぶりに利下げを決定

先週20日、豪中銀(RBA)は今年2月以来、2会合ぶりの利下げ(政策金利:4.10→3.85%)を決定しました(図1)。声明文では、インフレについては緩和が継続、またリスクはより均衡し上振れリスクが低下したと言及、基調インフレ率は予測期間の大半で目標+2-3%の中間値付近にとどまるとし、物価安定持続に自信を示しました。

ただし、見通しは依然不透明とし、先行きについては引き続き慎重姿勢をとるとしました。同時公表の四半期金融政策報告やブロックRBA総裁会見を受け、金融市場では、RBAの政策姿勢がハト派的(景気に慎重で金融緩和に前向き)と捉えられ利下げ期待が高まり、豪ドルが対米ドルで一時軟調となる場面もありました。足元では年内あと0.75%の追加利下げが織り込まれています。

景気・雇用・物価安定がメインシナリオだが

今回の四半期報告では、前回に比べ予測期間(2025年6月~2027年6月)の大半で実質GDP成長率やインフレ率を下方修正(特に2025年を大幅修正)しました(図2)。他方、失業率の上方修正を小幅にとどめるなど、労働市場の安定推移を想定しています。RBAは、最終的な関税措置やそれに対する各国政策対応の不確実性の高さに加え、根強い地政学的リスクなどによる、当面の国内景気や雇用、物価への下押し圧力を警戒している印象です。

なお予測期間後半は、景気・物価が安定化に向かうと見込んでいる模様です。特に景気面は、インフレ鈍化や利下げ、昨年来の所得減税(またアルバニージー政権が3月にも2025-26年度の所得減税を成立させ5月総選挙で圧勝)の効果もあり、消費底固めが鮮明となっています。

国内消費と中国景気が安定感増すかも焦点

RBAも当面は、実質所得増加に伴い消費回復が続くとの見方を維持しています。今週28日に4月消費者物価(月次)、30日に4月小売売上高が公表されますが、国内物価や消費の安定基調が保たれているかが注目です(図3)。

外部要因では、米中間の通商交渉およびそれを踏まえた最大の貿易相手国でもある中国の政策対応を注視する展開となるでしょう。中国は先週20日、追加金融緩和(最優遇貸付金利引き下げ)に動きましたが、一段の景気刺激策の有無、またそれらの政策が中国の景気浮揚につながるかが、豪経済や豪ドル相場を占う上でも焦点となりそうです。中国が31日に公表する5月国家統計局購買担当者景気指数(PMI)から同国景気持ち直しが確認できれば、豪ドル下支えの材料となるでしょう。(瀧澤)

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主要経済指標と政治スケジュール

※塗りつぶし部分は今週、(*)は未定

注)(日)日本、(米)米国、(欧)ユーロ圏・EU 、 (独)ドイツ、(仏)フランス、(伊)イタリア、 (英)英国、(豪)オーストラリア、(加)カナダ、(中)中国、(印)インド、(伯)ブラジル、(露)ロシア、(他)その他、を指します。NA はデータなし。日程および内容は変更される可能性があります。

出所)各種情報、Bloombergより当社経済調査室作成

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