ポイント
来年度以降の暮らしへの影響を考えるうえで、物価の見通しは身近なテーマです。食料品やエネルギーの値上がりが続くなか、来年度以降の物価がどうなるのかを気にしている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、2026年度の物価見通しについて政府・日銀・国際通貨基金(IMF)の予測を比較しながら、賃金やエネルギー価格といった変動要因、家計への影響、そして注意すべきリスクまでを紹介します。
物価見通しとは何か――基本の仕組みと注目される理由
消費者物価指数(CPI)の役割と読み方
物価見通しは、消費者物価指数(CPI)を手がかりに読み解くのが基本です。CPIとは、全国の家庭が購入する商品やサービスの値段を総合して、物価の動きを時系列で測る統計です。日本では1946年8月に作成が始まり、毎月公表が続けられています。一定の周期で基準年を更新する「基準改定」が行われ、対象となる品目やウエイトの見直しも実施されます。*1
CPIの前年比2%上昇は、同じ買い物カゴの中身の値段が、1年前より2%高くなったことを意味します。物価見通しを各機関が発表する際も、この指数の伸び率を軸に予測値を示します。家計の支出計画を考えるときは、総合指数だけでなく「生鮮食品を除く指数」など内訳にも目を向けると、価格の動きをつかみやすくなります。
物価見通しを公表する機関と発表サイクル
日本国内では政府(内閣府)と日本銀行が物価見通しを示し、国際機関のIMF(国際通貨基金)も予測を公表しています。政府は「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」として翌年度の経済の姿を示します。通常、予算政府案(概算)の決定前に閣議了解され、予算の国会審議に先立って閣議決定されます。*2
日本銀行は年4回、通常1月・4月・7月・10月の金融政策決定会合で「経済・物価情勢の展望」、いわゆる展望レポートを公表します。先行きの経済・物価見通しに加え、上振れ・下振れの要因を点検し、金融政策運営の考え方を整理した内容です。*3
国際機関であるIMF(国際通貨基金)も定期的に各国の経済・物価の予測を出しており、複数の見通しを並べて比べることで予測の幅や前提条件の違いを確認できます。
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2026年度の物価見通し――政府・日銀・IMFの予測を比較
政府経済見通しが示す消費者物価の数値と前提条件
政府は2026年度の消費者物価(総合)が前年比で1.9%上昇を見込んでいます。内閣府の資料では、食料価格の押し上げが一巡するなかで、政策によりエネルギー価格を抑制する一方、需給改善により、基調的な物価上昇は押し上げられるとしています。*4
2026年度の実質成長率は1.3%程度と見込まれています。所得環境の改善が進むなかで個人消費が増え、危機管理投資や成長投資の進展で設備投資も伸び率を高めるというシナリオです。*4
この見通しを確認する際には、食料やエネルギーの前提がどう置かれているかに注目すると、実際の物価との差を把握しやすくなります。
日銀展望レポートが描く物価の道筋
日銀は、2026年の前半に消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が2%を下回る一方、基調的な上昇率は緩やかに上がり続けるとしています。その後は景気の改善が進むもとで、2%の物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移する見込みです。*5
生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、米などの食料品価格上昇の影響が減衰するもとで来年前半にかけて2%を下回る水準までプラス幅を縮小すると考えられています。基調的な上昇率は、成長ペースの影響を受けていったん伸び悩むものの、その後は成長率が高まるなかで人手不足感が強まり、見通し期間後半には物価安定の目標と概ね整合的な水準に近づく見立てです。政府見通しと比べると、日銀は前半の減速局面をより丁寧に示している点に違いがあります。
IMFが見る日本のインフレと2%目標への収束シナリオ
IMFは、インフレが日銀の目標を3年以上にわたって上回って推移してきた一方、2026年には原油・食品価格の緩和によりさらに鈍化し、2027年の年間上昇率は日銀の2%目標へ収束すると見込んでいます。*6
政府は2026年度に2%程度上昇すると見る一方、日銀は前半にいったん2%を割り込むとし、IMFは2027年に2%へ収束すると想定しています。到達時期の判断に差がある点を把握しておくと、物価見通しを読む際の精度が上がります。各機関が前提に置く原油価格や為替レートの水準を比較することで、なぜ差が生まれるのかを確かめられます。
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物価を動かす要因――賃金・エネルギー・食料・為替の構造
賃金上昇と価格転嫁の最新動向
賃金の動きは、物価の行方を左右する大きな要素です。日本銀行の地域経済報告では、企業収益が全体として高水準を維持し、人手不足感の強い状態も継続する中、従業員のつなぎとめや士気向上の観点から2026年度も2025年度と同程度の賃上げを行う必要があると考える企業が多いとの報告が多数ありました。2025年度の最低賃金の改定を受けてパート労働者の賃金を引き上げる中で、正社員についても公平感の観点から相応の賃上げが必要になっているとの報告もあります。*7
価格転嫁は、仕入コストや人件費、物流費の上昇を販売価格に反映する動きが続いています。一部の企業では最近の為替円安によるコスト増加を受け、さらなる価格転嫁の必要性を検討しているとの報告もありました。ただし消費者の根強い節約志向を背景に、値上げ幅を抑えたり低価格商品の品ぞろえを強化したりして対応する動きも引き続き見られます。*7
賃金と物価の連動は、物価見通しを大きく左右します。
エネルギー・一次産品価格の下落見通しと家計への恩恵
エネルギー価格の見通しは、物価全体と家計負担を左右します。世界銀行によると、金属や穀物などの一次産品の価格水準の動きを表す一次産品価格指数は、2025年には、前年比12.4%減の92.1となり、2026年には87.7まで下がって2020年以来の低水準に達する見通しです。エネルギー価格指数も2025年に83.8、2026年には78.9まで下落し、ブレント原油価格は2025年の年間平均が1バレルあたり64ドル、2026年には60ドルへ低下すると見込まれています。*8
エネルギー負担は、国際価格と政策の前提しだいで変わります。政府の経済見通しでも、2026年度は政策によりエネルギー価格を抑制する前提が置かれています。原油や天然ガスの国際価格が下がれば、電気代やガソリン代の負担がやわらぎ、家計にとっては追い風になります。エネルギー関連の補助金がいつまで続くのか、国際価格の低下がどの程度国内価格に反映されるのかを確認しておくことが大切です。
食料価格と為替が物価に与える影響
食料価格と為替は、物価の動きを見るうえで特に重要です。政府は、2026年度には食料価格の上昇幅が前年度より縮小すると見込んでいます。日銀も米などの食料品価格上昇の影響が減衰していく想定で物価の先行きを描いています。食料はCPIのなかで大きなウエイトを占めるため、ここが落ち着くかどうかで全体の数字が変わります。*2
為替は、輸入コストを通じて物価に影響します。円安になれば輸入品が高くなり、企業の仕入コストが膨らみます。食料と為替の両面で、日々の変動と見通し前提のずれに目を配ることが、家計を守る手がかりになります。
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家計への影響と消費者マインドの変化
実質賃金プラス転換がもたらす消費回復の見通し
実質賃金がプラスになるとは、手取りの増え方が物価の上がり方を上回り、買い物に使えるお金が実質的に増える状態を指します。
家計では、物価上昇を上回る賃金の伸びになるかが焦点です。政府の経済見通しでは、2026年度は政策効果も含めて物価上昇率が低下するなかで、名目賃金の上昇率は近年の伸びを維持し、その結果、実質賃金の上昇率が1%程度のプラスになる見込みです。*4
日常消費では節約志向が根強いとの報告もあります。日本銀行の地域経済報告では、イベント関連などの特別な消費は堅調なものの、日常消費では食料品価格の高止まりを受けた節約志向が根強く、スーパーで購入点数の減少が続いているほか、一部の外食で日常利用客が減っています。*7
実質賃金のプラス転換が実際の消費行動にどこまで反映されるかは、食料品価格の落ち着き具合にかかっています。
消費動向調査に見る消費者の物価予想と節約志向
消費者の物価予想は、家計の行動を読む材料になります。内閣府の消費動向調査(2026年1月)では、1年後の物価について「5%以上上昇する」と答えた人が最多(4割以上)でした。前月との比較では「変わらない」が0.6ポイント増、「低下する」が0.3ポイント増えた一方、「上昇する」は0.5ポイント減少しています。*9
消費者の気分や見通しを示す消費者態度指数は、2026年2月時点で、前月から0.7ポイント上がって37.9となりました。内訳を見ると「暮らし向き」と「雇用環境」がそれぞれ0.9ポイント上昇し36.8と42.4に、「収入の増え方」は0.7ポイント上昇して42.0、「耐久消費財の買い時判断」は0.2ポイント上がって30.4です。*9
物価が高いと感じつつもマインドはわずかに改善しているという、二面性のある状況です。家計の支出計画を立てるときは、実質賃金の動きとあわせてこうした意識の変化も追っていくと判断材料が増えます。
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2026年度の物価見通しにおける注意点
通商政策・関税リスクと「好循環」シナリオの不確実性
通商政策や関税の影響で、2026年度の物価見通しは揺らぐ可能性があります。OECDは、貿易障壁の高まりや政策不確実性の増大が、投資や家計支出の重しとなって世界経済の成長を鈍らせるとみています。一方、日本の物価について日銀は、米などの食料品価格上昇の影響が薄れることなどから、2026年前半には消費者物価の上昇率が2%を下回る水準まで縮小していくと見込んでいます。*10
物価の見通しが下振れるリスクとしては、対外要因と国内要因の両方が挙げられています。IMFも成長リスクは下振れ圧力に傾いていると指摘しています。対外要因においては、日中間の緊張を含む貿易制限の拡大が影響する可能性が挙げられています。国内では、名目賃金の伸びがインフレを上回らず実質賃金がプラスにならない場合、消費が弱まるという懸念材料があります。*6
物価見通しを確認する際は、中心的なシナリオだけでなく、こうした下振れ要因をあわせて見ることが欠かせません。
日銀の利上げ判断と家計の金利負担への波及
日銀の金融政策は、物価見通しと家計の金利負担に影響します。
利上げは、住宅ローンなどの金利を通じて家計にも波及します。基調的な物価上昇率が2%に近づくと判断すれば、日銀が追加の利上げに踏み切る場面が出てきます。利上げは住宅ローンの変動金利や企業向け融資の金利を押し上げ、家計や中小企業にとって負担が増す方向に働きます。2026年度の物価見通しを追うときは、日銀がどの指標を基調判断の根拠にしているかを把握し、利上げ時期の手がかりとして活用することが具体的な備えにつながります。*5
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おわりに
2026年度の物価見通しは、政府・日銀・IMFで時間軸に差があります。政府が2%程度、日銀が前半に2%を下回った後に収束、IMFが2027年に2%到達と、機関ごとに時間軸の差があります。賃金上昇やエネルギー価格の下落が追い風になる一方、通商政策リスクや消費者の節約志向といった不確定要素も残っています。
家計の支出計画を立てるうえでは、確認ポイントを絞ることが役立ちます。家計への備えとしては、実質賃金の動向、エネルギー補助金の行方、日銀の利上げ判断の3点を定期的に確認し、支出計画や資産運用の前提を見直していくことが大切です。
*1 出所)総務省「「消費者物価指数2025年基準改定計画」の公表」
*2 出所)内閣府「政府経済見通し」
*3 出所)日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」
*4 出所)内閣府「令和8年度政府経済見通しについて」
*5 出所)日本銀行「展望レポートのハイライト」(2026年1月)
*6 出所)IMF日本支部「AIV記者会見内容」
*7 出所)日本銀行「各地域からみた景気の現状(2026年1月支店長会議における報告)」
*8 出所)ジェトロ 「一次産品価格、新型コロナ禍以前の水準まで低下へ、世界銀行見通し(世界)」
*9 出所)内閣府「消費動向調査」
*10 出所)OECD「経済見通し」










