2019年に注目を集めた「老後2000万円問題」は、公的年金だけでは老後の生活費を十分にまかなえないという現実を浮き彫りにし、多くの人が将来の資金準備に不安を抱くきっかけとなりました。
この問題提起から5年が経過し、私たちの働き方やライフスタイル、資産形成の考え方も大きく変化しています。老後資金の準備は長期的な積み立てが基本とされますが、生活費だけでなく医療費や住まいのリフォーム費用、介護費用など、さまざまな支出を見据えた計画が必要です。そのため、現役時代からの計画的な資金づくりがますます重要になっています。
本記事では、2019年に話題となった老後2000万円問題を振り返りつつ、2026年に向けて必要となる老後資金の目安や備え方について解説します。
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「老後2000万円問題」の2025年への変化
「老後2000万円問題」は、当時メディアでも大きく取り上げられました。その背景には、日本の急速な人口構造の変化があります。2025年には約800万人の団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、国民の5人に1人が75歳以上という超高齢化社会を迎えると推計されています。*1
このような状況では、医療・介護・年金など社会保障費の増大や、働き手の減少による現役世代の負担増が懸念されています。老後に備えるためには、早めの計画が必要だという意識が広がっています。
2019年当時、夫が平均的な報酬で40年間勤務し、妻が専業主婦という前提の世帯では、公的年金の月額は221,504円と示されていました。*2
一方、総務省の家計調査によると、夫65歳以上・妻60歳以上の無職世帯の平均消費支出は235,477円、税金や保険料などの非消費支出を含めると263,717円となっています。
このため、年金収入だけでは毎月約4万円の不足が生じ、年間では約50万円程度を貯蓄から取り崩す必要があるとされました。都市部での生活費や介護費用が加わると、さらに追加の資金が必要になるケースも多くなります。2000万円という目安は、こうした不足分を補うための大まかな金額として示されましたが、現実には家族構成や生活様式の多様化により、必要額は個別に異なります。
特に独身世帯や単身高齢者の場合は、リスクが高まる傾向にあり、個別事情に合わせた資金計画が求められています。
2025年に向けては、雇用環境や社会保障制度の改正も進んでいます。企業による定年延長や再雇用制度の拡充により、多くの人が長く働き続ける選択肢を持つ一方、高齢期の医療・介護費用の増加も予想されます。
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公的年金と老後に必要な生活費
老後の生活費を考える際、公的年金は大きな柱となります。しかし、年金だけで日常の支出をすべてカバーするのは難しい場合が多いのが現状です。物価上昇や医療・介護費の増加、所得税や住民税、医療保険・介護保険料などの負担が重なるためです。特に今後は医療や介護にかかる費用が増大し、家計への影響が大きくなると予想されます。
それでは、現在の状況を改めてみてみましょう。
2024年(令和6年)の政府資料によれば、二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯では、実収入が
- 65~69歳の世帯は307,741円
- 70~74歳の世帯は275,420円
- 75歳以上の世帯は252,506円
となっています。
一方で消費支出をみると、
- 65~69歳の世帯は311,281円/月
- 70~74歳の世帯は269,015円/月
- 75歳以上の世帯は242,840円/月
となっています。
実際には、非消費支出がこのほかに3万円~4万円ほどあり、トータルでは、月の赤字が4万円ほどの範囲内で生活できていることがわかります。*3
このことから、「老後2000万円問題」の2019年当時と、大きく状況が変わっているわけではありません。
ただし、公的年金の受給額は、加入期間や納付保険料、年金制度の種類によって個人差があるため、将来の受給額を把握するには、日本年金機構の「ねんきんネット」を利用して確認を行う必要があります。*4
年金制度は今後も変化が見込まれるため、受給開始年齢の選択肢や制度改正の動向にも注意が必要です。支出と収入のバランスを具体的な数値で把握し、個人別に現実的な資金計画を立てなければなりません。
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2025年に考える老後資金の必要額
2025年が近づくにつれ、老後資金の必要額についての関心が高まっています。生活費、医療費、介護費用に加え、趣味や旅行など余暇の充実を考慮すると、必要額は人それぞれ異なります。ただし、老後の支出には一定の傾向があるため、あらかじめ大まかな目安を立てておくことが有効です。
令和7年度税制改正大綱では、老後の資産形成を促進するため、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の拠出限度額が引き上げられる方針が示されています。たとえば、企業型確定拠出年金の拠出限度額は月額6.2万円(現行5.5万円)、iDeCoの拠出限度額は第一号被保険者で月額7.5万円(現行6.8万円)に引き上げられます。*5
また、iDeCoの加入可能年齢も70歳未満まで拡大される見通しです。*6
これにより、より長期間にわたり積立を続けることができ、公的年金だけでは不足する部分を補いやすくなります。
老後資金の必要額は、家族構成や住まい、希望する生活水準によって大きく異なります。たとえば、夫婦2人世帯であれば、平均的な生活費や医療費、介護費用を加味して、今もなお、2000万円前後の資金が目安とされることが多いですが、単身世帯や持ち家の有無、地域によっても大きく変動します。自分のライフプランや将来の希望に合わせて、制度の拡充や税制優遇を活用しながら、計画的に貯蓄や運用を進めることが重要です。
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長寿リスクへの備えと資産形成
「人生100年時代」といわれる現代では、長寿リスクを見据えた資産形成がますます重要になっています。平均寿命が延びることで、健康な期間が長くなる一方、医療費や介護費用がかさむ期間も長くなる可能性があります。特に単身者や高齢夫婦のみの世帯では、予期しない支出が家計を圧迫しやすく、積極的な備えが必要です。
上述した企業型DCとiDeCoの加入者数は2024年9月末時点で1,340万人、資産総額は約30兆円に達しています。*7
一方で、企業型DC加入者の約20%、iDeCo加入者の約18%が元本確保型商品のみで運用している現状もあり、インフレ局面では資産価値が目減りするリスクが指摘されています。リスクを抑えつつも、分散投資や長期運用を意識した商品選びが重要です。
また、金融リテラシー(お金に関する知識や判断力)を高めることも、長い人生を見据えた資産形成には欠かせません。教育費・住宅購入費・老後の生活費は人生の三大費用とされており、計画的な資金準備が必要です。*8
金融庁の「ライフプランシミュレーター」などを活用し、自分のライフプランやリスク許容度に合った資産配分を考えることが、老後資金の安定につながります。
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おわりに
「老後2000万円問題」をきっかけに、多くの人が老後資金の重要性を意識するようになりました。5年が経過し、日本の超高齢化はさらに進んでいます。2025年には高齢者人口が大幅に増加し、社会全体の構造が変わることが予想されます。
こうした環境変化に不安を感じる方も多いですが、早めの情報収集と具体的な行動が将来の安心につながります。
変化を悲観的に捉えるのではなく、今から備えを進めることで、満足度の高い老後生活を目指すことができます。
本記事で紹介した公的年金の知識や税制改正への対応、確定拠出年金などの制度を活用し、長期的な視点で資金計画を整えていきましょう。自分や家族のライフスタイルに合わせて、2025年という大きな節目を前向きに捉え、これからの人生をより豊かに過ごすための準備を始めてみてください。
*1 出所)日本財団 「迫る2025年問題とは?労働力不足、医療人材不足、社会保障費の増大」
*2 出所)健康長寿ネット「人生100年時代の長寿リスクと資産寿命」
*3 出所)総務省統計局「家計調査報告家計収支編2024年(令和6年)平均結果の概要」
*4 出所)政府広報オンライン「「ねんきんネット」でいつでも最新の年金記録が確認できます!」
*5 出所)財務省「令和7年度税制改正の大綱」
*6 出所)金融庁 「令和7(2025)年度税制改正について」
*7 出所)日本証券経済研究所「金融庁プログレスレポート 2025 を顧客視点で読み解く」
*8 出所)政府広報オンライン「「金融リテラシー」って何? 最低限身に付けておきたいお金の知識と判断力」










