【弁護士が解説】退職金の投資・運用 失敗パターンとやってはいけないことは?

【弁護士が解説】退職金の投資・運用 失敗パターンとやってはいけないことは?

まとまった額の退職金を受け取ったら、それを資産運用に回そうと考える人が増えてきました。

資産運用を適切な方法で行えば、退職金を増やせる可能性があります。その一方で、資産運用にはリスクが伴うほか、悪質な投資詐欺も横行していることに注意が必要です。十分な知識を備えたうえで資産運用に取り組みましょう。

本記事では、退職金を資産運用に回す際に注意すべきことを解説します。

退職金のうち、どのくらいの割合を資産運用に回すべきか?

退職金は、数百万円から数千万円もの高額となるケースがよく見られます。うまく資産運用をすれば大幅な利益を得られる可能性がある一方で、資産運用にはリスクを伴う点に注意しなければなりません。

退職金のうち、どのくらいの割合を資産運用に回すかは、自分が取れるリスクの大きさを慎重に考えたうえで決めましょう。

年齢によって、取るべきリスクの大きさが変わる

資産運用に関しては一般的に、若いうちに大きなリスクを取り、年齢が上がってきたら徐々に取るリスクを少なくするのがよいとされています。
若い人は時間を味方につけて長期投資がしやすいのに対して、平均寿命までの期間が若い人よりも短い高齢者は、短期間で生じた損失を回復できない可能性があるからです。

資産運用に回す退職金の割合は、「100-年齢」を目安にするとよいでしょう。たとえば60歳で退職した場合は40%、65歳で退職した場合は35%を、株式などのリスク資産への投資に回すというのが一つの考え方です。

もちろん、上記の数字は目安に過ぎません。退職金以外の資産がどのくらいあるのか、生活費はどのくらい必要なのかなど、個別の事情によって取り得るリスクの大きさが変わってきます。
自分や家族の将来を具体的にイメージしたうえで、資産運用に回す退職金の割合を決めましょう。

投資対象の種類によっても、リスクの大きさが変わる

資産運用にはさまざまな方法があり、投資対象の種類によってリスクの大きさが変わります。

投資対象の種類に応じたリスクの大きさの目安は、以下のとおりです。

※記載したものは、上に記載したものほどリスクが高く、下に記載したものほどリスクが低いと考えられます。
※投資信託は、組み入れられている投資対象の種類によってリスクの大きさが変わります。

<ハイリスク・ハイリターン>
  • FX、CFDなどのレバレッジ取引
  • 不動産(現物)
<ミドルリスク・ミドルリターン>
  • 外国株式
  • 国内株式
  • REIT
  • 外貨預金
<ローリスク・ローリターン>
  • 外国債券
  • 国内債券
  • 預貯金(定期預金、普通預金など)

退職金は、50代から60代の比較的年齢が高くなった段階で受け取るケースが多いと思われます。この年齢層では、資産運用に当たって極端に大きなリスクを取ることは推奨できません。レバレッジ取引や、借金をして不動産を購入することなどは控えた方が賢明です。

基本的には株式・REIT・債券や、これらが組み入れられた投資信託によって運用するのが堅実と思われます。

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退職金の運用をする際に、注意すべきポイント

退職金によって資産運用をする際には、特に以下のポイントに注意しましょう。

  • 短期間でお金を増やそうとしてはだめ|ハイリスクな投資には要注意
  • 投資詐欺に引っかからないようにする
  • 生活に必要な資金を確保する
  • 資産額が多い場合は、相続税対策を検討する

短期間でお金を増やそうとしてはだめ|ハイリスクな投資には要注意

資産運用は、短期間でお金を増やそうとすると失敗するリスクが上がります。そのため、長い目線で取り組むことが重要になります。

特に退職金で資産運用をする際には、短期間でお金を増やそうとしてはいけません。運用に失敗して大損した場合に、労働によって運用資金を補填することが難しいからです。

短期間で大金を稼ごうとするのではなく、時間を味方につけて少しずつお金を増やすのが資産運用の鉄則です。高額の退職金を運用する際には、そのことを特に強く意識しましょう。

投資詐欺に引っかからないようにする

退職金を受け取った高齢者をターゲットとして、詐欺グループがその退職金をだまし取ろうと狙っています。たとえば、以下のような手口がよく見られます。

  1. ポンジ・スキーム
    参加者から集めたお金を運用せず、別の参加者に配当金として横流しする詐欺手口です。新規の参加者が集まらなくなると、配当金が支払えなくなってスキームが破綻し、参加者は大損害を受けます。
  2. 高額手数料型
    「カリスマ投資家による運用」などと喧伝し、集めた運用資金の中から高すぎる手数料を取る詐欺手口です。年10%以上に及ぶ高額の手数料を取る例が見られるうえに、運用担当者の知識や経験が優れているとも限りません。
  3. 投機的取引型
    参加者から集めたお金を、高レバレッジの投機的取引に回す詐欺手口です。高レバレッジ取引は、長期的には損をする可能性が非常に高く、資金が底を突いたら詐欺グループは逃げてしまいます。

特に、投資経験に乏しい人が、退職金によって初めて本格的に資産運用をしようとする際には、投資詐欺に騙されやすいので要注意です。

SNSなどで受ける投資の勧誘は、詐欺である可能性がきわめて高いと思われます。退職金の資産運用は、信頼できる金融機関を通して行いましょう。

生活に必要な資金を確保する

退職金は、老後の生活を支える資金でもあります。そのため、生活に必要な資金は最低限確保できるようにしておくべきです。

人間の寿命はいつまで続くか分からないので、かなり長生きすることも想定しておきましょう。たとえば60歳で退職した場合は、100歳やそれ以上まで生きることを想定して、生活費のシミュレーションをすることをお勧めします。

退職金のうち、生活費として必要な金額が分かったら、その金額を最低限確保できるような資産運用の方法を検討します。
普通預金や定期預金であれば、原則として元本が保証されます。株式などのリスク資産へ投資する金額については、最大でどのくらい損をする可能性があるのかを見積もっておきましょう。

資産額が多い場合は、相続税対策を検討する

退職金と他の資産を合わせた金額が高額である場合には、家族に対してどのように資産を残すか(=相続)についても、元気なうちに検討することをお勧めします。

相続について考える際には、相続税対策の視点が欠かせません。適切に相続税対策を行えば、家族に残せる資産の額を増やすことができます。

相続税対策は税理士が相談を受け付けているので、関心がある方は税理士にご相談ください。

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まとめ

退職金の資産運用に当たっては、自分の年齢や必要な生活費、家族の状況などを考慮して、どのくらいのリスクを取ることができるのかを慎重に考えることが大切です。

特に、レバレッジ取引などのリスクが高い資産運用に手を出すことはお勧めできません。
リスク資産への投資に回す退職金の割合は「100-年齢」を目安にして(例:60歳なら40%)、株式・REIT・債券や投資信託を組み合わせて運用するのが堅実と思われます。

老後の生活をよりよいものにするため、健全な方法で退職金の資産運用を行いましょう。

阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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