【弁護士が解説】家族の急逝...投資信託の相続はどうすればいい?

【弁護士が解説】家族の急逝...投資信託の相続はどうすればいい?

投資信託の保有者が亡くなったときは、主に相続人がその投資信託を引き継ぎます。遺産分割協議などによって投資信託を相続する人が決まったら、故人の口座のある金融機関に対して相続手続きを申請しましょう。

本記事では、家族が亡くなった場合における投資信託の相続手続きについて、弁護士が解説します。

投資信託の保有者が亡くなったらどうなる?

亡くなった時点で所有していた財産は、一部の例外を除いて相続の対象になります。

亡くなった人が保有していた投資信託も、相続の対象です。遺産分割協議や金融機関が定める相続手続きなどを経て、相続人などがその投資信託を引き継ぐことになります。

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投資信託を相続するのは誰?

投資信託を相続する人は、遺言書や遺産分割協議などによって決まります。
まずは遺言書を探したうえで、遺言書がない場合などには遺産分割協議で投資信託を相続する人を決めましょう

遺言書がある場合は、その内容に従う

遺言書がある場合は、原則としてその内容のとおりに投資信託を相続する人が決まります。

まずは、亡くなった家族が遺言書を残しているかどうか探しましょう。遺言書を探す手掛かりとしては、以下の例が挙げられます。

  • 亡くなった家族が保管していた遺品に含まれている
  • 公証役場で保管されている
  • 法務局の遺言書保管所で保管されている
  • など

特に、公証役場や法務局で保管されている遺言書は、見落としやすいので注意が必要です。亡くなった家族の住居に近い公証役場や法務局に行って、遺言書が保管されているかどうかを必ず確認しましょう。

遺言書がない場合は、遺産分割協議で相続する人を決める

遺言書がない場合は、相続人の間で遺産分割協議を行い、話し合って投資信託を相続する人を決めます。
また、遺言書がある場合でも、その遺言書の記載から投資信託を相続する人が決まらない場合は、同様に遺産分割協議を行う必要があります。

遺産分割協議に参加すべき相続人は、亡くなった人の配偶者と、以下の順位に従った最上位者です。

第1順位:亡くなった人の子
※子が死亡、相続欠格または相続廃除によって相続権を失った場合は、さらにその子(=亡くなった人の孫)が代襲相続人となります。また、ひ孫以降による再代襲相続も認められています。
第2順位:亡くなった人の直系尊属(父母、祖父母など)
※亡くなった人との親等が異なる直系尊属がいる場合は、最も親等が近い人のみ相続人となります(例:父母と祖母が存命の場合は、父母のみが相続人となる)。
第3順位:亡くなった人の兄弟姉妹
※兄弟姉妹が死亡、相続欠格または相続廃除によって相続権を失った場合は、さらにその子(=亡くなった人の甥・姪)が代襲相続人となります。

たとえば、亡くなった人に配偶者と子がいる場合は、その配偶者と子が相続人になります。この場合、亡くなった人の父母や兄弟姉妹は相続人になりません。

ただし、相続放棄によって最上位の相続人がいなくなった場合は、次順位の相続人に相続権が移ります。
たとえば、亡くなった人の子全員が相続放棄をした場合は、父母や兄弟姉妹などに相続権が移ることがあります。

遺産分割協議は、必ず相続人全員が参加して行わなければなりません。参加していない相続人が1人でもいると、遺産分割協議が無効となってしまうのでご注意ください。必ず戸籍謄本類を取り寄せて、相続人を漏れなく把握しましょう。

遺産分割協議がまとまらないときは、家庭裁判所の調停・審判で決める

遺産分割協議は、各相続人の主張が対立してまとまらないケースもあります。
その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停*1を申し立てましょう。遺産分割調停では、中立の調停委員が各相続人の言い分を聞き取り、歩み寄りを促すなどして合意形成をサポートします。

遺産分割調停も不成立になった場合は、家庭裁判所が審判を行って遺産の分け方を決めます。

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投資信託を相続する人が決まったら、金融機関に相続手続きを申請する

遺言書や遺産分割協議、または家庭裁判所の調停・審判によって投資信託を相続する人が決まったら、その投資信託が保管されている口座のある金融機関に連絡して、相続手続きを申請しましょう。

投資信託の相続手続きの主な必要書類

投資信託の相続手続きを申請する際には、金融機関に対して以下の書類などを提出する必要があります。

<遺言書に従って相続する場合>
  • 遺言書
  • 検認調書(公正証書遺言以外の場合)
  • 法定相続情報一覧図の写し、または亡くなった人の死亡が確認できる戸籍謄本類
  • 印鑑登録証明書(遺言執行者がいる場合は遺言執行者、いない場合は投資信託を相続する人のもの)
<遺産分割協議に従って相続する場合>
  • 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名捺印があるもの)
  • 法定相続情報一覧図の写し、または相続関係を確認できる戸籍謄本類
  • 印鑑登録証明書(法定相続人全員のもの)
<遺産分割調停に従って相続する場合>
  • 調停調書
  • 印鑑登録証明書(投資信託を相続する人のもの)
<遺産分割審判に従って相続する場合>
  • 審判書
  • 審判確定証明書
  • 印鑑登録証明書(投資信託を相続する人のもの)

実際に必要となる書類については、お取引金融機関にお問い合わせください。

投資信託の相続手続きの流れ

投資信託の相続手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。

(1)死亡の連絡
口座保有者が亡くなった旨を、金融機関に連絡します。これ以降、相続手続きを完了するまでは売買や入出金ができなくなります。

(2)相続手続きの必要書類の提出
金融機関に対して、郵送やインターネット上へのアップロードによって必要書類を提出します。

(3)相続人口座の開設
投資信託を相続するためには、亡くなった人と同じ金融機関に口座を開設する必要があります。相続人がまだ口座を開設していない場合は、口座開設を申請しましょう。

(4)金融機関による審査
相続の資格があるかどうかなどを、金融機関側で審査します。

(5)資産の移動
審査の完了後、亡くなった人の口座から相続人の口座へ、投資信託などの資産が移管されます。これ以降、相続人は投資信託などを売買できるようになります。

(6)亡くなった人の口座の閉鎖
相続手続きが完了してから一定期間が経過すると、亡くなった人の口座は閉鎖されます。閉鎖前に入金された配当金などは、相続人口座へ順次移管されます。

NISA口座で保有する投資信託の相続

NISA口座で投資信託を保有していた方が亡くなった場合、NISA口座そのものを相続人が引き継ぐことはできません。したがって、非課税で運用できるのは、NISA口座の保有者が亡くなった日までです。なお、NISA口座の保有者が亡くなる時までの含み益については、非課税措置の適用があります。
NISA口座の保有者が亡くなって相続が発生すると、NISA口座から投資信託は引き出され、亡くなった日の終値で取得したものとして、被相続人の特定口座や一般口座に移されます。その後は、相続人の口座に引き継がれ、課税対象となります。なお、相続人の口座に引き継がれる時、相続人自身のNISA口座には移すことはできません

投資信託の相続手続きに要する期間の目安

投資信託の相続手続きに要する期間は、書類がきちんと揃っているか、相続人口座の開設手続きが必要か、金融機関における業務の繁閑などによって異なります。

あくまでも目安ですが、相続人口座がすでに開設されていて新たな開設手続きを要しない場合は、スムーズに手続きが進めば3週間から1か月程度で相続人口座への資産の移管が完了します。
相続人口座を新規に開設する場合は、追加で1~2か月程度の期間を要することがあります。

相続した投資信託を早期に売却したい意向がある場合などには、速やかに相続手続きを申請しましょう。


*1 参考)裁判所「遺産分割調停

阿部 由羅
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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