米国でトランプ新政権が誕生したことを受けて、為替相場への注目度が高まっています。そもそも円安円高とは、どういうものでしょうか。また、トランプ政権の動向により、今後の為替相場がどうなるのか気になる人もいるでしょう。
この記事では、円安円高の基本的な仕組みから、トランプ政権の政策が為替相場に与える影響までをわかりやすく解説します。
そもそも円安円高とは
円安とは、ほかの通貨に対する日本円の相対的な価値が低くなることです。
たとえば、為替相場が1米ドル=100円から110円になった場合、1米ドルを手にするのにより多くの日本円が必要になるため、米ドルに対する日本円の価値は下がり、円安になったといえます。*1
逆に円高とは、ほかの通貨に対する日本円の相対的な価値が高まることです。
為替相場が1米ドル=100円から90円になった場合、より少ない日本円で1米ドルを手にすることができるため、米ドルに対する日本円の価値は上がり、円高になったといえます。*1
為替相場は需給関係で決まる
日本円を米ドルなどの外国の通貨に換える際の交換比率が為替相場です。
通貨間の交換比率は、需要と供給の関係で決まります。*2
日本円を米ドルに換える需要が多ければ、日本円を売って米ドルを買う動きが強まることで円安が進行します。反対に、米ドルを日本円に換える需要が多ければ、米ドルを売って日本円を買う動きが強まることで円高となります。
日本円と米ドルの需給関係は、さまざまな要因によって変化するので、プロ投資家でも予想は難しいものです。しかし、この変動要因に注目することで、その時の為替相場の水準が円安円高となっている背景が理解しやすくなるでしょう。為替相場の変動要因については、後ほど詳しく説明します。
円安円高は、あなたにどのような影響がある?
円安円高は、企業の経済活動や個人の生活・投資などにさまざまな影響を与えます。 では、円安円高それぞれのメリット・デメリットをみていきましょう。
円安のメリット・デメリット
円安は、すでに保有している外貨建て資産の価値が上がるのがメリットです。
たとえば、1万米ドルの外貨預金を日本円へ換えるとき、1米ドル=100円のときは100万円ですが、1米ドル=120円の場合は120万円となるため、1米ドル=100円のときと比べて受け取る金額が増加します。
また、円安のときは、海外の人が日本の製品・サービスを安く買えます。その結果、輸出産業の業績が向上したり、海外から日本への外国人旅行客の増加でインバウンド需要が拡大したりする効果が期待できます。*3
輸出産業や外国人向け旅行観光業界の仕事には、好ましい環境と言えます。
一方で円安のデメリットは、円安になると輸入にかかる仕入れコストが高くなるため、輸入品やエネルギーの価格が上がる傾向にあります。
輸入企業にとっては、販売価格に仕入れコスト上昇分を転嫁できなければ、利益が減少する大きな要因のひとつとなります。
消費者としての立場では、輸入品の値上がりや海外旅行費用が高まる原因となります。
円高のメリット・デメリット
円高は、海外のモノを安く購入できるメリットがあります。
為替相場が1米ドル=100円から80円になると、100米ドルのバッグの値段は、円建てでは1万円から8,000円に下がります。
また、輸入にかかる仕入れコストが低くなるため、輸入品そのものや輸入品を原材料とする商品の価格も安くなりやすく、輸入産業では業績の向上が期待できます。*3
輸入品を扱う仕事や原材料を輸入に頼る産業においては、好ましい環境と言えます。
消費者としての立場においても、輸入品の値下がりや海外旅行費用の低廉な環境は、好ましいと言えます。
円高は、すでに保有している外貨建て資産の価値が下がるのがデメリットです。
外貨建ての資産を円に換算した際の評価額が目減りしてしまいます。
たとえば、1万米ドルの外貨預金を日本円へ換えるとき、1米ドル=100円のときは100万円ですが、1米ドル=80円の場合は80万円となるため、1米ドル=100円のときと比べて受け取る金額が減少します。
輸出企業にとっては商品価格の値上げによる売上の減少要因となるため、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
円安円高は表裏一体なので、見方や立場によって、メリット・デメリットが変わります。為替の動きによって、身の回りでどのような影響が生じているのか考えてみるとよいでしょう。
円安円高の要因は?
先述のとおり、円安円高は日本円と外貨の需給関係で決まります。その需給関係に影響を及ぼす要因として、主に次のようなものがあります。
金利差
一般的に、お金は金利の低いほうから高いほうへ流れる傾向があります。
低金利通貨を売って、高金利通貨を買い、より多くの収益を得たいと思う人が増えるからです。*4
たとえば、日米金利差が拡大すると日本から金利のより高い米国に資金が流れ、円安ドル高が進みやすくなります。反対に、日米金利差が縮小すると円高ドル安が進みやすくなります。
2022年以降は、米国のFRBが利上げを実施してきた一方で、日銀は大規模な金融緩和を続けたことから日米金利差が拡大し、大幅な円安が進行しました。しかし、2024年に入ってからは日銀が利上げする一方で、FRBは利下げを実施しているため、日米金利差は縮小傾向にあります。そうした状況もあり、円安の進行は止まっている状態です。*5
貿易収支
貿易収支とは、輸出額から輸入額を引いた差額です。輸出額が輸入額を上回る状況を貿易黒字、輸入額が輸出額を上回る状況を貿易赤字といいます。*6
一般的には日本が貿易黒字になると円高、貿易赤字になると円安が進みやすくなります。

出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「外国為替の変動要因は?」
日本から米国へ輸出する場合、代金は米ドルで受け取ることが一般的です。受け取った米ドルを売って、日本円を買う必要があるので、円の需要が高くなり円高・米ドル安の要因が強まります。そのため、日本が貿易黒字の状態では、円高になりやすいと言えます。
反対に、米国から日本へ輸入する際は、代金を米ドルで支払うことが一般的です。日本円を売って、米ドルを買う必要があるので、米ドルの需要が高くなり円安・米ドル高の要因が強まります。そのため、日本が貿易赤字の状態では、円安になりやすいと言えます。
物価変動
物価変動も、為替相場の変動要因の一つです。一般的には、よりインフレになっている国のほうが通貨安になる傾向があります。
インフレとは、物価が持続的に上昇する状態のことです。
インフレによって商品やサービスの値段が上がると、同じ金額で買えるものは減ることになります。同時にそれは、物価に対する通貨の相対的な価値が下がることを意味します。交易条件や輸送コストなどを考慮しなければ、同じものの値段は2国間で同じになるので、為替で調整されるように働くため、インフレは通貨安につながる要因となります。*7
トランプ政権の動向と米ドル円相場に与える影響
トランプ政権の政策は、次のような理由で米ドル円相場に影響を与える可能性があります。
インフレ再加速なら円安ドル高が進行する要因に
米国では、FRBは2024年9月に雇用悪化を避けるための予防的な利下げを開始し、同11月に追加利下げを実施しました。
インフレ率をFRB目標の2%に低下させていく中で、トランプ政権の政策がインフレを再加速させるとの見方があります。*8_P5
トランプ政権では、追加関税の導入や移民の制限、減税の延長・拡大などを政策として掲げています。追加関税は、米国民にとって輸入品価格の上昇につながります。
また、移民の大量流入は社会問題化していますが、移民は米国のなかでの安い労働力供給を支えている側面もあるため、移民の制限は賃金上昇のインフレ要因となるでしょう。また、減税の延長・拡大は財政悪化につながり、金利の押し上げ圧力は強まります。
これらの政策が実現し、米国でインフレが再燃した場合、中央銀行は経済の再過熱を冷ますために政策金利を高めに止めたままにするかもしれません。そうすると、日本と比べて相対的に金利の高い米ドルへの資金流入が強まることでドル高圧力がかかるかもしれません。*8_P15
FRBは、2025年1月の会合では利下げを見送り、政策金利を据え置くことを決定したと発表しました。*9
この決定は、インフレ再加速を警戒したものだと考えられます。
日銀の追加利上げによる金利差縮小で円高が進む可能性も
日銀は2013年から大規模な金融緩和を続けてきましたが、2024年3月にマイナス金利政策を解除し、同年7月には追加利上げを実施しました。
さらに、2025年1月には政策金利を0.5%程度に引き上げる追加の利上げを決定しており、日米の金利差は縮小傾向にあります。*10
トランプ政権の政策によりインフレ再加速が警戒されていますが、日銀の利上げとFRBの利下げによって日米金利差がさらに縮小すれば、円高米ドル安が進みやすくなるでしょう。
まとめ
円安円高の要因として、2国間の金利差や貿易収支、物価変動などが挙げられます。金融政策の違いから現在の日米金利差は縮小傾向にあるため、その要因だけで見れば今後は円高が進むかもしれません。一方で、トランプ政権の政策がインフレを再加速させ、円安につながるとの見方もあります。
為替相場は、さまざまな要因の影響を受けて変動するため、円安円高のどちらになるかを見極めるのは簡単ではありません。資産運用等で為替リスクに備えるためには、国内外の資産をバランスよく保有するなどの対策を検討しましょう。
*1 出所)三菱UFJ銀行「円高・円安とは?どっちがいい?メリット・デメリットや覚え方をわかりやすく解説!」
*2 出所)全国銀行協会「円高、円安がわかる!為替相場のしくみと影響」
*3 出所)三菱UFJeスマート証券「円高と円安、どっちがいい?わたしたちの生活や投資に与える影響」
*4 出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「外国為替の変動要因は?」
*5 出所)三菱UFJアセットマネジメント「投資環境ウィークリー2024年3月25日号」
*6 出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「貿易収支(ぼうえきしゅうし)」
*7 出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「インフレ」
*8 出所)三菱UFJ銀行「内外経済の見通し(2024年11月)」
*9 出所)三菱UFJアセットマネジメント「投資環境ウィークリー2025年2月3日号」
*10 出所)三菱UFJアセットマネジメント「投資環境ウィークリー2025年1月27日号」