ポイント
「今のうちに取っておくと良い資格って、何があるでしょうか」
先日、若い学生さんとの集まりで繰り返し、そんな事を聞かれることがあった。
質問そのものは別におかしなものではないが、しかしこれほどに回答に困る問いはない。
「どちらもです。コスパの良い意外な資格があれば、時間のあるうちに取っておきたいと思ってるんです」
こんな時、弁護士や公認会計士の資格の万能さを説いても、難しいからとまず聞く耳など持たれない。
かといって、第二種電気工事士の資格でエアコン工事に特化し独立、コスパよく儲かっている人の話をしても、参考にする学生などいない。
結局、資格を取る目的意識がズレていれば何を答えても刺さらないので、なんと言って良いのかわからないということだ。
かといって、簿記2級あたりを勧め「数字に強くなることがなによりも大事」などという、無意味なアドバイスをする気にもなれない。
そんなことで困っていると、彼の友人だという別の学生が会話に入ってきた。
それはそれで聞くべき意見なので、深堀りしてみる。
「すごいですね、親に買ってもらってるんですか?」
「いえ、バイトで買ってます。全然足りませんので、ローンもだいぶありますが」
聞けば彼は、ネットなどで中古の車やパソコン、スマホなどを買い、中には15%もの金利を支払っているまとまったローンもあるという。
少し背筋が寒くなり、さすがにそれはやりすぎなのではないかと聞くと、自信満々に答えた。
なるほど、そういうことか。
“コスパの良い資格はなんですか?”と聞く学生さんへの回答とあわせて、どう回答すれば良いのか。
少し方向性が見えたので、オジサンなりの考え方を少し話すことにした。
「給与」は「仕入れ」と考えろ
話は変わるが、学生にどう回答したのかを前に、少し共有したい出来事がある。
先の2名の学生を「浅はか」「無謀」と思う人も多いかもしれないが、しかしいい歳をした大人も、たいして変わらないという事実についてだ。
随分前だが、ある経営者と話していた時のこと。こんな話を切り出されることがあった。
「考え方はわかりますが、それはスーパーホワイトというものです。与信が皆無ですので、必要な時に必要な資金を調達することができません。客観的信用は、とても大事です」
「今のところ、手元資金だけで十分足りていますので。与信は不要です」
おそらくそのような考え方に賛同する人は、少なくないはずだ。
会社は無借金経営のほうが安全。
可能であれば住宅ローンなどに無駄な金利を支払うこと無く家を買いたい、という価値観である。
しかしこの考え方をしている限り、「付加価値を生み出すこと」も、「お金持ち」になることも難しい。
お金というのはそれだけで、文字通り資本になり、働いてくれる存在だからだ。
ではお金に“愛される”人は、どう考えるか。
「年利わずか0.5%で5,000万円も、住宅ローンを借りられるのか…。それなら5,000万円借りて、貯金の5,000万円は年利2%を見込める金融商品で運用した方が得じゃん」
実際にこの場合、住宅ローンの返済に必要な利息は年間25万円にもならないが、運用資産から得られる利益は100万円で、差し引き75万円/年もお金を生み出してくれる(税金など考慮外)。
金額が大きいのでピンとこないかもしれないが、住宅ローンの繰上返済だって同じことだ。
住宅ローンのような安い金利を上回る利回りが期待でき、元本割れのリスクもそれほど高くない金融商品も中には存在する。
であれば、100万円を繰上返済するよりもお金に働いてもらうほうが、お金の貯まりやすい発想ということである。
“お金持ちになるため”に付加価値を生み出してくれる資本は、多くの人にとって「お金」と「時間」しかない。
そして裕福な資産家の家に生まれたわけでもなく、会社勤めを選んだ人の場合、人生のスタートでは「時間」しか資本がない。
そのため時間を会社に売り、お金にする以外の選択肢は無い。
そのような中で、少しでも貯金を積み上げ、500万円でも1,000万円でも貯めることができればやっと、そこで「お金」という資本を手に入れられることになる。
「時間」でしか付加価値を生み出せなかった人生に「お金が生み出す運用利回り」が加わって、新しい選択肢をゲットできる。
だからこそ、「お金ってどう使ったら、手元資金を増やせるのだろう」という発想とセンスがとても大事になるということだ。
どんな商売だって、基本は仕入れよりも高く売ることで利ざやを稼ぐことだ。
そしてお金を運用するというのは、「仕入れたお金をより高く売る方法」を考えるということである。
ぜひ、人生の大事な時間を投資し仕入れた現金を、より高く売るという発想を大事にして欲しいと願っている。
余談だが、先程の経営者は今ではすっかりと宗旨替えし、銀行借入をフル活用した会社経営をしている。
先日会ったときには、そんな趣旨のことを話していた。
収益が見込める与信、すなわち借金は、「時間」と「お金」の両方をブーストしてくれる、とても心強い資本になる。
だからこそ、財務では自分(株主)のお金のことを「自己資本」といい、借入金のことを「他人資本」という。
(目次へ戻る)
“最高の投資”とは
話は冒頭の、学生との会話についてだ。
コスパの良い資格を教えて欲しいという学生。
今しかできない経験こそ、資格取得よりも大事だと考える学生。
その二人に、どのようなアドバイスをしたのか。
「まだ学生ですので、それがわからないんです」
「であれば今は、意味のある資格を取るのは難しいと思います。儲かるかどうかわからないけど株を買ってみよう、という発想に近いので、お金も時間も無駄になる可能性が高いと思います」
そして、自分の将来の進路を大まかにでもいいので定めて、目的から逆算して資格を考え、時間とお金を投資するようアドバイスする。
目的を伴わない資格は、使わないのにどんどん家に溜まっていく電動ドライバーや自動餅つき機のようなものであること。
安いからと言って、不要なものに時間とお金を投資することこそ不要であると伝えた。
もう一人の学生が、嬉しそうに口を挟む。
しかしそれも強い口調で否定した。
「でも、今しかできない想い出はお金を出しても買えませんし…」
「もちろん想い出は大事です。しかし多くの人にとって資本は、お金と時間しかありません。それを全ベットし、さらに借金をしても想い出を作ろうというのは、“今だけ”を言い訳にした浪費です」
そして先程の経営者の話を引き合いに、お金と時間は資本そのものであり、それをすべて消費に回している限り、絶対にお金は貯まらないこと。
15%の金利を回収できるような投資などそうそうあるものではなく、破滅的であること。
「限られたお金と時間をマネジメントし、付加価値を最大化する」
という意識で取得する資格を考え、また学生時代の有意義な時間を使ってくださいと伝え、話を切り上げた。
どこまで理解して貰えたかはわからないが、精一杯のことは話せたと思っている。
その上で、ここだけの話。
学生時代だからこそ許され、なおかつ投資効果が最も高い経験は、
「死ぬこと以外はかすり傷」
だと思っている。
15%もの破滅的なローンを抱えることはどうしようもない愚行だが、その経験から金利というものを学び、お金の使い方を学べるのであれば、それは最高の投資になる。
私自身、アルバイトで振り込まれた15万円をそのまま、パチンコ屋さんや友人との麻雀で溶かしたことは1度や2度ではない。
もう二度と、あんなことしてたまるものか。
失敗してもなんとかなることが若さの特権であり、そこからの学びこそが、最高の投資なのかもしれない。
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など
facebook :桃野泰徳