サーキットブレーカーは、金融市場における相場急変に対応するための措置です。2024年8月、日経平均株価が乱高下した際にサーキットブレーカーが発動されたことが話題になりました。
サーキットブレーカーはどんなときに発動され、どのような効果が期待できるのでしょうか。
この記事では、サーキットブレーカー制度の概要と過去の発動事例などを紹介します。
サーキットブレーカーとは
サーキットブレーカーとは、金融市場の相場急変時に証券取引所が取引を一時的に中断する措置です。投資家に冷静な判断を促し、市場の価格形成機能が働かなくなることを防ぐ目的があります。
ブラックマンデー(米国株式市場における史上最大規模の大暴落)をきっかけに、1987年にニューヨーク証券取引所が導入しました。1994年には日本でも導入されました。*1
サーキットブレーカーは、先物やオプションが一定の制限値幅に達した場合に発動されます。日経平均先物(日経225先物)やTOPIX先物では、前営業日比で上下8%に達すると一時的に取引が制限・中断される仕組みになっています。*2
なお、日本でサーキットブレーカーが発動されるのは先物・オプション取引のみです。一般的な株式の現物取引では適用されません。
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サーキットブレーカー制度の概要
サーキットブレーカー制度の概要は以下のとおりです。

出所)日本取引所グループ「制限値幅、サーキット・ブレーカー制度」をもとに三菱UFJアセットマネジメント作成
サーキットブレーカーが発動されると10分間以上取引が中断され、制限値幅を拡大して取引を再開します。制限値幅は、上限または下限のうち一方向に拡大します。日経平均先物やTOPIX先物の場合、拡大回数は各方向につき最大2回です。*2
一般的な株式投資では聞き慣れない用語がたくさんありますが、主な用語の意味は以下の表をご確認ください。

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日本のサーキットブレーカー発動事例
ここでは、日経平均先物でサーキットブレーカーが発動された過去の事例を紹介します。
2016年6月24日、イギリスのEU離脱の賛否を問う国民投票の影響で株価が急落したのを受けてサーキットブレーカーが発動されました。*7
2024年8月5日には、米国の景気減速懸念や円高の進行を受けて日経平均株価が全面安の展開となり、終値が4,000円を超える過去最大の下落幅を記録します。株価が急落したため、大阪証券取引所では約8年ぶりにサーキットブレーカーが発動されました。*7
翌日の2024年8月6日には、一転して値下がりした銘柄の買い戻しの動きが広がり、日経平均株価は終値が3,200円を超える過去最大の上げ幅を記録します。記録的な株価上昇を受けて、大阪証券取引所では再びサーキットブレーカーが発動されました。*7
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サーキットブレーカー以外の相場急変時の措置
サーキットブレーカーのほかにも、日本の証券取引所では相場急変時の措置として以下のような仕組みが用意されています。
ストップ高・ストップ安(ストップ配分)
取引所では、前日終値などを基準として1日の値動きの幅を一定に制限しています。この制限値段いっぱいまで価格が上がることを「ストップ高」、価格が下がることを「ストップ安」といいます。*8
ストップ高・ストップ安で当日の終値を決定する場合、注文状況によっては「ストップ配分」と呼ばれる方法で売買を成立させます。制限値段に発注している証券会社ごとに注文数量を合算し、注文数量の多い証券会社から1単位ずつ配分する仕組みです。*9
たとえば、1単位100株の銘柄に2,000株のストップ配分を行う際に、A証券5万株、B証券7万株、C証券6万株の注文が出ているとします。数量が多い順は「B証券→C証券→A証券」となるため、この順に100株ずつ配ると、A証券600株、B証券700株、C証券700株が割り当てられます。その株式をどの顧客に割り当てるかは、各証券会社の社内ルールによって異なります。*9
特別気配
東京証券取引所では、直前の価格と比較して一定の値幅の範囲内のときに限り、即時に次の売買を成立させています。その値幅のことを「気配の更新値幅」といい、直前の価格を基準に定められています。直前の価格から更新値幅を超えた場合は即時に売買を成立させず、「特別気配」を表示します。*10
たとえば、基準となる気配値段が1,000円以上1,500円未満の場合、特別気配の更新値幅は30円です。*11
直前の約定値段が1,000円で、その次の約定値段が1,050円(+50円)となってしまうときは特別気配を表示し、他の注文を呼び込みます。一瞬のうちに価格が大きく動くことがないため、投資家は発注タイミングを図ることが可能です。*10
特別気配を表示しても反対注文が入らず売買が成立しない場合は、3分間隔で特別気配を更新し、少しずつ売買が成立する値段に近づけていきます。*10
連続約定気配
上記の特別気配は「1,000円の次は1,500円で売買成立」のように、一度に大きく価格が変動することを防止する仕組みです。しかし、「1,020円→1,040円→1,060円」のように、連続的に売買が成立する場合には特別気配は表示されません。そのため、複数の売買注文などにより、瞬時に価格の急変動が発生する恐れがあります。*10
連続約定気配は、このようなケースでも価格の急変動を抑えるための仕組みです。直前の約定値段から更新値幅の2倍を超える水準で連続的に売買が成立する場合は、連続約定気配を1分間表示して反対注文を呼び込みます。*10
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まとめ
サーキットブレーカーは、金融市場の相場が急変したときに取引を一時的に制限・中断する制度です。投資家に冷静な判断を促し、市場を安定化させることを目的としています。
相場急変はいつ起こるかわかりません。万が一サーキットブレーカーが発動されても動揺せず、長期的な視点で資産形成に取り組むことが大切です。
*1 出所)三菱UFJeスマート証券「金融/証券用語集 暗黒の月曜日」
*2 出所)日本取引所グループ「制限値幅、サーキット・ブレーカー制度」
*3 出所)JPX「用語集 限月」
*4 出所)三菱UFJeスマート証券「中心限月」
*5 出所)三菱UFJモルガン・スタンレー証券「呼値(よびね)」
*6 出所)三菱UFJeスマート証券「株式約定の仕組み」
*7 出所)JPX「サーキット・ブレーカー発動情報」<PDF>
*8 出所)日本取引所グループ「ストップ高・ストップ安」
*9 出所)日本取引所グループ「ストップ配分」
*10 出所)日本取引所グループ「内国株の売買制度(売買成立の方法)」
*11 出所)日本取引所グループ「内国株の売買制度(特別気配の更新値幅)」