最低賃金はどうやって決まる? 最新改定額と遵守チェックのツールもご紹介

最低賃金はどうやって決まる? 最新改定額と遵守チェックのツールもご紹介

最低賃金は、毎年、改定額が決まると、メディアで大きく取り上げられ、注目を集めています。
最低賃金はどうやって決められているのでしょうか。
労働者の生活の安定を図るという目的以外にも他の目的があるのでしょうか。

最低賃金の種類と決め方、目的を解説し、最低賃金額に関する情報を提供します。また、あわせて自身の給与が最低賃金額以上かどうかを確認するツールをご紹介します。

最低賃金制度の種類と最低賃金額の決め方

まず、最低賃金制度の種類と最低賃金額の決め方を押さえていきましょう。

「最低賃金法」によって定められた制度

最低賃金制度とは、国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。

最低賃金制度は、「最低賃金法」という法律で定められています。
もし労働者・使用者双方の合意の上で、最低賃金額より低い賃金を定めても、それはこの法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。*1

「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」

最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります*2

まず、「地域別最低賃金」とは、産業や職種にかかわりなく、その都道府県の事業所で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。*2

「地域別最低賃金」は、正規雇用をはじめ、パートやアルバイト、臨時・嘱託といった雇用形態や呼び名に関係なく、また、国籍や年齢、性別にかかわりなく、外国人労働者も含めすべての労働者に適用されます。*3

使用者が「地域別最低賃金」を下回る賃金しか支払わなかった場合、使用者には上限50万円の罰金が課されます。

次に「特定(産業別)最低賃金」は、特定の産業について設定されている最低賃金です。
関係労使が基幹的労働者を対象として、「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定します。
2024年3月末現在で定められているのは、全国で224件です。*2

「特定(産業別)最低賃金」を定め、他の産業より高い水準の賃金を設定すれば、該当する企
業、産業の魅力を高めることができます。これは、労働力人口が減少を続ける日本にとって、
大変重要な施策です。*4

使用者が「特定(産業別)最低賃金」を下回る賃金しか支払わなかった場合、使用者には上限30万円の罰金が課されます。*4

最低賃金額の決め方

最低賃金の金額は、都道府県ごとに設置されている、最低賃金審議会による審議を経て毎年改定されます。 *5
最低賃金審議会は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成され、賃金の実態調査結果など各種統計資料を十分に参考にしながら審議を行っています。 *6

「地域別最低賃金」は以下のような要素を総合的に勘案して定めるものとされています。

  • 労働者の生計費
  • 労働者の賃金
  • 通常の事業の賃金支払能力

「労働者の生計費」を考慮するに当たっては、労働者が健康的で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護の関連施策との整合性に配慮することが求められています

また、「地域別最低賃金」は、全国的な整合性を図る必要があります。そこで、毎年、中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対し、金額改定のための引上げ額の目安が提示されます。地方最低賃金審議会はその目安を参考にしながら、地域の実情に応じた地域別最低賃金額の改正のための審議を行います(図1)。

図1【地域別最低賃金の決定フロー】
出所)厚生労働省「最低賃金の決め方は?

一方、「特定(産業別)最低賃金」は、関係労使の申し出に基づき、最低賃金審議会が必要と認めた場合、最低賃金審議会の調査審議を経て決定されます(図2)。

図2【特定(産業別)最低賃金の決定フロー】
出所)厚生労働省「最低賃金の決め方は?

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最低賃金制度の目的

最低賃金法では、第一条で最低賃金の目的を次のように定めています。*6

この法律は、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

ポイントを絞ってみていきましょう。

●「賃金の低廉な労働者」
「労働者の一般的賃金水準より相当低位にある労働者」を指します。最低賃金制度は、そのような労働者に賃金の最低額を保障することによって、賃金を上昇させ、労働条件を改善しようとするものです。

● 「労働力の質的向上」
最低賃金制の実施は、下記の理由によって「労働力の質的向上」が図られ、労働能力のすぐれた労働者を確保することに役立つとされています。

a.賃金が上昇することによって、優秀な労働者を雇い入れることが容易になる

b.労働者の生活が安定することによって、労働能率の増進がもたらされる

c.労働者の収入が増加することによって、不完全就業者(学歴や技能レベルが高いにもかかわらず、低賃金の仕事に就いている人 )が減少する

●「事業の公正な競争」
最低賃金制度は、賃金の不当な切下げや製品の買叩きを防止することによって、事業間の過当競争を排除することができます。また、最低賃金制の実施による企業の合理化は、事業間の公正競争を促進すると考えられています。

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2024年度の「地域別最低賃金」の改定額

ここでは、2024年度の「地域別最低賃金」の改定額についてみていきます。

改定額

中央最低賃金審議会は2024年7月、すべての都道府県で50円の引き上げを目安として答申しました。*7
この答申を参考に、各地方の最低賃金審議会で地域における賃金実態調査や参考人の意見などもふまえた調査・審議が行われ、8月中にすべての都道府県で改定額答申が出揃いました。

20都道府県が中央最低賃金審議会の目安と同額の50円引き上げを答申し、27県は目安を上回る引き上げを決めました。全国平均では、2023年度から51円増加して1,055円となり、過去最高額となりました。

改定額の最高は東京都の1,163円で、次いで神奈川県1,162円、大阪府1,114円などが続きます。今回の改定によりすべての地域が950円超えとなり、16都道府県が1,000円を超えました。*7

図3【2024年度地域別最低賃金額】
出所)連合「最低賃金

改定額に関する意見・評価

このような改正額をめぐっては、さまざまな意見があります。
物価高への対応や人材流出を抑えるために、地方を中心に大幅な引き上げになったことで、労働者側からは歓迎の声が上がる一方、経済団体の間では人件費の増大で経営への影響を懸念する声が出ています

「公労使の三者構成による審議会において、物価、賃金動向、企業の支払能力に関する客観的なデータに基づく議論がされた」という評価がある一方で、中小企業への影響を心配する声もあがっています。*7

「中小企業を圧迫するコストは増加する一方で、小規模な企業ほど価格転嫁ができず、賃上げ原資の確保が困難な状況」「企業規模や地域による格差は拡大しており、最低賃金をはじめとするコスト増に耐えかねた、地方の企業の廃業・倒産が増加する懸念がある」という意見です。

また、「賃金上昇は生活向上につながるものの、過度な引き上げは雇用の抑制を招き、むしろ
労働者の不利益になる恐れもある。国は、引き上げによる雇用への影響や労働者の待遇の変化について詳細に調査し、労使双方の実情をふまえた最低賃金を設定できるように努める必要がある」という指摘もあります。

最低賃金をクリアしているかチェックするツール

連合は、自身の賃金が最低賃金をクリアしているかどうかチェックするサイトを提供しています。*8

以下のURLにアクセスし、時給か月給かを選び、必要な数値を入力することでチェックすることができます。

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おわりに

最低賃金制度は、労働者の生活の安定を主な目的とした大切な制度です。ただし、その一方、最低賃金を引き上げることで中小企業への負担が増え、雇用が縮小するリスクも指摘されています。
経済状況や産業構造に応じた調整が必要であり、労働者の生活水準向上と経済の安定を両立させる取り組みが求められています。

*1 出所)厚生労働省「最低賃金とは?

*2 出所)厚生労働省「最低賃金の種類は?

*3 出所)連合「「地域別最低賃金」とは?

*4 出所)連合「特定(産業別)最低賃金とは?

*5 出所)連合「最低賃金

*6 出所)厚生労働省「最低賃金制度の意義・役割

*7 出所)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「全国平均は51円増の1,055円に、16都道府県が1,000円を超える ―2024年度の地域別最低賃金改定

*8 出所)連合「チェック!あなたの賃金、大丈夫? 〜最低賃金をクリアしてる?〜

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