2024年7月の金融政策決定会合において、日銀は追加利上げを決定しました。利上げは中央銀行の金融政策の1つで、政策金利を引き上げることを指します。今回の追加利上げによって、市場や家計にはどのような影響が出るのでしょうか。
この記事では、2024年7月の日銀による追加利上げの内容とその影響、今後の見通しについて解説します。
日銀は2024年7月に追加利上げを実施
2024年7月30日、31日に開催された金融政策決定会合において、日銀は政策金利の誘導目標を従来の0~0.1%程度から0.25%程度に引き上げることを決定しました。同年3月のマイナス金利解除に続く追加利上げとなります。*1
利上げを実施した後、さらに政策金利を引き上げる「追加利上げ」は2007年2月以来、0.25%程度という金利水準は2008年12月以来です。*2
日銀が追加利上げに踏み切った背景*3
今回の追加利上げについて、日銀の植田総裁は会合後の記者会見で「物価安定目標の持続的・安定的な実現という観点から、今回、政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整することが適切であると判断した」と説明しました。
また、利上げが適切と判断した背景として以下のような点を挙げています。
- 個人消費は物価上昇の影響などがみられるが、底堅く推移している
- 幅広い地域・業種・企業規模において、賃上げの動きが広がってきている
- ばらつきを伴いつつも、賃金上昇を販売価格に反映する動きが強まってきている
- これまでの為替円安もあって、輸入物価が再び上昇に転じており、物価の上振れリスクに注意する必要がある
このような状況を踏まえ、日銀が掲げる2%の物価安定目標の実現に近づいたと判断し、追加利上げに踏み切ったと考えられます。
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そもそも利上げとは?
利上げとは、各国の中央銀行(日本では日銀)が政策金利を引き上げることです。
政策金利は、景気や物価の安定など金融政策上の目的を達成するために、中央銀行が設定する短期金利(誘導目標金利)です。金融機関の預金金利や貸出金利などに影響を与えます。*4
一般的に、利上げは景気が良いときに実施されます。
引用)三菱UFJ銀行「利上げとはどのような政策?為替・株価・物価に与える影響とは?」
景気が良すぎると、過度なインフレが生じることがあります。インフレとは、モノやサービスの値段が継続的に上がることです。過度なインフレになった場合、中央銀行は政策金利を引き上げます。金融機関の貸出金利が上がり、企業や個人がお金を借りにくくなるため、景気や物価の安定につながります。
反対に景気が悪いときは、経済活動を活性化させるために、政策金利を引き下げる「利下げ」を行います。
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日銀の追加利上げによる市場への影響
日銀の追加利上げにより、株価や為替には次のような影響が出る可能性があります。
株価
一般的に、利上げの初期から中期の段階では、景気回復による企業業績の向上への期待感から株価は上昇しやすい傾向にあります。*4
しかし、利上げが続くとインフレによる消費の縮小、貸出金利の上昇による設備投資の縮小などを懸念し、利上げの最終段階では株価が下落しやすくなります。株式に投資する投資信託も、利上げは基準価額のマイナス要因となるでしょう。*4
為替
現在、日本より米国のほうが金利水準は高いです。したがって、今回の日本の利上げは日米金利差の縮小要因となります。日銀の追加利上げによって、円高ドル安が進行することがあるかもしれません。
ただし、為替は米国の金融政策にも左右されるため、FRB(米国の中央銀行)の動向にも注目する必要があります。
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日銀の追加利上げによる家計への影響
政策金利は住宅ローン金利や預金金利の基準となるため、日銀の追加利上げは家計にも影響を与える可能性があります。
住宅ローン金利*5
変動金利型の住宅ローンは、多くの金融機関で短期プライムレートをもとに金利を決めています。短期プライムレートとは、優良企業への1年未満の短期貸し出しにおける最優遇金利で、日銀の政策金利の影響を受けます。
今回の追加利上げにより、すでに短期プライムレートの引き上げを発表している金融機関もあるため、住宅ローンの変動金利が上がる可能性があります。通常、変動金利型は半年ごとに適用金利が見直されるので、金利上昇により毎月の返済額や総返済額が増えるかもしれません。
変動金利がどのタイミングでどれだけ上がるかは金融機関によって異なるため、事前に確認することが大切です。
預金金利
日銀が追加利上げを実施したことを受けて、大手銀行は2024年9月から普通預金金利を引き上げることを発表しました。
例えば、三菱UFJ銀行では、2024年9月2日から普通預金金利を従来の0.02%から0.10%に引き上げています。*6
普通預金金利が上がると受取利息が増えるため、家計にとってはメリットといえるでしょう。
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日銀の追加利上げに関する今後の見通しは?
日銀が追加利上げを決めた2024年7月の金融政策決定会合の後、植田総裁は記者会見で金融政策の先行きについて「経済・物価情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と述べています。*3
また、他の政策委員からは次のような意見が挙がっています。*7
- 足もとの物価を取り巻く環境を踏まえると、小幅な利上げを検討してもよい時期
- 2025年度後半の「物価安定の目標」実現を前提に、政策金利を中立金利(最低でも1%程度)まで引き上げていくべき
一部の政策委員からは利上げに慎重な意見も出ていますが、経済や物価が日銀の見通し通りに推移すれば、さらなる利上げが実施される可能性が高いといえるでしょう。
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まとめ
日銀は2024年7月に追加利上げを決定し、政策金利を0.25%程度に引き上げました。経済・物価情勢によっては、今後さらなる追加利上げが実施されることがあるかもしれません。
利上げは株価や為替、住宅ローン金利など私たちの生活に影響を与えるため、日銀の動向に注目しておきましょう。
*1 出所)日本銀行「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について(2024年7月31日)」P1<PDF>
*2 出所)三菱UFJアセットマネジメント「特別レポート2024年7月31日号」
*3 出所)日本銀行「総裁記者会見(2024年8月1日)」P3<PDF>
*4 出所)三菱UFJ銀行「政策金利」
*5 出所)知るぽると「住宅ローン」
*6 出所)三菱UFJ銀行「円預金金利及び短期プライムレートの改定について(2024年7月31日)」
*7 出所)日本銀行「金融政策決定会合における主な意見(2024年7月30、31日開催分)」P3<PDF>