ポイント
多くの人は、日本の銀行預金金利の低さに対してうんざりしているのではないでしょうか。
例えば、100万円を1年間預けても、得られるのはわずか数百円。
私の知人は、「バブルの頃の金利って、年間5%とか、6%もあったらしいですよ」と、恨めしそうに話します。
けれど、これは単に金利が低いという問題だけではなく、そこには経済や政策の複雑な背景が潜んでいます。
銀行の金利が低い理由
長年、日本銀行は超低金利政策を続けています。特に2016年から2024年3月までのマイナス金利政策は、経済の停滞に危機感を抱いた結果の施策でした。
これはデフレ対策として、資金を銀行に眠らせるのではなく、世の中に出して経済を回せ、という中央銀行からのメッセージでした。
銀行が日本銀行に資金を預けても手数料を取られる仕組みとなり、銀行は貸出に積極的になると目論んだわけです。
当然ながら結果として、一般の預金金利も低く抑えられることになりました。
実際、私自身も企業を運営する立場ですから、銀行からの借り入れを行っています。
借り入れをしてみて驚くのは、マイナス金利政策が解除された現在でも、企業が受けられる借り入れの金利は、住宅ローンよりも安いくらいなのです。
ただし、企業が受けられる恩恵とは裏腹に、普通預金の金利はほぼゼロですから、実質的にはこれは、「預貯金の金利」から、「企業」への富の移転とも取れます。
しかし。
そんな政策にも関わらず、日本の経済は長期にわたり低成長が続いています。
実際、OECDの見通しによれば、2024年度の経済成長率はG7で日本が唯一マイナスであり、世界全体の成長率3.2%、米国2.6%、中国4.9%と、大きく水を開けられています。
要するに、金利を下げれば、企業の投資意欲が膨らむというわけでもないのです。
あたりまえですよね。
儲かるあてもないのに、金を借りる阿呆はいません。
製造業を営む知人は「昔のように景気が良ければ新しい投資もできるが、私も歳だ。後継者も不安で、時代の先行きも不透明では、投資を積極的にするわけにはいかない」と語ります。
結局のところ、これは金利だけでどうにかなる問題ではなく、背景には、日本の人口減少や高齢化といった構造的な問題があります。
人口が減少し、経済の規模が縮小するなかで、企業は国内での成長が望めず、海外市場やデジタル技術の活用といった新たなビジネスモデルの構築を模索せざるを得ません。
しかし、多くの企業はその転換に苦慮しています。
十分に世界で戦うこともできていません。
「斜陽の国」での商売は、大きく発展を見込むというよりも、どうやって上手く手仕舞いをしていくかのほうが重要だと考えている経営者が多いのです。
高度成長を担った人々が老人となり、日本は世界の中で、どのような商売をしていくのかが問われている。
しかし、自動車をはじめとする機械産業に次ぐ、大きなビジネスはまだ生まれていません。
日本人は戦後、長い繁栄の時代を謳歌してきましたが、そのせいでリスクを取れなくなってしまったのかもしれません。
リスクを取らなくては新しい産業は生まれない。新しい産業が生まれなければ、資金需要も生まれない。その結果としてのデフレだったのだと思います。
デフレを解消するには、政府と企業が協力し、需要を喚起する政策が必要だ、賃上げや公共投資の拡大が必要だ、などという人もいます。
しかし、私はそうは思いません。
賃上げも、公共投資も、その源泉は「日本企業が世界で外貨を稼ぎ出せるか」にかかっているのです。
しかし、日本企業の影響力は世界で下がるばかり。
バブルの頃、世界の企業時価総額ランキングは上位に日本企業が名を連ねました。
現在では日本No.1であるトヨタ自動車が、かろうじて50位前後にあるのみ。
これでは投資意欲が膨らむわけもなく、したがって、預貯金の金利が上がるわけもないのです。
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過剰な貯蓄
しかし、そうだからと言って「日本が貧乏なのか」といえば、それは全く違います。
実際、世界の個人金融資産のランキング*1では、2022年時点では日本は世界で米国についで2位なのです。
要するに「稼ぎは少なくなったが、かなり金持ちの国。」それが日本です。
高度成長の時代に稼ぎまくった結果、貯金だけが膨らんでいる状態が現在の日本です。
実際、日本の家庭や企業は世界でも屈指の貯蓄率を誇っています。
「みんな貯金が好きだからねぇ」と、地元銀行の支店長は語っていました。
しかし、貯金はあくまでも「眠っているカネ」です。
よくお金は経済の血液に例えられますが、血液が循環しない、つまり貯蓄が消費や投資に回らない場合、経済は停滞します。
そこで政府が言い出したのが、
というスローガン。
政府は、NISAなどの投資に対する優遇措置を作り出すことで、お金を循環させる流れを作り出そうとしています。
ただ、その多くのお金は日本ではなく海外に流れていきましたが、一定の効果をあげています。
眠らせておくよりも、それを使って外貨を稼ぐほうが、日本全体に資するところが大きいので、これは悪くないことだと思います。
しかし、こうした優遇措置にも関わらず、日本人の金融資産の現金・預貯金率はまだ50%を超えており、米国の約12%とは大きく異なります。*2
これは本質的には日本人が未だにバブルの頃のマインドを引きずっており、「銀行に預けておいてノーリスクでお金が増えてほしい」と考えている、「リスクを取りたがらない人々である」ということの一つの現われではないかと思います。
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リスクとリターンは表裏一体
しかし、金融の世界ではリスクとリターンが表裏一体であることは、常識です。
銀行への預金という「ノーリスク」の状態で、それを増やせると考えることが、そもそも大きな間違いです。
これは、会社員が自分の給与が低いと感じるのと同じ構図です。
企業はよほどのことがなければ、従業員をクビにできません。
ですから、企業は安定した給与を提供する代わりに、給与を低く設定し、バランスを取っています。
日本人の平均年収は現在、400万円〜500万程度*3、トップオブトップの大企業で出世した社員でもせいぜい2,000万~3,000万円といったところでしょうが、リスクを取りたくなければ、その程度しか支払われないことは知っておくべきでしょう。
それ以上稼ぎたければ、自分で起業や副業をして、仕事に対する成果責任を負って、リスクを取るしかない。
日本には「貯蓄好き」に現れるように、リスクを避ける文化が根強く、投資や起業、副業に消極的な姿勢が見られます。
しかし、「何もしなければ何も得られない」のは、世の理です。
戦後、何もかも失った日本人はリスクを取って、新しい国を作りました。
いま、斜陽の国となった日本は、「新しい国造り」に向き合って、リスクを取れるのでしょうか。
私達の子供のために、そうできることを願っていますが、先行きはわかりません。