量子コンピュータには何ができる?金融サービスにもたらす変革・影響をわかりやすく解説

量子コンピュータには何ができる?金融サービスにもたらす変革・影響をわかりやすく解説

最近は、金融機関のビジネスモデルを劇的に変えうるテクノロジーが続々と登場しています。
量子コンピュータもその1つです。
日本では、政府が2022年4月、量子コンピュータを含む量子技術により目指すべき未来社会像とその実現に向けた戦略「量子未来社会ビジョン」をまとめました。*1
量子コンピュータは金融業界が直面する課題のいくつかを解決し、現在のサービスのあり方を変革する可能性があると考えられています。

金融業界では量子コンピュータをどのように活用しようとしているのでしょうか。
量子コンピュータが金融サービスにもたらす可能性について解説します。

量子コンピュータが注目される背景

量子コンピュータはそもそもどのようなものでしょうか。
また、なぜ金融サービスの分野で量子コンピュータの活用が注目されているのでしょうか。

量子コンピュータとは

量子コンピュータは、物質を構成する原子や電子などの「量子」の性質を利用して従来のコンピュータでは解けなかった問題を解くことが期待されるコンピュータです。*2

私たちが現在、日常的に利用している従来のコンピュータを「古典コンピュータ」と呼びます。
古典コンピュータの情報単位は「ビット」ですが、量子コンピュータの情報単位は「量子ビット」と呼ばれます。

「ビット」では、「0」「1」の状態の「どちらか」しか取ることはできませんが、「量子ビット」では量子力学の「重ね合わせの原理」を利用することで「0」「1」の「どちらも」取りながら計算を行うことができます。

「量子ビット」をn個集積させると2n通りの数字を「同時に」表すことができ、しかもそれを1回の計算ステップで扱うことができます。

したがって、古典コンピュータの「ビット」では膨大な計算ステップが必要な処理を、1回の計算ステップで処理することができるため、量子コンピュータは計算ステップを減らすことが可能なのです。*3

注目される背景

量子コンピュータが一般の人々からも注目を集めるようになったのは、21世紀に入ってからのことです。
現在、GoogleやIBMなどの巨大企業が研究開発を強力に推進する一方で、世界中でベンチャー企業が立ち上がり、日本企業も量子コンピュータの開発・利用に向けて動き出しています。
2019年10月にGoogleが行った実験によると、古典コンピュータでは1万年かかる計算処理を、まだ開発途中の量子コンピュータに計算させると、3分20秒で完了したと発表しています。*4
量子コンピュータは少ない消費電力で、短時間での計算処理ができる可能性をもっています。
ただし、今後、あらゆるコンピュータが量子コンピュータにすぐに置き換わるわけではありません。量子コンピュータにも得手不得手があり、今後は、古典コンピュータと組み合わせて活用する手法が発達していくと予測されています。

課題解決が期待されている分野

量子コンピュータは、どのような産業分野で課題解決が期待されているのでしょうか。
それは、創薬、材料開発、人工知能、金融などの産業分野で、これらの分野に大きなインパクトを与えると見込まれています。

金融分野での量子コンピュータの主な活用分野は以下のようなものです。

図1【量子コンピュータの主な活用分野】
出所)内閣府 MUFG 「MUFGの量子コンピュータへの取り組み」p.7

量子コンピュータの活用によって、金融機関のビジネスモデルを劇的に変えうるテクノロジーが続々と登場することが期待されています。
金融機関は、古典コンピュータでは不可能な処理能力の実現を目指して、量子コンピュータの可能性を探っています。

金融サービス領域での利用

量子技術の活用イメージは様々ですが、金融の分野においては、ポートフォリオ最適化、デリバティブ価格付け、リスク計算などを高速化できることが示されています。*5
それぞれについて具体的にみていきましょう。

ポートフォリオ最適化

「ポートフォリオ」とは、主に「金融商品の組み合わせ」を意味します。どの投資信託や株式の銘柄を購入するか、資産のうちどれくらいの割合を現預金で構成するかなどを決めることを
「ポートフォリオを組む」といいます。*6

量子コンピュータは、下記のリスク要因も考慮した最適な金融商品の組み合わせを高速に計算し、高速に売買することで最適な取引を実現できます。*7

デリバティブ価格付け

デリバティブの価格決定は、複雑で難しい計算が必要です。

デリバティブとは、金融商品のリスクを低下させたり、リスクを覚悟して高い収益性を追求したりする手法で、以下が代表的なものです。*8

  • 先物取引:将来の売買についてあらかじめ現時点で約束をする取引
  • オプション取引:将来売買する権利をあらかじめ売買する取引

量子コンピュータのデータ処理能力は、高い精度でこうしたデリバティブの評価調整モデルを提供します。

リスク計算

金融サービスにリスクをもたらす要因や状況は多種多様です。そのため、リスク分析のための計算は複雑で、分析を困難なものにしています。

量子コンピュータは、新たなリスク要因も考慮したリスク予測が可能になるであろうと期待されています。例えば、感染症への脆弱性や気候変動など異なる方法でデータ標本を抽出し、さまざまなタイプのシミュレーションを加速させることができるようになります。*5

各国の動向

量子・AIなどの先端基盤技術は、社会実装段階に入り、基礎研究のみならず、産業化に向けた投資が活発化してきています。
近年、海外政府も大規模な支援策を打ち出していますが、日本でも、戦略的な投資により、一定の優位性を確保した上で産業応用を進める可能性があります。

出所)経済産業省「事務局説明資料(イノベーション創出に向けた先端基盤技術(量子・AI)戦略について)」p.8

おわりに

量子コンピュータが古典コンピュータよりも高速に演算できるとされている数学的課題は、100前後とされています。なかでも量子コンピュータは、量子化学計算、機械学習、量子シミュレーションといった分野が得意です。
具体的には、新薬開発や新素材(材料)の開発、人工知能(機械学習)の深化、金融や災害対策シミュレーションといった分野ではある一定の効果が得られるとされています。
まだ発展途上ではありますが、量子コンピュータは金融サービス業界にもかつてないほどの変革をもたらすポテンシャルを秘めています。
既に多くの金融機関が量子技術の研究と実験を進めており、その進展は確実に将来の金融サービスのあり方を大きく変えるものになるでしょう。

*1 出所)経済産業省「政策特集活用!量子コンピュータ vol.1(量子コンピュータ、その凄さをイチから知っておこう)

*2 出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「用語集(量子コンピュータ)

*3 出所)三菱総合研究所 50周年記念サイト「量子コンピューター 第1回 量子力学の原理で動くコンピューターを使って、難問を解決する社会 量子コンピューターの何が「すごい」のか―従来のコンピューターとの違いとは

*4 出所)東証マネ部「スーパーコンピューターを超越する「量子コンピューター」って?

*5 出所)内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局「量子未来社会ビジョン

*6 出所)東京証券取引所 東証マネ部!「投資に必要なポートフォリオとは?意味や例をわかりやすく解説」(2023年12月3日)

*7 出所)経済産業省「事務局説明資料」p.11

*8 出所)金融広報中央委員会 知るぽると「1 デリバティブってなんだろう?

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