2024年1月から始まった新NISAをきっかけに、株式投資を始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、これから株式投資を始めたいと考えている方もいらっしゃるでしょう。
株式投資に先立っては、企業評価など投資判断が欠かせません。その際の判断材料のひとつに投資指標のEPSとPERがあります。
本記事では、EPSとPERについて、それぞれの計算式、指標からわかること、株価との関係性、投資判断の際の活用法と留意点を、基礎からわかりやすく解説します。
EPSの概要と計算式
まず、EPSの概要と計算式についてみていきましょう。
EPSとは
EPS(1株当たり純利益)とは、「Earnings Per Share」の略で、株式1株当たりの純利益を示しています。*1
「株式」とは、株式会社が発行する有価証券のことです。*2
会社を始めたり、新しい事業を始める際には、多くの場合はまとまった資金が必要になります。
その資金を調達するために、株式会社は「会社のオーナーの権利」を分割して有価証券として発行し、投資家向けに売り出します。
この有価証券が「株式」で、投資家が株式を購入するために支払ったお金が、企業の資金になります。
「当期純利益」とは、企業が1事業年度(通常は1年間)に上げた収益から、税金費用を含むすべての費用を差し引いた利益のことです。*1、「最終利益」「純利益」とも呼ばれます。
EPSは、企業を評価する際に使われる指標のひとつで、1株当たりの利益がどれだけあるのかを示すものです。
計算式
EPSを求める計算式は、以下のとおりです。*1
たとえば、当期純利益が3,600万円で、発行済株式総数が3万株の企業の場合はいくらになるのでしょうか。
EPS(円)は、当期純利益(3,600万円)÷ 発行済株式総数(3万株)ですから、1,200円です。
当期純利益が2,200万円で発行済株式総数が2万株の企業なら、2,200万円 ÷ 2万株ですから、EPSは1,100円となります。
EPSからわかること
EPSからわかることは、企業の稼ぐ力「収益力」と「成長性」の2つです。*1
EPSは企業の規模にかかわらず、1株当たりの利益の大きさを表すため、基本的に数値が高いほど企業の収益力も高い傾向があります。
また、同じ企業の当期EPSと前期以前のEPSを比較すれば、企業が順調に成長しているかどうかを判断することもできます。
EPSが伸びていれば、前期に比べて成長しているといえるでしょう。
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EPSを参考に投資判断を行う際の注意点
一般的に、EPSが高い企業は収益性が高く、低い企業は収益性も低い傾向にあるため、投資する際の判断に役立つ場合があります。
ただし、EPSを参考にして株式投資する場合には、以下の2点について注意が必要です。
EPSだけで収益性を判断しない
EPS単体で、企業の収益性を判断しないようにしましょう。
もちろん、EPSは収益性を把握する上で大切な指標ですが、収益性以外の要因で増減することもあるからです。
収益性以外の変動要因としては、たとえば、自社株買いで、計算式の分母にあたる発行済株式総数が減少した場合が挙げられます。
自社株買いとは、企業が自己資金で自社の発行済株式を買い戻すことです。*3
このような場合は、収益性に変化がなくても、EPSの数値は増加することになります。
また、株式分割によって、発行済株式総数が増加する場合も挙げられます。
株式分割とは、発行済みの株式を細分化することにより、株数をふやすことです。
例えば、100株を200株や300株などに分割した場合、発行済株式総数が増加します。このような場合には、収益性に変化がなくても、EPSの数値は減少することになります。
EPS成長率も確認すること
一年のEPSを確認するだけでなく、EPS成長率も必ずチェックしましょう。
EPS成長率とは、当期と前期のEPSを比較するための指標で、一般的に、プラスならその企業は成長していますが、マイナスなら後退しているといえます。
EPS成長率の計算式は、以下のとおりです。
たとえば、当期EPSが1,210円、前期EPSが1,100円の場合、EPS成長率は、
(1,210-1,100)÷ 1,100 × 100
ですから、10%となり、対象企業は成長していると判断できます。
一方、当期EPSが950円、前期EPSが1,000円の場合、EPS成長率は、
(950-1,000)÷ 1,000 × 100
で、-5%となり、対象企業が後退している可能性があります。
もちろん、前述の通り、発行済株式総数の増減によるEPSの変化があった場合には、それも考慮して比較する必要はありますが、EPS成長率も有益な判断材料になるため、チェックしましょう。
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PERの概要と株価
次に、PERについてみていきましょう。
PERとは
PERとは「Price Earnings Ratio」の略で、株価収益率を意味します。*4
株価がEPSの何倍になっているかを示し、利益に比べて現在の株価が割安か、割高か判断する際に役立つ指標です。ただし、何倍が妥当という水準を示すものではありません。投資先となる会社の過去のPERの動向を見たり、同業他社などと比較したりして、相対的な投資
計算式
PERの計算式は、以下のとおりです。*4
たとえば、株価が10,000円、EPSが1,000円の場合、PERは10倍です。
一般にPERが高いと利益に比べて株価が割高、低ければ割安であるといわれます。*5
株価
PERの計算式を利用すれば、株価を計算することができます。
株価の計算式は、以下のとおりです。*4
例えば、PERが15倍、EPSが1,000円の場合、株価はそれらを掛け合わせた15,000円です。
このように、株価とEPS・PERの関係は深く、EPSやPERの数字が株価に影響を及ぼすこともあります。
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PERを参考に投資判断を行う際の注意点
上でみたように、一般にPERが高いと利益に比べて株価が割高、低ければ割安であるといわれています。
ただし、PERは、何倍が妥当という絶対的な指標ではではありません。
PERを参考に投資判断を行う際の注意点を確認していきましょう。
その会社の過去のPERの動向をみる
適切な判断のためには、その会社の過去のPERの動向をみる必要があります。
PERが上昇傾向なら、将来価値が積極的に評価されているなどプラス要因がある可能性があります。反対に下降傾向であれば、”割安”というよりも”低く評価されている”ことを検討する必要があるでしょう。
個別の会社のPERでは、その推移を見ることで割安か割高かという判断材料の一つになります。
同業他社と比較する
同業他社と比較して、PERを相対的な投資尺度として活用することも大切です。
PERは、業種により高い業種と低い業種があり、何倍なら割高、何倍なら割安という絶対的な基準はありません。*6
そのため、企業を比較する場合には、同業種間で行うのが良いとされています。
今後の成長期待が高いほどPERは高くなる
一般的に、企業の今後の成長期待が高いほど、PERは高くなる傾向があります。
それは、さらなる株価上昇を期待して、たとえ割高でも買う投資家がいるためです。*6
会社の成長が今後も加速すると評価されると、足元の利益が変わらなくても、20倍、50倍とどんどん「評価倍率」が上がっていきます。*7
PERは、将来の実力を反映した「評価倍率」という側面があるのです。
また逆に、株価上昇への期待が低いことでPERが低くなることもあるため、PERの数値が低いからといって、売買で利益が見込めるとは限りません。*6
PERが高い理由、低い理由を確認することが大切です。
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おわりに
これまでみてきたように、EPSは収益性、PERは株価の割安性を測る企業評価の指標として、投資判断に役立ちます。
ただし、どちらも絶対的な指標ではありません。そのため、EPSやPERだけでなく、ROE(自己資本利益率)など、他の指標もチェックして、より包括的な投資判断をすることが推奨されています。
*1 出所)MUFG 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「用語解説>EPS(イー・ピー・エス)/1株当たり純利益(ひとかぶあたりじゅんりえき)」
*2 出所)MUFG 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「用語解説>株式(かぶしき)」
*3 出所)東京証券取引所 東証マネ部!「EPSとは?意味や計算方法(求め方)・株価との関係を紹介」(2023年12月10日)
*4 出所) MUFG 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「用語解説>PER(ピー・イー・アール)/株価収益率(かぶかしゅうえきりつ)」
*5 出所)日本証券業協会「投資入門」p.21
*6 出所)MUFG 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「用語解説>PER(ピー・イー・アール)/株価収益率(かぶかしゅうえきりつ)」
*7 出所)東京証券取引所 東証マネ部!「プロがわかりやすく教える! 日経記事でマネートレーニング」p.24