日本の経済物価情勢を把握するための重要な指標  日本銀行の「短観」とは?

日本の経済物価情勢を把握するための重要な指標  日本銀行の「短観」とは?

日本銀行の「短観(以下、「全国短観」ということがあります)」は統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査で、全国の企業動向が的確に把握できるため、国内外で広く利用されています。

「短観」の調査目的、調査方法、調査からわかること、意義などについてわかりやすく解説します。

「短観」の目的と特徴

「短観(タンカン)」は、正式名称を「全国企業短期経済観測調査」といい、統計法に基づいて日本銀行が行う統計調査です。*1

まず、その目的と調査方法についてみていきましょう。

目的

「短観」の目的は、「全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資すること」*2ですが、以下に示すような特徴から、日本の経済物価情勢を把握するための指標の1つとして、金融政策以外の分野でも広く活用されています。*3

特徴

調査内容の特徴は、経営環境に対する企業の見方を問う「判断項目」と、売上高や設備投資額、新卒採用者数などの定量的な「計数項目」をあわせて調査していることです。*3
また、これらの調査項目について、先行き予測を調査している点も大きな特徴といえます。

さらに、調査の歴史が長く、同一の調査項目に関して、長期にわたるデータが蓄積されていることも利用上の大きなメリットです。

そのため、そのときどきの景気実態や企業活動を「判断項目」と「計数項目」とを組み合わせて分析することもできますし、過去にあった類似局面と比較することもでき、ユーザー一人ひとりが目的に応じてさまざまに活用することができます。

「短観」は海外でも"TANKAN"の名称で広く知られ、利用されています。*1

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調査の種類と調査対象・調査項目

「短観」の調査には4つの種類があります。
種類ごとに、調査対象と調査項目をみていきましょう。

なお、以下の企業数は2023年2月時点のものですが、いずれの調査でも原則として2~3年に一度、調査対象が見直されています。*3

また、以下の「金融機関調査」「持株会社等に関する調査」「『海外での事業活動』に関する調査」はいずれも「全国短観」を補完する調査という位置づけで、対象の母集団のベースは、総務省「事業者母集団データベース」です。*3

「全国短観」

対象は、全国の資本金2千万円以上の民間企業、約21万社の中から、約9,200社を抽出しています。*3
31の業種(製造業17業種、非製造業14業種)と、大企業(資本金10億円以上)・中堅企業(同1億円以上10億円未満)・中小企業(同2千万円以上1億円未満)の3つの規模の、合計93の集計区分で公表しています。*3

全国短観調査項目は以下の4区分・26項目です。*2

  • 判断項目:業況、国内での製商品・サービス需給、海外での製商品需給、製商品在庫水準、製商品の流通在庫水準、生産・営業用設備、雇用人員、資金繰り、金融機関の貸出態度、CPの発行環境、借入金利水準、販売価格、仕入価格
  • 年度計画:売上高、輸出、為替レート(円/ドル)、為替レート(円/ユーロ)、経常利益、当期純利益、設備投資額、土地投資額、ソフトウェア投資額、研究開発投資額
    物価見通し:販売価格の見通し、物価全般の見通し
  • 新卒者採用状況:新卒採用者数(6月、12月調査のみ)

「金融機関調査」

2004年3月調査以降、行われている調査です。*3

対象は、全国の雇用者数10名以上の民間金融機関、約2,800社の中から、約300社を抽出しています。
この調査では「全国短観」のように、集計規模区分はありません。

金融機関調査項目は以下の3区分・8項目です。*2

  • 判断項目:業況、営業用設備、雇用人員
  • 年度計画:設備投資額、土地投資額、ソフトウェア投資額、研究開発投資額
  • 新卒者採用状況:新卒採用者数(6月、12月調査のみ)

「持株会社等に関する調査」

2020年6月調査以降、行われている調査です。*3

対象は、全国の資本金2千万円以上の「経営コンサルタント業、純粋持株会社」に属する民間企業、約1,600社の母集団の中から抽出し、調査対象企業数は、各調査回の公表資料に掲載しています。*2

持株会社等に関する調査項目は以下の1区分・4項目です。

  • 年度計画:設備投資額、土地投資額、ソフトウェア投資額、研究開発投資額

「『海外での事業活動』に関する調査」

「持株会社等に関する調査」と同じく、2020年6月調査以降、行われている調査です。*3

対象は、海外で事業活動を行っている全国の連結企業グループの最上位に当たる親会社のうち、資本金10億円以上の民間企業、約1,600社の母集団から抽出し、調査対象企業数は、各調査回の公表資料に掲載しています。*2

調査項目は以下の2区分・7項目です。

  • 年度計画:為替レート(円/ドル)、為替レート(円/ユーロ)
  • 海外関連項目:連結売上高、海外売上高、連結経常利益、連結設備投資額、海外での設備投資額

上のいずれの調査についても、調査対象に回答義務はありませんが、ほとんどの企業が回答し、回答を受けた内容については日本銀行が厳正に管理し、秘密を保護しています。*3

調査時期と公表時期

調査時期は毎年3月、6月、9月、12月で、公表時期は、毎年4月初旬、7月初旬、10月初旬、12月中旬に、3月、6月、9月、12月の調査結果を2回に分けて公表しています。*2

調査対象となる企業数が多いだけでなく、公表までの期間も短いため、企業経営者の景況感を示すリアルタイム性の高い指標として活用されています。*4

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D.I.(ディフュージョン・インデックス:Diffusion Index)とは

「短観」の指標の中で特に注目されているのが、「D.I.(業況判断指数)」です。*4
D.I.は、企業の業況感や設備、雇用人員の過不足などの各種判断を指数化したものです。*5
その算出方法とD.I.からわかることをみていきましょう。

D.I.の算出方法

D.I.は、各判断項目について3個の選択肢を用意し、選択肢毎の回答社数を単純集計し、全回答社数に対する「回答社数構成百分比」を算出した後、次のような式で算出しています。*5

D.I.=(第1選択肢の回答社数構成百分比)-(第3選択肢の回答社数構成百分比)

たとえば、企業の収益を中心とした業況について全般的な判断を問う質問では、

(1)良い、(2)さほど良くない、(3)悪い

の3つの選択肢があります。

「(1)良い」と回答した企業の割合が20%、「(3)悪い」と回答した企業の割合が25%だった場合、業況判断D.I.は、-5%ポイント(20%ー25%)となります。

D.I.をチェックして結果がプラスであれば、業況が「良い」と考える企業の方が「悪い」と考える企業より多いことになります。
一方、D.I.がマイナスであれば、業況が「悪い」と考えている企業の方が多いことを示しています。*4

実際の「短観」のD.I.

では、実際のD.I.はどのようになっているでしょうか。

以下の表1は、2024年3月調査による「短観」の「業況判断」です。*6

表1 2024年3月調査による「短観」の「業況判断」

表1【2024年3月調査による「短観」の「業況判断」】
出所)日本銀行「短観(概要)―2024年3月― 第200回 全国企業短期経済観測調査」(2024年4月)p.2

製造業のうち、大企業の業況判断D.I.は、11%ポイント(21%ー10%)、中堅企業は6%ポイント(22%ー16%)、中小企業は-1%ポイント(20%-21%)となっています。

それに対して、非製造業は、大企業が34%ポイント、中堅企業は20%ポイント、中小企業は13%ポイントで、製造業より景況感が良いことがわかります。

また、製造業も非製造業も、企業規模が大きいほど業況が「良い」と考えている企業が多いことがわかります。

D.I.は、業況判断のほか、製商品・サービス需給や在庫、価格、設備、雇用人員、資金繰りなどの判断項目についても作成されています。*5

業況判断D.I.の推移

「短観」には、業況判断D.I.の推移も載っています(図1)。*6

図1【業況判断D.I.の推移】
出所)日本銀行「短観(概要)―2024年3月― 第200回 全国企業短期経済観測調査」(2024年4月)p.10

図中のシャドーの部分は、景気後退期です。
図1をみると、景気後退期と業況判断D.I.とが概ね連動していることがわかります。

このように、D.I.をみれば、経営者の景況感やその変化を把握することができます。

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おわりに

企業の業況判断や設備投資、雇用状況などを定期的に調査し、その結果を公表する「短観」は、日本経済の現状と見通しを把握するための重要な指標です。
調査対象となる企業数も多く、企業経営者の景況感を示すリアルタイム性の高い指標として国内外から注目されています。また、大企業製造業の業況判断DIの注目度は高く、セクターごとの業績予想が株式の投資判断指標としても利用されています。

投資家にとっても有益な「短観」の情報に注目してみてはいかがでしょうか。

*1 出所)日本銀行「日本銀行について>「短観」とは何ですか?

*2 出所)日本銀行「短観(全国企業短期経済観測調査)解説」(2023年2月)p.1, p.2, p.3, p.4, p.5

*3 出所)日本銀行「「短観(全国企業短期経済観測調査)」のFAQ」(2023年2月)

*4 出所)東京証券取引所 東証マネ部「日銀短観とは年に4回日銀が発表する調査結果!注目される理由も解説」(2023年1月8日)

*5 出所)日本銀行「日本銀行について>短観で使われている「D.I.」とは何ですか?

*6 出所)日本銀行「短観(概要)―2024年3月― 第200回 全国企業短期経済観測調査」(2024年4月)p.2, p.10

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