デジタル資産の不公正取引を防止するために 国際組織の規制動向はどうなっている?

デジタル資産の不公正取引を防止するために 国際組織の規制動向はどうなっている?

暗号資産などのデジタル資産市場は基本的に拡大傾向にあります。
それに伴い、デジタル資産に関連した詐欺や不公正取引事案の件数も国際的に増加しています。

こうした状況下、市場の公平性と利用者の安全性を向上させるために、デジタル資産関連の不公正取引について、最近、さまざまな規制が策定されています。
国際組織による規制とは、どのようなものでしょうか。その動向を探ります。

デジタル資産・暗号資産とブロックチェーン

まず、デジタル資産の定義とデジタル資産に用いられているブロックチェ―ンについてみていきます。

デジタル資産と暗号資産

「デジタル資産」と「暗号資産」は、世界中でさまざまな意味で用いられています。*1

たとえば以下は、国際通貨基金(IMF)による定義です。*2

デジタル資産とは、その所有権がデジタル形式または電子化された形式で表される何らかの価値があるものを指す。

その特徴の1つが、ブロックチェーンの使用です。
また、デジタル資産にはビットコインなどの暗号資産(以前は「仮想通貨」と称されたもの)が含まれますが、暗号資産以外のものも含むという見解もあります。*1

※資金決済法の改正(令和2年5月1日施行)により、法令上、「仮想通貨」は「暗号資産」へ呼称変更されました。
https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index.html

本稿では、使用する資料に基づいて「デジタル資産」または「暗号資産」を用います。

ブロックチェーンの仕組み

デジタル資産で活用されるブロックチェーンは、ビットコインを支える基盤技術として利用されているものです。*3,4

従来、各企業・団体は、組織それぞれに独自の情報システムとしてデータベースを保有していました。そして外部のシステムと連携する場合は、特定の信頼できる第三者を「中央集権者」とし、そこに一元的にデータを集め、外からそのデータを利用するという形が一般的でした。*4

一方、ブロックチェーンを利用したデータ連携では、取引履歴(ブロック)が暗号技術によって1本の鎖をつなげる形で記録され、膨大な量の過去の取引データとともに時系列でつながっているため、事実上、改ざんは不可能といわれています。*4,5

また、複数のシステムがそれぞれ情報を保有し、常に同期・管理される仕組みであるため、一部のシステムが停止・故障しても、システム全体に与える影響を抑制することができます。*5

ブロックチェーンを活用すれば、インターネットのようなオープンなネットワーク上で、高い信頼性や機密性が求められる金融取引や重要データの送受信が、比較的低コストで可能になるのです。

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規制の背景

次に、デジタル資産の規制には、どのような背景があるのでしょうか。

デジタル資産市場の拡大と低迷

2008年10月にビットコインの構想が公表されて以来、デジタル資産市場は基本的には拡大傾向にありました。*6

ところが2022 年5月には、「ステーブルコイン」と自称していたTerraUSDの崩壊が起き、さらに同年11月には、大手暗号資産取引所FTXの破綻が生じました。
こうした事態を招いた経営陣の不正の影響を受けて、暗号資産市場に対する懸念が増し、暗号資産の価格は軒並み下落しました。

なお、ステーブルコインとは、法定通貨の値動きと連動させることや裏付け資産を持つなどにより、価格変動リスクを低減させた暗号資産のことです。*7

日本暗号資産取引業協会のレポートによると、2023年3月末時点で、世界に流通している暗号資産は約2.3万種類に上りますが、そのうち主要な銘柄の1暗号資産単位あたりの価格は、以下のように推移しています(図1・図2)。*8

図1【BTC(ビットコイン)・ETH(イーサリアム)の価格の推移】

図2【BCH(ビットコインキャッシュ)、LTC (ライトコイン)、MATIC(ポリゴン/マティック)、XRP(エックスアールピー)、ADA(カルダノ/エイダ)の価格の推移】
出所)一般社団法人日本暗号資産取引業協会「暗号資産取引についての年間報告2022年度(2022年4月~2023年3月)」p.6(上図)、p.7(下図)

価格の下落に伴い、2022年度末の時価総額も2021年度末に比べて減少しました。

市場の公正性向上のために

こうした状況の下、利用者が安全にデジタル資産関連のサービスやプロダクトを享受できるようにするためには、市場の公正性の向上が必要不可欠です。*6

そこで、デジタル資産を用いた不公正取引に関する国際的な規制が強化されることになったのです。
本稿ではそのうち、国際組織による規制の動向をみていきます。

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国際組織による規制の動き

国際組織の規制には、どのようなものがあるのでしょうか。

IMF-FSB統合報告書

2023年9月に「IMF-FSB統合報告書」がG20首脳会議に提出され、同年10月開催のG20財務大臣・中央銀行総裁会議で、同報告書内で提示されたロードマップが採択されました。*9

この報告書は、金融安定理事会(FSB)が金融安定の観点から、国際通貨基金(IMF)がマクロ経済の観点から報告書作成の作業にあたったものです。

報告書では、暗号資産やステーブルコインによるリスクに対処するためには、適切な規制・監督の枠組みがベースライン(最低基準)であること、G20メンバー国を超えて政策の枠組みを
整備することが重要であることが記されています。

ロードマップには以下の内容が盛り込まれ、今後それらの作業の実施を実効的に行うことが求められています。

  • 各国による規制枠組みの実施
  • 非G20メンバー国へのアウトリーチ
  • 国際協調・協力、情報共有
  • データギャップへの対処

暗号資産とグローバル・ステーブルコインに関するハイレベル勧告

2023年7月、FSBは「暗号資産とグローバル・ステーブルコインの規制・監督・監視に関するハイレベル勧告」を行いました。*9

この勧告には以下の2種類が含まれています。

  • CA勧告:暗号資産関連の活動・市場について、包括的でグローバルに整合性のとれた規制・監督を促進するために策定。金融システムの安定にリスクを及ぼしうる全ての暗号資産の活動、発行者、サービス提供者に適用される。
  • GSC勧告:潜在的にグローバル・ステーブルコインになりうる全てのステーブルコインに適用される。

それぞれの適用範囲は以下のように多岐にわたります。

表1【「ハイレベル勧告」の適用範囲】
出所)金融庁「事務局説明資料(国際的な規制動向)」p.4

今後のスケジュールとして、2024年末までにこうした規制の影響を検討し、追加的な政策策定作業が必要かどうかを評価、2025年末までに、FSB加盟国での勧告の実施状況を審査し、勧告のアップデートが必要かどうかの評価を行う予定です。

暗号資産・デジタル資産に関する勧告に係る市中協議

暗号資産市場内での市場の公正性・投資家保護に関する懸念に対処するため、IOSCO(証券監督者国際機構)は、「暗号資産活動に適用されるIOSCOの基準に係る18の政策勧告(CDA勧告)の市中協議案」を2023年5月に公表しました(最終報告書を同年11月に公表)。*9

そのポイントは以下の表2のとおりですが、表中のCASP(暗号資産サービス提供者)とは、暗号資産に関する広い範囲の活動を行う、サービス提供者のことです。*9

表2【CDA勧告の主なポイント】
出所)金融庁「事務局説明資料(国際的な規制動向)」p.5

分散型金融に関する勧告に係る市中協議

IOSCOは、2023年9月に「分散型金融に関する勧告」(DeFi勧告)の市中協議案を、2023年12月にその最終レポートを公表しました。*9

DeFiとは、ブロックチェーン技術を使って、銀行などの中央集権的な管理者・管理事業者を介さずに取引可能な金融の仕組みのことです。

この勧告案は、DeFi市場で提供される一般的な商品・サービスが、従来の金融市場で提供される商品・サービスと実質的に異なるものではなく、同じリスクや追加的なリスクが存在することを指摘した上で提示されました。*9

以下の表3はそのポイントをまとめたものです。

表3【DeFi勧告のポイント】
出所)金融庁「事務局説明資料(国際的な規制動向)」p.6

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おわりに

デジタル資産市場が拡大する中で増加している不公正取引や詐欺などの問題に対応するため、国際組織による規制が策定され、各国・地域でも法律による規制が行われるようになっています。デジタル資産を取引する場合には、規制の影響を受けることも想定して、充分な調査やリスク評価が必要です。将来に備えながら規制動向を注視していくことが、より一層重要になります。

*1 出所)日本証券業協会 久保田安彦「米国におけるデジタル資産・暗号資産と証券規制─わが国の不公正取引規制のあり方を検討するための予備的作業として─」p.55, p.62

*2 出所)IMF国際通貨基金「暗号資産を理解する」(ファイナンス&ディベロップメント | 2022年9月)p.14

*3 出所)金融庁「説明資料(デジタル・分散型金融を巡る動向と今後の課題)(金融審議会総会 2021年9月13日)」p.1

*4 出所)MUFG MUFJ信託銀行「ブロックチェーンで投資に新たな選択肢を〜デジタル証券プラットフォーム「Progmat(プログマ)」とは?~

*5 出所)一般社団法人全国銀行協会「教えて!暮らしと銀行>ブロックチェーンて何?

*6 出所)金融庁「デジタル資産を用いた不公正取引等に関する国際的な規制動向、法規制当局による執行事例、及びマーケットにおける課題の分析調査に関する報告書」 (2023年3月)p.7, p.8

*7 出所)JETRO「英政府、法定通貨担保型ステーブルコインに関する規制計画を発表

*8 出所)一般社団法人日本暗号資産取引業協会「暗号資産取引についての年間報告2022年度(2022年4月~2023年3月)」(2023年9月29日)p.3, p.6, p.7, p.8

*9 出所)金融庁「事務局説明資料(国際的な規制動向)」(2023年11月13日)p.3, p.4, p.5, p.6

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