成功例や失敗例は?デジタル地域通貨の仕組みとメリット

成功例や失敗例は?デジタル地域通貨の仕組みとメリット

「地域通貨」とは、日本円や米ドルのような法定通貨ではなく、特定の地域内やコミュニティに限って流通する通貨のことです。

日本では1990年代後半から2000年代前半に地域通貨発行ブームが起きましたが、発行・流通が停止した事例が多くみられました。

しかし現在は、従来の紙媒体に代わって、ブロックチェーンなどのデジタル技術を活用した、より利便性の高い地域通貨がデジタル地域通貨として登場し、再び注目を集めています。

デジタル地域通貨とは、どのような仕組みでどのようなメリットがあるのでしょうか。
成功事例の取り組みポイントも参照しながら、探っていきましょう。

地域通貨とは

まず、地域通貨の概要についてみていきます。

「地域通貨」の目的

地域通貨の目的は、都心などに集中しがちな資金を特定の地域内で流通させることで、地域経済・コミュニティの活性化をはかることです。

法定通貨との違い

法定通貨とは、国家によってその価値が保証され、法律によって強制通用力が付与されているため(額面価格での)決済手段として国内どこでも通用する通貨です。一方、地域通貨とは、特定の地域やコミュニティの中で限定的な範囲の決済手段としてのみ利用可能な通貨です。なお、地域通貨にもいろいろな種類があり、中には法定通貨と交換可能なものもあります。

また、発行主体も異なります。
法定通貨が中央銀行(日本円の場合は、日本銀行)なのに対して、地域通貨は地方自治体、NPO、一般企業、個人などが発行主体になるなど、さまざまです。

デジタル地域通貨のポテンシャル

次に、デジタル地域通貨の概要をみていきましょう。

注目される背景

上述のように、日本では1990年代後半から2000年代前半に地域通貨発行ブームが起き、多くの自治体で活用が進みました。
ところが、紙媒体で発行されていたため、大きな管理・維持コストがかかるだけでなく、不正利用の問題もあり、持続的な活用にはつながらない場合がほとんどでした

デジタル技術の活用

デジタル地域通貨では、2017年以降、ブロックチェーンの技術などを使って、スマートフォンで地域通貨のやりとりをする仕組みを導入するところが増えてきました。

デジタル技術が発展した現在では、その先端技術を活用すれば、管理・維持コストの低減や不正利用の防止が可能です。
そこで、デジタル地域通貨は地域活性化につながる施策として再度注目を集めることになりました。

また、デジタル地域通貨が再度注目を集めるようになった背景には、従来は自治体が発行するプレミアム付商品券(地域の需要喚起等を目的として、一定のプレミアム率が付与された商品券)は紙で発行されていましたが、その代替として、デジタル地域通貨の活用が広がっているという側面もあります。

デジタル地域通貨の形態

利用方法は、paypayやLINE Payに代表されるような「QRコード決済アプリ」とほぼ同様のものが主流です。

ユーザーはスマートフォンに専用アプリをインストールして、地域金融機関の窓口やコンビニのATM、専用のチャージ機などからデジタル地域通貨をチャージします。
決済するときは、加盟店が提示するQRコードをユーザーがアプリで読み取り、金額を入力してデジタル地域通貨で支払うという仕組みです。

そのため、地域の災害情報を受信できる機能や地域の自治体の行政ポイントと連携する機能など、ユニークな機能を専用アプリに搭載し、利便性を高めているデジタル地域通貨もあります。

成功事例

2017年12月、地域金融機関が「さるぼぼコイン」のサービスを開始しました。*1

「さるぼぼコイン」は、岐阜県高山市・飛騨市・白川村で使える電子通貨アプリで、デジタル地域通貨の発展例です。
その取り組みをみていきましょう。

サービスの特徴

サービスの目的は、域内経済の循環。飛騨市はスタート段階から積極的に応援し、さまざまな分野で活用を推進しています。(図1)

図1【さるぼぼコインの活用分野】
出所)内閣官房「デジタル田園都市国家構想>電子地域通貨「さるぼぼコイン」を活用した、行政サービスの向上及び地元企業の支援

アプリをダウンロードし、コインをチャージすれば、居酒屋や喫茶店、日々の買い物まで、飛騨地域の約2,000店舗の加盟店で利用できます。

その特徴は以下の4点です。

  1. 店舗にある2次元コードで簡単にキャッシュレス決済ができる
  2. ユーザー同士でコインを送り合える
  3. 信用組合の預金口座との連携や、ネット銀行ATMなどによって簡単にチャージできる
  4. チャージするとプレミアムポイントがつく

デジタル技術活用のメリット

デジタル技術を活用したメリットは以下のとおりです。*1

  • プレミアムポイント事業は、紙のプレミアム商品券と比べ発行コストが非常に低く、商品券の枚数を数える手間も省け、省力化が図られる。
  • 計画から実行までがデジタル上で完結するため早いスピードで進めることができる。
  • データ収集が容易で、利用データの分析や活用がしやすい。
  • さるぼぼコインアプリのプッシュ配信は、無料で使用でき、幅広いユーザーに届くため、宣伝効果が高い。
  • さるぼぼコインアプリのプラットフォームは、岐阜県が実施している「ぎふ旅コイン」に利用されているため、県全体の取組にも波及している。

成果をあげるためのポイント

さるぼぼコインの成果は以下の表1のとおりです。

表1【さるぼぼコインの成果】
出所)内閣官房「デジタル田園都市国家構想>電子地域通貨「さるぼぼコイン」を活用した、行政サービスの向上及び地元企業の支援

成果をあげることができたポイントは、地元企業が開発・運営をしているため地域への貢献度が高く、市民が恩恵を受けられるサービス、システムが行政サービスとして活用されています

行政側である飛騨市は電子通貨のサービスを開発コスト、運用コストなしで提供できます。
また、加盟店についても導入費用および月額使用料などは無料になっています。
一方、金融機関の信用組合は行政が活用することで、信頼を得ることができ、流通額の増加、新規顧客の獲得につながります。
このように、地域に根付く組織同士で相乗効果が生まれているのです。

加盟店の開拓やユーザーの獲得は普段から取引がある信用組合が実施するため、利用者が広がりやすく、お年寄りに対しても丁寧に説明するため、高齢者の利用も多くなっています。

おわりに

企業や自治体などが発行するデジタル地域通貨は、地域経済の活性化や地域住民のコミュニティ形成につながる可能性を持っています。地域通貨の導入や運用方法の難しさはあるものの、ブロックチェーン技術を活用した地域通貨プラットフォームが突破口となり、注目を集めています。このプラットフォームに、地域経済に関わる様々な企業や自治体が連携することで、様々な地域課題の解決に取り組んでいます。
自治体が住民に行政サービスを提供するエリアは、地域企業の顧客基盤と一致するため、さるぼぼコインのように官民が連携して運営にあたることが、成功の要素のようです。

今後は、こうした成功事例から得られる知見を活かし、より多くの地域でデジタル地域通貨が普及、発展していくことが期待されます。

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