厚生労働省が推進 人材育成の新たな仕組み「セルフ・キャリアドック」とは

厚生労働省が推進 人材育成の新たな仕組み「セルフ・キャリアドック」とは

厚生労働省が推進する「セルフ・キャリアドック」は、人材育成・支援を促進、実現するための新たな仕組みとして、人材に関する企業の課題に有益なソリューションをもたらすことが期待されています。

その仕組みの概要と意義、実施方法と手順、取り組み事例を通して明らかになったことについてみていきましょう。

「セルフ・キャリアドック」の定義と特徴

まず、セルフ・キャリアドックがどのようなものか見ていきます。

定義

厚生労働省はセルフ・キャリアドックを以下のように定義しています。

セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、また、そのための企業内の「仕組み」のことです。*1

特徴

セルフ・キャリアドックの特徴はどのようなものでしょうか。

従来の主な人材育成施策は、組織の視点に立ち、組織にとって必要なマインドやスキル、知識の獲得を目指すという方向性で行われてきました。*2

一方、セルフ・キャリアドックは、企業・組織の視点に加えて、従業員1人ひとりが主体性を発揮し、キャリア開発を実践することを重視、尊重するという特徴があります。*2

この仕組みでは、中長期的に、個々の従業員が自己のキャリアビジョンを描き、それを達成するために、職業生活の節目においての自己点検や実践に活用するための取り組みプロセスを提供します(図1)。

図1【セルフ・キャリアドック実施のイメージ】
出所)厚生労働省「セルフ・キャリアドック 普及拡大加速化事業 好事例集」p.6

背景と意義

次にセルフ・キャリアドック推進の背景と意義をみていきましょう。

現在はIT化の進展や国際競争の激化など、変化の激しい時代で、企業にもビジネスモデルや事業内容の大胆な変化が迫られています。
こうした状況下で、従業員が社会や組織の変化を先取りする形で変革に対応し、持てる能力を最大限に発揮していくためには、従業員が自らのキャリアについて立ち止まって考える「気づきの機会」が必要であると提言されています。*1

また、「職業能力開発促進法」にも、労働者が自発的に職業能力開発に努めるよう明記されています(第三条の三)。*3

また、同法律では、事業主に対して、労働者の自発的な職業能力開発のためにキャリアコンサルティングの機会を確保し、その際にはキャリアコンサルタントを有効に活用するように配慮することを求めています(第十条の三)*3

セルフ・キャリアドックはそれを実現していくための具体的な施策を反映した取り組みです。

導入目的と実施方法

セルフ・キャリアドックの導入目的や実施方法は、それぞれの企業が抱える人材育成上の方針や直面している課題によって異なります。

目的をより具体的に把握した上で、解決すべき主な課題別に実施方法をみていきましょう。

目的

上述のように、企業や人材によってさまざまな目的がありますが、どのようなパターンでも共通するのは、主に以下のような効果をねらったものです。*2

  1. 従業員にとって:自らのキャリア意識や仕事に対するモチベーションの向上とキャリア充実
  2. 企業にとって:人材の定着や活性化を通じた組織の活性化

実施方法

セルフ・キャリアドックでは、企業がその人材育成ビジョンや方針に基づいて、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施します。*4

特に重要な課題の解決に向けた実施方法には、以下のようなものがあります。*5

  1. 若手社員の離職率が高いという課題の解決に向けて
    若手社員に対して、キャリアプラン具体化のベースとなる、仕事への向き合い方・取り組む意欲などのマインドセットを構築するためのサポートをします。
    また、キャリアパス(キャリア形成の道筋)の可能性を明示することによってキャリアプラン作りを支援し、職場への定着や仕事への意欲向上を目指します。

  2. 育児・介護休業者の職場復帰率が低いという課題の解決に向けて
    育児・介護休業者が抱える不安を取り除き、仕事と家庭の両立を阻む課題の解決支援を行います。
    また、職場復帰のためのプランを作成して、職場復帰が円滑に行われるように配慮します。

  3. 中堅社員のモチベーションが下がっているという課題の解決に向けて
    モチベーションの維持・向上に向けて、キャリア充実に視点をシフトした対策が求められるようになってきています。
    中堅社員が自身の多様な能力を見直し、その能力を発揮することでモチベーションの維
    持・向上を図り、キャリア充実の実践度合いを把握できるよう一連の支援策を講じます。

  4. シニア社員の長い生涯キャリアの設計とその実践という課題の解決に向けて
    長い生涯キャリアを有意義に豊かに送るには、いくつになっても仕事で成長を実感し、充実感をもって仕事ができることが重要です。
    シニア社員の活性化と能力発揮を促す研修とキャリアコンサルティング面談を連動させた施策を提供することは、シニア社員のモチベーション維持・向上に向けた重要な活動です。

実施手順

具体的な手順は以下の図2のとおりです。

図2 【セルフ・キャリアドックの手順】
出所)厚生労働省「セルフ・キャリアドックで会社を元気にしましょう

取り組み事例を通して明らかになったこと

厚生労働省は「セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業」として、東京、大阪(2018年度から)、札幌、名古屋、福岡(2019年度から)の5都市を拠点とし、企業にセルフ・キャリアドック導入のための支援活動を開始しました。*2

この事業の好事例集によると、セルフ・キャリアドックを試行的に導入した企業の取り組みから、以下のようなことが明らかになりました。

  • セルフ・キャリアドックを導入するためには、関係部署や経営陣等の理解を促すために十分な時間的余裕を持って進める。まずは小規模で実施するなど、無理のない範囲から取り組みを始めてみるといった工夫も重要である。
  • キャリアコンサルティング面談は、不安を解消することだけでなく、自身の気持ちや考えを理解・整理することを通じて、やるべきことや今後のキャリアの方向性を見出すことにつながるなどの効果が得られている。
  • セルフ・キャリアドックは、社員自身にとって有益であるだけでなく、今後継続して実施することにより、企業の組織風土においても有益なものになると期待されている。
  • 経営陣から、転職を促すことにつながるのではないかと不安視する声も聞かれたが、試行実施の結果、いずれの企業においても、経営陣から概ね前向きな評価が得られた。

おわりに

これまで見てきたように、セルフ・キャリアドックは、企業ごとに効果的なタイミングで、多様なキャリア研修や、キャリアコンサルタントによるコンサルティングを従業員に提供します

そうした取り組みによって従業員の職場定着や働く意義の再認識が促進され、自発的なキャリア形成が可能になります。

また、企業にとっても人材育成上の課題や従業員のキャリアに対する意識が把握でき、それが生産性向上につながるという効果も期待されます。

セルフ・キャリアドックに関するさまざまな情報や新しい取り組み事例は、厚生労働省が運営する「キャリア形成・リスキリング支援センター」公式サイト*6で閲覧することができます。
企業の活性化のために活用してみてはいかがでしょうか。

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