為替変動リスクヘッジの方法とは 海外投資の初心者にもわかりやすく解説

為替変動リスクヘッジの方法とは 海外投資の初心者にもわかりやすく解説

2024年1月に新しいNISAが始まりました。それ以降、個人の資金がひと月に1兆円超、投資信託に流入し、そのうちの約8割が海外株で運用する投資信託への流入になっています。*1
個人投資家が投資できる外国証券は自由化が行われているため、特に制限はありません。*2
しかしながら、外国の金融商品への投資では「為替変動リスク」には注意が必要です。
そのリスクはどのようなもので、リスクの低減・回避のためのリスクヘッジとはどのような仕組みなのでしょうか。

為替変動リスクとは

為替変動リスクとは、為替相場の変動によって、米ドルやユーロ、豪ドルなど外貨建て資産の円換算額に損益が生じるリスクのことです。*3

為替相場と為替損益の関係

換金や償還(債券の所有者に対し、額面金額を払戻すこと)の際に購入時よりも為替が円安になっていれば、円での受取額が増え、為替差益を得られます。
しかし、逆に購入時よりも円高になっていると、円での受取額が減り、為替差損が生じることになります。

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為替相場と運用成果の例

例として、100万円を米ドルの外資建て資産に投資した場合の、為替と運用成果の関係をみてみましょう(図1)。

図1【100万円を米ドルに投資した場合の為替と運用成果】
出所)MUFG三菱モルガンスタンレー証券「外国債券投資のリスク

1米ドル=100円のとき、100万円は1万米ドルと交換できます。
仮に、円高になり1米ドルが80円のときに円に換えると、その1万米ドルは80万円に目減りしてしまい、20万円の為替差損が発生します。
一方、円安になって1米ドルが120円のときに円に換えると、1万米ドルは120万円になり、20万円の為替差益が生じます。

外貨建て資産への投資には、このような為替変動リスクがあります。

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為替変動リスクヘッジの手法

上述したように、外貨資産への投資では、為替リスクは避けて通れません。
為替リスクを取ることを望まない投資家は、為替変動リスクヘッジ(以下、「為替ヘッジ」)を行うことが一般的です。
それはどのようなものでしょうか。

為替ヘッジとは

為替ヘッジとは、外貨資産へ投資を行う際に、為替リスクを軽減することをいいます。
為替ヘッジは、一般的に「為替予約取引」を行います。これは将来の受け渡しレートを現時点で約束する取引のことです。
ただし、為替予約取引ではヘッジコストがかかることがあります。
一般的にヘッジコストは相手国との短期金利差(例えば、米ドル・円の場合、米国の短期金利と日本の短期金利の差)が反映されます。そのため、投資先が金利の高い国であればあるほど、為替ヘッジコストは高くなります。

為替予約取引

「為替予約取引」についてみていきましょう。
例えば、1米ドル=100円で為替予約取引を行った場合、将来のレートがどのような水準になっていても1米ドル=100円での交換が保証されます。

為替ヘッジのついた投資信託などは、外貨資産の買いと同時に為替予約取引における売り予約(外貨を円に交換する予約)を行うことが一般的です。

具体例を見てみましょう。「1米ドル=100円」のときに外貨建て資産を1万米ドル(100万円)購入し、同時に「1米ドル=100円」の為替予約取引(売り予約)を行うと、外貨建て資産の価値が購入時と変わらないとの前提で、損益は以下のようになります。(ヘッジコスト、税金・手数料除く)

このように円高になっても円安になっても、為替差益と為替損益は等価で相殺されるため、差し引き0円になります。

完全にはヘッジできない可能性

為替ヘッジは、為替リスクの大部分を抑えることが期待できますが、完全に無くせるわけではありません。
為替ヘッジのタイミングや市場の状況などの影響を受けるためです。
したがって、為替ヘッジありの商品であっても、円高によって損失をこうむる可能性があることには注意が必要です。

為替ヘッジにともなうコスト

前述の通り為替ヘッジには、外貨調達のためのコストがかかるケースがあります。
為替ヘッジでは、「現地通貨の短期金利」と「日本円の短期金利」の差がコストになります。短期金利とは、期間1年以内の取引に用いられる金利のことです。*4

投資先通貨の短期金利が日本円より高い場合、為替ヘッジを行うとその差額がコストとなり、そのコストを負担しなければなりません。

反対に、投資先通貨の短期金利が日本円より低ければ、収益(為替ヘッジプレミアム)を受け取ることができますが、現在のところ日本円より金利が低い通貨はあまりないため、為替ヘッジでプレミアムを受け取れるケースは少ないのが現状です。
特に高金利通貨ほど為替ヘッジのコストが重くなることに留意する必要があります。

円安の恩恵が限定的

円高になると海外資産の評価額が目減りしますが、反対に円安になると評価額が上昇します。
しかし、為替ヘッジは為替リスクの相殺を目指す取引のため、円高による資産の目減りを小さくできる代わりに、円安のメリットは期待できません。

したがって、為替ヘッジありの商品は、円安局面では為替ヘッジなしの商品よりも運用益が為替差益の分小さくなることを認識する必要があります。

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為替ヘッジ「あり」と「なし」ではどちらを選ぶ?

最後に、「為替ヘッジあり」と、「為替ヘッジなし」のどちらを選択すればいいのでしょうか。

「為替ヘッジあり」が向いている人の特徴は以下のとおりです。

  • 為替リスクを避けながら海外に投資したい場合
  • 当面円高だと予想される場合

為替変動リスクを完全になくせるわけではありませんが、為替ヘッジありの投資信託などでは為替変動の影響を小さくできます。また、しばらくは円高(他通貨安)が続く(為替ヘッジをしなければ為替差損が生じる)と考える人も為替ヘッジありが向いているでしょう。

次に、以下に該当する人は、「為替ヘッジなし」が向いています。

  • 為替差益の獲得を目指す場合
  • 為替ヘッジのコストをなくしたい人
  • 当面円安だと予想される場合

円安(他通貨高)局面で為替差益を得たい人、為替ヘッジコストを抑えて投資したい人は為替ヘッジなしが向いています。また、しばらくは円安(他通貨高)が続くと考えている人も為替ヘッジなしがいいでしょう。

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まとめ

海外資産での運用を検討する際には、為替変動リスクとリスクヘッジの仕組みを理解した上で、自分に合った商品の選択をすることが大切です。

*1 出所)東証マネ部「投資信託のトレンドが分かる!2024年3月 投資信託の資金フロー

*2 出所)日本証券業協会「個人投資家による外国証券取引について」(2019年7月16日)p.1

*3 出所)MUFG三菱モルガンスタンレー証券「用語解説 為替変動リスク

*4 出所)MUFG三菱モルガンスタンレー証券「用語解説 短期金利

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