社会課題の解決に貢献する「ソーシャルボンド」とは メリットや意義についても解説

社会課題の解決に貢献する「ソーシャルボンド」とは メリットや意義についても解説

「ソーシャルボンド」とは、その使途を社会的課題の解決に貢献するソーシャルプロジェクトに限定した債券のことです。
そのメリットは多く、グローバルでも国内市場でも、発行件数、発行額ともに急拡大しています。

ソーシャルボンドに関する国際標準指針「ソーシャルボンド原則」と、日本の特性も加味した実務的な指針「ソーシャルボンドガイドライン」に基づき、ソーシャルボンドについて解説します。

ソーシャルボンドの定義

まず、ソーシャルボンドの定義とはどのようなものでしょうか。
指針について押さえた上で、ソーシャルボンドの定義をみていきましょう。

ソーシャルボンドの指針

ソーシャルボンドについては、国際資本市場協会(ICMA)による唯一の国際標準「ソーシャルボンド原則」があり、度々改訂されています。
本稿ではそのうち、2024年3月末時点で最新の「ソーシャルボンド原則2023」(以下、「原則」)を参照します。

また、金融庁が日本の特性も考慮して2021年10月に策定した「ソーシャルボンドガイドライン」(以下、「ガイドライン」)とその関連資料もあわせて参照します。

社会課題の解決に特化

「ガイドライン」によると、ソーシャルボンドとは、「社会的課題の解決に貢献するソーシャルプロジェクトに資金使途を限定した債券」のことです。*1

「原則」はそれに加えて、以下のようなソーシャルボンドの「核となる4つの要素」に適合する債券であるとしています。*2

  1. 調達資金の使途
  2. プロジェクトの評価と選定のプロセス
  3. 調達資金の管理
  4. レポーティング

このうち、大変重要な調達資金の使途についてもう少し詳しくみていきましょう。

上述のように、調達資金はソーシャルプロジェクトのためだけに使われなくてはならず、そのことは証券に関わる法的書類に適切に記載されるべきことです。

ソーシャルプロジェクトは、特定の社会的課題への対処や軽減を目指すものであり、ポジティブな社会的成果の達成が求められます。

「ガイドライン」では、ソーシャルボンドの発行体は社会的な効果を適切な指標を用いて開示すべきと規定していますが、国内には開示事例の十分な蓄積がなく、参照できるような資料がありませんでした。*3
そこで、「ガイドライン」策定後、金融庁は関係府省庁と連携して指標集をつくり、公表しました。

その指標集では、社会課題とそれに関連するソーシャルプロジェクトの例を以下の表1のように示しています。

表1【ソーシャルボンドの使途となる社会課題・ソーシャルプロジェクトの例】
出所)金融庁「付属書4 ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標等の例」p.7

市場規模

ソーシャルボンドの市場規模は急速に拡大しています。
その状況を、背景とともにみていきましょう。

拡大の背景

2015年9月、国連持続可能な開発サミットで「持続的な開発目標(Sustainable Development Goals)」(以下「SDGs」)を掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。*1
また、同年12月には、COP21でパリ協定が採択されました。

この2つの合意によって、貧困・格差など、社会的課題や地球環境問題に対処しつつ持続可能な経済・社会を実現するための世界的な目標が示されました。

一方で、新型コロナウイルス感染症が拡大し、世界的に、人々の命や生活、尊厳に対する脅威が生じました。

2030年までにSDGsを達成し、持続可能な経済・社会を実現するためには、あらゆるステークホルダーが連携する必要があり、民間企業の果たす役割には大きな期待が寄せられています。

こうした状況を背景に、グローバルな債券市場において、ソーシャルボンドの発行が拡大しているのです。

世界の市場規模

日本証券業協会は、調達資金がSDGsに貢献する事業に充当される債券(グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドなど)を「SDGs債」と呼んでいます。*1
以下の図1は、SDGs債の世界的な発行額の推移を表しています。

図1【SDGs債の発行額の推移(世界)】
出所)金融庁「ソーシャルボンドガイドライン」p.3

この図から、ソーシャルボンドの2020年の発行額は、前年の約9.3倍に増え、1,669億ドルに増加しています。

国内の市場規模

次に国内市場をみてみましょう(図2)。

図2【日本国内で公募されたSDGs債の発行額・発行件数の推移】
出所)日本証券業協会「証券業界のSDGs SDGs債の発行状況

ソーシャルボンドは発行数も発行額もこの数年で急激に増加し、2023年のソーシャルボンド発行数は117件、発行額は2兆8,413億円に上っています。

メリット

ソーシャルボンドには、発行のメリット、投資のメリット、社会的なメリットがあります。
それぞれの内容を「ガイドライン」に沿ってみていきましょう。*1

発行のメリット

発行のメリットは以下の4点です。

1.サステナビリティ経営(持続可能な経営)の高度化
ソーシャルボンドへの取り組みを通じて、経営の手法やガバナンス体制が整備されるため、サステナビリティ経営の高度化につながる可能性がある。また、ソーシャルボンドに関する企業等の情報開示を踏まえて、投資家のエンゲージメントが実施されることが、サステナビリティ経営の高度化に好影響を与えることも考えられる。
こうしたことが、外部機関による発行体の ESG 評価の向上、また、中長期的には発行体の ESG リスク耐性の向上や企業価値自体の向上に資すると考えられる。

2.広範なステークホルダーからの支持の獲得
ソーシャルボンドへの取り組みを通じて、投資家への説明責任を果たしつつ、社会的課題の解決に向けた積極的な姿勢を示すことができるため、顧客・取引先等を含む広範なステークホルダーからの支持の獲得につながる可能性がある。

3.資金調達基盤の強化
ソーシャルボンドへの取り組みを通じて、投資家と強固な関係が構築されるため、ソーシャルボンド以外のファイナンスに関しても、資金調達手段の多様化及び資金調達基盤の強化につながる可能性がある。

4.より合理的な条件での資金調達の可能性
ソーシャルボンドへの取り組みによる上記のようなメリットを受けることにより、企業の市場評価が向上するため市場評価を踏まえた資金調達が可能になることが想定される。
ただし、ソーシャルボンドはまだ歴史が浅く、通常の債券発行と比べて有利な条件での資金調達が可能かどうかに関しては、統一した見解が存在するとは言い難い。

投資のメリット

投資のメリットは次の3点です。

1.ESG投資の一つとしての投資
機関投資家の中には、一定規模のESG投資(環境や社会に配慮して事業を行っていて、適切なガバナンスがなされている会社への投資)を行うことをコミットしている機関があります。このような機関投資家にとって、ソーシャルボンドは、そのコミットメントに明確に合致するものです。
また、このようなコミットメントを行っていない機関投資家にとっても、ソーシャルプロジェクトに積極的に資金を供給して支援を行っていることを示すことができるため、社会的な支持の獲得につながる可能性があります。

2. 投資を通じた投資利益と社会的なメリットの両立
社会的なメリットの追求それ自体に価値を見出して投資を行う投資家がいます。そのような投資家にとっては、ソーシャルボンドへの投資を通じ、債券投資による利益を得るとともに、社会的なメリットの実現を支援することができます。

3. 効果的なエンゲージメントの実施が可能なESG投資であること
ソーシャルボンドの資金使途は一定のソーシャルプロジェクトに限定され、資金の流れが可視化されます。そのため投資家は、その社会的な効果を見定めた上で投資意思決定を行うことができます。また、発行体から開示される社会的な効果等に関する非財務情報の分析・
評価を通じ、投資により生じる社会的な効果及びその大きさについて、効果的なエンゲージメントを実施することができます。

社会的なメリット

社会的なメリットは、以下の2点です。

1. ソーシャルプロジェクトを通じた社会的課題の解決への貢献
ソーシャルボンドの普及が進み、ソーシャルプロジェクトが推進されれば、社会的課題の解決に貢献でき、ポジティブな社会的効果をもたらすことになります。

2. 社会的投資に関する個人の啓発
ソーシャルボンドの普及によってソーシャルプロジェクトが広く推進されるようになれば、社会的課題に関する個人の啓発につながる可能性があります。
また、ソーシャルボンドへの関心の高まりが、社会改善につながる社会的投資への動機付けになる可能性もあります。

おわりに

ソーシャルボンドは社会課題の解決に貢献することから社会的な意義があり、発行体にも投資家にもメリットをもたらします。

グローバルでも国内市場においても急速に拡大しつつあるソーシャルボンドに、注目してみてはいかがでしょうか。


*1 出所)金融庁「ソーシャルボンドガイドライン」(2021年10月策定)pp.1-2, p.3, pp.10-12, p.13

*2 出所)国際資本市場協会(ICMA)「ソーシャルボンド原則2023」p.3, p.4

*3 出所)金融庁「ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標等の例示文書(指標集)について」p.1

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