投資価値の高い企業経営と資本コスト・ROEの関係は？伊藤レポートを元に詳しく解説

2024年2月22日、日経平均株価は34年ぶりに史上最高値を更新し、さらに同年3月4日には初めて4万円台に乗せました。^*1*2

2月下旬以降の株価上昇の一要因として、日本企業が市場の評価を意識して改革に取り組むという期待が高まっていることが挙げられます。

では、投資家に対し、企業が稼ぐ力や成長性を示すためには何が重要でしょうか。
東京証券取引所（以下、「東証」）は2024年2月、投資家が企業に期待している取組みのポイントと事例を公表しました。
ポイントの1つとして、資本コストやROEを意識した経営を挙げています。

本記事では、資本コストやROEの基本を押さえ、株式市場でのパフォーマンス向上や海外からの投資拡大につながるような、投資価値の高い企業経営のポイントを解説します。

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「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例の公表

ポイントと事例公表の経緯

東京証券取引所は2023年3月からプライム市場とスタンダード市場の全上場会社に対して、資本コストや株価を意識した経営を求めることを目的として、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しています。^*3

その結果、2023年末時点で、プライム市場上場会社の49％とスタンダード市場上場会社の19％が取組み状況を開示するなどの進展がみられました。

国内外の株主・投資者からは、こうした取組みがさらに進展することを期待する声が、また上
場会社からは、対応のポイントや事例の公表を求める声が、多く寄せられました。

そこで、東証は、中長期の企業価値向上を重視するアクティブファンド（特定の指数を上回る運用成績を目指す金融商品^*4）などの投資者を中心に、国内外の計90社超（国内約3割、海外約7割）と面談し、投資者が期待している取組みのポイントと事例をまとめました。

それが、2024年2月に公表された「投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例」（以下、「ポイントと事例」）です。^*5

この資料の公表は、上場会社が取り組みを検討する際の参考になるようにまとめられたものですが、投資家や株主にとっても、投資の際の参考になります。
資本コストとROEを中心に、その内容をみていきましょう。

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資本コストの捉え方

まず、資本コストについてみていきます。

資本コストとは

資本コストとは、企業が資金調達に要するコストです。^*6
具体的には、借り入れに対する利息や株式に対する配当の支払い、投資家からの株価上昇期待です。

利益が資本コストを上回れば、経営者は投資先としての自社の魅力を高め、資金調達を容易にすることができます。

こうした状況が生まれれば、株価が適切に上昇することが期待できることから、株式市場の活性化を図りたい東証が資本コストを重要視するようになったのは当然だという指摘があります。

資本コストの概念自体は目新しいものではありませんが、資本コストを念頭に置く上場企業は増加しています。

投資者の視点から資本コストを捉える

「ポイントと事例」では、資本コストを、自社の企業価値や市場評価の分析・評価や、中長期の企業価値向上に結びつけることを推奨しています。^*7
またそのために、株主や投資家に自社の資本コストの水準についてヒアリングし、建設的な対話を行うことを提唱しています。

資本コストを推計する手法として、多くの企業では「資本資産価格モデル（CAPM）」が利用されていますが、そのモデルによって算出された値は、あくまでも1つの推計値にすぎません。
東証がポイントとして指摘しているのは、「株主や投資者と企業との認識が揃っているか」です。
避けなければならないのは、以下の2点です。

一方、経営者に期待されているのは、以下のような方向性です。

このことは、投資家にとっても、資本コストに関して企業との共通認識が醸成されているかが投資の際の大切なポイントであることを示しています。

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ROE8%超だけでは十分ではない

次にROEについてみていきます。

ROEとは

ROEとは、「Return On Equity」の略で、自己資本利益率とも呼ばれます。^*7
株主が出資したお金を元手に、企業がどれだけの利益を上げたのかを数値化したもので、「企業がどれぐらい効率良くお金を稼いでいるか」を示す財務指標です。

ROEを求める計算式は以下のとおりです。^*8

「純利益」とは、会社が1事業年度の営業活動で株主全体にもたらした利益、「自己資本」とは株主が出資したお金など、返済する必要のない資産のことです。^*7

例えば、株主から集めた1億円を元手に企業が1事業年度（通常は1年間）活動し、最終的に5,000万円の利益を上げたとすると、ROEは、5,000万円÷1億円×100％＝50％となります。

ROE8％超の根拠と資本コスト

ROEが高い水準で推移していれば、その会社の収益性や成長性は有望で、株主への利益還元も期待できます。^*8
では、投資価値がある企業とは、ROEが何パーセントくらいなのでしょうか。

2014年に経済産業省が発表した「伊藤レポート」は、中長期的なROEの向上が企業価値向上に向けた原資となって、長期的な株主価値に結びつく「企業価値経営」を実現することが重要であると述べています。^*9

そして、ROEの水準を評価する際に最も重要な概念が上述の資本コストであり、価値創造企業とは長期的に資本コストを上回る利益を生む企業であるとの認識が重要だと述べています。
その最低ラインの水準として、8％を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきであるとしているのです。

「伊藤レポート」のプロジェクトが行った調査によると、グローバルな機関投資家が日本企
業に期待する資本コストの平均が7％超という結果が示され、ROEが8％を超えると、約9割のグローバル投資家が想定する資本コストを上回ることになるというのが、その根拠です。

日本のROE

伊藤レポートによってROEは注目を集め、日本の上場企業のROEは伊藤レポートが公表された2014年以降、上昇傾向にありましたが、欧米企業との格差はまだ存在しています（図1）。^*10

図1【日米欧上場企業のROEの推移】
経済産業省「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会（SX研究会） 資料5」p.8

2019年はコロナ禍の影響もあり、ROEは急落しました。
その後、2022年度のROEは9.4％になりましたが、2023年度のROEは9.0%と前年より低下したと予想されています。^*11

ROE8%超だけでは不十分

ただし、「ポイントと事例」は、ROEが8％を超えていても、それだけでは十分ではないと指
摘しています。^*5

資本収益性（総資本や自己資本と利益がどう関連しているのか）と市場評価を分析し、問題があったらその要因を検討することが必要だという指摘です。

また、ROEは業種や業態によって水準が異なること、会計上の要因で一時的に変動する可能性もあることから、他社との比較や時系列の分析も求められています。

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おわりに

投資家が企業の価値を評価する際には、資本コストやROEの分析が欠かせません。企業にとっては、これらの要素を意識して経営にあたり、また適切に分析して投資家にと対し有益な情報を提供することで、自社の投資価値を高めることが期待されています。