ポイント
フィンテックは、金融と先端情報技術とを結びつけたさまざまな革新的な動きを指し、経済活動の活性化、社会問題の解決に寄与することが期待されています。
2010年代前半に登場したフィンテックは、これまでさまざまな進化を遂げ、私たちの社会に浸透してきました。そして、フィンテック市場発展の第三の波といわれるのが、「グリーン・フィンテック」です。
グリーン・フィンテックは、これまでのフィンテックに「環境保護への貢献」という要素を加味したもので、経済目標の達成と同時に地球規模の課題である環境問題を解決していく新たな試みとして期待されています。
本記事ではフィンテック市場の変遷とグリーン・フィンテックの概要、ポテンシャルについて探ります。
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フィンテックの進化
まず、フィンテックの登場からこれまでの進化をみていきましょう。
フィンテックとは
そもそもフィンテックとはどのようなものでしょうか。
日本銀行は以下のように定義しています。*1
フィンテックは、特にIT企業と金融機関が連携・協働しながら多岐にわたった金融サービスを提供しています。*2
フィンテックの進化とグリーン・フィンテックの登場
フィンテックは米国のシリコンバレーで、2000年代前半に生まれました。*3
フィンテック市場の最初の数年間は、デジタル融資、デジタル決済ソリューション、デジタル資産管理などのカテゴリーを使った様々なサービスが提供されましたが、これらのカテゴリーは、既存の金融商品やサービスを単純にデジタル形式で再構成しただけでした。
その後、フィンテック市場発展の第二の波が訪れ、全く新しいデジタル金融商品やサービスが生まれました。
リーマンショックや金融危機を経て、インターネットやスマートフォン、AI、ビッグデータなどを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャーが次々と登場しました。スマートフォンの普及により、そういったサービスを利用するためのアプリを簡単に取得することが可能になったことから、革新的なサービスを利用する機会も増えてきました。*4
現在、この状況はさらに進化し、新しいタイプの商業アプリケーションが登場しました。それらはエンベデッド・ファイナンスと呼ばれ、フィンテック企業が既存の顧客基盤を持つ多くの企業とつながってビジネスを展開しておりフィンテック市場発展の第三の波といわれています。*5
そのなかで、これまでのビジネスの中で慣行的に存在してきた非効率性や環境負荷などを軽減・解消することで環境問題を解決することを目的としたデジタル金融商品・サービス群が、グリーン・フィンテックです。
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グリーン・フィンテックとは
では、グリーン・フィンテックとは具体的にどのようなものでしょうか。
定義
「グリーン・デジタル・ファイナンス・アライアンス(Green Digital Finance Alliance)」(以後、GDFA)と「スイス・グリーン・フィンテック・ネットワーク(Swiss Green Fintech Network)」(以後、「SGFN」)は、グリーン・フィンテックを牽引する組織です。
GDFAは、国連環境計画(UNEP)とアント・グループ(中国の金融関連大企業)により、世界経済フォーラムで発足した非営利財団です。*6
また、「スイス・グリーン・フィンテック・ネットワーク(Swiss Green Fintech Network)」は、「スイス国際金融事務局(SIF)」が後押しして、設立されたイニシアチブです。
2022年5月、GDFAとSGFNは、SIFの支援のもと、世界初のグリーン・フィンテック分類の最終版「Green Fintech Classification(グリーン・フィンテック分類)」を発表しました。*7
この報告書では、グリーン・フィンテックを以下のように定義しています。
グリーン・フィンテックは、環境問題のソリューションとして、新たにより高度なグリーン・ファイナンスを実現するか、あるいは既存の金融や資本の流れをよりグリーンな目的に合致させるものです。
背景
定義に記載されている「SDGs」は、持続可能でよりよい世界の実現を目指すために、2015年に国連で採択された17の国際目標です。*8
「誰一人とり残さない(leave no one behind)」という印象的なスローガンからも窺えるように、SDGsはこの世界に存在するあらゆる分野がその対象で、金融分野にもSDGs達成に向けて果たすべき役割があります。
そこで、投資においても環境や社会の要素を考慮することが重要であるという認識が高まり、「サステナブルな投資」の必要性が指摘されています。*9
また、投資する側だけでなく資金を調達する側にも、環境や社会の要素を考慮すると資金を集めやすいメリットがあり、多くのグリーンボンドが発行されました。*10, *11
しかし、サステナブル金融には、投資側と資金調達側の双方にコストがかさむという弱点があります。
例えば、企業の環境、社会、カバナンスの取り組みを評価して投資先を選択するESG投資では、投資先選定のために、財務諸表の分析や将来キャッシュフローの予測といった従来の作業に加えて、追加的な調査が必要です。
また、再生可能エネルギープロジェクトに資金供給するグリーンボンドでも、その発行体は一連の手続きの適格性を担保する事務やプロジェクト進捗の継続的開示をしなければならず、その手間がかかります。
そこでこの分野に、革新技術を活用したフィンテックを導入すれば、効率化と精度の向上が一気に進められるのではないかという期待が高まっているのです。
カテゴリー
次に、グリーン・フィンテックの分類をみていきましょう。
「グリーン・フィンテック分類」では、以下の表1のように、8つのカテゴリーにわたる分類体系が示されています。*7
表1 グリーン・フィンテックの分類
出所)Green Digital Finance Alliance, Swiss Green Fintech Network「「Green Fintech Classification」p.5
以下は、表1のカテゴリーを日本語に訳したものです。
- グリーン・デジタル決済・口座ソリューション
- グリーン・デジタル投資ソリューション
- デジタルESGデータと分析ソリューション
- グリーン・デジタル・クラウドファンディングとシンジケーション・プラットフォーム
- グリーン・デジタル・リスク分析とインシュアテック(革新技術を活用した保険)
- グリーン・デジタル預金・融資ソリューション
- グリーン・デジタル資産ソリューション
- グリーン・レグテック(革新技術を活用した規制)・ソリューション
「グリーン・フィンテック分類」には、カテゴリー別に、ユースケース(活用事例)やスタートアップの取り組み、データベースに関する解説が記載されています。
取り組み事例
国内でもグリーン・フィンテックの取り組みがみられます。
例えば、地方自治体と協定を締結し、次世代型クレジットカードを利用することによって地方の森林再生に貢献ができるクラブとクレジットカードを提供しているスタートアップがあり、MUFGも出資しています。*12, *13
このクレジットカードは、ふだんの買い物で利用するだけで、利用金額の一部が、アーティストやNPOなどの応援につながるものですが、そうした機能を森林再生に活用しているのです。
カードのユーザーの7割を占めるのは、10代・20代の学生や若年層。ユーザーによる貢献は、相当する苗木の本数に換算され、アプリ上でリアルタイムにチェックすることができます。また、カード利用による支援の返礼として、協定を結んでいる地方自治体と縁のある協賛企業やスポーツチームの様々な特典を受け取ることができます。
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おわりに
これまでみてきたように、グリーン・フィンテックは環境問題に対するソリューションと金融の発展を両立させる手段として大きなポテンシャルを秘めています。
グリーン・フィンテックを推進するEUや中国では、グリーン・フィンテックに関するデータの一元化・利活用の促進を図るなど、国家レベルの取り組みを進めています。
既にグローバルな潮流となったグリーン・フィンテック。国内の今後の動向に注目する必要がありそうです。 *14
*1 出所)日本銀行「日本銀行について QFinTech(フィンテック)とは何ですか?」
*2 出所)一般財団法人 日本銀行協会「教えて!くらしと銀行 Fintechって何?」
*3 出所)MUFG「MUFGレポート2016 Fintechを活用した取り組み」
*4 出所)日本銀行「決済システムレポート・フィンテック特集号 - 金融イノベーションとフィンテック -」
*5 出所)財務省「エンベデッド・ファイナンスとオルタナティブデータ市場の現在とこれから」
*6 出所)Green Digital Finance Alliance「About GDFA」
*7 出所)Green Digital Finance Alliance, Swiss Green Fintech Network「Green Fintech Classification」p.3, p.5
*8 出所)外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」p.2
*9 出所)MUFGファースト・センティア サステナブル投資研究所「今こそ行動を起こす時 SDGs達成のためにサステナブル投資が果たし得る役割」(2023年8月)p.5
*10 出所)環境省「グリーンボンドガイドライン」
*11 出所)環境省「グリーンファイナンス市場の動向について」
*12 出所)ナッジ株式会社「次世代型クレジットカード「Nudge」、キャッシュレスで森林再生に貢献できるクレジットカード誕生ー広島県東広島市入野財産区及び賀茂地方森林組合と協定締結」官民連携でグリーン・フィンテック推進」(2022年8月2日)
*13 出所)MUFG「ナッジ株式会社への出資について」(2022年10月12日)ナッジ株式会社への出資について | 三菱UFJイノベーション・パートナーズ (mufg.jp)
*14 出所)金融庁「イノベーション促進に向けた取組み」