国も活性化を後押し!拡大する宇宙ビジネス市場の現在地と将来の可能性は?

国も活性化を後押し!拡大する宇宙ビジネス市場の現在地と将来の可能性は?

2023年4月、月面探査に取り組む企業が、宇宙スタートアップとして国内初の株式上場を果たしました。
2000年代以降、スタートアップ企業が続々と宇宙ビジネスに参入し、日本の宇宙関連市場は急速に拡大しています

2023年6月に公表された「宇宙基本計画」には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)による民間への資金供給機能を強化し、民間企業を資金面で支えることが盛り込まれています。
その後、JAXAに10年間の「宇宙戦略基金」を創設し、国内の宇宙ビジネスの活性化を目指すことも閣議決定されました。

このように、官民双方にて大きな動きがある宇宙ビジネスですが、本記事ではその概況と市場動向、国の支援を概観し、今後を展望します。

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宇宙ビジネス産業の概況

まず、宇宙ビジネス産業は現在どのような状況にあるのかみていきましょう。

宇宙産業の市場規模

2021年における世界の宇宙産業市場は、前年比4.9%増の4,690億ドル(約64兆円)で、2016年から順調に拡大しており、2040年には1兆ドルに届くと推計されています。 *1
世界の宇宙ビジネス全体の市場規模は、2040年までに100兆円規模になると試算されているのです。*2

一方、日本は宇宙機器と宇宙ソリューションを合わせると、2020年に4兆円の市場規模でしたが、2030年代の早期までに2倍の8兆円に拡大することを目標としています。*3

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日本の宇宙関連スタートアップ企業

日本の宇宙産業を牽引しているのは、スタートアップです。2023年6月時点で日本の宇宙関連スタートアップ企業は50社を超え、わずか5年で約5倍に増えました。*1

2023年4月には、宇宙開発に取り組む企業が、宇宙関連スタートアップ企業として国内初の上場を果たしました。同社は月面着陸船など月面への輸送サービスの商用化を目指しています。*3,*4

NASAと契約し、宇宙空間におけるロボットの汎用作業に世界で初めて成功したスタートアップもあります。同社は、ISS(国際宇宙ステーション)で自社が開発したロボットアームを使い、太陽光パネルの組み立てなどを行う作業実験に成功しました。将来的には月面の都市建設にもこの技術を使用できるようになると見込んでいます。*1

人工衛星用地上アンテナのネットワーク化や設置支援サービスに取り組むスタートアップは、アンテナを設置・運用するための地上局サイトを開設しました。
同社は、人工衛星を使ったインターネット通信の普及や衛星データを活用した「超スマート社会」の実現をにらんでいます。

全軌道における軌道上サービスに専業で取り組む世界初の民間企業もあります。軌道上サービスとは、人工衛星への燃料補給や修理、軌道上で増加し続ける宇宙ゴミの低減・除去などのサービスを指し、宇宙のインフラともいえるものです。*5
同社はJAXAと契約し、軌道上サービスに関する実証事業に取り組んでいます。

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国の支援策

こうしたスタートアップを支援し、宇宙産業を活性化するために、国はさまざまな政策を打ち出しています。
それらの支援状況をみていきましょう。

支援の背景

世界的に宇宙活動が活発化している背景として、多くの国が宇宙開発を国の事業として強力に推進し、宇宙関連予算を増加させていることが挙げられます。*3
また、民間事業者が民間資金を活用し、技術革新と商業化を強力に推し進めている国も多くあります。
欧米では、政府が民間主導のプロジェクトを様々な形で支援しており、それが宇宙産業に対する民間投資の拡大につながっているのです。

今後、日本の宇宙産業分野の企業が国際市場でシェアを拡大していくためには、技術的優位性だけでなく、コスト競争力の獲得が必要となります。

こうした背景から、国は2023年6月に公表した「宇宙基本計画」で、先端技術開発力を強化するために、民間主導で産業界の投資を求めつつ、JAXAによって企業への技術開発支援を講じていくとしています。
また、スタートアップ企業に対しては中小企業向け支援制度を通じた支援を行うほか、政府系・民間ファンドや金融機関と連携し、効果的な支援を目指すとしています。

「中小企業イノベーション創出推進事業」

経済産業省は2023年7月、令和4年度補正予算「中小企業イノベーション創出推進事業」の公募を開始しました。*6
この事業の目的は、革新的な研究開発を行うスタートアップ等が社会実装に繋げるための技術を実証し、スタートアップの有する先端技術の社会実装の促進を図ることです。

この事業のテーマは6つありますが、そのうちの2つが宇宙産業関連です。
それらについてみていきましょう。

まず、「月面ランダー(月着陸船)の開発・運用実証」事業は、月面ランダー(月着陸船)の開発・運用技術が確立され、2030年頃までに民間事業者による年間2回程度の定期的な月面輸送機会が提供されることを目指しています。*7

2020年~2040年の世界の月輸送市場の累計規模は最大約14兆円(1,020億米ドル。139円/ドル換算)と見込まれています。そのうち日本が占める割合は約12%と予想されています。
民間需要の割合は2031~2040年に50%以上に拡大し、さらに非宇宙産業系企業が約4分の3を占めると予測されています。

「月面ランダー(月着陸船)の開発・運用実証」が成功すれば、年間500億円以上の月面輸送市場の創出につながる可能性があります。

このテーマで採択されたのは1社で、研究開発・製造に係る人件費や調達費、打上費等を含む最大120億円の補助を受けることになりました。*8

次に、「衛星リモートセンシングビジネス高度化実証」は、地球観測に関する事業です。*2
衛星データを利用した、防災・減災、国土強靱化、国・自治体や社会の課題解決、生産性向上などのベストプラクティス(成功事例)を目指します。

この事業は、衛星リモートセンシング分野の市場規模を、2020年の約6,000億円から2030年早期までに約1.2兆円規模に拡大するという目標の達成に寄与します。

このテーマで採択されたのは8社で、各社が最大約2億8千万円から41億円の補助を受けることが決まっています。*9

「宇宙戦略基金」

最後にご紹介するのは、JAXAに設ける「宇宙戦略基金」です。
政府は2023年11月に閣議決定した経済対策に、10年間にわたって使える、総額1兆円規模の基金を創設することを盛り込みました。*10

この基金は、民間企業・大学などによる複数年度にわたる宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を支援するためのもので、防衛省の宇宙分野における取り組みと連携し、政府全体として適切な支援を行うとしています。

この基金を活用した施策例は以下のようなものです。

  • JAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能の強化(内閣府、文部科学省、経済産業省、総務省)
  • 基幹ロケットの開発およびロケット打上げ能力の強化、人工衛星の研究開発等(文部科学省)
  • 月での有人活動等を行うアルテミス計画の推進(文部科学省)
  • 衛星開発・利用実証等の宇宙開発利用の加速推進(内閣府)
  • 高精度な位置・時刻情報の活用のための「準天頂衛星システムの開発加速等」(内閣府)

国はこうした施策によって、宇宙産業を成長産業にするための取り組みを、一体的に進めようとしています。

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おわりに

宇宙活動は従来、限られた先進国の政府が牽引していました。しかし、近年は60を超える国が人工衛星を保有し、多くの民間企業やスタートアップが参入しています。*11

宇宙活動の多様化や事業モデルの変化が急激に進み、それとともに急速に拡大しつつある宇宙産業市場は、さまざまなポテンシャルを秘めた市場といえるでしょう。

*1 出所)WORLD ECONOMIC FORUM(世界経済フォーラム)「勢い加速する日本の宇宙ビジネス」(2023年6月8日)

*2 経済産業省「中小企業イノベーション創出推進事業(フェーズ3)公募テーマ参考資料 提案テーマ名:衛星リモートセンシングビジネス高度化実証」p.7

*3 出所)内閣府「宇宙基本計画」(2023年6月13日)p.10, p.6, p.5, p.19

*4 出所)日本取引所グループ「新規上場会社情報

*5 出所)JAXA プレスリリース、記者会見等「アストロスケールとJAXA、衛星への燃料補給サービスに関するコンセプト共創活動を開始」(2022年12月7日)

*6 出所)経済産業省「令和4年度第2次補正予算「中小企業イノベーション創出推進事業」の公募について」(2023年7月14日)

*7 出所)経済産業省「中小企業イノベーション創出推進事業(フェーズ3)公募テーマ参考資料 提案テーマ名:月面ランダーの開発・運用実証」p.11, p.7

*8 出所)経済産業省「中小企業イノベーション創出推進事業 採択事業者一覧テーマA(月面ランダーの開発・運用実証)

*9 出所)経済産業省「中小企業イノベーション創出推進事業 採択事業者一覧テーマB(衛星リモートセンシングビジネス高度化実証)

*10 出所)内閣府「デフレ完全脱却のための総合経済対策 ~日本経済の新たなステージにむけて~」 (2023年11月2日)pp.29-30

*11 出所)首相官邸ホームページ「新分野 (医療、農業・食品、宇宙)

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