スタートアップ界の課題、ジェンダーダイバーシティとは どんな問題がある?

スタートアップ界の課題、ジェンダーダイバーシティとは どんな問題がある?

現在は国によるスタートアップへの支援等が拡大しており、既に上場している企業に対するジェンダーダイバーシティの改善については多くの施策があります。ジェンダーとは、社会的・文化的な性差の意味で、ダイバーシティとは人々の多様性を指す言葉です。
ここではスタートアップにおける女性活躍の状況を確認していきます。

新規上場に占める女性社長比率はわずか2%と、独立・起業に占める女性の割合や全国の企業に占める女性社長比率に比べると、非常に低い割合です。*1

一方、ジェンダーダイバーシティの向上が社会面のみならず経済面でもメリットがあることが示されており、スタートアップにおけるジェンダーダイバーシティの課題を解決することは、経済的な観点からも重要であると指摘されています。*1

問題のありか

金融庁は、職員による自主的な政策提案の枠組みである「政策オープンラボ」(以下、「ラボ」)を設置しています。*2
当ラボの目的は、職員の新たな発想やアイデアを積極的に取り入れ、新規性・独自性のある政策立案へとつなげること。

「ラボ」では、19名の個別ヒアリングや53名が参加したワークショップでの対話、「ラボ」によるデータ作成や文献調査に基づき、2022年、「スタートアップエコシステムのジェンダーダーバーシティ課題解決に向けた提案」(以後、「報告書」)を公表しました。*1

「報告書」には何が書かれているのでしょうか。

日本の上場企業におけるジェンダーダイバーシティの状況

資金調達に至る企業や新規上場企業の創業者・社長に占める女性の割合はごくわずかです(図1)。

図1【資金調達・上場プロセスにおける男女格差】
出所)金融庁政策オープンラボ「スタートアップエコシステムの ジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案」p.5

独立・起業における女性の割合は34.2%、全国の企業に占める女性社長比率は14.2%です。
一方、ベンチャーキャピタル(将来的に成長が見込まれる未上場のベンチャー企業に投資を行う専門の会社やファンド、以後「VC」)のうち女性が代表を務める企業数はわずか1%、資金調達上位50社の調達額のうち、創業者か社長に女性が含まれる企業が手にした調達額は調達額全体の2%、新規上場企業に占める女性社長の比率も同じく2%と、著しい男女格差があることがわかります。

それは、そもそも女性が自らの成長を望んでいないからではないかという意見もあります。しかし、「ラボ」が資金調達を実施した、あるいは目指す女性起業家やキャピタリスト(VCの投資担当者)、起業の支援を行う人など、スタートアップエコシステムに関わる計19名を対象に実施したヒアリング調査によって、自らの成長を望む女性が存在するにもかかわらず、さまざまな困難に直面しているという実態が把握できました。*1

しかもこうした課題は日本だけでなく、世界的な傾向です(図2)。

図2【世界的にみられる上場企業におけるジェンダーダイバーシティの欠如】
出所)金融庁政策オープンラボ「スタートアップエコシステムの ジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案」p.8

図2は、左から、新規公開企業、ユニコーン(10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業)、フィンテック、「Russell 3000」(米国株式市場)、「STOXX 600」(欧州株式市場)、「Fortune 500」、「Health Tech」(AIやIoT、ウェアラブルデバイスなどさまざまなデジタル技術を組み合わせて、医療分野の課題を解決する企業や技術)、「Health Care」(ヘルスケア関連の商品やサービスを提供する企業)、米国スタートアップにおけるCEOの男女比を示したものです。
上場企業における著しい男女格差は、日本だけではなくグローバルな問題となっています。

背景

こうした状況の背景には、VCや起業家ネットワークにおける男性偏重、事業評価における男女格差など、さまざまな問題が存在します。*1

「ラボ」は、上述のヒアリング調査から、こうした現象には以下の図3のような構造的な背景があると指摘しています。

図3【ジェンダー格差の背景にあるさまざまな問題】
出所)金融庁政策オープンラボ「スタートアップエコシステムの ジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案」p.12

「報告書」では、多くの問題は相互に密接に関連しているとして、次のような例を挙げています。

1) ネットワーク内に女性起業家が少ない → 2)経営に対するアドバイスがあまり受けられない → 3)スケール(拡大・成長)に向けた事業推進が実施されない → 4)女性起業家への支援や投資が少ないまま → 1)にループ、といったような負の連鎖が生じています。

課題解決の重要性

こうした状況がある一方で、ジェンダーダイバーシティの向上は社会面だけでなく経済面でもメリットがある可能性が示されています。*1

女性が関係する事業は、男性だけによるものと比較してより高い業績を示しているのです。
たとえば、女性創業者のいる企業は、男性創業者のみの企業への投資よりも63%高いパフォーマンスを示し、女性が創業したスタートアップの方が長期的には業績がよく、女性パートナー採用の割合を10%増やしたVCは、毎年ファンドリターンが1.5%増加したという研究結果があります。*1

したがって、事業創出が男性偏重となっていることで、収益への影響や多様性の欠如による様々な損失が存在している可能性があるのです。

行動すべきはマジョリティ側

「報告書」は、これまでの仕組みを変えていくために特に行動すべきなのは、女性起業家(マイノリティ)ではなく、その周辺の人たち(マジョリティ)であり、マジョリティの方から行動を変えていくことが重要だ。と指摘しています。*1

図4【女性起業家を取り巻くステークホルダー】
出所)金融庁政策オープンラボ「スタートアップエコシステムの ジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案」p.16

「ラボ」が行ったワークショップでは、多くのグループが、起業家やVCコミュニティへのアクセスを確保することが必要であり、また、可能な範囲での 個別支援(メンター、スポンサー、コーチングの実施等)を行うことが重要であると述べました。*1

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スタートアップの女性起業家が果たす役割

スタートアップの女性起業家は、組織の多様性につながり、男性偏重では見逃されてきた新たな事業機会の発掘や社会課題解決につながるなど、様々なメリットが期待されています。*1

「報告書」は、スタートアップへの支援が拡大する中で、現在の延長線上での支援の枠組みが続けば、これまでの構造が温存されたまま拡大していくばかりか、偏る可能性が高いと警鐘を鳴らしています。

スタートアップエコシステムにおけるジェンダーダイバーシティ課題解決に向けて、投資家も含めたスタートアップエコシステム全体でこの問題に取組む必要があるでしょう。

*1 出所)金融庁政策オープンラボ「スタートアップエコシステムの ジェンダーダイバーシティ課題解決に向けた提案」(2022年7月)

*2 出所)金融庁「政策オープンラボの取組

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