世界初の「GX経済移行債」とは その概要と特徴を確認しよう

世界初の「GX経済移行債」とは その概要と特徴を確認しよう

政府は脱炭素政策の資金を集めるため世界初の「GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債」を発行することを決定しました。
「GX経済移行債」の資金の使い道は、脱炭素事業に限定されますが、欧州の「グリーンボンド国債」とは異なった特徴があります。

「GX経済移行債」とはどのようなもので、通常の国債や欧州の「グリーンボンド国債」とはどこが違うのでしょうか。

「GX経済移行債」とは

2023年6月30日、「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」が施行されました。*1
この法律に明記されているのが、「GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)」です。
その概要と特徴をみていきましょう。

概要

政府はGX推進戦略の実現に向けた先行投資を支援するため、2023年度から2032年度までの10年間、「GX経済移行債」を発行。
規模は10年間のトータルで20兆円。初年度は0.5兆円ですが、これに2022年度第2次補正予算で先行的に措置した1.1兆円の借換債を合わせれば1.6兆円となります。*2

使途はエネルギー・原材料の脱炭素化、収益性向上などに有益な革新的な技術開発・設備投資への支援です。
償還(投資家への返還)は化石燃料賦課金・特定事業者負担金からで、2050年度までに行います。*2

償還に充てる化学燃料賦課金とは、化石燃料輸入事業者などに対して、輸入などによる化石燃料由来のCO2排出量に応じた賦課金を、2028年度から徴収するものです。
また、特定事業者負担金とは、2033年度から発電事業者に対して、政府が一部有償でCO2排出枠を割り当てるもので、その量に応じて特定事業者負担金を徴収します。*2

「世界初」の発行

「GX経済移行債」の特徴は、それが通常の国債でもグリーンボンド(環境債)でもなく、トランジションボンド(移行債)である点です。

日本国内では企業によるトランジションボンドの発行が急速に増えてきています。
国によるトランジションボンドの発行は、これまで世界で前例がありませんでした。*3
海外ではグリーンボンド国債が多く発行されています。
では、このトランジションボンドは通常の国債や海外のグリーンボンド国債とはどこが違うのでしょうか。
「GX経済移行債」の特徴をより詳しくみていきましょう。

普通国債との違い

国債とは国が発行する債券です。
債券とは、国や企業などが資金調達のために発行する借用証書のようなものです。
保有期間中は定期的に利子を受け取れ、デフォルトがなければ、満期(償還時)になると元本(額面金額)が戻ってくるのが基本的な仕組みで、利率や償還期日は発行時に決められています。

国債の発行は、法律で定められた発行根拠に基づいて行われており、大別すると普通国債と
財政投融資特別会計国債(財投債)に区分されます。*4

普通国債はさらに、4種類に区分されますが、それらの利払いや償還の財源は主に税金です。一方、「GX経済移行債」の償還財源は上述のように化石燃料賦課金と特定事業者負担金なので、まずここが違います。

また、普通国債のうち「建設国債」は、公共事業、出資金、貸付金の財源を調達するためと「財政法第四条第一項ただし書き」に明記されており、その発行収入金は一般会計の歳入の一部となります。*5

一方、「GX経済移行債」を定めた「GX推進法」の「第三章 第七条」には、「財政法第四条第一項の規定にかかわらず」、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する施策に要する費用の財源」と書いてあります。*1

「GX経済移行債」と「建設国債」とでは、発行収入金の使途も異なります。

「GX経済移行債」の導入に向けて、政府は新たな法律を成立・施行し、使途や償還の財源が異なる、特別な国債を設けたのです。

グリーンボンド国債との違い

海外ではグリーンボンド国債の発行が一般的です。*6

グリーンボンドとは、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境改善への取り組みに資金使途を限定した債券を指し、上場企業だけでなく、非上場企業や公的団体も発行可能です。*7
グリーンボンドには、国際的な基準「グリーンボンド原則」(以降、「GBP」)があり、その事務局は、金融機関等による国際団体「国際資本市場協会」(以降、「ICMA」)が担っています。*8

トランジションボンドとは

トランジションボンドとは、二酸化炭素排出量などの観点からGBPの発行基準を満たさないものの、発行収入を低炭素経済社会に転換するためのプロジェクトの資金として使うものを指します。*9

トランジションボンドの意義

脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーなどのグリーン投資の推進に加え、排出削減が困難なセクターにおける低炭素化に向けた取り組みなど、脱炭素への移行(トランジシ ョン)に向けた取り組みに対する十分な資金提供が重要です。

そこで、気候変動リスクへの対策を検討している企業が、脱炭素社会の実現に向けて、長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取り組みを行っている場合に、その取り組みを支援することを目的とした金融手法が「トランジションファイナンス」です。
「トランジション・ファイナンス」は、調達した資金の充当対象のみでは判断されず、資金調達者の戦略や実践に対する信頼性を重ね合わせて判断されます。そのため、資金調達者に求められている四要素を満たすことで、グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ボンド等の一部も「トランジション・ファイナンス」の一種となります。*10

4要素

GBP同様、「トランジションファイナンス」にも、ICMAハンドブックによって以下のような4要素が定められています。*11

出所)経済産業省「トランジション・ファイナンス

ここで重要視されるのが、脱炭素に向けた企業のトランジション戦略で、その戦略が科学的
根拠に基づいたものであることを示す必要があります。また、その戦略の実践に対する、信頼性や透明性も総合的に判断されます。

「GX経済移行債」発行に向けて、このようなICMAの基準に準拠した、新たな形での発行が検討されています。*2

おわりに

GX(グリーントランスフォーメーション)実現のために、政府は官民協調による150兆円の投資の実現を目指しています。

トランジション市場は現在黎明期にあり、民間での資金供給に向けた整備が急がれますが、2022年国内調達額は、トランジションボンドが約4,200億円、「トランジション・ファイナンス」全体では1兆円に上り、市場は急激に拡大しています。*2

この「GX経済移行債」が民間投資のきっかけになるのか、今後の動向を注視する必要がありそうです。

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