国債格付け S&Pとムーディーズは何をする会社?

国債格付け S&Pとムーディーズは何をする会社?

投資において比較的安全な資産とされる国債ですが、長期間にわたって金融緩和が続く日本においては利回りが低く投資対象資産としてはあまり魅力がない、というイメージがあるかもしれません。
しかし、世界の国債に目を向けてみると、利回りの高い国債もあり日本の国債に対するイメージとは異なった魅力が見えてくるかもしれません。

今回は、世界の国債に投資をする上で押さえておきたい「国債格付け」をテーマに、基本的なところから丁寧に解説していきますので、国債格付けについてしっかり理解を深めていきましょう。

国債の概要

まず最初に、「そもそも国債とは何か?」という基本的なところについて解説していきます。

国が発行する債券

国債は国が発行する債券で、国が資金調達をする仕組みのひとつです。*1
国は国債を発行したときに購入者から購入金額を受け取り、一定期間ごとに所定の利息を支払ったのち、満期が来ると元本(額面金額)を返済します。

投資家の立場からすると、購入した国債を保有していると金利を受け取り、満期になると額面金額を受け取ることができます。
ちなみに満期が到来する前に、途中売却で換金したり、中途償還等により返済されることもあります。

満期まで保有すれば元本は返済されますが、国債を発行しているのが国(政府)であってもこれまでにも利息の支払いが一時的に滞ることはありました。ただし、その場合でもその国自体が破綻することはほとんどなく、元本はなんらかの形で返済されてきました。
このような点から、一般的に企業が発行する債券(社債)に比べると、国債の安全性は高いとされています。

国債にもリスクはある?

一般的に安全資産とされる国債ですが、全ての国債が100%安全というわけではありません。
国債を発行して借金している国が経済的に苦しい状況になり、元本や利息の返済が遅れる、またはできなくなる「信用リスク」はゼロではありません。

例えば、アルゼンチンは過去に何度もデフォルト(債務不履行)を起こした国として有名で、最近でもデフォルトの可能性が話題になっています。*2
また実際に発生するかは別として、米国のデフォルトに関するニュースも耳にしたことがあるでしょう。

こういった事例からも、国債に投資する上では信用リスクについて十分に考慮することが重要であることがわかります。
この信用リスクを評価するに当たって参考となるのが、次に紹介する「国債格付け」です。

国債格付けの役割

国債格付けとは、格付け機関が国債の信用リスクを評価して、その国が発行した国債の返済能力を示す評価のことです。
格付け機関は、各国の経済状況や財政状況、政治状況などを総合的に分析して、国債の信用リスクを評価し、投資家に情報を提供しています。

なお、国債の利回りは信用リスクと深く関わっており、信用リスクが高ければ利回りは高くなる傾向があります。
これは信用リスクの高い国債ほど信用リスクの低い国債に比べて相対的に高い利回りを要求されるためです。

簡単にまとめると、一般的には国債は安全資産とされていますが、国債によってはその国の状況等により債務の返済が滞る信用リスクが存在します。
国債格付けはこの信用リスクを評価するツールであり、国債への投資を考える上でその格付けは非常に参考になります。

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格付け機関とその役割

ここでは、国債の格付け業務を行っている以下の2大格付け機関を紹介していきます。

  • S&P(スタンダード&プアーズ)
  • ムーディーズ

それぞれについて、会社概要と格付の評価内容を見ていきましょう。

S&P(スタンダード&プアーズ)

S&P(スタンダート&プアーズ)グローバル・レーティングは、米国を拠点とする世界有数の格付け機関です。
国債や社債の発行体や証券などに、100万件以上の信用格付けを付与しています。*3

S&Pは、以下の表のような形で格付け評価を行っています。

出所)S&P「S&Pの格付け定義等 - 長期発行体格付け(2023年6月9日付)」p.6

S&Pの格付け評価はAAAが最上位の格付けで、AA→A→BBBと格付けが下がっていきますが、いずれも返済能力があるとされています。
BB~CCになると、返済能力に脆弱性があり投機的要素が大きいという位置付けです。
さらに下位のSD・Dは、債務不履行が発生していると判断される状態です。

なお、AA~CCCの評価レベルにおいては、それぞれのカテゴリーの中における相対的な信用力の高さを示す「+」または「-」の符号が付加されることがあります
例えばA+であれば、「Aのカテゴリーに分類されるが、カテゴリーの中では相対的に信用力が高い」という意味です。

ムーディーズ

ムーディーズは、100年以上の歴史を持つ米国を拠点とする格付け機関です。*4
1世紀以上の経験に基づいて信用リスクを評価し、投資家に有用な情報を提供しています。

ムーディーズは、以下の表のような形で格付け評価を行っています。

出所)ムーディーズ「格付スケール

ムーディーズの格付はAaaが最上位の格付けで、Aa→A→Baaと格付けが下がっていき、いずれも信用力は高いと判断されています。
BB以下になると、信用力が低く投機的と判断される位置付けです。
Cは最も低い格付で、通常は債務不履行に陥っている状態と考えられます。

なお、Aa~Caaの評価レベルにおいては、各カテゴリーにおける位置付けを意味する「1(上位)」「2(中位)」「3(下位)」の符号が付加されます。
例えばA1であれば、「Aのカテゴリーの中で上位に位置する」という意味です。

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国債格付けの活用事例

国債格付けは、各国の経済状況を理解し投資判断に活用するための重要なツールです。
ここからは、国債格付けの活用方法や注意点について詳しく解説していきます。

世界各国の国債格付け

ここではS&Pとムーディーズによる世界各国の国債格付け(長期・自国通貨建て)を、表で比較してみましょう。

出所)各種資料をもとに三菱UFJ国際投信作成(2023年5月31日時点)

表を見てみると、国債格付けは国によって意外と大きく異なることが分かるのではないでしょうか。
この表の中で大まかな評価順に並べてみると、ドイツ≧米国 > 日本 > ブラジル > インドとなっています。

ドイツの国債格付けは、S&PでAAA(安定的)、ムーディーズでAaa(安定的)となっています。
これに対して、ブラジルの国債格付けはS&PでBB-(安定的)、ムーディーズでBa2(安定的)です。

このことからは、ドイツとブラジルを比べると、投資した際の安全性は大きく異なることが読み取れます。
このように国債格付けからは、投資判断における重要な情報を読み取ることができるわけです。

国債格付けを踏まえた投資判断の考え方

どの国の国債に投資するかを判断する際、国債格付けから読み取れる信用リスクと利回りのバランスを意識することが大切です。
一般に信用リスクが高ければ利回りは高くなるので、自分の投資目的を意識しながら投資先を選定することになるでしょう。

例えば、安全性を重視する人であれば、高い格付け評価がされている国債の中から投資先を選ぶことになります。
逆にリスクを負ってでも大きなリターンを狙うのであれば、利回りが高いものの中から少しでも信用リスクが悪くないものを探すという順番になります。

なお、国債格付けは投資判断に役立つ重要な情報ですが、あくまでもひとつの評価指標に過ぎずません
また状況が変われば、国債格付け自体が変更されることも考えられます。
購入時点で国債格付けが高い評価だからといって、全くリスクがないわけではないという点は、しっかり頭に入れておいてください。

為替リスクにも注意が必要

ここまで国債格付けについて説明してきましたが、世界の国債に投資する際にはそれ以外にも注意しておきたいポイントがあります。
その中でも特に意識しておいていただきたいのが、為替変動によって国債の日本円ベースでの価値が変わってしまうリスクです。

例えば、ドル建ての外国国債を保有していた場合、満期で保有した際にはドルベースで額面金額が戻ってきます。
もしこのときに円高ドル安が進行していた場合、円ベースで考えると手元に返ってくる金額が減り、元本割れとなる可能性もあります。

世界の国債に投資する際には、こういった為替リスクについても意識しておくことが大切です。
ちなみに、こういった為替リスクを軽減するようにする「為替ヘッジ」という方法もあるので、興味のある人は頭に入れておくといいでしょう。

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まとめ

今回は、国債格付けをテーマに、基本的なところから解説してきました。
国債格付けを意識するようになると、国債が利回りの低い投資だけではないことが分かってくると思います。

格付けが高い国の国債は安全性が高いですが、一般的に利回りは低くなります。
一方で、格付けが低い国の国債はリスクが高くなるものの、それに見合う高いリターンを得られる可能性が出てきます。

ご自身の投資目的やリスク許容度に合わせて、ぜひ最適な投資先を検討してみてください。
国債格付けを手がかりに、投資の選択肢を大きく広げていただけると幸いです。


*1 出所)MUFG「【初心者向け】そもそも国債ってなに?国債の買い方やメリット・デメリットなど/そもそも国債とは?

*2 出所)財務省「ファイナンス 2022年2月号」p.55 (4)10回目のデフォルト?

*3 出所)S&P「日本におけるS&Pグローバル・レーティング(2022年4月現在) - 業務内容

*4 出所)ムーディーズ「Who we are - HISTORY

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